万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

不協和音が既に聞こえる米朝首脳会談

2018年03月22日 15時58分24秒 | 国際政治
北朝鮮、対話姿勢は制裁のせいでないと主張
トランプ米大統領による米朝首脳会談開催の受け入れは、何れの方向に向かうにせよ、北朝鮮危機における重大な転機となりました。同会談に対しては、平和的な解決をもたらすとする期待がある一方で、既に両者の間には、埋めがたい見解の違いが見受けられます。

 米朝首脳会談を承諾した理由について、トランプ大統領は、国民やメディアに対して自らが率先して進めてきた経済・軍事両面における対北制裁の成果として説明しています。オバマ前政権の基本方針であった“戦略的忍耐”を放棄し、北朝鮮に対して最大限の圧力をかけたからこそ北朝鮮が膝を折り、核・ミサイル開発の放棄を自ら申し出たと理解しているのです。同大統領の発言からは、自らの政策転換の正しさを確信している様子が窺えます。

 その一方で、北朝鮮側が公表した見解は、トランプ米大統領の説明とは正反対といえるくらいに違っています。北朝鮮の国営・朝鮮中央通信(KCNA)の論説に依れば、米朝首脳会談の開催を申し入れたのは、制裁や圧力によって追い詰められたためではなく、“望んでいたことがすべて手に入り、自信を得たことの表れだ”と説明されているのですから。この論調からは、金正恩委員長は、核・ミサイル開発を放棄する意思は毛頭なく、むしろ、北朝鮮側は、アメリカから大幅な譲歩を引き出せる見通しを持っていると解せざるを得ません。北朝鮮は、これまでの対米要求、即ち、核保有をアメリカに認めさせ、朝鮮戦争終結のための平和条約を締結し、かつ、“金王朝”の体制保証を勝ち取ると暗に述べているのです。

 フィンランドにおける米朝間の接触でもその会談の内容は詳らかではなく、北朝鮮の非核化が議題に上ったのか否かも不明です。北朝鮮は、検証可能な非核化を前提としない限り対北交渉に応じないとするアメリカの基本姿勢を崩すために、本心に反して非核化の準備がある旨を伝えることで、騙してでもアメリカを交渉の席に座らせようとしたのでしょうか。あるいは、KCNAの論評はあくまでも国内向けであって、核放棄に伴う国民の動揺を抑えるために、虚勢を張っているのでしょうか。それとも、フィンランドにおいて、既に両国は、既に何らかの“手打ち”で合意しているのでしょうか。

 フィンランドでの米韓朝間の会談は、もしかしますと、アメリカが南北両国の真意を探る場であったのかもしれません。少なくとも首脳会談を控えた米朝の間でかくも認識に相違があるとしますと、実際に同会談が開催された場合には、両者の面子もかかっている以上、決裂という結末を向かえる可能性は決して低くはないように思えるのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。

にほんブログ村 政治ブログへにほんブログ村

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “治安維持”をAIに頼る中国-... | トップ | ポーランドの対独賠償請求問... »
最新の画像もっと見る

国際政治」カテゴリの最新記事