世界の中心で吉熊が叫ぶ

体長15センチの「吉熊くん」と同居する独身OLの日常生活

春の夜の 夢ばかりなる 手枕に

2011年04月14日 23時15分40秒 | Weblog
春の夜は気持ちが良い。うきうきしてしまい、つい寄り道したくなってしまう。

会社から駅までの道のりにある自動販売機で、煙草を購入しようと思った。もうコンビニではほとんど品切だ。家や会社に置いてある在庫には手をつけたくない。煙草不足が一段落着くまで、とっておこうと考えている。

タスポと小銭を握りしめている私の前に、煙草を買おうとしている殿方が一人、いた。
彼は自動販売機の小銭投入口に小銭を入れた。しかし、タスポを翳すタイミングが遅れ、さっき入れた小銭がザバーっと出てきてしまった。彼はトロいんだろうか。2回ぐらい同じ行動を繰り返していた。うんざりしていたら、彼は振り返り、申し訳なさそうな顔をして小さな声で「すいません」と。その濡れた子犬のような弱々しさに私はつい胸キュンしてしまった。メガネ男子だったし。

「いやー、いいんですよう」
と、さっきまで仁王立ちの沢尻エリカみたいな態度で舌打ちしていた私なのに…。急変して笑顔に。

ピアニッシモが売り切れていたのでペシェを購入。
「あ、同じの吸ってるんですね」
と、さっきの彼が私の背後でそう言った。
「どこでも入手困難で大変ですよね」
「買いだめしましたか?」
という会話を展開。

喫煙者は私の知る限り、優しい人が多い。というか、結束感みたいなものが各々を結んでいる。
禁煙ブームで肩身の狭い愛煙家たちは肩を寄せ合い、この世の流れに立ち向かっている。
その意識が我々の共通項となり、仲間意識を発生させているのだと思う。
街中の喫煙所でライターが点かずにカチカチやっていると、必ず誰か、火を貸してくれる。(しかも何故か無言で)
それらを差し引いても、この子犬みたいな殿方との会話は楽しかった。

春の夜の…で始まる百人一首の歌がある。


春の夜の 夢ばかりなる 手枕に
かひなく立たむ 名こそ惜しけれ

周防内侍の歌だ。

訳は、…短い春の夜の、夢のようにはかない、たわむれの手枕のせいで、つまらない浮き名が立ったりしたら、口惜しいではありませんか…。

一夜だけの戯れで噂にでもなったら困る。だから手枕、拒否るからね…という歌である。
高慢ちきな!とは思っていたが、なんとなくわかる気がする。今日のような春の夜のうきうき気分にいちいち流されていたら身が持たない。変な噂になって社会的な立場が悪くなるのも困りまんもす。(てか、手枕のようなアクションを受けることは皆無に等しい)


会社近くでこんな若い殿方と親密にしていたら何て噂が立つか解らぬ。

「では。さようなら」
と別れた。

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