ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

09/05/23 日生劇場ミュージカル「シラノ」鹿賀丈史の心意気

2009-05-29 23:08:09 | 観劇

「シラノ・ド・ベルジュラック」のストレートプレイは未見。緒形拳の「白野弁十郎」を見逃したことがかえすがえすも残念。
Wikipediaの「シラノ・ド・ベルジュラック(戯曲)」の項はこちら←あらすじはこちらを参照。
上記にも書かれている市村正親主演の「シラノ・ザ・ミュージカル」を赤坂ミュージカル劇場で観たことがある。今度は鹿賀丈史シラノを観ることができるというのは嬉しいことだった。鹿賀の「ジキル&ハイド」を観てワイルドホーンが見込んでの世界初演だという。「マリー・アントワネット」といいこの作品といい、日本ミュージカル界の蓄えた力が海外からも認められたということだろう。

【ミュージカル「シラノ」】原作=エドモン・ロスタン
<スタッフ>
音楽=フランク・ワイルドホーン 脚本・作詞=レスリー・ブリカッス
演出:山田和也 翻訳:松岡和子 訳詞:竜真知子
<キャスト> ( )内は参考までに「シラノ・ザ・ミュージカル」のキャスト
シラノ=鹿賀丈史(市村正親)
ロクサーヌ=朝海ひかる(西田ひかる)
クリスチャン=浦井健治(山本耕史)
ル・ブレ=戸井勝海 ラグノオ=光枝明彦
ド・ギッシュ伯爵=鈴木綜馬 
佐山陽規、林アキラ、大須賀ひでき、中西勝之、金澤博、岡田静、阿部よしつぐ、家塚敦子、池谷京子、今泉由香、岩田元、岩本貴文、大江尚毅、岡本茜、神田恭兵、小関明久、小西のりゆき、守谷譲、橋桂、中山昇、福山 出、山田展弘

長く「レ・ミゼラブル」に出演していたカンパニーが「ジキル&ハイド」に続いて「シラノ」の舞台に揃っていて双眼鏡でアンサンブルまでしっかり観て懐かしく安定したアンサンブルの合唱シーンも堪能する。さらに劇団四季時代から大好きだった光枝明彦の声も加わって男声合唱の場面はもう至福の感じ。朝海ひかるは初見だが凛として美しく歌もいいしロクサーヌとして申し分なし。

鹿賀のシラノは剣豪の近衛騎士として申し分のない押し出しぶり。これは華奢な市村よりも立派な体躯ということで存在感は勝る。ところが毒舌を発揮するコミカルなテンポの速い台詞で「ラ・カージュ・オ・フォール」で感じていた危惧が増幅。映画やTVまで手を広げた鹿賀の舞台の台詞術は舞台に力を集中している市村に劣る。さらに歌の場面で鹿賀の歌唱力が明らかに衰えたことを痛感。やはり「ジキル&ハイド」がピークでご本人もそれを自覚しての幕引きだったのだとあらためて思った。声が伸びないし急に高音になるところでひっくりかえるしで悪戦苦闘している様子が贔屓としてはとてもせつない。しかし名優も老いるのだ。今年は玉三郎でもそういう舞台に遭遇してしまったし、時が過ぎていく残酷さもかみしめる年となっている。
しかし共演者がみな鹿賀丈史を尊敬の念をもって温かく支えて包み込んでいるカンパニーの雰囲気を感じて嬉しくてたまらない。そういった意味で鹿賀丈史の最後の主演ミュージカルになるであろう「シラノ」が再演されていくだろうという確信をもった。

作品そのものは冒頭にあげた原作の戯曲をよく踏まえられている。市村主演の舞台ではド・ギッシュ伯爵の横恋慕のあたりの記憶があまりないのだが、今回はそのあたりも鈴木綜馬のコミカルな芝居が生きてとても印象に残った。その伯爵も最後には立派に騎士道を発揮するという美味しい役を鈴木が熱演。シラノの友人役のル・ブレの戸井勝海はジキル博士の友人のアターソンに続いて温かな人柄がにじむ好演。
合唱シーンがとにかく見事!開幕の芝居小屋の場面、シラノの御用達のラグノオの店の場面、ガスコン青年隊の場面もとにかく何役もこなすベテラン勢の歌声を堪能。佐山陽規の声も個性的で大好きだ。

舞台装置もなかなか凝っていて見応えあり。最後の場面、赤く色づいた葉(ちょっと大きすぎたけど)が落ちて尼僧院に庭を敷き詰めるところはNHKの大河ドラマの「天地人」の「紅葉のような家臣になれ」と兼続に諭す母の場面も思い出す。綺麗だなぁと観ていると、だんだんとシラノの致命傷の血と血を吐くようにロクサーヌへの想いを死に際に吐露するイメージが湧いてきて、その色と重なっていく・・・・・・。

今回はロクサーヌという従妹との幼い頃の思い出も何度も繰り返されたし、何度もシラノが想いを伝えようとしてできなくなるというもどかしい場面も印象に残っているし、その上での最後の告白なので切なさが増幅されている。

幼い頃からロクサーヌはシラノが美貌だけでなく自分が語りかける言葉にきちんと反応してくる知性のきらめきにどんどん惹かれていったのだろうとか、ロクサーヌもシラノの言葉で刺激されて知性感性も磨かれていったのだろうとか、二人の関係の築かれ方への想像が広がる。しかしそれだったらなおのこと、ロクサーヌにはバルコニーの告白の声をしっかり見破って欲しかったと思うのだが、そこはやはりクリスチャンの美貌に心を奪われて理性の目が曇っていたのだとしか思えない。

シラノは最後の最後にロクサーヌへの想いを告白し、「男の心意気」だけを持っていくと言って息絶える。白野弁十郎と同じく「男の心意気」なのねぇと思いながら噛み締めてみていたが、またはっと気づいた。ジキル同様に愛する女の腕の中で死んでいく主人公の役なのね!と。鹿賀丈史の主演作にふさわしい幕切れだ(^^ゞ

きっとファイナルと銘打った公演まで再演があるだろう。ちゃんと毎回一回はしっかり見せてもらうつもりだ。
クリスチャンのダブルキャストの中河内雅貴が友人の通うダンススタジオ所属と最近になって知った。評判がよかったとのことで再演時に是非観たいと思っている。

写真は今回の公演の宣伝画像。


最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ちょっと哀しかった舞台 (北西のキティ)
2009-05-31 01:41:53
ぴかちゅうさんにチケットを購入してもらい、ご一緒させていただきました。数日前から体調不良で行けるかどうか心配しましたが、何とか行く事ができほっとしていましたが、鹿賀さんの台詞と歌の衰えは私にもはっきりわかるものでした。特に最後の息をひきとる場面では哀しくなってきました。贔屓の私は、最後の主演とは思いたくないけど、観られるうちに他の舞台も毎回一回は観ていきたいと思います。
返信する
★北西のキティ様 (ぴかちゅう)
2009-05-31 01:55:31
体調不良ということで心配しましたが、当日はご一緒できてよかったです。役者さんたちも観ている私たちも着実に老いはやってくるんですよね。だから一期一会で観たいものは観ていかなくてはと思っています。
最後は平知盛のように「見るべきものは見つ」と言って死んでいけたらという心境でもあります。
「シラノ」は鹿賀さんの最後のミュージカルとしての主演作になると推測しています。市村さんと二人で主役という「ペテン師と詐欺師」のような作品はまだやるでしょうしね。
ストレートプレイの主演はまだ大丈夫だと思います。「錦繍」は原作がどうにも苦手で私は舞台で観たいと思えないのでパスしますが、他にもっと別に彼の魅力が活きる作品をやって欲しいです。

返信する
ラストシーン、印象的でしたね (恭穂)
2009-05-31 19:52:20
ぴかちゅうさん、こんばんは!
あのラストシーン、私も「ジキル&ハイド」を思い出しました。
まさに鹿賀さんのための舞台、という感じでしたね。
歌は・・・ちょっと残念な感じでしたが、
それ以外の部分でも、鹿賀さんの魅力が感じられました。
再演されたら、私も観にいってしまいそうです。
返信する
★「瓔珞の音」の恭穂さま (ぴかちゅう)
2009-05-31 22:34:56
TB&コメントを有難うございましたm(_ _)m
恭穂さんも「ジキル&ハイド」のラストシーンと重なったとのことで嬉しいです。鹿賀さんの集大成の作品ということなのですが、これで最後とはいわないとプログラムにありましたが、やはりまぁミュージカル主演は最後の作品になりそうな気がします。
鹿賀さんのファイナル公演まで毎回一回は観て、日本版の舞台の進化も見守っていきたいと思っています。
返信する
よくも悪くも鹿賀丈史 (スキップ)
2009-06-22 00:23:39
ぴかちゅうさま
遅っそ~いコメント、失礼申しあげます。スミマセン(汗)。

鹿賀丈史さんへの愛あふれる、愛あるが故に切なさもいっぱいの
ぴかちゅうさんのレポ、とても感動しました。
本編を観て理解が足らなかった部分も、「あぁ、そうだった」と
改めてよくわかったり・・・。
きっと再演されるでしょうから、さらにバージョンアップした
「鹿賀丈史のシラノ」に会えるものと楽しみにしています。
大阪のクリスチャンは中河内雅貴くんのみでした。
ちょっと小栗旬くんに似た面差しでなかなかステキでしたよ。
歌は・・・がんばっていただきましょう(笑)。
返信する
★「地獄ごくらくdiary」のスキップ様 (ぴかちゅう)
2009-06-22 01:24:15
大阪公演のレポのTB&コメントを有難うございますm(_ _)m
>愛あるが故に切なさもいっぱい......わかっていただいて嬉しいです。当日並んで観たのがともに鹿賀愛に支配されていた三人だったので観劇後のショックは大きく、慰めあいながらいろいろとしゃべって立ち直っていったのでした(^^ゞ
>中河内雅貴くん・・・(中略)・・・歌は・・・がんばっていただきましょう......だったのですね。
ま、中河内雅貴くんにも頑張っていただいて、カンパニー全体の再演のバージョンアップをともに待ちましょう(^O^)/
返信する

コメントを投稿