二つは、無関係な人たちのものらしかった。
それぞれのテントの傍には、テーブルや椅子まで置いてある。食量らしいものも。日常をそっくり、そこへ運んできた感じだった。
多分若者のグループが連休でやってきて、昨夜からテント暮らしを楽しんでいるのだろう。おそらく魚釣りを兼ねて。
今まで見たこともなかった海辺の情景なので、始めはなんだろう? と、不思議に思ったのだが。
いいな、とちょっとうらやましい気分にもなった。
野外で一夜を過ごすなど、私は一度も経験したことがない。この年になっては、もう無理なことだし……。波打ち際を歩きながら、一生は長いようで、その間に経験できることは随分限られていること、体験は人様々であることなど、当然のことを改めて考えていた。人生の様々な苦楽に関わることに比べれば、キャンプ体験など、実に些事と言えるのだろうけれど。
経験がないからこそ、夢想を楽しんでいるのだ。
星空を仰ぎながら、春の夜風に吹かれて一夜を過ごすといった心地よさだけを考えている。どうして嵐に遭遇しないとも限らないのに。
夢想は常に、楽しいことばかりを思いがちなのだろう。
折角のキャンプだったのに、昨夜は、美しい星月夜というわけにはいかなかったはずだ。就寝前に外に出てみた。月は雲に隠れ、星も見えなかった。漆黒の闇の中、波音、風音が高くて、眠れない人もあったかもしれない……。
テントが張られていたばかりに、平素の散歩では考えない、どうでもいいことが、頭を巡った。