ぱたの関心空間

関心空間と徒然なるままに。

ディア・ドクター@京都シネマ

2009-07-12 12:45:42 | 映画感想
「いけちゃんと僕」を見るつもりで行ったのに間に合わなくて鶴瓶さんを見る事に。

連日立ち見が出るほどの人気らしい。西川監督の作品だからか、鶴瓶さんの人気からか、それとも瑛太?

ネタバレとか、気にしたほうが良いんだろうな。うん。

しますよー、ネタバレ。
って、いつもやねんけど。
っつーか、そもそもあまり意識せずに書いていますからねー、これから見に行こうかなーと思っている人は気をつけて読むのがよろしおす。

そんなわけで感想。とか。

あのね。
もっと用心するべきだった、と思っている。

西川美和さんの作品は、「ゆれる」を予告編で見たくらいで、でも背中が寒くなるような怖さを感じたのだ。
ホラーでもないのに。

でも、今回は鶴瓶さんが主人公だし、今を時めく瑛太だし。
山村で地域医療に従事して、村の人たちから信頼を集める医者の話、というヒューマンドラマだし。
予告とかで、主人公が無免許医ってことかなぁ、ってのは容易に想像がつくけれども、それをスパイスにしたほっこりとした感じのドラマかなぁみたいな、あまり気にしていなかったけど、そんなイメージを持っていたかもしれない。

柔らかい真綿で包まれていると思ってたのに、ちょっとかきわけて見たら生々しい傷口が顔を出して、ヤバイと感じたところで、見たな~、と言われて真綿で首を絞められているような、そんな人間ドラマだった。

心の準備がイマイチでちょっと戸惑う儂。

悪気があって偽医師になったわけではない。
香川照之演じる薬の営業マンが、刑事に聴取されるシーンで明らかにする理由は、とてつもなく分かり安い。
「その嘘は罪ですか?」 映画のキャッチでもある言葉からすれば、とてもじゃないけどそれを罪とは言えない。むしろ人間として当たり前の行為で、あたりまえの事をしていたらズルズルこうなってしまったと、ただそれだけの事。

が、それを理解できる人は少ないのですよ。
そばにいる人でさえそれは難しい。

あれだけありがたがって、崇め奉って、感謝の言葉を惜しまない人たちが、失踪後には冷たい態度を見せる。
勿論それは当たり前の事、誰も責められることではないのだよね。刑事に聴取されるというネガティブな状況でもあるし、自分もそういう立場になったら冷たい態度をとりかねない。人間の弱さ、と言ってしまったら陳腐にすぎるか? 研修医である瑛太が、刑事に問い詰められるシーンで、保身(というか、自分のプライドを取り繕うとしていただけか)に回る彼を責める気にはなれない。

きっとそれは、気づかないでいればみんな幸せでいられた嘘。
勿論、本人とこの事実を知っていた2人を除いて。

失踪するまでの間、辛い表情を浮かべるのはこの3人だけだ。
救急の患者を大きな病院まで送った後、大歓声で村人に迎えられる医師を、車の中から疲れたような表情で見つめる香川さんと余貴美子さんが印象的。
バレれば犯罪者、バレなければ英雄。どうする事も出来ない、とりあえず出来るのは求められているから応える事だけだ。

映像は美しい山村の風景をなぞり、しかし一方で次第に人間のもっている生々しい姿を掘り起こしてしまう。
なんだか穏やかで優しい表情で話をしている相手に、手許では生爪を剥がされているかのような感覚。
表情は穏やかなのに残される爪痕は深い。

そしてラストシーン。
この辛らつな映画を、最後の最後でメルヘンにしてしまった。ビックリです。

鶴瓶さんの表情はなんだかまるで魔法の薬のよう。
そして八千草薫さんの表情のかわいらしいこと。

こんな映画なのに、見終えたときの心地よさはねぇ。 
なんだか救われたようで。
ふしぎです。

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