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万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

“治安維持”をAIに頼る中国-道徳教育ができない共産主義国家

2018年03月21日 15時36分39秒 | 国際政治
 AI技術の発展に伴って、近年、俄かに注目されるようになったのは、中国の習近平政権による“治安維持”分野での活用です。全体主義国家である同国における“犯罪”には政治犯も含まれているため、同システムは、国民の自由を抑圧する統制装置としても強力に働くことは容易に予測されます。

 例えば、顔認証システムは、自由主義諸国でも適切に運用されれば犯罪やテロ防止には役立ちますが、政治犯が存在する中国では、反共産主義者、体制批判者、並びに、独立を求めるチベット人やウイグル人を正確に識別する道具ともなります。中国の一般国民の声として、“監視システムによって犯罪やテロの心配がなくなる”とする意見が紹介されてはいますが、中国当局によるAI活用の真の目的が、政治犯の摘発にあることは疑いなきことです。何故ならば、仮に、中国政府が、国民のために犯罪の減少による治安の向上を目指すならば、監視システムの徹底のみが有効な方法ではないからです。

 実のところ、犯罪を根底からなくそうとすれば、民意を向上させるべく、道徳教育を強化する必要があります。監視システムは、表面に現れた人々の行動をウォッチして取締りを行うには役立ちますが、“何故、利己的な目的で他者を害する行為が許されないのか”、その根本的な理由を説明し、国民が心から納得しないことには犯罪は減らないからです。行動の奥には、人の基本的な心の持ち方があります。脳機能上の問題に起因して病的な倫理観の欠如を患うサイコパスを除いて、一般の人々は、犯罪が“悪”である理由に納得すれば、敢えてこうした行為に及ぼうとはしないことでしょう。言い換えますと、共産主義のイデオロギー、あるいは、習近平思想で国民を染め上げるよりも、人類に普遍的に備わる道徳や倫理を教えた方が、余程、犯罪なき安全な社会が実現するはずなのです。

 ところが、共産主義という思想自体が、「モーゼの十戒」にも示される基本的な道徳律から逸脱している思想です。目的のためには手段を選ばず、暴力を肯定し、共産革命を成し遂げるためには、人殺しも、掠奪も、嘘も、騙しも、皆許されてしまうのです。反道徳的な行動を国是として掲げる国が、自らの教育プログラムにおいてこれらを禁ずるはずもなく、否、これらを否定すれば、自らの正当性をも失いかねません。日本国内でも、社会・共産主義者が道徳教育に反対する理由の一つは、自らの思想が普遍的な道徳律の名の下で否定される事態に対する漠然とした怖れや不安があるからなのでしょう。

 かくして、中国では、“歴史的に搾取されてきた多数のプロレタリアートによる自治”とは真逆の、“暴力革命によって特権階級となった少数の共産主義者による独裁”が成立しても、それを道徳や倫理において批判することができない国となりました。特定の集団が反道徳的な手段で統治権力を手中にした場合、以後、国民に対して道徳教育を行うことは自己否定に等しくなるのです。AIに頼る中国の現状は、社会・共産主義者による善悪や正邪の区別、即ち、道徳からの逃避こそ、人々に暗黒の世界をもたらしていることを示しているように思えるのです。

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