旅路(ON A JOURNEY)

風に吹かれて此処彼処。
好奇心の赴く儘、
気の向く儘。
男はやとよ、
何処へ行く。

阿川弘之著「大人の見識」

2008年08月27日 02時18分39秒 | Weblog
功成り名を遂げて文化勲章まで受けられた阿川さん、題名を「老人の不見識」にした方が面白いかも知れないと冗談を言われたとか。冗談じゃありません、「老人の不見識」という題名の方が面白いどころかはるかに内容に即しています。

開口一番は東条英機の批判、中学生程度の見識しかない東条に支配された軍部や国家の不幸を嘆かれますが、それを容認したあなた方エリートたちの責任でもあったという視点が欠落しています。

遠藤周作を引き合いに出して「世界には3つのインターナショナリズムがあるそうですね。」まではよいのですが、その3つがカソリシズムにコミュニズム、ネイビイズムとは噴飯ものです。しかもコミュニズムに関しては学理的な自信がないそうですね。

それで反共の旗手とは恐れ入ります。ネイビイズムを連発される前に、せめて「経済学批判序説」に「共産党宣言」「剰余価値論」くらいは読んでおいてくださいませ。マルキストでもないわたしですら「資本論」くらいはかじっています。

明らかな社会科学音痴であったことは先刻承知ですが、「お前はほんまに赤が嫌いなんか。そんなら世界一大きな反共団体知っとるか?カソリックやで。カソリックに入れよ。お前。」とあなたにカトリックを売り込んだ遠藤周作は、あなたよりいい意味で現実的です。

全編を読んで感じました。阿川さん、随分ストイックな武人の生き方に共鳴されるようですね。武士道に生きたひとや英国風のジェントルマンがお好みのようです。ずいぶん高尚なモラルを説かれる割には、肝心な感性がかなり古めかしいですよ。

阿川さんは、東大で国文学を専攻するも戦況の悪化により繰り上げ卒業。海軍に入って士官の経験までされて、戦後は文豪志賀直哉に師事というご経歴なのですね。

海軍提督3部作も結構ですが、戦死した日本の将兵・軍属230万人のうち140万人以上が餓死や栄養失調死であったという現実から目をそむけたような偉人伝なんて何の意味もありません。「大人の見識」が聞いて呆れます。