ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

13/04/14 歌舞伎座こけら落し四月公演(2)贅沢な大顔合せの「熊谷陣屋」

2013-05-23 23:59:07 | 観劇

冒頭の写真は、こちらでのブログでは初アップの開場後の新生歌舞伎座の正面を道路向こうから撮影したものだ。以前の第四代歌舞伎座とほとんど変わらないのが実に嬉しい。並木に緑の葉が繁っていて建物を隠してしまうのが残念。葉を落とすシーズンまでの我慢をすればいいのだろうか(^^ゞ
さて、「杮葺落四月大歌舞伎」は4/14までお預け状態になったので、劇評を読んで期待を膨らませていた。ことに渡辺保「今月の芝居」の「2013年4月歌舞伎座第一部」の「熊谷陣屋」など、読んだだけで目頭が熱くなったくらいだ。以下、4/14に観たその「熊谷陣屋」について書く。

【一谷嫩軍記 「熊谷陣屋」】
今回の主な配役は以下の通り。
熊谷直実=吉右衛門 相模=玉三郎
源義経=仁左衛門 堤軍次=又五郎
藤の方=菊之助 白毫弥陀六=歌六
亀井六郎=歌昇 片岡八郎=種之助
伊勢三郎=米吉 駿河次郎=桂三
梶原平次景高=由次郎

歌舞伎座こけら落しということで、播磨屋一門に仁左衛門、玉三郎が並び、今後このような贅沢な大顔合せの「熊谷陣屋」はないだろうと思える。3月末に女婿になった菊之助が藤の方というのももう一つの贅沢(舅の胸を借りて頑張れ菊之助!)。

吉右衛門の熊谷と玉三郎の相模は後白河院の御所で不義密通の仲になった夫婦の十数年後の姿がさもあらんという感じがもてた。国立小劇場での五月文楽公演にも「熊谷陣屋」が出て、近い時期の観劇で歌舞伎と人形浄瑠璃のそれぞれの面白さが把握できたのだが、やはり歌舞伎の筋立てと演じ方は座頭の立役の悲劇性を際立たせるようになっている。

大体、自分の妻にいくら不快だからといって「ヤイ、女」はないだろうと思ってしまう。仁左衛門の熊谷は浄瑠璃と同じく「女房」という言葉を使っている。ところが、吉右衛門の熊谷であれば妻に対して「女が戦場にのこのこと出向いてくること」を赦せないという気組みが身体じゅうにあふれていて、「ヤイ、女」でもフェミニストの私にもふっと受けとめられてしまった。
その迫力に押されながらも、玉三郎の細い長身のしなやかな動きが一人息子を気遣う母としての一念に突き動かされて東国から京の戦場まで駆けつけてしまったという芯の強い女という相模像が浮かび上がる。二人に挟まれて苦慮する又五郎の堤軍次が忠臣でもあり、人柄のよい男であることをうかがわせてよい。
敦盛を討ったという話に藤の方が息子の仇と打ちかかり、それを制しての戦物語以降は怒涛の吉右衛門の熊谷だった。菊之助は、院に不義密通の二人の罪をゆるさせることができ、落胤の敦盛を産んだ寵姫にふさわしい。

戦物語も平板ではなく、敦盛を語りながら実は身代わりにした小次郎への情愛がにじみ出るようなドラマ性の深いもので堪能できた。
仁左衛門の義経が実に立派でまさに競演!高い音遣いの声を響かせ、一声二顔三姿の三拍子が揃ってカリスマ性の高い義経がそこにいる。その義経に制札の謎かけを受けた首実検で対峙する吉右衛門の熊谷。いま義太夫狂言ならこの二人という立役ががっぷりとぶつかり合って極まった時の贅沢さといったらない。院の御落胤でもある敦盛を助けるために熊谷に一子小次郎を身代わりにせよという義経の謎かけは残酷だ。主のその残酷な命令を熊谷が受けとめるのも仕方がないと思わせるようなカリスマ性が仁左衛門の義経にはあるのがすごかった。

首実検で我が子が身代わりになったことを知った相模。打掛でくるんだ我が子の首への愛執を主や夫に気づかれないようにしながらも抑えようもないという感じでリアルにたっぷりと見せる(藤の方にしっかり見せるということもない)。玉三郎ならではの相模を堪能。
4月はそれぞれ吉右衛門と仁左衛門が主演する陣屋もの2演目かぁと軽く考えていた自分が恥ずかしい。まさに歌舞伎座新開場にふさわしい大舞台だ。

白毫弥陀六こと宗清と義経のドラマも胸を打つ。宗清は戦の中で中途半端にかけた情けによって平家一門を滅ぼしたことを悔やむ。その宗清に命を助けられた義経が命を助けられたことに報いるため、敦盛を託すという筋書はうまくできすぎだと感心してしまう。

人形浄瑠璃では有髪の僧形で相模とともに並んでの幕切れで、熊谷の幕外の引っ込みはない。花道があり、妻を残して一人で去るその際に「16年は一昔、夢だ夢だ」と嘆いての引っ込みは座頭の見せ場で終わるべき歌舞伎ならではもの。相模が一人残されるのが哀れに思う舞台もあった。
今回は玉三郎の相模の小次郎の死への嘆きの深さから、夫が一人で去っていってもすぐに後を追うということはないなぁと思えた。幕外を去る熊谷のその悲劇に十二分に感情移入して堪能。

(追記)
竹本の葵太夫の義太夫は以前はこもって聞き取りづらかったものだが、最近はずいぶんと聞き取りやすくなっている。浄瑠璃の内容が聞きとれると戦物語などはより楽しめるので嬉しい。
4/15歌舞伎座新開場杮葺落四月大歌舞伎(1)第一部の前半の記事はこちら


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