市政をひらく安中市民の会・市民オンブズマン群馬

1995年に群馬県安中市で起きた51億円詐欺横領事件に敢然と取組む市民団体と保守王国群馬県のオンブズマン組織の活動記録

ごみ談合でタクマ提訴の方針を公言していた岡田市長と市長室で面談していたタクマ執行役員との八百長的疑惑

2011-02-10 23:37:00 | オンブズマン活動

■今年の地元新年会で、安中市の岡田義弘市長が冒頭に誇らしげに語った安中市原市のごみ焼却施設「碓氷川クリーンセンター」を巡る談合問題への対応について、昨年12月30日に、安中市の住民ら11名が住民訴訟で岡田市長にタクマを提訴するよう求めた裁判の第一回口頭弁論が、2011年2月9日に前橋地裁で行われたことが、今朝の新聞で報じられました。

**********
住民訴訟 棄却求める
第1回口頭弁論 談合疑惑で安中市
 安中市のごみ焼却施設「碓氷川クリーンセンター」建設工事の入札時に談合があったとして、落札業者に損害賠償請求するよう、住民が岡田義弘市長に求めた住民訴訟の第一回口頭弁論が2月9日、前橋地裁(内藤正之裁判長)であった。市側は「賠償請求議案を市議会に提出しており、訴えの利益がない」などとして棄却を求める答弁書を提出した。
 原告側は「市が業者を提訴すれば、訴訟を取り下げざるを得ない」とした。市は訴訟で弁護士を依頼しない方針で、原告側は「勝訴する気があるとは思えない」と指摘した。
 市の賠償請求議案は市議会市民文教常任委員会で継続審査となっている。内藤裁判長は「市は議会の同意が得られるよう尽力してほしい」と述べ、次回の弁論期日を市議会三月定例会閉会後の3月23日とした。
(東京新聞2011年2月10日)
**********
訴え却下求める 安中ごみ施設談合訴訟 市長側が答弁書 前橋地裁
 安中市のごみ焼却施設、碓氷川クリーンセンター(1998年完成)を建設したタクマ(兵庫県尼崎市)が公正取引委員会による談合行為の排除措置を受けた問題で、安中市内の住民グループが岡田義弘市長に対し、損害賠償とタクマに請求するよう求めた訴訟の第1回口頭弁論が2月9日、前橋地裁(内藤正之裁判長)であった。
 被告側は「タクマには損害について支払いを求めており、損害補填の手だてを怠っているわけではない」とする答弁書を提出、訴えの却下を求めた。
 閉廷後、被告側は「訴えることは決めており、あとは議会次第。司法の問題ではない」と指摘。げ国側は、昨年の市議会で賠償請求の訴えの議決を求めた議案が継続審査となってことに触れ、「議案が可決されれば訴訟は取り下げざるを得ない」と話した。
(上毛新聞2011年2月10日)
**********
安中のごみ焼却施設談合:住民訴訟 市側、棄却求める「請求済み」--初弁論 /群馬
 安中市原市のごみ焼却施設「碓氷川クリーンセンター」の焼却炉工事を巡り、市民11人が岡田義弘市長を相手取り、受注した大手プラントメーカー「タクマ」(本社・兵庫県尼崎市)に13億2545万円の損害賠償を請求するよう求めた住民訴訟の第1回口頭弁論が9月9日、前橋地裁(内藤正之裁判長)であった。市側は6億4859万円を請求済みとして棄却を求めた。
 訴状によると、公正取引委員会は2006年、焼却炉建設工事でタクマなど大手5社が談合を繰り返していたと認定。市民側は談合の疑われる同工事の予定価格の20%分を請求するよう求めている。
 市は昨年10月、予定価格の10%分をタクマに請求したが、タクマ側は「談合の事実はない」と拒否。市は同11月、損害賠償請求の提訴議案を市議会に提出したが、継続審議となっている。【喜屋武真之介】
(毎日新聞2011年2月10日)
**********

■この事件では、当会もオンブズマン活動の一環として、2010年10月12日付で住民監査請求を行っていましたが、全く役に立たない安中市の監査委員らは案の定、同11月30日付で棄却通知を送ってきました。これで晴れて住民訴訟に持ち込むことができることになりましたが、地方自治法が改悪されており、直接タクマを住民訴訟で提訴することができず、安中市長を相手取って提訴してみても、裁判所が自治体の見方をする群馬県では、時間と費用の無駄だと判断し、当会は12月30日の提訴期限までに、訴訟を提起することを断念しました。

 一方、安中市のほかの住民らは、12月30日の期限ぎりぎりに前橋地裁に訴状を提出し、このたび、第1回口頭弁論があったものです。

■岡田義弘安中市長は、住民に対しては、「説明責任」「情報公開」を盛んに口にして市民本位の市政を重視するポーズをとりますが、実はまったく別の思惑で行動します。

 今回のごみ談合問題でタクマへの損害賠償請求の話は、昨年11月下旬に、安中市原市のごみ焼却施設「碓氷川クリーンセンター」建設工事を請け負ったプラントメーカー「タクマ」(兵庫県尼崎市)に対し、「『入札時に談合が行われた疑いがある』として、不当につり上げられた約6億4800万円の損害賠償請求の訴えを起こす方針を決めた」とマスコミ報道されたものです。
 そして、岡田市長は2010年11月30日開会の市議会定例会で、この提訴について議案提出をしましたが、普段か手懐けている市議会与党会派から、「弁護士を付けないのは勝訴する気がない」などという理由であっさりと継続審査とされてしまいました。もし、今年3月に予定されている現市議会議員らの最後の定例議会で、再び継続審査となれば、タクマ提訴は廃案となります。
 安中市の職員らも、ごみ焼却を得意とする環境大手のタクマを相手に裁判することについて及び腰であり、このままだと、「せっかく市議会にタクマ提訴を議案提出したのに、市議会が反対するから、提訴をあきらめざるを得ない」という理屈で、「やむにやまれず涙をのんで提訴を見送った」という理由付けをされかねません。

 実際、本年4月17日告示、24日投開票が迫った安中市議会選挙に立候補を予定している候補者らは早くも戸別訪問でチラシを各戸配布していますが、いまのところ誰もこの件について触れているチラシはありません。タクマごみ談合により異常に高額で建設された安中市のごみ焼却施設について、損害賠償をタクマにすべきだという与党会派の議員は誰もおりません。

 ところが、岡田市長はそのような背景の中で、記者会見や地元新年会では「損害をこのままにしていては、行政として市民に説明できない。第三者機関に判断してもらう」などとして、「説明責任」や「情報公開」の重視の姿勢を強調するような空々しい言葉を並べたてています。

■なぜ、当会がそのような見方をするのかというと、岡田義弘市長が今年の元旦に全市の全戸に折り込みチラシとして配布した岡田義弘後援会報で、「市長の一日」と題して「12月22日(水)08:00多胡様来庁 09:00吉沢様来庁 10:00教育部打合せ 10:30記者発表 14:30片岡康精氏ほか来庁 16:00安中青年会議」というふうに市長の面談者を紹介しているからです。

 このうち、「片岡康精氏」には肩書きが記されていませんが、ネットでこの氏名で検索すると、株式会社タクマ 執行役員 プラント事業本部副本部長だとか「特定非営利活動法人(NPO) 資源リサイクルシステムセンター 理事」「株式会社タクマテクノス 代表取締役社長」などという肩書で同姓同名の人物がたくさん出てきます。

 仮に、2010年12月22日(水)午後2時半に岡田義弘市長が面談したのが、この人物だとすると、「損害をこのままにせず第三者機関の判断にゆだねる」と明言した言葉との整合性に疑問符が付きかねません。現在相撲協会を揺るがしている八百長問題ではありませんが、ガチンコ勝負を挑む相手と、実はしれっと面談して相談していたとなると、たとえ岡田市長がタクマを提訴しても、「八百長」ではないか、という疑念を住民はもつことでしょう。

 一方、タクマとしても、安中市からの2010年10月20日付内容証明による損害賠償請求書に対して、同11月4日付で安中市に送った回答書で、損害賠償を拒否したことから、もしも本気で安中市に提訴された場合、裁判所に顔のきく岡田義弘市長の心証を悪くするとまずい、と考えたのでしょう。あわてて、年末の挨拶を兼ねて、12月22日の午後2時半に、タクマの執行役員で同社プラント副本部長で、同社子会社であるタクマテクノスの代表取締役社長ら幹部が揃って岡田義弘市長に面談を申し入れたものと見られます。

 その席に、市役所の幹部も同席したのかどうかは分かりませんが、いずれにしても、直接間接を問わず、タクマ談合問題に関して、タクマは岡田市長の本気度を確認したかったに違いありません。そして、それに関連して何らかの密約が交わされたのかどうか、ということも住民にとっては大きな関心事です。

 それらは、議事録として残されていないでしょうから、確認のしようがありません。しかし、口利きを得意とする岡田市長ですから、タクマもそれなりの認識をもって、面談に臨んだことでしょう。

■一方、そのころ談合を繰り返していたタクマは、安中市原市にある碓氷川クリーンセンターのごみ焼却施設(能力45t炉/16時間×2セット)と、粗大ごみ粉砕施設(能力20t)と合わせて税込み総額64億8591万円で落札していますが、これがいかに高額なのかを示す好例が最近分かりました。

 ごみ談合の大手5社に入っていた日立造船のホームページのニュースリリースhttp://www.hitachizosen.co.jp/news-release/2011/01/1056.htmlによれば、同社は、2011年1月20日、北海道歌志内市に事務所を置き、滝川市他13市町からなる中・北空知廃棄物処理広域連合(泉谷和美広域連合長)から、ごみ焼却発電施設(85t/日=42.5t/日×2炉、発電量:1,770kW)建設工事を受注したことが掲載されています。このごみ焼却施設概要は次のとおりです。

<概要>
発 注 者 : 中・北空知廃棄物処理広域連合
工 事 名 : 一般廃棄物焼却処理施設建設工事
建 設 地 : 歌志内市字東光地内
施設規模 : ストーカ式焼却炉 (85t/日=42.5t/日×2炉、発電量:1,770kW)
納  期 : 平成25年3月末
受注金額 : 43億8,668万円(税抜き)又は46億601万4千円(税込)

 北海道のこのごみ焼却施設は、安中市のごみ焼却施設に比べると日量5トンほど小さいのですが、発電設備が併設されています。また安中市のごみ焼却施設にはごみの前処理用設備だとして日量20tの破砕機があるようですが、これを発電設備と相殺してみても、まだ、20億円ちかい差額が生じています。

 この差額分がすべて、談合による結果かどうかはすぐには断定できないかもしれませんが、13年前の完成時とくらべても、当時からの時間の経過や社会状況によるコストアップ要因を勘案しても、やはり談合による巨額の利益が生じたことを感じます。

■よって、一刻も早く、談合で不当に吊り上げられた分の公共工事費を取り戻すことは、市民の保有する固有の権利のはずです。

【ひらく会情報部】

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

長野県建設業厚生年金基金サカモト24億円事件と安中市土地開発公社タゴ51億円事件の類似性

2011-02-08 23:51:00 | 他の自治体等の横領事件とタゴ51億円事件
■長野県建設業厚生年金基金(長野県長野市大字南長野南石堂町1230)を舞台にした23.8億円の年金掛け金不明事件で、ようやく名前が公表された元事務長坂本芳信容疑者(53)について、不思議なのは、経歴についてマスコミが全く報じていないことです。

 元事務長(報道機関によっては「前事務長」ともいう)の普段からの素行については、マスコミ報道を見ても実に情報量が少なく、地元の信濃毎日新聞以外、長野県外の報道機関は殆んど報じていません。

 その僅かな報道からサカモト容疑者の普段の私生活をチェックしてみましょう。
■同容疑者は、長野市西三才(にしさんさい)に住んでいたようです。西三才というのは、新幹線停車駅でもある長野駅から2つ目の三才駅の西側にある地区名です。長野駅からは約8キロほど北に位置しています。

 複数の関係者によると、2010年9月9日に行方をくらませる直前まで、ここ数年間(2008年以降という報道もある)、週末や祝日を挟んでほぼ毎月アジアや欧州などへ渡航を繰り返していたそうです。しかも平日も「出張」と説明して海外へ出かけていたそうです。

 渡航先としては、米国や欧州、東南アジアなど広範な地域が挙げられており、これらの国々に潜伏している可能性があるとみられ、1月28日までに長野県警では国際刑事警察機構を通じて同容疑者を国際手配しています。渡航先の具体的な国名としては、米国本土、ハワイ、フランス、韓国、香港、インドネシア、タイ、マカオ、ベトナムと幅広く、このうち香港が最も頻繁だったとか。

 また、長野新幹線を利用してしょっちゅう都内に出かけており、都内では知人から「社長」と呼ばれ、元Jリーガーの著名人(ラモスの名前が取り沙汰されている)らを集めては六本木で豪遊していたとされています。同容疑者を「社長」などと呼んでいた都内の知人らは、サカモトと一緒にグループで旅行したこともあるということです。

 近隣住民の話では、容疑者の生活は相当派手なものだったそうで、半年から1年ごとに新車を乗り換えていたそうです。地元の10年前の電話帳には同容疑者の名前が掲載されており、住宅地図に載っているそうです。

 西三才では平屋の借家住まいをしていて、配偶者がいるようです。報道では、「西三才に住んでいた」と表現しているため、事件発覚後、家人は別の場所に引っ越したようです。

 この他、ネット情報によると、前職はパチンコ店だとか、理事長との姻戚関係を取り沙汰たす記述もありますが、真偽は定かではありません。マスコミ報道で、同容疑者の経歴にまったく言及がないため、確認するすべがないからです。仮にこれらの情報が本当であるとすると、韓国への渡航と前職との間に何らかの関係があるかもしれません。

■一方、安中市土地開発公社の元職員タゴが起こした51億円事件を見てみましょう。

 タゴには配偶者と子供が二人おり、自宅は安中市役所のすぐ目の前にありました。土地開発公社のあった西庁舎までは、歩いて1分たらずです。庁舎の鍵をもっていたので、休日でもいつでも出勤でき、誰もいない間に自由に偽造書類を作成することができました。

 海外渡航についても、グアムとサイパンに会員制のリゾートマンションの利用権を購入して、よく家族で出かけていました。また、中国には骨董の買い付けに、知人らと渡航していることが刑事記録の資料からうかがえます。その時には、おそらく古物商の免許を持っていた金融機関勤めの知人や息子らを通わせていた学習塾の関係者らも同行したものと推察されます。

 タゴはパチンコはやりませんでしたが、ギャンブルはもっぱら麻雀と競馬でした。自供によれば約1億円をつぎ込んだと言っていますが、警察で、一緒に競馬やマージャンをしていた市役所の同僚らからも事情聴取をしましたが、きちんとした裏付けが取れなかったため、本当かどうかは疑わしく、使途不明金を減らすために適当に理由をでっちあげていた可能性があります。

 タゴは、事件発覚の1995年5月の前年、1994年9月から12月まで、安中市役所のエリート職員として、東京都の広尾にある自治大学校に研修のため派遣されていましたが、そのころ、タゴの懐をあてにしてタゴにたかっていた市議会議員らが、激励と称して上京し、赤坂や六本木でどんちゃん騒ぎをやったことが分かっています。タゴは酒を飲めなかったとされており、もっぱら食べるほう専門だった可能性があります。

 また、タゴはお正月には、東京の三越から豪華なおせち料理を取り寄せて家族で祝っていたというエピソードも知られています。

 派手な生活ぶりは近所でも有名で、普段から外車を夫婦で乗り回し、都合9台乗り換えたとされています。いくら年収が平均で750万円の市役所の職員とはいえ、正月には100万円もする大島紬の和服を着て地元の新年会に参加するなど、市役所職員の身分で、どうしたらそんなに贅沢な生活ができるのかと不思議がられていました。

 また、市役所内でもタゴから骨董品をもらったりしていた職員が相当数おり、なかには飲み屋のツケをいつもタゴに支払わせていた連中もいたことが分かっています。骨董品の湯飲みや、1着数10万円もするスーツなどを見せられて、どうしてそんなことができるのだろうかと不思議に思っていた市役所の関係者は相当いたようですが、「市役所の七不思議」として囁かれただけで、誰も告発をしたものはいませんでした。

 タゴ事件では、使途不明金を少なく見せるためにタゴとその関係者は、骨董品に10~12億円以上横領金をつぎ込んだと自供していますが、タゴは古物商の免許を持っていないため、直接骨董品を買い付けることができません。そこで、当時甘楽信用金庫安中支店に勤務していた親友の知人が古物商の免許を持っており、その人物に横領金を預けて、大量に買い付けてもらっていたという経緯があります。しかし、売ったほうはせいぜい4億円だと警察に自供しており、その差は6~8億円もあり、警察が最終的に確定数字として挙げた使途不明金14億4千万円より、実際にはさらに使途不明金は多いと当会では推測しています。


中央の2棟がタゴ邸。左手前が信越アステックにより昨年12月1日から今年3月18日まで建設中の安中市消費者センター。右奥が安中市役所。

 このことから、長野県建設業厚生年金基金を舞台にした24億円横領事件の場合、配偶者や親戚に横領金が渡ったかどうか、六本木などで開いていた豪遊パーティーで知り合った知人らにいくら金が渡ったのか、海外渡航の目的は、ギャンブルなのか、買春ツアーなのか、リゾート地巡りなのか、サッカー観戦なのか、関係者からよく事情を聴取する必要があります。

■次に、不思議なのは、長野県警が事件発覚直後、同基金から当初任意で出された資料を分析したり関係者から任意で事情を聴いて、なぜ4ヵ月半もかかって、ようやく不明金総額が2億円近く多いことが判明したのか、ということです。

 同容疑者によって横領されたとみられる不明金問題について、2010年9月の問題発覚後、同基金の独自調査で、不明金が出始めた2006年6月から事件発覚の2010年9月までの4年余りで合計30回以上にわたって引き出された不明金の総額は約21億9千万円に上る、と発表されていました。

 ところが、昨年9月11日に同基金から被害の相談を受けた長野県警と長野中央署は捜査を開始し、同基金から任意提出された経理関係書類や、任意で同基金の関係者らから事情を聴取したりして、基金の仕組みや資金管理を一人で担当していた同容疑者の役割などを把握する作業を進めてきた結果、不明金は2005年夏ごろから発生し、総額も約23億8千万円余に膨らむ可能性があることが判明しました。

 このような有様ですから、1月25日の同基金への強制捜査で押収した資料を改めて分析すれば、さらに不明金額が増加する可能性もあります。

 1月25日のガサ入れの状況について報道によると、前日の1月24日に長野県警捜査2課と長野中央署などが裁判所に捜査令状を請求し、さっそく、翌25日午前に家宅捜査に着手しました。家宅捜索は、午前10時15分にスーツ姿の捜査員10人が同基金事務所が入るビルを訪れ、1時間ほどして捜査員1人が外に出て、捜査車両の中から段ボールの束を下ろし、ビルに運び入れたあと、午後2時半に捜査員が段ボール6箱とプラスチック1箱を運び出して捜査車両に積み込んだことが報じられています。このほか、同日、東京都内の関係先など数カ所でも家宅捜査が実施されました。

 基金事務所はさほど広くありませんから、4時間かけて、既に任意提出した資料のほかに、段ボール6箱の資料を吟味して押収したことから、基金事務所の事務に影響を与えるのではないかと思われますが、当会が2月4日に基金事務所を訪れた時は、数名の職員は静かに事務をとっており、資料の押収の影響はさほど見られませんでした。

 となると、果たして、新たな証拠による新事実がどの程度見られるのかどうかは、甚だ疑問と言えるかもしれません。

■事件発覚のきっかけになった経緯について、報道された情報によると次のとおりです。

 長野建設業協会会員からの年金掛け金は、地元金融機関(八十二銀行などか?)の口座に集めた後、手数料を除いた全額を毎月、運用している生命保険会社に送金することになっていましたが、一部は入金されていませんでした。

 なぜなら、2010年8月19日に運用先の生保から同基金に対して、入金不足の指摘があったためです。このことで不明金の存在が浮上し、関東信越厚生局(さいたま市)が同9月2日、7日、10日に計3回の監査をして発覚したのでした。

 このときの監査で、事務長のサカモト容疑者は、「掛け金の一部を県建設業協会飯田支部飯田支部に返還し別途管理していた」と説明していました。ところが9月9日には、同容疑者が示した同支部への送金記録「振込受付書」38通が偽造だったことが、同基金の内部調査で判明しました。

 同容疑者が最後に同基金事務所に姿を見せたのは、9月9日の朝のことでした。このときは既に隠しきれないと悟っていたのでしょう。同容疑者は、2005年から既に30回ほど、合計約21億円を勝手に引き出していましたが、逃走用資金として、9月7日に6000万円を現金で引き出していたのでした。

 報道によれば、同容疑者が行方をくらました9月9日に、同容疑者と会った知人の男性は「多少急いでいる様子はあったが、大きい荷物を持っているわけでもなく、普段と特に変わらなかった。携帯電話も連絡がつかない」と語りました。

 知人らによると、同容疑者は9月9日午前9時頃、JR長野駅から長野市南石堂町の同基金事務所近くまでタクシーで移動し(僅か500mそこそこなのに!)、午後1時頃に事務所から再びタクシーで長野駅に向かいました。スーツ姿で、荷物は手提げバッグ一つだけだったそうです。その後、連絡がとれなくなり、同容疑者の家族が9月13日、長野中央署に捜索願を出しました。

■ここで想起されるのは、犯罪の手口が、安中のタゴ51億円事件と共通性があることです。

 長野の場合は、掛け金の入金は事務長が1人で行い、通帳や印鑑も管理していました。
安中の場合も、金融機関、とりわけ群馬銀行への入出金は、タゴが1人で行い、通帳や印鑑も管理していました。安中の場合はタゴが特別会計口座を群馬銀行に開設し、伝票を偽造して、ネコババするために水増しした分をそこに振り込ませて、正規の口座分は正規の伝票で数字を合わせて記帳し、見掛け上バレないように配慮していました。

 長野の場合には、出金記録は特に不要ですから、運用先の保険会社に振り込んだ正規の金以外の横領分の金額を、同支部への送金記録だとして「振込受付書」なるものを都度偽造し、その数が合計38通に及んでいたことがうかがえます。

 だから、サカモト事務長は不明金について県建設業協会飯田支部に振り込み、別途管理させていたと説明したのです。しかし、事務長が入金記録としていた計38枚の「振込受付書」は、金融機関に照会したところ、いずれも偽造で、約21億9千万円分に上る同支部への入金は皆無だったことが分かりました。

■犯行の態様としては、集まった年金掛け金を銀行から保険会社に入金する際に、一部分だけかすめ取ってネコババするわけで、さほど複雑ではありませんが、4年3カ月、つまり51カ月で38回振込受付書を発行していたことになります。

 報道によれば、2010年5月末の加入事業所数は377で、加入員は6864人で、同年3月末時点の運用残高は約209億円といいますから、一人当たり、約305万円となります。38回で、約21.9億円をかすめ取っていたとなると、1回あたり平均約7千万円。毎月平均約4300万円をせしめていた勘定になります。1カ月で4300万円を使うことは一般市民にとっては想像もつかない至難の業です。おそらく共犯者がいるはずです。しょっちゅう車を替えていたことから、家族がそうした金の出所をどの程度認識していたかも気になります。

 タゴ事件の場合は、配偶者は、安中市役所職員だったタゴから毎月100万円を、「麻雀で稼いだ」だの「競馬で儲けた」だのと説明されたとして、臨時収入として10数年間、総額1億5千万円の横領金を受け取っていながら、何も不思議とは思わなかった、と警察の事情聴取に答えて、お咎めなしとされました。実際には、毎月、金融機関勤務のタゴの友人が自宅に来て、骨董品の品定めに配偶者も立ち会っていたのですから、横領金であることを十分に認識していたはずで、共犯として位置付けられて当然ですが、なぜか警察も検察も不問にしました。

 長野の事件でもこの点を県警がどのように判断するのかが注目されます。タゴ事件でも、タゴは銀行から毎週1千万円単位で特別会計口座から金を引き下ろしていましたので、サカモト容疑者も月平均4300万円ということから、タゴと同じような形で巨額の金を費消していたことになります。

 同基金は、2010年11月に、サカモト元事務長が基金口座から金を引き出して損害を与えたとして、総額5526万円の損害賠償を求めて提訴しました。2011年1月18日に長野地裁で開いた第1回口頭弁論には、行方不明中のサカモト容疑者は当然出廷するはずもなく、答弁書などの書面も提出しなかったため即日結審し、判決が2月1日に言い渡されました。

 この第1回口頭弁論で読み上げられた訴状などによると、前事務長は逃亡を決意した2010年9月7日、長野市内の銀行で、基金名義の口座から1億4478万円を引き出し、「運用する保険会社に全額を振り込んだ」という虚偽の書類を基金の女性職員に作らせました。しかし実際には、引き出したうち8952万円だけを振り込み、保険会社向けにはその額を記した書類を、自分で偽造し、差額の5526万円を着服したとしています。虚偽の書類を基金に見せて発覚を遅らせようとしたもので、前事務長はこの直後に行方不明になりました。

 このことから、同容疑者は、いくつかの偽造書類を駆使して、横領を働いていた可能性があります。前述のように、ネコババした金額相当分を県建設業協会飯田支部に戻したとする「振込受付書」と、最後に逃走資金の確保のためを横領した際のように、保険会社に満額を振り込んだようにニセの書類を同基金の女性職員に作成させることができたことから、保険会社からの受取証を自由に偽造できた様子がうかがえます。つまり、保険会社から受取証の無記入の用紙をたくさんもらっていて、偽造書類をいつでも作成できるようにしていた可能性があります。

 安中のタゴ事件の場合も、群馬銀行から所定の用紙をたくさんもらっていて、いつでもタゴは偽造書類が用意できる体制を構築していました。

 どちらの場合も、金融機関との情報交換を、上司やほかの職員らが怠っており、金融機関側もいくら振り込まれたのかについて、同基金に都度直接報告しなかったことから、ずっと発覚しなかったわけです。

 安中市の場合は、タゴのことを有能だと称して15年間も金庫番に配置していました。長野の場合、2005年夏ごろから不明金が発生したということですので、おそらくそのずっと前から事務長をしていたはずです。あるいは同基金の職員として、事務に精通していたと考えるのが妥当かもしれません。

 逃走を決意した最後の逃走資金確保目当ての横領で、なぜ引き下ろした全額をネコババしなかったのか、なぜ同基金はその犯行をむざむざ許してしまったのか、解明すべき疑問点は多々あるようです。

 しかし、地元以外のマスコミがさっぱりこの事件を取り上げようとしないのは、タゴ事件と同じで、事件の背後にある何かが感じられます。

■同基金では、昨年9月の不明金発覚を契機に、11月1日、理事会を開き、2003年春から不在の常務理事に前県建設業協会業務部長(66)を選任しました。これだけ巨額の不祥事発覚にもかかわらず、敢えて火中のクリを拾うことをいとわず就任した勇気は立派ですが、今年1月25日の警察の捜索後、常務理事は地元マスコミの取材に「話せることは何もない」としか語れないのは、いろいろな事情があることをうかがわせます。

 容疑者は、不明金発覚後の2010年9月9日午前、県建設業協会の役員に「東京に行く」と言って事務所を出ており、逃亡の恐れがあるのに、同基金の役員はみすみす見逃してしまっています。こうしたことも、同基金の特殊な事情をうかがわせます。

 県警はすでに、容疑者を国内外で指名手配にかけ、出入国の記録も照会して現在照合しているので、国内に潜伏しているか、海外に高飛びしたかは間もなく判明するものと思われます。しかし、そのことをいつ公表するのかどうかについても注目したいと思います。

 また、残りの約23億円に上るとみられる不明金についても、同基金が容疑者に賠償を求める訴訟を起こせるかどうかも注目に値します。

 同基金名義の通帳を容疑者が一人で管理していたとすれば、通常であれば金融機関側もすぐにそのことを指摘するはずですので、この点についても金融機関側が容疑者と何らかのかかわりを持っていた可能性もあり、こうした事情をもとに、同基金が金融機関に対して説明を求めるかどうかについても関心が高まります。

 そして、最終的に容疑者が逮捕されて不明金の責任の所在が明らかにされ、責任者による自弁ができないとなると、被害にあった長野県建設業協会の加盟会社から、善管注意義務違反、忠実義務違反等で、同基金の元理事長、現理事長、常務理事らへの損害賠償請求が起こされる可能性も指摘されます。

■いずれにせよ、こうした巨額の横領事件が、たった一人の犯行と考えるのは不自然であることは安中のタゴ51億円事件でも証明済みです。にもかかわらず、長野の事件も単独犯行だとして幕引きがされるのかどうか、今後の展開を見守りたいと思います。

【ひらく会情報部】

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

横領額が23.8億円にアップした長野県建設業厚生年金基金に安中タゴ51.1億円事件を報告

2011-02-07 00:39:00 | 他の自治体等の横領事件とタゴ51億円事件
■2010年9月12日に、長野市にある長野県建設業厚生年金基金が、会員から集めた年金掛け金計約21億9千万円が不明になっていると発表しましたが、年金の掛け金を管理していた当時52歳の事務長が、実は同9月9日午前に「東京へ行く」と妻や県建設業協会の役員に言い残し自宅を出てから連絡が取れず所在不明になっています。事務長の家人は同月13日に捜索願を同署に出しました。

 事件発覚当時の経緯は、マスコミで報道され、当会のブログでも詳しく報告しましたが、いまだに事務長は行方不明を続けており、事務長の実名も一部のネット情報を除いてこれまでは公表されて来ませんでした。


長野の横領事件の調査の起点が、タゴ51億円事件でタゴが騙しの口実にした北陸新幹線新安中駅周辺開発事業のシンボルだった安中榛名駅だというのも何かの縁か。

■ところが、事件公表後、4ヶ月半経過した先月1月25日、長野県警は業務上横領の疑いで行方不明中の元事務長の逮捕状を取り、同日午前10時15分、長野市の県建設業協会の入るビルに、警察の捜査員10人が強制捜査に入りました。同時に、初めて、金を管理していた元事務長の名前が坂本芳信(53)であることが公表されました。1月28日までに長野県警が坂本容疑者を全国に指名手配するとともに、ICPO=国際刑事警察機構を通じて国際手配もかけたことがわかりました。

 さらに、2月1日午後には、同基金が、多額の不明金を生じさせたとして元事務長の坂本芳信容疑者に損害賠償を求めた訴訟の判決が長野地裁でありました。蛭川明彦裁判官は、坂本容疑者に請求通り5526万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。

■21億9千万円が行方不明になっているのに、なぜ5526万円しか請求しなかったのかと言うと、坂本容疑者は昨年9月7日、逃亡に備えて、長野市の銀行を訪れて基金名義の口座から1億4478万円余を引き出し、うち8952万円余を運用窓口の生命保険会社に振り込んだが、差額の5526万円を横領したので、不明金のうち損害が確実に立証できる部分の賠償に絞ったためとされています。

 そして、同基金によると、不明金の総額が23億8千万円余りに上る見通しであることが明らかになりました。安中市土地開発公社のタゴ51億円事件(正確には51億1250万円)http://newmatsuida.web.fc2.com/madom.htmに比べるとまだ半分以下ですが、青森県住宅供給公社を舞台にしたアニータ事件(14.46億円)や、高知土佐山村役場の助役が二号に貢いだ事件(13.5億円)、それに茨城県国民健康保険団体連合会の元職員による事件(11億円)がいずれも10億円台であるのにくらべれば、相当な巨額横領事件と位置づけられます。

■長野県建設業厚生年金基金は事件発覚直後、事務長が着服した可能性もあるとして、2010年9月11日に県警長野中央署へ被害届を提出していました。ではなぜ、警察は4ヵ月半もの長い間沈黙を続けたあと、ここにきて逮捕状を取り、突然捜査を開始し、関係者への聴取を始めたのでしょうか。そのわけを探るべく、当会は、この機会に現地調査を敢行しました。

安中榛名駅に入線する新幹線あさま。


長野駅西口のコンコース。
 まず、長野駅の西口に出て、地図を頼りに線路沿いに北の方向に向かいました。新幹線の高架が目印ですが、線路が斜めに延びていて、交差点を曲がるたびに道を見失い、本来斜めにまっすぐ行けばよいのに、ジグザグなコースをたどりました。

■長野市の交差点は縦横の十字路でないところが多く、しかも変形した十字路で、縦横以外にも斜めの道路が延びています。そのため、横断歩道が設置しずらいのか、交差点から離れたところに横断歩道橋があったり、信号がスクランブルだったりして、やたらとストレスがたまります。

 それでも、45分近くかかって、ようやく長野中央署にたどり着きました。さっそく、入り口の各階案内板の指示に基づいて、2階の刑事課を尋ねました。


 ところが、横領事件担当のはずの刑事二課は、扉が開けっ放しで、中に誰も居ません。しかたがないので、同じ階の刑事一課に行きましたが、ドアが締め切ってあり、ここにもひと気がありません。一番奥に刑事三課というのがあったので、そこにも行きましたが、やはりドアが締め切ってあり、人の気配がありません。


 しばらく廊下で誰か来るのを待っていましたが、誰も来ないので、階段にほうにゆくと、ちょうど5人ほど降りてきたので、刑事課のひとはいますか、とたずねましたが、今皆出払っているとのことで、いそがしそうに階下に降りて行ってしまいました。

 新聞によれば、1月25日に長野県警捜査2課と長野中央署は同日、長野市の基金事務所を家宅捜索したということなので、現在は、総出で押収資料の中身を調べているのかもしれません。やはり、タイミング的にはもう少し落ち着いてからの方が良かったようです。

■しかたがないので、長野中央署を後にして、再び長野駅に向かいました。途中、長野市役所の前を通過し、今度は、最短距離を戻ったので、30分程度で駅に到着しました。

 そこで、今度はあらためて、地図をよくチェックし、最初に、長野県庁を目指して駅前広場の交差点を斜め左横奥に入る道を歩いて行きました。5つ目の信号機のところで、大通りに出たので、そこから北に向かい、信号機を3つほど歩くと県庁前の交差点に出ました。


 そこを右に曲がると左手に大きな立派なビルが見えました。これが信濃毎日新聞社のビルで、ビルの玄関前の広場はユンボが何台も入ってコンクリートの解体工事をしていました。


 信濃毎日新聞社前の道路に反対側に、信濃毎日新聞を見詰める銅像が建っていました。碑文をみると「小坂善太郎先生」と揮毫があります。また、その近くに小さな神社がありました。

小坂財閥の代議士小坂善太郎(1912年1月23日 - 2000年11月26日)の銅像。自民党の衆議院議員で外務大臣、労働大臣、経済企画庁長官を歴任。信濃毎日新聞、長野放送、信越放送、信越化学はいずれも同氏の祖父が創立した小坂財閥の企業。


そのすぐ隣にある善光寺七福神大黒天の大国主神社。小坂財閥の商売繁盛祈願?それとも坂本元事務長の守護神?

 郵便局の脇にある道路を入ろうとしたら駐車場の入り口だったので、ここからは南にいけないとわかり、再び県庁前の交差点に向かい、その直ぐ手前の路地を左にはいり、事件の舞台となった長野県建設業厚生年金基金のあるビルを目指して歩き始めました。

■道路の日陰には圧雪が残っており、足元が滑りやすく、歩きにくかったのですが、県庁前の交差点から10分近く歩いたところに八百屋がありました。

 さっそく、道を尋ねると、「この先を直ぐ右に曲がって、直ぐ前に見える建物ですよ」と教えてもらいました。ネットからダウンロードした坂本容疑者の写真を見せて、この人を見かけたことはありますか、とたずねましたが、その店主は、「この間、テレビでちらっと見ただけです。本人の顔は見たことがありません。すいません」と申し訳なさそうに言っていただきました。それでも、直ぐ近くで起きた巨額横領事件には関心がある様子で、「海外に逃げたと言われてますよね。東南アジアだとか」とニュース報道をよく知っていました。

 教えられたとおり、店を出て、直ぐ先を右に曲がると正面にビルが見えました。間違いありません。ここです。




■入り口に入ると各階案内板があります。長野県建設業厚生年金基金は最上階の5階とあります。おくの小さなエレベータで5階に向かいました。エレベータを出て右側にガラス戸の入り口があり「長野県建設業厚生年金基金」と書いてあります。中を覗くと、5、6人が事務を取っています。


 ガラス戸の自動ドアをあけて入ると女性職員が出てきたので、「安中市から来たものです。このたびの巨額横領事件に関して、安中市でもさらに巨額の横領事件が発生しており、共通性も多いのでなにか参考になればと思い、情報交換が出来れば幸いです」と責任者に面談を申し入れました。

 さすがに驚いた様子で、奥に戻ると責任者と思しき男性職員に話をしている様子が伺えます。しばらくして、大柄な男性職員が現れました。

■まず、アポイントなしに面談を申し入れたことを詫びた上で、群馬県安中市から来たことを告げて自己紹介をすると、男性職員から「どこかの事業所のかたですか?」と聞かれたので、15年前に安中市で起きた51億円横領事件の真相を追究しているオンブズマンであることを伝えました。

 男性職員は、安中市の巨額横領事件のことをご存じないらしく、「51億円も!どういう組織で発生したのですか?」と質問されました。そこで当会は「安中市役所内で発生しました」と答えるとともに「今回の皆さんのところの事件を見ていると、安中の横領事件と非常に共通点があります」とコメントしました。

 すると、まだ警戒感が取れないためか、男性職員は、「あのですね、私のほうも正直言って、お話をすることは特段ないんです」と緊張の面持ちで言いました。当会から「先週の火曜日に警察の家宅捜査があったわけだから、取り込み中なんですね」というと、男性職員は「警察?私のほうはね。そんなのはどうだっていいんです。私は今、(2月)16日の代議員会とか理事会が控えていて、そのための資料を作ったりしなければならない。その前に、健全化計画があって、来週から事前審査が来るけれども、まだ(資料の準備が)できてなくって・・・。正直言って、こんな事件なんかどうだっていいんです。事務担当責任者として、目の前にあるものをとにかく片づけないと・・・。こうした事を右から左へ流さないといけないんです」と苦渋に満ちた表情で説明してくれました。

■男性職員は続けて、「それで、ここ(当会が持参した事件の概要を纏めたペーパー)に書いてあること以外は、私のほうもですね。分からないんですよ。それで、やっぱり本人(坂本元事務長)が一番よく知っているんですよね。本人にじかに聞いてもらうのがいちばんいいんです。横領金額と言っても、本人しか分からないと思もいますよ。それで、本人だって、今となってはいちいちメモとっていないから、今となっては何にいくら使ったのか、分からないと思うんですよ」と答えてくれました。

 そこで、当会から、「あのう、政治家の方は関係している様子はありませんか?」と
質問しました。すると男性職員は、「政治家?そういうのは多分ないとは思いますが・・・」というので、当会が「安中市の51億円事件の場合は、政治家が絡んでいた為、真相がウヤムヤになってしまい、結局、横領金の穴埋めは公金で103年間かかって返済するということになってしまいました。そうした実例があるので、政治家の影というのは十分に考えられるので、留意する必要が有るかもしれません」とアドバイスしました。

 男性職員は、「そういえば、群馬県と言えば、有名な政治家がいっぱいいますからね」と率直な感想を口にしてくれました。そのうえで、「いまのところ、政治家というのは聞こえてきませんね。聞くのは投棄顧問に騙されたのではないか、とか言う話しなんかです」という説明がありました。

 当会からは、「安中の場合も金融機関関係者が事件に加担しており、余計真相が複雑化している上に、巨額横領金の尻拭いに和解金を103年間公金で支払うという幕引きがされました」と言うと、男性職員は「こっちの場合は(今後)どうなるかなんていうことは一切わかりません。新聞かなんかも、間違ったことを報道して、警察や自治体からどれくらいおこられたか分からないくらいです。『余計な事を言うな』と言っても、余計な事も言っていないし。これ以上のことは何も・・・」と、行政や捜査関係者から緘口令を敷かれていることを仄めかしました。

■男性職員はさらに「正直言って、どっちでもいいんですよ。こんなこと。理事会もやらなくちゃならないし、処理をしなくちゃならないんです。だからもうちょっと時間が有れば、(安中の巨額横領事件のことを)お聞きしたいんですけど・・・」と申し訳なさそうに言いました。

 そこで、当会もこれ以上相手側は詳しい話が出来る状況にないと判断して、「落ち着いてからまた来ます」と言わざるをえませんでした。

 同基金の男性職員は、だいぶ打ち解けてきた様子で、当会が持参した資料に目をやり、ページをめくりながら、坂本容疑者の写真を見て「うん。これは似てるね」と言ったり、地裁の判決公判の写真を見て「ああこれですね。誰も傍聴がおらず、判決だけ出た時の様子ね」とコメントをしてくれました。そのうえで、恐縮と困惑の面持ちで「もう少しよくお答えして、対応できればいいですけど、なにしろ来週から事前審査に入ったりして、本当にまだメドがたってなくて、私も実は困っているんです」と答えてくれました。

 「では、毎日残業や徹夜を強いられているのでしょうね?」と聞くと、男性職員は「(資料準備で)徹夜や残量でやれるんならいいんですけど、やはりね。相手側(保険会社や金融機関のことらしい)もコンピュータが動いている時間でないと居ないから、昼間やらないと相手側と話せないんです。夜は相手も居ないし、コンピュータも止まってしまので・・・」と、来週から次々に迫っている重要なイベントへの対応を想ったのか、深いため息をついていました。

 当会もこれ以上長居をすることもないと判断して、あらためて「また来ますから。状況が落ち着いた頃、また来ます」と挨拶をして、退席することにしました。


■1階まで階段を下りて同基金のビルの外にでて少しいくと小さな電気屋がありました。ちょうど、年配の店主らしき男性が軽トラの荷台に、電気部品や電気工具を積んでいる最中でした。

 「すいません。もうしわけないんですが、24億円の横領事件がそこのビルであったようですけど、この事務長の顔は見たことがありますか?」とたずねると、年配の男性は仕事の手を休めて、「新聞でみたよ」と答えました。「この人物がこの辺を歩いているのを見かけたことはありますか?」と聞くと「記憶にないね」とのこと。

 事件の様子について聞くと、「最近は毎日(誰かが)出入りしているが、一番最初の日なんか朝8時半ごろかカメラマンがいっぱい来ていた。それが最初だった。この間、警察官がたくさん出入りして捜査をやったようだ」と店主は語ってくれました。

 当会が「私の住んでいる群馬県の安中市でも51億円の横領事件が起きましたよ。15年前の話ですけど」というと、電気屋の店主は「へえ。この事件のほうもまた2億円増えたんだよ。23億8千万円。汗水働いたってとても届かない金額だ」と言い、さらに続けて「一人では使い切れないと思う。絶対なにかあるとおもう。大体そういうんでなけりゃ、普通じゃない事件だから」と語りました。

■この日インタビューした同基金の男性職員をはじめ、付近の一般市民らの言葉は重く受け止めたいと思います。

 当会が注目したのは、同基金の職員の語った「マスコミに余計なことを喋ったとして行政や警察に叱られた」という言葉と、付近の住民の「一人では絶対に使いきれない金額で、なにかある」という言葉です。

 安中市土地開発公社のタゴ51億円事件では、足利市の骨董商が警察に同じことを言われました。その骨董商は一度も元職員タゴには骨董品を売っておらず、全てタゴの親友である知人が購入していたことを警察から口止めされていました。

 また、タゴ事件では、安中市民の誰もがタゴの単独犯行はあり得ない、と思っていたのにもかかわらず、結局、警察や検察は、タゴの単独犯行で幕引きをしました。

■このことから伺えるのは、長野県建設業厚生年金基金の24億円事件においても、事件の背後に共犯者の存在の可能性は非常に高いと思われます。また、グアム、サイパン、中国などに渡航歴のあるタゴと同じく、あるいはそれ以上に坂本容疑者は海外渡航を繰り返していました。

 捜査関係者などによると、渡航先は米国本土やハワイ、フランス、韓国、香港、インドネシア、タイ、マカオ、ベトナムと幅広くなっています。坂本容疑者が潜伏している可能性があると取り沙汰されているタイあたりで、たとえ同容疑者が捕まったとしても、使途不明金は相当額に上ることでしょう。

■それでも、タゴ51億円事件のように14億円以上の使途不明金が出るかどうかは定かではありません。ここでいう使途不明金と言うのは、警察が捜査した結果、使い道が分からないというのではなく、使い道を公表できないので使途不明にしたという意味だからです。

 当会は、引き続き、タゴ事件のミニ版であるこの事件の推移を今後も注視してゆくことにしています。


長野駅西口駅前広場にある如是姫(にょぜひめ)の像。24億円横領や51億円横領で長者になった者たちを姫はどう思っているだろうか?


【ひらく会情報部】


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1年3カ月ぶりのジブチは様変わり(その3)

2011-02-06 00:14:00 | 国内外からのトピックス
■アフリカというと大した食べ物は期待できないと考えがちですが、そうではありません。実に多様性のある料理にめぐり合うことができます。

 その場合、とくに、旧宗主国がフランスやポルトガルの国は、料理の幅がとくに広く感じます。反面、イギリスの植民地だった国は、比較的料理のレシピがいまひとつです。

ジブチの有名なスーパーマーケット「Nougaprix(ヌガプリ)」の敷地内にあるビュッフェ形式のレストランの看板。
 1977年にフランスから独立したジブチの料理は、国境を接するエチオピアやソマリアの影響も受けていますが、長年フランスの植民地だったため、フランス料理の影響を受けており、アラブ系やインド系の料理と融合して、実にいろとりどりの料理にめぐり合えます。

 とりわけ、主食ともいえるパン類は、フランスパンのほか、フランスの植民地だった北アフリカや中東諸国では定番のクスクス、それにエチオピアで有名なインジェラという酸っぱいパン、さらに、インド料理でおなじみのチャパティ、ロティ、ナンのような薄焼きパンなどいろいろです。また、コメ料理もよく食され、サフランやスパイスを入れたものが一般的です。



 今回の取材で、めぐり合った食べ物を紹介します。
 
エチオピアの主食のインジェラ。テフと呼ばれる穀物の粉末を水で置いて発酵させ、薄いクレープ状に焼いた灰色の食べ物。発酵でできた気泡による凹凸と酸味と独特の香りが特徴なので、はじめて口にすると抵抗感を持つ人もいる。小麦粉と違いグルテン分がゼロなので、小麦粉アレルギー症の人も食することができる。


大ぶりにカットされたバゲット(フランスパン)。朝昼晩、レストランやカフェで食事を頼むと自動的についてきて、無くなるとお変わりを持ってきてくれる。つまり食べ放題。


朝食バゲットにバター、ジャムとコーヒーあるいはティーがつけば欧米スタイル、肉野菜炒めとアラビックコーヒーあるいは紅茶がつけばジブチスタイルになる。写真はヌガプリのすぐ近くにあるジブチ式高級カフェSable Blancの朝食。


ベール(肝臓という意味のソマリ語)。この料理は、羊のレバーを野菜とスパイスと一緒に油いためしたもの。ジブチのカフェでは朝からこの肉野菜ソテーが定番。この他に牛肉や魚肉やチキンを使ったバージョンも旨い。フランス仕込みのバゲットパンをちぎって、フレンチマスタードをつけ、この肉野菜炒めを挟んで食べると、朝のひと時が充実する。


昼食はもっぱらセルフサービスのNougaprixのレストランを利用。日替わりで料理のメニューが変わるので飽きがこない。ソフトドリンク付きで一人1900フラン(約950円)。ある日のメニューを次に紹介します。



夕食はベトナム中華料理店か、宿泊ホテル内のイタリアレストラン。写真は、その1で報じた自衛隊員らもしょっちゅう利用しているベトナム中華料理店とその献立メニュー。


ジブチには日本料理を出す店はなかったが、昨年から空港に近い新興住宅地の中に開店したレストランLa mer rouge(紅海という意味のフランス語)で、寿司や刺身等の和食を出す店が現れた。ただし板長はヨーロッパで修業したというインドネシア人。鉢巻をして、挨拶にきたが、恰好は日本人そっくり。寿司ネタには問題なく、みそ汁もなかなかの出来上がりだったが、水気の多い炊き具合なのか、スシ飯にしまりがないのが玉にきず。しかし、フランス風にアレンジした前菜はオーナーのフランス人のアイデアか、なかなか洒落ている。主なメニューを次の紹介する。


■ところで料理には水が欠かせませんが、ジブチの水道水には少し塩味が感じられます。シャワーを浴びながら石鹸を使っても全く泡立ちません。非常に硬度が高い水なので、料理用にはともかく飲料用には不向きです。水道水は、海水淡水化装置で作った水にミネラル補給と増量用に地下水を混ぜているそうですが、ジブチの町の地下水には塩分が含まれているため舐めるとしょっぱい味がします。

 そこで、飲用水はミネラルウォーターに頼ることになります。ジブチで売られているミネラルウォーターは、内陸の地下水から作られています。エチオピア街道を西に向かって1時間ほど走ると、右方向にミネラルウォーターの製造工場が見えます。

■ジブチは、家畜と魚以外の殆んどの食材や食品を輸入に頼っています。したがって、物価は日本並みに高くなっています。しかし、水さえあれば豊富な日差しで植物の生育は問題ないはずです。太陽エネルギーをうまく利用して、海水から真水を低コストで作ることができれば、水耕栽培で新鮮野菜の供給が可能になるかもしれません。


ジブチの市街地には、フランス統治時代を思わせるコロニアル風の建物が今でも多く残っている。通りには、白や淡いクリーム色など明るい色調の建物が多くみられる。大きな窓には、日中の日差しを避けるための鎧戸がついている。建物内部の天井に大きな扇風機がついている。

■ジブチの人口は70万人とも80万人ともいわれています。ただし本当の人数は不明です。郊外に出れば一面の荒野で、そこに暮らす遊牧民には国境という概念は希薄です。隣国エチオピアやソマリアの紛争で、大量の避難民がジブチに入っており、ジブチ市内の4人に一人は避難民だといわれています。

 取材を終えるにあたり、最後の朝、市内のカフェで現地の人たちと朝食をとった際に、チュニジアで起きたベンアリ長期政権の崩壊劇が話題となりました。これは、今年1月初めに、同国の地方都市で高い失業率や食料価格高騰に抗議するデモが相次ぎ、それが首都に飛び火して、1月14日にベンアリ大統領がサウジアラビアに亡命し、長期にわたる政権が崩壊したものです。

■このニュースは他のアフリカや中東諸国に大きなショックを与えました。多くの国が王制や長期独裁的政権だからです。ジブチでは、今年3月に大統領選挙が控えており、現大統領の再選の可能性が取りざたされていますが、もともとエチオピア系のアファール族と、ソマリア系のイッサ族から構成されてる複合民族国家のため、国の安定のためには、多少、軍の力も必要だというのが、ジブチ人の意見です。

 もちろん、こちらからは内政干渉になるので具体的なコメントは避けましたが、ジブチ人は、現下のジブチの安定を、欧米諸国による軍事的支援によるものであることを認めつつ、しかし欧米の価値観に振り回されたくないという彼らの本音も痛感しました。

■くしくも、ジブチの人がチュニジア政権崩壊の話題を話したその日に、エジプトで大規模な暴動が発生しました。その後、このエジプトの暴動はムバラク政権即時退陣を要求する全国的な民衆の運動によるエジプト情勢は瞬く間に緊迫化しました。

 さらにこの民主化の動きはヨルダンや、ジブチの対岸にあるイエメンにも飛び火して、アフリカ・中東のイスラム諸国を揺るがし続けています。当会の分析では、親米政策をとっている超独裁国のサウジアラビアが、このイスラム諸国の民衆による民主化運動を一番恐れているはずです。

■イスラム諸国で突然勃発したこうした急激な民衆行動の背景には、小麦などの穀物の値上がりが原因の一つに挙げられています。やはり食料品の値上がりは、宗教を超えて庶民にとっては、石油の値上がりよりも切実な問題なのです。

 日本の食料自給率もジブチに近い数値ではないかと思われますが、せめて食べ残しによる残飯の廃棄は減らしたいものです。

【ひらく会情報部海外取材班・この項おわり】

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1年3カ月ぶりのジブチは様変わり(その2)

2011-02-05 09:59:00 | 国内外からのトピックス
■ジブチ観光で外せないのは、首都のジブチ市から西へ約100キロのところにある「ラカッサル」と呼ばれる塩湖ツアーです。今回で3度目のジブチ取材ですが、毎回訪れています。


 ツアーといっても、現地で運転手つきの4輪駆動車を1日1万4千円で借り上げて、自分達で行かなければなりません。今回は、いつもはミニバスとして使われている8人乗り(うち2名は運転手と助手)のトヨタランドクルーザーを借り上げて、往復6時間の塩湖及び地熱地帯ツアーをしました。

ランクルの後部座席を改造して、左右にロングシートをしつらえ、3人ずつ計6名の乗客をのせて遠方の町まで運ぶミニバス。

眠気予防に運転手が噛み始めたKhat(カット)という覚醒作用のある草。日本では麻薬の一種として禁止。

途中、雲が垂れこめて雨滴がポツポツとウインドウガラスを叩いたが、じきに止んだ。

 「ラカッサル」とはアッサル湖(Lake Assal)をフランス語読みで発音したものです。海抜マイナス153mにあるアフリカでもっとも低い標高の地点としても知られています。

塩湖に向かって坂道を下り続ける。前方に塩湖が見える。

 日本では美しい海岸の風景を例えて「白砂青松」と言いいますが、ジブチでは、真っ青な空を映しだした青い水に映える真っ白な砂浜、と思いきやこれが全部塩なのですから、いつ見ても不思議な光景です。さしずめ、「青空白塩」とでも言いましょうか。

塩湖の波打ち際。

■今回、1年3カ月ぶりにアッサル湖を訪れてみると、塩浜が20mほど沖合に伸びていました。それだけ塩が析出して固まったようです。とにかく、何もしなくても、湖の水が蒸発して、塩が自然にできてしまうのです。しかし、水面は一定です。雨が全然降らず、水がどんどん蒸発しているのに、なぜ湖は干上がらないのでしょうか。

岸辺に寄せる波かと思いきや、盛りあがった塩の結晶群。

 それは、湖から等年部に10キロほど離れたタジュラ湾から海水が地層を浸み渡って、湖に流入しているからです。この地層は、地熱地帯にあるため、浸み込んできた海水は地熱で熱せられてから湖に湧きだします。

■湖自体も海面下の擂り鉢状になっていて、気温が高くなっており、水分がどんどん蒸発します。こうして、天然の大規模な製塩システムが誰の手も借りずに日々稼働しているのです。

塩浜の波打ち際の様子。

 以前は、この塩を掘りとってラクダに積んで、塩のない内陸国のエチオピアに大量の塩が販売されていました。ところが最近、エチオピアでも岩塩が発見されたため、塩の需要が減ってしまいました。それも、余計に塩浜が沖に向かって広がっている原因の一因かもしれません。

日々成長する塩の結晶。

最近誰かが落としたペットボトルのキャップにもこのとおり塩が付着して真っ白に。

成長した塩の結晶はこのようにポキッと折って収穫できるが、素手だと塩の結晶の角で手を傷つけないように注意が必要だ。

■地学的データによりますと、アッサル湖はアフリカ大地溝帯の北端に位置する火口湖で、湖面は長さ10 km、幅7 kmあり、表面積は54 km2あります。平均水深は7.4mしかなく、貯水量は4億m³あります。湖の集水域面積は900 km2ですが、肝心の雨が降りません。前述のように水源はタジュラ湾から浸み出す海水ですので、無尽蔵と言えます。

高温の海水が湧出している場所。この辺りは踏みしめる砂も熱くなっていて裸足ではつらい。

源泉が湧き出る場所を示す運転手。

 地熱で熱せられるため、湖水は地球上で最も塩濃度が高い34.8%であり、これは死海よりも高濃度です。最大水深部である深さ20mの湖底では、なんと39.8%もの塩濃度が測定されたそうです。

■今回はたまたま、珍しく塩を採取している光景に出くわせました。海水がそのまま蒸発して塩になっているため、ミネラルが豊富です。食卓用の塩として、日本で「ジブチの天然塩」で売り出せば人気商品間違いないと思われます。

塩を採取中のラクダ隊。

作業が終わり帰途につくラクダ隊。無尽蔵の塩湖の塩に比べて、手作業で収穫した塩は余りにも少ない。

 この他、海水が熱湯として湧きだしている場所や、マグマが固まった石がごろごろ散らばっている広大なジブチ版「鬼押し出し」には、「風穴」ならぬ「熱穴」とでも証したくなるような、熱風の噴き出す場所もあちこちにあります。そうでなくても暑い気候なのに、「熱穴」付近では、まるでサウナに入っているかのようです。外国の援助機関が、ジブチに対して地熱発電計画を真剣に提案している理由も容易に理解できます。

塩湖の近くの地熱地帯にある「熱風穴」。

石を拾ってみると火山石だ。

さながらジブチ版“鬼押出し”といった風情。

【ひらく会情報部海外取材班・この項つづく】

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする