「ゆわさる別室 」の別室

日々BGMな音楽付き見聞録(現在たれぱんだとキイロイトリ暴走中)~sulphurous monkeys~

20130519

2013-05-19 | 矮小布団圧縮袋

○日曜は雨なので家で休みながら屋内作業をすることにして、土曜の天気が晴れているうちに買物等に出る。
 帰りに映画を見て、パンフを見ながらエイキチベーカリーのイートインでコーヒーと和牛すきやきサンドで休憩中のたれぱんだとキイロイトリである。


 映画「ロイヤル・アフェア~愛と欲望の王宮~」(2012、デンマーク)を見てきた(※名画座的な単館上映で、福岡市内ではKBCシネマで上映中)。邦題の副題が一見「愛欲」的表現のため、映画を見ていない日本人にやや誤解に満ちた印象を与えそうだが、これは絢爛で重厚な歴史劇的な正攻法の人間ドラマだと思う。原作の小説はまだ読んでいないし、実在人物が本当にそうだったのかどうかは不明だけれども、ドラマの中の国王と王妃と侍医と3人が三様に「切実」な感じがするのがよかった。一見エキセントリックに見える(ラストまでほんとうにある意味はらはらさせられる)王も、若い王妃も、それぞれ孤独な心を抱えているところから人間造型がなされていて面白い。

 その王役も王妃役もまだ若い俳優の人なのに非常に上手いし、一方超渋のマッツ・ミケルセンがなぜモテるのかもわかってきた。よく写真が松重豊風だとか言われるような、「所謂優男」ではないのだが、屈強そうでいて繊細なところもあり、この人も「じわじわ来る」ので、「最初は嫌っていたが、ふと気がつくと、心惹かれている」キャラクター設定に、充分説得力がある。無神論で啓蒙主義で医師で政治家へ、という頼りがいもありそうな大人の淡々と理知的で冷ややかな感じだったのに、一瞬「情」でめらめらっとする瞬間の演技とか。(前知識としてざっとネットで読んでおいたデンマークの歴史の記述に出てきたストルーエンセのイメージとちょっと違うw)苦渋に満ちた表情と、ふっとほぐれた微笑とのギャップも凄い。ああ、この人じゃ、なんだかそうなっちゃうのかもしれない、というような(爆)そういうところに着眼して持っていった制作者もやるな、という感じだ。

 登場人物たちは単純に完全な善人ではないし、ふと野心がひらめくことも、その時の情熱や欲望に流されてしまうこともあるけれど、型にはまった単純な悪人でもない。立場や役割の思惑の中の喜怒哀楽で右往左往することもある。敵対勢力の極めて政治的な反撃の、その裏をかけなかったのは、老獪な連中の冷酷さ(悪意?や妬みも、ちょこっとまざっているのだろうか?もっとも、奴らは奴らで必死なんだろうが、)を、王と王妃側が読み切れないところがあるというか、気持ちは一生懸命でも本当に総体を見越して政治的になるにはまだ若すぎたんだろうな、と思ったり。マッツさんも下手すると王妃の親世代に近いくらいだが、鍛えられた感じの身体も若さを感じさせるし、一方「老獪になるその手前」(同世代の観客だとかなり共感できるポイントなのだ)ぐらい、の感じ(得意な時も、怯えたり迷ったりする時もある、完璧ではないところ)がよく表現されていたと思う。




 グルベア(グルベル)のおなじみデヴィッド・デンシックさんが出てきた時は、あまり詳しくないデンマーク映画の中でも「見たことある顔」だったからほっとしたな(おーエスタヘイスやん!※「裏切りのサーカス」ではオーストリア人役だった。欧州風の顔立ちの人ですな)。この人、貴族というか官僚というかこういうのうまいんだな(笑)。びびった時なんか、くりぃむしちゅ~の有田さんみたいに「ぎょぎょっ」とした表情をする(もちろんギャグではない)のに、よさげな人なのか悪い人なのかすぐわかんないところが上手だ。他にも色々な人が出てきた。奥の深い俳優さんがいるのだなと思うし、本当にドラマとシナリオがきっちりしていて、演者の役の理解が深い。ストルーエンセの仲間だった人たちの運命の分かれ方とか、「敵役」とか周囲の御付きの人たちとか、それぞれがうまく配置されている。18世紀の欧州社会の残酷なところも出てくるけれど露悪的ではなく、ロケのカメラと衣裳とセットの絢爛美と、ドラマの質の高さとの、バランスが取れている。

 こういう映画がロングランで興行収入高くて絶大な人気があるという点に、観客も演者も制作者も含めての欧州の演劇文化や映画文化のレベルの高さを感じる。デンマーク語はわからないながら、18世紀は日本は各国諸藩に分かれていたけど、欧州は欧州で各王国公国と分かれていたのだなと思ったり、デンマークって酪農やハムレットやMEWぐらいしか知らなかったのだが、いろいろあるんだなと思ったりした。良い映画を見た後というのは、何か日常的な物事に対する感じ方や、小説や文章の読み方や味わい方や、attitudeまで変わってきて、影響を受ける。そしてそういう要素も含めてまた「語り伝えられる」だろう。これも映画館で見られてよかった映画の一つだ。


本日のBGM:
 Caroline's Theme / Gabriel Yared, Cyrille Aufort(「A Royal Affair Original Soundtrack」)
 この映画では、流麗で悲愴なピアノコンチェルト風なテーマ曲(「カロリーネのテーマ」というのだろうか)も美しい。ガブリエル・ヤレドとシリル・オフォールの音楽、非常に印象に残る旋律である。そして王妃はイギリスで育ってピアノが得意だったのである(涙)。このメロディが変奏的にしばしばドラマの中で立ち現れてくると、武満徹の「夢千代日記」のテーマとか間宮芳生の「事件」のテーマ(※NHKドラマ人間模様、若山富三郎主演)のように、せつない。(20130519)
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