かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

どしゃ降りの、隅田川花火大会

2013-07-29 02:38:20 | * 東京とその周辺の散策
 夏の盛り、花火の季節である。
 それなのに、今、日本列島の各地で集中豪雨が発生している。

 7月の最後の週の土曜日に行われる隅田川の花火は、広重の浮世絵「江戸百景」にも描かれているように、古い歴史を持つ日本有数の花火大会だ。
 去年の2012年に初めて、隅田川の橋の上からこの花火大会を見た。
 隅田川の上空に上がるに花火の横に、丸い月が出ていた。それに、新しくスカイツリーの塔が加わった魅力ある風情だった。しかし、いかんせん見物客が多すぎて、係員による通行規制による見物で、ゆっくりと夏の風物詩、花火でも見ながらかき氷でも、という雰囲気とはほど遠い見物だった。

 去年の混雑に懲りたわけではないので、今年は7月27日に行われるというので出かけた。その日の新聞の天気予報では、たたんである傘マークが付いていたが、東京は午後になっても雨の降る気配はない。
 夕方、浅草へ向かった。
 地下鉄表参道で銀座線浅草行きに乗り換えると、車内はすぐに満杯になった。浴衣姿の若者も目につく。みんな浅草へ行くのだ。この季節の夏祭りの時などにしかお目にかかれない浴衣姿だが、女性はみな美しく見える。
 電車が進むにしたがって混んできて、上野駅からは通勤ラッシュ並みになった。
 浅草の街中は、花火の打ち上げ開始は夜7時5分からというのに、すでに人で混んでいた。外人の姿も普段よりは多い。

 夕刻の6時過ぎると、今かと待ちかまえる人で吾妻橋に向かう浅草・雷門通りは人の波で埋まった。待っていても、みんな楽しげだ。まだ、みんな次に何が起るか知らないのだから。
 花火は吾妻橋から見て、北の言問橋の先の第1会場と、南の駒形橋の先の第2会場の、2か所から打ち上げられる。だから、吾妻橋からは、北と南、つまり左と右に花火を見ることができるのだ。
 橋を渡る開門(開始)を待ちながら、雷門通りから吾妻橋の方を見ると、正面にスカイツリーが聳えているのが見える。そして、右手にはあの不思議な形のキントン雲が。
 スカイツリーの彼方の灰色の空に、黒い雲が流れる。雲の流れが速いのは、上空は風があるのだろう。この黒い雲が前触れだったのか?

 7時5分から案内にしたがって、先頭集団から順次に吾妻橋に入っていった。初めは、花火は北の言問橋方面の第1会場から打ちあがった。
 僕のいる集団の番に来て、勇躍吾妻橋に入る頃、小さな雨を感じた。
 車上からスピーカーで誘導・案内しているお喋りな警察官が、「雨が降ってきました。傘はささないでください。周りの人が花火が見えません」と言っている。
 橋の上に入った7時半ぐらいから、雨足が強くなった。傘をさす人がちらほらと出てきた。そして、またたく間に大粒の強い雨となった。
 もう案内係も、傘をささないでと言うどころではない。傘を持っている人は稀だが、傘があってもなくても、みんなずぶ濡れだ。すでに花火は、北の方の第1会場では打ち上げていない。
 「花火は中止となりました。みなさん、係の案内にしたがって行動してください」と案内は言っている。それでも、駒形橋の方の第2会場からは次々と花火が上がった。(写真)
 雨に濡れながらというよりは、雨に打たれながら花火を眺めた。
 しかし、雨は強くなる一方で、雷の音もしている。ほどなくして、第2会場の花火も打ち上げられなくなった。
 係官が「雷は高いところに落ちるので、橋には落ちることはありません」とアナウンスしているが、それどころではない。バッグも何もかもずぶ濡れだ。戻ることはできないので、とりあえず橋を渡った。
 吾妻橋を渡ったところで、係員が「本所吾妻橋駅」方面を案内していたが、そこも大混雑だろう。
 まずは、今来た吾妻橋を浅草駅方面に戻ろうと、警戒の目を盗んで、橋を戻った。
 浅草でも、濡れた人々でいっぱいだった。
 翌日の新聞によると、78万8千人(実行委員会調べ)の観客がいたと報道されていた。佐賀県の人口に近い数字だ。

 かつてインドを旅したときのことだ。
 晴れた昼頃、カルカッタの街を歩いているとき、急にどしゃ降りの雨にあった。あっという間に道は雨水に覆われ、川のように流れとなって、踝(くるぶし)の上まで水に浸かった。
 通りの軒下に逃げ込み、困ったなあと思っていたら、30分ぐらいで雨はやんで、嘘のように再び青空になった。炎天の下、濡れたシャツもすぐに乾いた。
 日本も、熱帯地方のように、集中豪雨の国になったのだろうか。

 どしゃ降りの雨の中での、ずぶ濡れの、ほんのつかの間の今年の隅田川の花火。
 過ぎてしまえば、このことも忘れられない想い出となろう。

コメント
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