旅路(ON A JOURNEY)

風に吹かれて此処彼処。
好奇心の赴く儘、
気の向く儘。
男はやとよ、
何処へ行く。

会沢正志斎著「新論」

2008年08月12日 23時50分14秒 | Weblog
岩波の「日本思想体系 藤田東湖 藤田幽谷」では歯が立たなかったので、その解説だけを読んで「日本の名著 藤田東湖」の口語訳から水戸学に進む予定であった。ところが、「日本の名著 藤田東湖」の中には。東湖の父親幽谷の「修史始末」や幽谷の弟子にあたる会沢正志斎の「新論」が収録されている。

「新論」はその書き出しからして実に過激である。その正志斎が著わした「新論」のテキストは、私が蔵書している岩波「日本思想体系 53 水戸学」である。思想体系では会沢の「新論」は原漢文の訓点をそのまま翻刻したとある。維新の志士間においてこれに通じないものは肩身を狭くしたと伝えられる。「日本の名著」の口語訳で読むか、「日本思想体系」の原漢文読み下し文で読むか悩んだ。

会沢正志斎の「新論」は「謹んで按ずるに、神州は太陽の出づる所、元気の始まる所にして、天日之嗣、世宸極を御し、終古易らず。固より大地の元首にして、万国の綱紀なり。誠によろしく宇大に照臨し、皇化の曁ぶ所、遠邇あることなし。しかるに今、西荒の蛮夷、脛足の賤を以て、四海に奔走し、諸国を蹂躪し、眇視跛履、敢へて上国を凌駕せんと欲す。何ぞそれ驕れるや。」という書き出しである。

書き出し文中「元気の始まるところにして」を、「日本の名著」では「万物を生成する元気の始まるところであり」と口語訳しており、「日本思想体系」では「元気とは、万物の根源をなす気、周易に乾元、坤元の2元気があって、万物を創造成育せしめるとある。」と訳注が付いている。質の差が歴然としているので、「新論」については日本思想体系で読むことに決めた。

玉音放送

2008年08月12日 09時39分57秒 | Weblog
終戦の詔勅(玉音放送)


 朕深ク 世界ノ大勢ト 帝國ノ現状トニ鑑ミ 非常ノ措置ヲ以テ 時局ヲ収拾セムト欲シ 茲ニ 忠良ナル爾臣民ニ告ク
 朕ハ 帝國政府ヲシテ 米英支蘇 四國ニ對シ 其ノ共同宣言ヲ受諾スル旨 通告セシメタリ

 抑々 帝國臣民ノ康寧ヲ圖リ 萬邦共榮ノ樂ヲ偕ニスルハ 皇祖皇宗ノ遣範ニシテ 朕ノ拳々措カサル所 曩ニ米英二國ニ宣戦セル所以モ亦 實ニ帝國ノ自存ト 東亜ノ安定トヲ庶幾スルニ出テ 他國ノ主權ヲ排シ 領土ヲ侵カス如キハ 固ヨリ朕カ志ニアラス

 然ルニ 交戰巳ニ四歳ヲ閲シ 朕カ陸海将兵ノ勇戰 朕カ百僚有司ノ勵精 朕カ一億衆庶ノ奉公 各々最善ヲ盡セルニ拘ラス 戰局必スシモ好轉セス 世界ノ大勢亦我ニ利アラス
 加之 敵ハ新ニ残虐ナル爆彈ヲ使用シテ 頻ニ無辜ヲ殺傷シ 惨害ノ及フ所 眞ニ測ルヘカラサルニ至ル

 而モ 尚 交戰ヲ繼續セムカ 終ニ我カ民族ノ滅亡ヲ招来スルノミナラス 延テ人類ノ文明ヲモ破却スヘシ
 斯ノ如クムハ 朕何ヲ以テカ 億兆ノ赤子ヲ保シ 皇祖皇宗ノ神靈ニ謝セムヤ
 是レ 朕カ帝國政府ヲシテ 共同宣言ニ應セシムルニ至レル所以ナリ

 朕ハ 帝國ト共ニ 終始東亜ノ開放ニ協力セル諸盟邦ニ對シ 遺憾ノ意ヲ表セサルヲ得ス
 帝國臣民ニシテ 戰陣ニ死シ 職域ニ殉シ 非命ニ斃レタル者 及其ノ遺族ニ想ヲ致セハ 五内為ニ裂ク
 且 戰傷ヲ負ヒ 災禍ヲ蒙リ 家業ヲ失ヒタル者ノ厚生ニ至リテハ 朕ノ深ク軫念スル所ナリ

 惟フニ 今後帝國ノ受クヘキ苦難ハ 固ヨリ尋常ニアラス
 爾臣民ノ衷情モ 朕善ク之ヲ知ル
 然レトモ朕ハ 時運ノ趨ク所 堪ヘ難キヲ堪ヘ 忍ヒ難キヲ忍ヒ 以テ萬世ノ為ニ 大平ヲ開カムト欲ス

 朕ハ茲ニ 國體ヲ護持シ 得テ忠良ナル爾臣民ノ赤誠ニ信倚シ 常ニ爾臣民ト共ニ在リ
 若シ夫レ 情ノ激スル所 濫ニ事端ヲ滋クシ 或ハ同胞排儕 互ニ時局ヲ亂リ 為ニ 大道ヲ誤リ 信義ヲ世界ニ失フカ如キハ 朕最モ之ヲ戒ム

 宣シク 擧國一家子孫相傳ヘ 確ク神州ノ不滅ヲ信シ 任重クシテ道遠キヲ念ヒ 總力ヲ将来ノ建設ニ傾ケ 道義ヲ篤クシ 志操ヲ鞏クシ 誓テ國體ノ精華ヲ発揚シ 世界ノ進運ニ後レサラムコトヲ期スヘシ
 爾臣民 其レ克ク朕カ意ヲ體セヨ



口語訳

私は深く、世界の大勢と日本の現状とを照らし合わせて考え、非常の措置をもって今の情勢を収拾しようと思い、忠実で善良なるあなた方日本国民にお知らせする。
 私は、アメリカ・イギリス・中国・ソビエト連邦の4国に対して、それらからの共同宣言(ポツダム宣言)を受け入れることを、日本政府に通告させた。

 そもそも、日本国民が平穏無事であろうとし、世界各国が共に繁栄していくことは、天皇家の先祖からの願い続けていることであって、前にアメリカ・イギリスの2国に宣戦した理由も、真に日本の自存と東アジア諸国の安定とを強く望んでいたからであり、他国の主権を排除したり、領土を侵略したりするようなことは、もとより私の思いではなかった。

 ところが戦争を始めて4年の歳月が経過し、私の兵士たちの勇戦、私の臣下たちの頑張り、私の国民たちの奉公、おのおのが最善を尽くしたにもかかわらず、戦局は好転しないばかりか、世界の大勢もまた日本には不利な状況である。
 それだけではなく、敵は新たに残虐な爆弾(原子爆弾)を使用して、しきりに罪のない民を殺傷し、惨害の及ぶ状況は、じつに測りきれないほどである。

 しかもこのまま交戦を継続したとしたら、ついには日本民族の滅亡と言う事態を招くだけではなく、ひいては人類の文明もめちゃめちゃになることである。
 そのようなことになれば、私はどのようにして日本国民を守り、天皇家先祖の霊前に謝罪すればよいのだろうか。
 この様な思いから、私は日本政府に共同宣言に応じさせることにしたわけである。

 私は日本と共に、終始東アジア諸国の開放に協力してくれた各国に対して、お詫びの気持ちを表さなければならない。
 日本国民に対しても、戦死したり、殉職したり、天命を全うぜずに死んでいった国民達、そしてその遺族のことを思うと、我が身が引き裂かれんばかりの思いだ。
 かつ、戦傷を負い、戦災をこうむり、家業を失った者達の暮らしについて、私はとても心配している。

 思うに、今後の日本が受ける苦難は、言うまでもなく尋常なものではない。
 あなた方日本国民の真心は、私もよく知っている。
 しかしながら私は時運の赴くところ、堪え難いことに堪え、忍び難いことを忍んで、将来の為に太平の世を開こうと思う。

 私はここに、国体を守り、それを得て忠実で善良なるあなた方日本国民のうそ偽りのない誠の心にたより、常にあなた方日本国民と共にある。
 もしあなた方が、激しい感情のまま、むやみに事端をおかしくしたり、あるいは国民同士で陥れあい、互いに情勢を乱れさせ、そのために人としての道を誤って、世界に対しての信義を失うようなことは、私が最も忌むべきこととして嫌うものである。

 どうぞ、一国全体、一家、子孫にまでこの私の思いをひろく伝え、日本の不滅をかたく信じ、仕事は重く道は遠いと思い、総力を将来の建設に傾け、心を込めて人の踏み行うべき正しい道を進み、堅く守ってかえない志をしっかり持ち、誓って国体の真価となるべきところを高くあらわし、進歩発展する世界に後れをとるまいという決意を持って欲しい。
 日本国民よ、どうぞ私の言うことを理解してこれからを行動しなさい。