ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/09/26 秀山祭千穐楽夜の部①玉三郎の「阿古屋」絶品!!

2007-10-03 23:58:34 | 観劇

玉三郎の「阿古屋」上演をずっとずっと待ち焦がれていた。2年くらい前に篠山紀信の大型写真集『ザ歌舞伎座』を通っていた歯医者の近くの書店に1冊残っていたのを見つけた。傷みがあったのですぐ買わなかったのだが絶版とわかって次の通院時にGET。写真はその表紙である。
9月秀山祭で上演と知ってセブンアンドアイの12%オフでDVDもGET(→こちらへ)。結局は2日くらい前の2回しか観ることができなかった。

初回は眠気に襲われたが収穫あり。①竹本の床も役ごとの太夫の掛け合いで人形振りもあり。②写真集の表紙にもあった変な顔をした奴らは実際に舞台に出てくるということ。写真用の特別メイクの集団と思っていたのだ。「キキキキキ」とか奇声を発しながら水責め道具を持って出てきて阿古屋をはさんで舞台一面に並ぶ。とっても変で面白い。文楽のツメ人形を真似したもので「竹田奴」というらしい。
2回目は字幕入りでじっくり観た。字幕効果ですっかり引き込まれる。耳だけだと子守唄化してしまった玉三郎丈の唄も意味がわかるとせつないせつない。やっぱり私の眠気防止には「字幕」は効果的。字を見て耳から聞くと脳内活動が倍くらい活発化するようだ。
また文楽観劇の際に買ってきた『吉田玉男文楽藝話』の中の「阿古屋琴責の段」の芸談も読んだ。義太夫狂言の役の性根を理解するには歌舞伎も文楽も共通するようでとても役にたった。
さらに直前にネット検索して見つかった文楽床本のテキストにも目を通す。
「阿古屋琴責の段」の文楽床本テキストのサイトはこちら

観劇は千穐楽夜の部一回の勝負。さて、どうだったか!
【壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき) 阿古屋】
今回の主な配役は以下の通り。( )内はそのお役を語る竹本の大夫。< >内はDVDの配役。
遊君阿古屋=玉三郎(愛太夫)<玉三郎>
秩父庄司重忠=吉右衛門(鳴門太夫)<梅玉>
岩永左衛門=段四郎(泉太夫)<勘九郎:現勘三郎>
榛沢六郎=染五郎(蔵太夫)<玉太郎:現松江>
あらすじは以下の通り。       
舞台は京都御所鎌倉幕府の門注所。逃亡中の平景清の行方の詮議のために馴染みの五条坂の遊女阿古屋が呼び出される。禁裏守護の秩父庄司重忠が詮議の指揮をとっている。郎党の榛沢六郎の尋問でも知らぬの一点張りだというので、重忠直々の詮議となって呼び出されたのだ。助役の岩永左衛門は水責めなどの拷問を主張する。重忠はそれを押しとどめ、かねて用意の責め道具として琴、三味線、胡弓を並べる。尋問しながらそれらを順に弾かせ、音色の乱れで阿古屋心のうちを推し量ろうとする。尋問は阿古屋も予想をしない情のこもったもので、知っていればポンとしゃべってしまいそうだと言う。しかし本当に知らないと言い、三曲を唄もまじえて乱れることなく奏でる。重忠は阿古屋の言葉の真実を確信して放免とし、絵面に決まって幕となる。

さすがに予習効果大。竹本の太夫の担当はDVDと同じ。玉三郎の御指名によるのだろう。玉三郎のお役はいつもの愛太夫。竹本と玉三郎の両者が唄うところなども絶妙のハモリ具合だ。
吉右衛門の重忠は初役だという。初代もつとめたことがあるらしいが、重忠は本当に動きが少ない役で座頭格の立役が立女形につきあうことはあまりないようだ。秀山祭に客演した玉三郎の阿古屋に対して吉右衛門が座頭としてきちんとつきあったということだろう。榛沢六郎で出ている染五郎も「叔父の重忠を勉強するチャンス」と筋書にあったから貴重な共演の舞台といえる。時代物の抑制のきいた捌き役が本当にいい。室内から庭で三曲を弾く阿古屋をじっと見据えて、楽器を変える時に姿勢も3つ決まりのポーズで聴くようだ。「智仁の勇士と輝やけり」と語られるのにふさわしい吉右衛門の重忠だった。
染五郎の六郎も声がかすれないでしっかり出るかハラハラしたが「遊君阿古屋、立ちませい~」とちゃんとできた。これなら録画とかで記録に残っても大丈夫と思えた。教育TVでのオンエア切望!

DVDの岩永左衛門は当時の勘九郎で人形振りがやけに楽しかったが、段四郎も飄々としていてよかった。岩永は景清への遺恨を持った敵役。赤っ面に塗った顔で眉が動く仕掛け。後ろに黒衣が2人ついて遣っているように見せる。写真集にあった水責め部隊=竹田奴も岩永の声かけで現れる。重忠に一喝されてすぐ退場になるのだが、単調になりやすい舞台に変化を出す工夫だろう。

玉三郎の阿古屋はとにかく素晴らしい。長身でイケメン揃いの捕り方に前後を挟まれての花道の出から客席がどよめく。3階2列目では七三でも顔くらいしか見えないがそれでも嬉しい。贅沢な打掛に孔雀が大きく縫い取られたまな板帯。簪を何本もつけた傾城姿。これこそは歌舞伎の女方ならではの艶姿。女優ではこんな思い衣裳を身につけては自由に動けないと思う。
重忠の「義理と情を表に立つるが遊君の習ひ」だが「ここをとくと合点せよ」という尋ね方に心動かされるが知らぬものは答えられぬと言う。拷問するぞという岩永の脅しには「オホホホホホ、そんなこと怖がつて苦界が片時なろうかいな」と重忠と岩永の人物の違いをこきおろすところの小気味よさ。「この上のお情けには、いっそ殺して下さんせ」と階の上に投げ出しての決まりの姿。まさにそこで美が結晶したかと思われる。
三曲の演奏に入る。DVDと違って琴の調弦にかなり時間をとっていた。湿度とかですぐに音が狂ってしまうことの大変さがわかった。景清の行方を知らないことを蕗組の唱歌に託して唄い、傾城というものの教養の高さがうかがえる。傾城ともなると相手にする男の教養のレベルに対応できなければいけないわけだ。竹本の三味線との掛け合いも美しい。しかしまな板帯を挟んでの演奏は本当に大変だろうと思う。
重忠に景清との馴れ初めをたずねられて驚きながらも美しい声で嬉しそうに語るが、次は三味線。中国の皇帝の寵愛を失った女の唄。三味線は長唄三味線とのかけあい。音のやりとりに思わず足で拍子をとりそうになる。これも予習の成果。玉三郎は実は左利きなので三味線は苦労が大きいらしい。
三味線をやめさせられると「都にをりをり紛れ入る景清。そちはたびたび逢はうがな」との問い。「さらばといふ間もないほどにせわしない別れ路」と嘆く。最後は胡弓。これは弾き弓の毛の部分を指で張って擦って音を出すのだと双眼鏡で見て納得。岩永もあまりの名演奏に火鉢の箸を胡弓にみたててノリノリになっている自分にハッと気づいてバツが悪くなって衝立の後ろに隠れる。
三曲を見事に奏で、放免を言い渡す重忠にくってかかる岩永。理をつくして論破し「調べを正して聞き取つたる詮議の落着。この上にも不審あるや」→「ぴんともしやんとも岩永は、ばち鬘頭かくばかり」とやりこめて落着。

阿古屋も「長居は恐れ」と立ち上がり、絵面に決まる。定式幕が引かれていくのがとっても惜しかった。もっと見ていたい!!これほど堪能できるとは思わず、大興奮状態。本当に有難い気持ちでいっぱいだった。

sanguさんの「民俗学的歌舞伎鑑賞記」の記事がとても参考になったのでご紹介しておきたい(→こちらへ)
9/9昼の部①「竜馬がゆく」の感想はこちら


最新の画像もっと見る

14 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (hitomi)
2007-10-04 09:19:04
これはDVDもゲットすべきですね。録画したからと思っていましたが…本はもう絶品ですか。東京の古書店に出ると高くて地方は安いのですが。毛皮着てヨーロッパ旅行してるのとかお若いときのも見つけると買っています。

いつも詳しいレポで改めて理解が進みます。雑誌ではあらすじなど誰でも知ってるとばかりに載ってないことが多く困ったものです。今はブログで楽しませてもらえますから幸せです。ありがとうございます。
返信する
♪♪♪ (かしまし娘)
2007-10-04 12:01:08
ぴかちゅう様、まいど!
私も待ちに待っていました。前回は(って何年前かな?)体調を崩して、熱があったにも関わらず「阿古屋」が観たくて劇場に行ったのですが…。「阿古屋」の前に帰宅してしまったんです…。待ちわびた時間の中で、御本家文楽を観てしまったからなのか、酔えませんでした…ガックリ。何がどうとかってマイナスな部分なんて全然ないのに。人間の感性って複雑ですね。御本家を初体験した事で、アンテナの向く方向が変わったのかもしれません。
でも、舞台はとっても美しかった。私には一幅の絵に見えました♪
吉右衛門がマジで色っぽかった!!あ、アンテナの方向が違いますね。(しまったぁ)

>篠山紀信の大型写真集『ザ歌舞伎座』
そうそう!ここに載ってましたね。家にあるのに!思い出しもしませんでした。これで予習していれば…(笑)
返信する
歌舞伎座は何かが違いますね。 (とみ)
2007-10-04 21:57:31
>ぴかちゅうさま
絶版のこの本,ワタクシも持ってます。竹田奴が摩訶不思議です。
歌舞伎座では玉三郎丈は歌舞伎役者さんでした。当たり前のようですが,歌舞伎座の阿古屋は完全勝利なさらないところが奥ゆかしいです。
3曲は劇中劇のように楽しめました。
返信する
皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2007-10-05 00:36:21
★hitomiさま
一度DVDの字幕つきで鑑賞することをおすすめします。玉三郎のシャンソンもお持ちとか!ぜひ聞いてみたいです。
★かしまし娘さま
文楽に激ハマリのかしまし娘さんは文楽を先にご覧になってしまったら、それで刷り込みができてしまったのでは?失礼(笑)そのイメージの膨らんだところを玉三郎お一人で対抗することはかなわないでしょう。もう全く別物として観るしかないでしょうねぇ。
>吉右衛門がマジで色っぽかった......激しく賛同いたします(^O^)/
(注)かしまし娘さんの記事はお名前の欄をクリックすると読むことができます(^O^)/
★「風知草」のおとみ様
「竹田奴」と検索したら「KABUKI GLOSSARY (S~T)」というサイトに下記のようにありました。
In Japanese:竹田奴 Takeda Yakko
Roles played by minor actors imitating some simple, crude and gaily-coloured Bunraku puppets. You can find Takeda Yakko in 2 plays in the current repertoire: "Dan no Ura Kabuto Gunki" and "Yoshitsune Koshigoejô".
文楽のツメ人形を歌舞伎の方で真似したんですね。他の演目にも登場するようで、これからの楽しみが増えました。
おとみ様の記事、下記に紹介させていただきますm(_ _)m
http://otomisan-fuchisou.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/post_33c4.html
「芸術家としての筋を通すと読むか,愛の世界に沈潜するか」で悩まれて、後者の解釈をされたとのこと!恋愛至上主義の私としても賛同いたします。これはやはり二人の愛の思い出を三曲に乗せたという作品だと思います。
返信する
とても素敵でしたよね。 (どら猫)
2007-10-05 00:57:59
ここにも「阿古屋」にはまってしまった方がいらしたのですね。初演から多分、半分以上の公演は見ているはずなのですが、やっぱり緊張して見てしまいます。
次は、いつ拝見できるかと、すでに考えているどら猫でございます。
返信する
コメントをありがとうございます (どら猫)
2007-10-05 22:25:57
こんばんは。コメント、TBを有難うございます。こちらからもTBさせていただいたのですが、うまくいっているかどうか。前回も失敗だったので、少し心配ですが。
本当に、次の公演が待たれます。大阪以外でもきっと行ってしまうだろうなと思います。
返信する
★どら猫さま (ぴかちゅう)
2007-10-05 23:01:05
TBさせていただいた記事のご指摘「慣れてこられたのでしょうか。演奏に気が行っていることがあまりなく、唄いながら景清を思う風情がとてもよく出ていたように思います」......まさに玉三郎丈の9年間の精進がうかがい知れるご指摘だと思いました。私にも阿古屋のせつない思いが歌舞伎座中に満ちていたように思えます。「阿古屋」のさらなる進化を楽しみにしていくつもりです。
TB、ブログどうしの相性とかでうまくいかないことも少なくないようです。gooはコメントするときにURL欄があるのでそこにブログのURLではなく、該当記事のURLを入れていただいている方もいます。私もTBを先にやってみてうまくいかない場合のコメントには記事のURLを入れることにしています。ご参考までに私の記事に先にいただいたコメントをその方法で私の方で再送信してみました。イメージが湧きますでしょうか?
(注)どら猫さんの記事はすぐ上のコメントのお名前の欄をクリックすると読むことができます(^O^)/
返信する
竹田奴! ()
2007-10-06 00:02:59
ぴかちゅうさんの記事を読んで「そうだ!そうだ!」と思い出しました。(笑)
竹田奴(というんですね)の大勢が出てきた時、
色々な面白い顔のメイクに笑いました。
「キー」とか言いながら出てきてたので、
思わず(ショッカーかいっ!)と心の中でツっこんでました。(笑)

捕り方に挟まれながら、阿古屋が花道から登場した時も、
その構図の美しさに確かにため息が漏れました。

>楽器を変える時に姿勢も3つ決まりのポーズで聴くようだ。
そうだったんですか!
全く気付きませんでした・・・。
玉三郎さんのお姿しか見てなかったですぅ。(笑)
やはりぜひともTV放映して欲しいですね。
改めて確認したいです。
返信する
TBさせて頂きました (dream)
2007-10-06 22:52:55
TB&コメントありがとうございます。
こちらからもTBさせて頂きました。
ぴかちゅう様の観劇前の予習はDVDを買ったり、
テキスト文書を読んだりと頭が下がります。
玉三郎様の三曲・・・本当に素敵でしたね!
楽器の調律&扱い方、弾き方、どの所作を観ても
溜息が出てしまいました。
もともと邦楽は好きで、幼い頃、琴&三味線の楽器
を触った事があるので、舞台にあがっていた楽器が
素晴らしいので驚きました。
TVでのオンエアには期待してしまいます。教育TVの
「劇場への招待」であること、私も祈っております。
ぴかちゅう様の観劇の感想がブログにUPされる事を
楽しみにしております。
返信する
予習効果大でしたね (六条亭)
2007-10-06 23:36:26
千穐楽の日は、すれ違い時にお声をかけたのみで、失礼しましたm(__)m。

待望の玉三郎さんの『阿古屋』、DVDなどでの予習効果が十分あったようですね。

今回はDVD以上に四人のバランスがとてもよかったです。吉右衛門さんの重忠がとりわけ舞台に厚みを増していました。

千穐楽に限って言いますと、NHKのカメラは入っていましたが、阿古屋は残念ながら撮っていませんでした。前日もカメラが入っていたという未確認情報もありますから、放送されればいいですが。

TBをうちました。
返信する

コメントを投稿