やまがた好日抄

低く暮らし、高く想ふ(byワーズワース)! 
山形の魅力や、日々の関心事を勝手気まま?に…。

立原正秋(たちはらせいしう)

2013-04-12 | 本や言葉


前にも書きましたが、天邪鬼の小生は、歴史上、不当にも50人近くの浪人によってたかって惨殺された吉良上野介義央と、明治政府によって不当に評価が低くされたこれも幕末の跳ね返りの若者に暗殺された井伊 直弼を、ともに擁護してゐます。

先日、精神科医の方が書いた井伊 直弼についての本がとても面白かったのですが、ふと、さういへば、立原正秋が井伊直弼の最後の朝を書いた短編があったと、引っ張りだして読みました。

『雪の朝』ですが、本の最後をみたら、30年近く前に読んでゐました。
当時は、清冽な印象があったのですが、今回読むと、なんだか、資料を漁って再編成したやうな感じで、面白くはなかった。

ーと、久しぶりに、立原正秋のことが気になってしまって、高井有一の書いた自伝を久しぶりに再読し、小生の好きな短編『やぶつばき』を読みました。

今はすっかりと忘れ去られたやうな”流行作家”の立原正秋の作品は、小生、その膨大な作品群の7、8割かたは読んでゐるはずです。

高井有一の自伝でも、時に敬愛をもって時に厳しく指摘されてゐるやうに、この生涯に名前を六回変へ、朝鮮人ながら、限りなく日本人にならうとした虚構の多い作家の七重八重の屈折した倫理観あふれる作品は、それゆゑ、今は評価が淘汰され、あまり残ってゐる作品は少ないやうな気もします。

もちろん小説ですから、フィクションですが、今になってみると、展開される世界が余りにも”絵空事のなかの絵空事”のやうな印象が強くて、現在は、たとへば藤澤周平のやうな”絵空事のなかの真実”を見せる作品が残されてゆくのは当然のやうな気もします。

それでも、『やぶつばき』のやうな、ふと立ち尽くしてしまった女性の心理を描いて、やはり名手であることに違ひはありません。