ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

05/06/24 『桜姫』でコクーン歌舞伎の初体験

2005-06-28 23:49:23 | 観劇
ついにコクーン歌舞伎を初体験、それも平土間席でデビューしてしまった。座布団があるだけと聞いていて、それだけでは自信がないので「正座イス」(法事などのために買ってあった)を探し出して持っていった。それに座っていてもしばらくすると足先がしびれてくるので、胡坐にしたり様々な座り方に変えながら、15分の休憩をはさんで3時間半近く。それでも『桜姫』を堪能してきた。
お茶屋娘さんが6/12に観劇した感想を先にご紹介している。
http://blog.goo.ne.jp/pika1214/d/20050614
私も昨年7月歌舞伎座の玉三郎と段治郎の『桜姫東文章』を観ているが、まあ、別物だろうと思って観て正解。同じシェイクスピアの作品を別の演出の舞台で観るような感じで、あれはあれ、これはこれという感じで、私は両方とも良かったと思った。昨年は青年座が『桜姫』を歌舞伎的手法を使わずに、一時間半で立派なドラマにしたと渡辺保氏の評論で読んだが、歌舞伎座で昼と夜に分けて上演した長い長い物語をどのようにまとめたのだろう。多分、桜姫の生き様を中心に話をまとめたのだろうが、そちらも観てみたかったな...。

舞台は一幕、二幕とも今回のポスターの絵も書いている絵師・宇野亜喜良の書いた桜姫・清玄・権助の薄い布絵が吊り下げられていてそれが上がって始まる。狂言回しの口上役(あさひ7オユキ=あさひななおゆきと読む)が語りで説明を入れながら、長い物語をはしょっていく。登場人物紹介などは一人用の屋台が出てきて、桜姫などは人形ぶりで生まれつき左の掌が握ったままという障害を持っていることなどが説明される。冒頭からなかなか型破りでよい。
17年前の清玄と稚児の白菊丸が江ノ島の稚児が淵での心中事件は宇野絵と語りで説明される。清玄だけが生き残り、今は鎌倉の新清水寺の高僧となっている。その清玄(橋之助)のところへ、京の吉田家の息女桜姫(福助)が尼になるためにやってきた。清玄の十念で桜姫の左の掌が開き、中から清玄の名前が描かれた香箱の蓋が出てきて白菊丸の生まれ変わりと清玄にはわかる。桜姫の奇形が治ると許婚入間悪五郎(勘太郎)は再び艶書をもってくどこうとする。艶書の取次ぎを頼んだ局の長浦(扇雀)はとりつくしまもない。長浦はこの寺の僧残月(弥十郎)と密会する仲である。
桜姫は父と弟梅若を何者かに殺害され、お家の重宝「都鳥の一巻」も盗まれている。もうひとりの弟松若(芝のぶ)や家臣の粟津七郎(七之助)たちがお家断絶を免れるために必死の探索を続けている。ところが「都鳥の一巻」を盗ませたのも悪五郎で吉田家をのっとる企てをすすめていたのだ。悪五郎の艶書を届ける役をかって出たのが中間姿の権助。姫の前で話をして肌脱ぎになると腕には釣鐘に桜の彫り物。それを見て桜姫は周りのものを下がらせる。
二人になると姫は揃いの彫り物を見せ、権助も思い出す。姫は1年前に吉田の屋敷に盗賊として忍び入った男に顔も名前もわからないまま操を奪われたが、その男が忘れられず、朝の光に見えた腕の彫り物を自分にも彫り、さらにその一夜でできた赤ん坊も産み里子に出していたのだ。出家前の草庵で釣鐘権助に抱いてもらう桜姫。ところがそれを暴かれ大騒ぎになり権助は逃げる。相手の男は香箱にある名前から清玄とされ、二人はともに神聖な寺を穢したとして百杖叩きの上でに落とされる。赤ん坊も里子から戻されたところを悪五郎にさらわれたり、桜姫のために破戒をしたからはと清玄が言い寄るが桜姫は逃げる。姫の片袖を掴んでいたが袖がとれて稲瀬川に落ちる清玄。川から這い上がってきたところで清玄は赤ん坊を拾い、姫と別れ別れになって本雨の中で一幕終了。
たちを冒頭から屋台を動かす黒衣的に使い、ここでも姫や清玄のことをよろしく頼む家来や弟子たちと対照させることで身分の差が大きい社会をあらわす串田演出が生きる。

二幕目は女犯の罪をあばかれて同じく寺を追われた残月・長浦が暮らす岩淵の庵室から。病みついた師匠の清玄もここに世話になっている。そこに葛飾のお十という女が地蔵堂に来て疱瘡で無くした子どもの供養を残月に頼み、赤ん坊の泣声に世話をさせてほしいと預かっていく。残月は清玄の隠し金をねらって首をしめて殺し、病死したことにして墓掘り人を長浦に呼びにいかせる。そこに流浪の末に女郎屋へ身を売られることになった桜姫が庵室に預けられ、残月は我が物にしようとするところに穴掘り権助と長浦が到着。「間男め」「間女め」の騒ぎの末に桜姫と権助が夫婦だということが明らかになり、権助は残月たちから庵室から何から取り上げてたたき出す。
権助は姫をやはり小塚原の宿場女郎づとめに出す話をすすめに出かける。その後の落雷で清玄は息を吹き返し、ここにいる姫に白菊丸の生まれ変わりなのだからと言い寄るが姫に邪険にされ、ついには心中しようと鉈をふるう。もみあううちに自らの刃にかかり死ぬ清玄。
庵室を売り飛ばした権助は家主の権利を買い、山谷の家主になっている。長屋うちに捨て子があり、里子に出す金欲しさに赤ん坊をまともに引取るがまともに育てる気はない。女房になっても女郎屋づとめの桜姫は、風鈴お姫と評判をとるが、枕元に幽霊がたつというので戻されてくる。替わりに女郎屋づとめに出るのはお十だ。実は夫は七郎で町人に身をやつしている。表向きは借金のカタにということだが、お主のために喜んで身代りになるということだ。
久しぶりに権助の元に戻った姫は、お姫様言葉も交じるが伝法言葉もたどたどしいが使えるようになっていた。せっかく二人でいたかったところを、家主仲間の会合に呼ばれて権助は行ってしまい、一人寝の桜姫の枕元には、いつものように清玄の亡霊がたつ。「こわかねえよう」「エエ、消えてしまいねえよ」という姫に、清玄の亡霊は権助は自分の実の弟で、「都鳥の一巻」を盗んで姫の父と弟を殺したのも権助であり、ここにいる赤ん坊も姫の産んだ子だと教える。
酔っ払って帰ってきた権助が落とした「都鳥の一巻」を2000両と引き換えにするという書付を見つけ、さらに酔いつぶすまで酒をすすめて素性をききだし、権助が首から下げた守り袋に入れているのが「都鳥の一巻」であることも確かめる。亡霊の言ったことは本当だったのだ。
そこからが姫の葛藤の始まりで、串田演出はそこをたっぷりと見せる。姫は権助への愛と吉田家の姫君としてなすべきこととの間で揺れる。泣きながら「権助どん」「権助どん」と何度も呼びかけ、それにこたえて起き上がった権助を父と弟を殺した刀で思い切って一刺しすると、あとはメッタ刺しにする。そのあたりから髪はざんばらになり、狂気の舞に入っていく。吉田家の姫君としての至上命題を実現するためには権助もその子どもも全て抹殺しなければならない。姫は赤ん坊を殺すかどうかを逡巡する。そのへんが舞の中で曖昧になっているのだが、私が観た24日夜の部では、あ、今赤ん坊を刺し殺しちゃったなという刀の使い方をはっきり見たように思う。権助を殺した時点でもう赤ん坊を殺すことも決めていたんだろうけど、やはり少し逡巡があり、赤ん坊も刺し殺した時点で完全に狂気の世界に行ったように見えた。その後の赤ん坊の持ち方も、狂人がただモノを持っているだけというような持ち方だった。初日近くは殺していないという見え方でブログに書かれている方が多いのだが、もしかして途中で演出変わってるのかもしれないと思ってしまった。
赤ん坊も殺さないとやっぱり南北じゃない。歌舞伎座の小万の赤ん坊もぐっさり源五兵衛にやられていた。南北はそのへんドライだ。「お家再興」という吉田家の姫君としての至上命題のためには愛する者であっても全て抹殺する。それを実行した後、立ち直りが早いのが正統の歌舞伎版、正気の世界にはいられなくなるとするのが串田版の桜姫だった。
名家の再興のために、一人の女がその幸せを犠牲にしたのだという解釈で串田氏はしめくくりたかったのかなと思っている。どちらもアリだが、あっけらかんの方が見るほうはラクだなあ。

キャストにひとことずつ。
福助は頑張っている。タイトルロールとして十分だったと思う。この人で正統の歌舞伎版を見てみたいと思った。橋之助もいいが、に落とされた清玄が数珠を切って姫に迫るところの表情が下品になってしまった。ただの嫌らしいオヤジっぽい。白菊丸と重ね合わせた思いをぶつけるのならもっと思いつめた切なさそうな顔にしてほしかった。権助は◎。
残月・長浦の弥十郎・扇雀コンビが中年の腐れ縁の男女の仲をなんともコッテリと演じてくれて、大満足。勘太郎は赤っ面の悪五郎と白塗りのお十という両極端の二役がそれぞれ見応えがあり、「兼ねる役者」としての成長を感じさせた。
七之助の粟津七郎は一生懸命探索するが全く役に立たないカラ回りの人間のおかしみを出していた。松若役の芝のぶと七之助が並ぶととってもキレイで今回の二人並んでの宙乗りは目の保養シーンとなった。
悪五郎と通じている悪い家臣の源吾役の源左衛門など中村屋のいつもの面々がしっかりと舞台を固めていて、コクーン歌舞伎の新しい挑戦が上滑りしないように支えているのだと思った。
勘三郎がいなくても、コクーン歌舞伎成功のようで、次回が楽しみだ。
写真は、今公演のウェブサイトより。

最新の画像もっと見る

9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
これからは若手でコクーン (お茶屋娘)
2005-06-29 14:47:11
いろいろ評価はあるようですが、これはこれで、演出から装置、衣装も含めて、ひとつの完成した形と思います。茶屋娘的には、しらしらと姫に戻る桜姫のほうに、女の生き方?としては共感しますが。いかようにも解釈できるのが、南北の底力でしょうか。コクーンという小屋には、串田解釈のほうが合っているでしょうね。

今回の大収穫は、福助が堂々主役をこなしたことでしょう。勘三郎丈、ここは、悔しいでしょうが、コクーンは若いもんに譲りませんか?主役を張ると、役者は本当に成長しますね。
Unknown (yukari57)
2005-06-29 23:55:08
本文で書かれている青年座の「桜姫」を見たものとしてちょびっと。何せ100人入れるか入れない小さな小屋(下北沢駅前劇場)ってこともあるでしょうけれども、展開が物凄く速くって。全員女優を使って現代風の衣装ってのも結構面白かった。台詞もばんばんはじからはじまで聞こえるので、最初の白菊丸のくだりは人形つかってささっと、テンポよくテレビドラマみたいだった、とでもいいましょうか?まあ、歌舞伎のように、人気役者の「芸」を見るものじゃなくって、作品を見るものって感じでしたね。
Unknown (春生)
2005-06-30 18:19:32
毎度お手数おかけしてしまい申し訳ないです。トラバお送りします。

ただ、この日の分、私の方ではエントリー三つに分かれてるんですよね、どうしよう…どのエントリーを入れよう(汗)…。取り敢えず全部入れますので、お気に召したエントリーにお返し戴ければ良いかな。で、余計と思われたトラバはお手数ですが消して戴けましたら有難いです。よろしくお願いします。
Unknown (lowoolong)
2005-07-01 01:19:03
お言葉に甘えて二件トラックバックさせていただきました^^

あの晴れやかでいてやっぱり引きずるものがある、というラストはわたしは凄く好き(というか、個人的にここがコクーン歌舞伎桜姫の要だとも…)なのですが、記事を拝読してやっぱりカラッとした終わりかたが歌舞伎としてはむいているのかもしれないなーと。六月夜の部の同南北ものの「盟三五大切」を思い出してもそんな感じがします。(子ども殺したり陰惨ですが終わり方はあっぱれ!という)

ドラマを観る、という観点で、コクーンのラストはありだなと思いました。
コメントありがとうございます (mine)
2005-07-01 23:54:16
自分のblogでコメント返ししようとしましたら、こちらもかなり長くなりそうなので、記事にしましてTBさせていただきました。よろしくお願いします!
コメント、TBありがとうございますm(_ _)m (ぴかちゅう)
2005-07-02 00:34:24
★こだわりの館のmine様

歌舞伎でのカーテンコールの考察やら桜姫の描き方やら長々と書いた私のコメントに対してしっかりと記事で書いていただいたようでありがとうございます。さっそく飛んでいったのですが、見ることができない!!

アメーバブログさんのシステムメンテにひっかかってしまいました。しかし、7月2日(土)午前0時 → 7月4日(月)午前8時とは、ずいぶん長いですね。首を長くして待ってます。



★yukari様

青年座の『桜姫東文章』の感想をありがとうございます。その時の写真が先日見にいった青年座公演のパンフのキャスト紹介のところにありました。その女優さんが権助役をやったらしいのですが、確かに全く歌舞伎ではない感じでしたね。『盟三五大切』も上演されているようで、なかなか面白そうな劇団だと興味をもちました。



★春生様

いっぱいTBいただき、ありがとうございます。悶絶するほどの胃痛はもうおさまりましたか?千秋楽のまとめ記事のアップお待ちしてます。



★lowoolong様、お茶屋娘さま

立ち読みした『演劇界』8月号によると、『盟三五大切』の元の『五大力恋のふうじめ』(漢字がすぐ出なくて失礼)の源五兵衛の方が、吉右衛門はぴったりだという評論がありました。吉右衛門は理詰めの作品の方が合うとのことです。南北はそこをはずしてしまうのだとか、確かに不条理の世界まで行ってしまう南北。コクーンでの『盟三五大切』で勘三郎がやった源五兵衛を観たかったな。

遅くなりました (asari)
2005-07-02 01:28:34
まとめコメントの後で失礼いたします。

遅くなりましたが、TBさせていただきました。

春生さんと同様、桜姫エントリーがたくさんある(笑)ので、どれをTBしようか迷いましたが、観劇日が近くて尚且つ一番充実していた回の6月23日分を入れさせていただきます。

正直、今回のコクーン解釈に諸手をあげて賛成!とは言い切れないところもあったのですが、あんなに胸に迫る哀しい桜姫、非常に素晴らしいものを見せてもらいました。
もう1本感想の追加を書いてみました (ぴかちゅう)
2005-07-20 02:03:41


★asari様

asariさん、TBとコメントをありがとうございます。今回のコクーン解釈、こういうのもアリというところでしょうかね。

★ジャスミン様

3日間にわたって書いた力作をTBいただきましてありがとうございます。m(_ _)m

ライブドアブログはTBする際に本文だけでなく、コメントつきで送れるのですね。コメント欄ではなく、TBの概要欄にご挨拶文があってびっくりしました。

ジャスミンさんやmineさんに触発されて、もう1本感想の追加を書いてみました。

http://blog.goo.ne.jp/pika1214/d/20050719

ジャスミンさんの疑問点に私の考えたところも書いてあります。ご意見・ご感想ありましたら、またコメントいただけると嬉しいです。

よっ 成駒屋! (mayumi)
2005-08-19 12:28:00
コクーン歌舞伎は『三人吉三』以来二度目。

『三人吉三』のお嬢吉三も大好きでしたが 今回も福助を堪能出来て満足でした。(*^_^*)

コメントを投稿