「天衣紛上野初花」は3回目。ようやく吉右衛門の河内山にたどりついた。
2006年の顔見世で團十郎の河内山を観た時の感想はこちら
【天衣紛上野初花 河内山(こうちやま)】河竹黙阿弥作
上州屋質見世の場より松江邸玄関先の場まで
今回の配役は以下の通り。
河内山宗俊=吉右衛門 松江出雲守=染五郎
後家おまき=吉之丞 腰元浪路=芝雀
和泉屋清兵衛=歌六 北村大膳=由次郎
高木小左衛門=左團次 宮崎数馬=錦之助
近習大橋伊織=桂三 同黒沢要=宗之助
同米村伴吾=種太郎 同堀江新六=吉之助
上州屋の見世先で丁稚が番頭をからかっている。この家の後家おまきのところへ忍んでいってふられたのを知っているというのだ。そこに御数奇屋坊主の河内山宗俊が来たのでドタバタは中断。番頭手代が並ぶ前に差し出す質草は二束三文の小木刀。吉右衛門の河内山は自分の名前で金を押し貸りしようとする悪党振りがのっけから魅力的。吉之丞のおまきが奥から出てきて「いつまでも若いねぇ」という世辞を言うが客席から爆笑が起こる。吉之丞の後家を若いとはいえないが、昨年は赤子のいる若妻もやったし、まぁいいでしょう(笑)女中頭おもと役の芝喜松との連携の台詞なども、これぞ歌舞伎のベテランの女方芸だと思って嬉しくなる。
「同じひじきに油揚げでも話せそうな人物だ」とか河内山に評される和泉屋清兵衛。前回も歌六だったからもう持ち役かなぁ。「悪に強きは善にもと」ということで毒を制するに毒を使おうという酸いも甘いも噛分けた大店の主人役がまた渋くていい。
一方の松江家。おまきの娘浪路の芝雀は当主が横恋慕するのも無理はない。もうじき宿下がりして婿をとって上州屋の女将さんになるというが勿体ない気もするような美しさ。染五郎の松江出雲守は女に執心して常軌を逸したところがまぁ出ていたといえるだろう。
正義の家臣、家老の高木小左衛門・近習の宮崎数馬コンビは左團次と錦之助(左團次は悪の方で観たかった気がする)。悪い方の家臣、北村大膳を由次郎がけっこうねちっこく嫌らしく熱演していたのが面白いと思った。ただ最後に「大男総身に知恵が回りかね」というようなことを河内山に言われてしまうところはちょっと無理があるなぁと苦笑。
寛永寺の法親王の使僧になりすます河内山。きちんと剃髪して衣裳も言葉使いもしぐさも上品。前の上州屋見世先の姿に比べるとえらい化けっぷりだ。しかしながら河内山は舞台で見ることができないだけで御数奇屋坊主として殿中のつとめも果たしているわけでこのなりすまし詐欺には大きな無理がなかったということだ。
上品な姿で金の無心は遠まわしな表現ながらしっかりして、金を手に入れると地が出てしまうところが可笑しい。
帰院することになって玄関先に出たところで北村大膳に河内山と言い当てられる。大それたことをしてお上に突き出すぞと言われ、しらばっくれるが高頬の黒子の特徴を指摘されての本性あらわし。そこから最後の極め台詞「ばぁかめ~」までの悪党の地を出しての啖呵が気持ちがいい。ここは黙阿弥だけに台詞回しのよさで一気に快感までもっていってくれる吉右衛門の芸が嬉しい。
正義の主人公が権力者の横暴をやりこめるのも気持ちがいいが、普段は困ったことばかりしていても胆の座ったところや悪知恵を生かして権力者をやりこめることに共感してしまう。後者は喜劇にもなるだろう。
最初の「盛綱陣屋」が重たい内容の芝居だったので、笑えてスカッとして幕切れとなる「河内山」で打ち出され、いい気分で帰ることができる。今年の秀山祭の演目は私好みで嬉しかった(昨年の加藤清正がどうにも駄目だったので今年はホント有難い)。
写真は公式サイトより今回公演のチラシ画像。
9/7昼の部①「日本振袖始」
9/7昼の部②「竜馬がゆく 風雲篇」
9/7昼の部③「逆櫓」
9/19夜の部①初代の写真、中幕「鳥羽絵」
9/19夜の部②「盛綱陣屋」
久しぶりに観てスカっとしました。
どの作品もそうですが、役者によって色んなバリエーションが楽しめますよね。
でもって、好みが分かれます(笑)
>金メダルは仁左衛門の『憎めない悪魔』......これを観るのが待ち遠しいです。
>銀メダルは吉右衛門の『強暴なバイタリティー』......フムフム!やっぱりこういう大きいお役は仁左衛門と吉右衛門が双璧ですね。歌舞伎を観始めてまもない友人が「まだ右も左もわからない」と言うので「右も左もいいよ」って(笑)
>銅メダルの団十郎は…ええっとええっと......私も悩んでみましょう(^O^)/
(注)かしまし娘さんの記事は名前をクリックすると読んでいただけますのでご紹介(^O^)/
TBをうちました。
北村大膳を由次郎というのは「大男総身に知恵が回りかね」とからかわれるところ以外は面白い配役だと思いました。実に個性的なお顔と声をしているので、菊五郎劇団の菊十郎のような端敵役にもっと出てもらいたいと思います。
今年の秀山祭は昼も夜も見応えがあってよかったです。
演舞場の方もボチボチ書いていきますね。