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『チェンジング・ブルー 気候変動の謎に迫る』

2020-03-01 15:13:46 | 読書。
読書。
『チェンジング・ブルー 気候変動の謎に迫る』 大河内直彦
を読んだ。

観測が出来得るまでの範囲で古気候の変遷を解き明かしていくことで、
地球の気候システムのメカニズムに迫ることができる。

ここ100年くらいの間で、
気候の科学分野で業績を積んできた数々の科学者たちのストーリーを辿りながら、
この本が書かれた2007年までで最先端の、
気候についての知見を知っていく内容になっています。
とてもおもしろく、かつ、学べます。
ここ一年くらいでもっともお薦めしたい本でした。

現在は完新世と呼ばれる、氷河期を抜けた温暖な間氷期です。
10万年周期で移り変わるという説があり、
ミランコビッチ・フォーシングという理論がもとになっている。
この理論は、地球の公転するわずかな歪み(離心率)、
自転が一定ではなく、首振りの軌道の元で動いていること(歳差運動)、
自転軸の傾きの変化、の三つを合わせて考えたことで導き出されたもので、
このミランコビッチ・フォーシングによって地球の気候は変化する、と唱えられました。

これはこれで気候変動の一部を解き明かしていますが、
さらに海洋深層流が気候をつくる大きなカギになっていると、
気候変動分野の科学者である著者は解説していきます。
北大西洋のあたりから始まる海洋深層流がなければ、
たとえばロンドンなどは年平均気温は10℃以上も下がっているはずだそう。
この海洋深層流は北大西洋で、
氷結などの理由で塩分濃度が濃くなった海水が深層に沈み込んで起こるのが
主な理由だそうです。
深層流によって表層の海流も変わり、
理論上はもっと寒冷なはずの地球環境を温暖にしている。

本書では、その他に二酸化炭素の濃度についても触れていますし、
最後の部分で短くではありますが、
昨今の地球温暖化について、気候学者が何を恐れているか
についても端的に述べていて、
本書をそこまで読んできた者であれば、
非常に腑に落ちます。

また、本書の大部分にあたりますが、
多くページを割かれているのは、
科学者たちの技術を革新したさまや、
調査がどのようなものかといったところです。
海底堆積物や、氷の掘削(アイスコアの発掘)で古気候を分析しているのですが、
その詳しいやり方やそれで解析できる論理を丁寧に、
そして読者を飽きさせないおもしろさで説明してくれています。

まるごと読んでみて、
もともと地球温暖化に興味があった僕ですから、
では今後、気候はどうなるのだ!? と結論を持ちたくなってくる。
僕がどのくらい昔から環境問題に興味を持ったかというと、
緑色のドラえもん(グリーン・ドラえもん)のカード型バッチを胸につけて、
地球を大切にしなきゃ! と同級生に地球の危機を説いていた
小学4年生頃に遡ることになるくらいです。
たしか、先生から、今度、温暖化に関する世界的機関ができるから、
となだめられたのですが、それがたぶんIPCCなんです。

それで、今回この本を読んでみて、
このまま温暖化していって、気象予報番組がだす100年後の予想気温が現実になるのか、
それとも、一部でささやかれている寒冷化が実現するのか、
もしくは、今までの気候の常識に当てはまらない未知の気候に移るのか、
いろいろ考えてみました。
一番シンプルというか、安易な推測は、
南極やグリーンランドの氷床が融解するまで温暖化して、
その後、融解水を取りこんだ北大西洋の深層流に変化が生じて、
寒冷化がはじまる、といったものです。
この場合、寒冷化するまでに海面上昇が避けられないので、
危惧されているように、沿岸の大都市や海抜の低い国では大きな被害がでそうです。
ただやっぱり気候は複雑なものですし、
大体、ここまで人間活動という
非自然的な作用で二酸化炭素濃度があがってしまっていますから、
これまでの気候サイクルのルールにそった変化ってするのかなあと疑問符が浮かびます。
それに、北大西洋に融水が流入していって
海洋深層水が変化する都合で寒冷化するはずのところで
温暖化した時代が実際にあったそうで、
それは理由がわかっていない。

こういうことからして、
気候が暴走してしまう段階に到達するのを助長するような真似を
人類はしないほうが賢明なのは明らかなんですよねえ。
気候がおかしくなるかな? ならないかな? 
とロシアン・ルーレットで遊んでいると喩えている科学者がいるんですが、
まったく、遊んでどうする、と思います。
これも経済活動、という名の、
人間の欲望に突き動かされているところが大きいのでしょう。

もう、高校の教科書にしてほしいくらい良書。
みんな読んでみて! っていいたいです。
★評価は満点です。


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