rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

書評 オバマの戦争

2012-07-26 00:36:28 | 書評

書評 オバマの戦争 ボブ・ウッドワード著 伏見威蕃訳 日本経済新聞社刊2011年

 

ウオーターゲート事件でピューリッツア賞に輝いたボブ・ウッドワード氏が緻密な調査報道に基づいてオバマ政権のアフガニスタン紛争への関わりについて描いた力作で、全米#1のベストセラーとなった本の日本語訳です。オバマ氏の大統領としての政治全てではなくてアフガン戦争についてのみを論じていて、大統領本人を含む多数の実在の関係者へのインタビューを積み重ねることで現実の政策決定の過程、つまりどのような意図で誰が「何が不明で何が分かっている状態」であのような決定がなされたのかを再現するという手法を取っています。

 

上記のような手法で書かれた本であり、書いてあることはきっと事実だろうと思いました。しかし本自体がとっても面白かったかというと大作の割りにそうわくわくするものでもありませんでしたし、すごく新しい発見があったようにも思われませんでした。ただ強く感じたのは「始まってしまった戦争を終わらせることの困難さ」というものです。実際に戦場に出てタリバンと戦っている米軍はアフガニスタン国内を親米政権で安定させたいと考えている、一方で政府側は昔の日本で言えば「不拡大方針」であり、国益に見合わない支出(金、国民の生命、国の評判を含む)は早く終わりにしたいと考えている。そのせめぎ合いが本書の大半を占めています。

 

本書には書かれていませんが、私が以前から主張しているように、対テロ戦争などというのは軍隊の本来の仕事ではありません。対テロ戦は警察の仕事です。軍隊というのは「他国の軍隊」に対して武力で戦うことを前提に機構が作られ訓練されています。その戦争は一定の政治目的を達成するために「ここまでやったら終了」という目標を定めて行うものです。アルゼンチンと英国のフォークランド紛争が最も分かりやすい例ですが、島の実効的奪取、島の再奪還という明確な政治的目的に基づいて具体的な目標を定めて武力衝突が起こる事が軍隊の正しい使い方です(似たような事が尖閣でおきなければ良いですが)。

アメリカの人気テレビ番組のNCIS(Navy criminal investigation service)はシーズン9まで放送されて、私もFOXで8の終了まで毎週見てましたが、彼らは米海軍(海兵隊)の中の指揮系統から独立した警察官として捜査をしているので犯罪やテロに関わる事件の解決が可能になっている訳で、米軍が米国内に部隊展開していても事件の解決などできないというものです。

 

話を本に戻しますが、本の後半は軍が効果的な成果を出して米軍が引き上げるためにはさらに4万人の増派が必要と言うのに対して、オバマは3万人で決着をつける過程が描かれます。軍はテロ組織の温床であるタリバンを根絶するため、アフガン戦争の目標を親米政権の下での治安回復に設定しているのですが、オバマ政権側は「タリバンの弱体化によるアフガン内のアルカイダの根絶」を目標にしている点が違います。つまりアフガン国内はタリバンが残っていようが国民がどうなろうが基本的にどうでもよい、のです。 ここで4万人増派は、アフガニスタンの治安維持のための「警察部隊」の訓練に必要、という理由が軍から出てくるのですが、軍自体も治安維持は軍でなく警察の仕事であることが本当は分かっている訳です。

 

私はこの本を読んで閣僚の中では副大統領のバイデン氏が最も堅実でアメリカのことを心から考えている政治家ではないかと感じたのですが、アフガン戦争に確たる目標がないこと、犠牲にかなう国益が伴わないこと(要は戦争の大義がない)を常に主張して軍から煙たがられています。実際911以降米国内ではアルカイダによるテロの犠牲者など出ていませんが、毎年3万人以上が単なる銃犯罪の犠牲になっている現実を見れば、10年以上も莫大な金と米国の若い命を犠牲にしてだらだらと戦争を続ける意味がないことくらいは大方の米国人は気づいているのではないか、この本が米国でベストセラーになった背景はそこにあるのではないかと思われました。

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