スカタライツが来日するというので、何となくオリジナル・メンバーであったトロンボーン奏者の
ドン・ドラモンドのアルバムを引っ張り出してきた。
天才と称されるも才能と成功の板挟みから精神障害をきたし、不幸な事件を引き起こし
若くして獄中で他界。たったこれだけの言葉だと、おそろしく暗いイメージが湧くだろうが、ドンの
残した多くの音は、「スカとは何ぞや。」という設問に明瞭に答えてくれる。
レゲエの礎となったスカを広め、60年代前半から中盤にかけてジャマイカ音楽を
牽引したドン・ドラモンドの功績は大きすぎる。既にギターは裏のリズムを刻み始めているが
そこに、米国産のジャズやブルーズの要素を持ち込み、管楽器が主役を張るという様式を
確立したのは発明といっても大袈裟ではない。
さて、いざドンの残した音を聴こうとしたとき、何から聴けばいいのか。
今現在、CDで聴くことができるのは、というかアナログLPも全てドンの死後に編まれたもので
どれも「ベスト盤」のようなタイトルがついている。生前300以上の曲を録音したといわれるだけに
到底その足跡のすべてを知るのは容易ではない。それでも幾つかのCDでその素晴らしい
音楽に触れることができる。
掲載した2枚はタイトルこそ違うが、中身は同じアルバムで左はトレジャー・アイルから、
右はトロージャンから共に69年にリリースされた。「GREATEST HITS」と題された盤は
日本盤CDも出た。「MEMORIAL ALBUM」は09年に大幅に曲を増やし、スカタライツ時代の
曲も収録した2枚組の拡大版としてCD化された。これがあれば、左の盤は中身だけを
云々するなら不要ということになる。
「IN MEMORY OF DON DRUMMOND」は、ドンの才能を見抜き、自前のトロンボーンさえ
持ち合わせなかったドンにトロンボーンを買い与え、吹込みの機会を与えたコクスン・ドッドが
彼の死を悼んで編んだアルバム。69年にスタジオ・ワンからリリース。
「THE BEST OF DON DRUMMOND」は70年に出た。これはもう冒頭の『RINGO』を
聴くために必携。(笑)何故『りんご追分』を演奏したのか、はたまたどうしてこの曲を
知ったのか、興味は尽きない。こちらもスタジオ・ワンから70年にリリースされた。
さて、ここに掲載した4枚(実質3枚)がCDで入手できるのだが、私が一番好きな盤は、どうも
CD化されていないようだ。
「100 YEARS AFTER」と題されたこの
レコードは80年代にリリースされたようなのだが、何処をあたっても正確な年代がわからない。
私は盤質の悪いジャマイカ再発盤で聴いているのだが、アナログで聴いているということを
差し引いても、曲の持つ熱量はこのコンピレーションが一番多いように感じられる。
『HEAVEN AND EARTH』と『NANNY'S CORNER』でのリフは同じようなものだが、
最強のフレーズと言って構わないそれは、一聴して確実に聴く者の記憶に残る。
ジャズでいうところの「テーマ」にあたる部分をわかりやすく曲全体で実践したということが
よくわかる盤である、という解釈も可能だろう。
これこそCD化されて、広く聴かれて欲しい盤であると心から思う。
で、一番お薦めは結局レコードでしか聴くことができないのであった、というオチはダメか。(笑)
私にも間抜けなオチがある。スカタライツが演奏する『RINGO'S THEME』というタイトルを見て
「えっ、リンゴ?、これは聴きたい。」とばかりに慌てて購入して、いざ聴いてみると・・・。
それはビートルズの映画「A HARD DAY'S NIGHT」でリンゴのテーマとして使われた
『THIS BOY』だった・・・。(笑)