万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

混迷を深める日本国の保守政党

2018年09月08日 16時17分59秒 | 日本政治
 ‘保守政党’とは、一般的には、祖先から受け継がれてきた自国の歴史や伝統を尊重し、民族、並びに、それを中核とする国民としての纏まりを大事にする愛国的な政党とするイメージがあります。このため、国家や国民の枠組を損なうような改革や変化に対しては慎重であり、この点において革新政党とは反対の立場にあります。

 伝統か革新かの対立構図は単純明快で分かりやすいのですが、経済問題に対する態度も加わって現実はより複雑ですし、今日では、最も端的なこの対立構図させ揺らいでおります。日本国内を見ても、保守主義を名乗る政党からも、革命、改革、変化といったおよそ保守らしからぬ言葉が飛び出してくるのに加えて、保守=日本という、当然視されてきた等式さえ怪しくなっているのです。

 この問題を考えるに際して、イギリスの保守党の歴史は保守政党が抱える矛盾の本質をよく表しております。同国の政界は、ヴィクトリア時代を中心に19世紀中葉から20世紀初頭にかけて、保守党と自由党が二大政党制の両翼をなしていました。この時期、イギリスは、全世界に自治領や植民地を保有し、大英帝国華やかなりし時代であり、かつ、イギリスを中心とした自由貿易体制を世界大で確立した時期とも凡そ一致します。このため、両党とも、‘世界帝国’としてのイギリスを前提とした政策運営を主張しており、どちらかといえば、前者が政治的な帝国主義を志向したのに対して、後者は、穀物法制定時における両党の対立が示すように、自由貿易の促進を主張したのです。言い換えますと、この時期、保守党も、今日的な意味における国民国家という一国を枠組みとした政党ではなく、上記の保守政党のイメージにも当て嵌らないのです。

 第二次世界大戦後に至ると、イギリスは、緩い独立国家の連合である英連邦の枠組を残しつつも、ユーラシア大陸の西側の海洋に位置する国民国家の一つとなります。政治的には、自由党に替って労働党が二大政党制の左の席を占めるに至り、社会・共産主義的な文脈において世界主義的な立場を主張しますが、保守党もまた、大英帝国時代から引き継がれた世界主義的な性格を引き摺っています。EU離脱問題に際して、保守党の見解が割れた理由も、同党の内部におけるナショナリズムと世界主義との混在に求めることができるかもしれません。

 以上にイギリスの保守党の来し方を簡単にスケッチしてみたのですが、今日における日本国の保守政党の迷走もまた、明治以降において形成された大日本帝国の歴史が関連しているように思えます。大英帝国程の広さはないものの、日本国もまた、台湾や朝鮮半島を版図に収めた多民族を包摂する帝国でした(満州国を含めればさらに多民族となる…)。このことは、これらの地域が独立した第二次世界大戦後にあっても、日本国の保守政党、あるいは、保守主義者の中には、大日本帝国への回帰を活動目的とする人々が混在していることを意味します。韓国からの密入国者である日本ボクシング連盟の元会長山根明氏の日本国籍取得を手助けしたのは保守系の政治家であったというような事例は、冒頭で述べた保守政党のイメージからしますとあり得ないような裏切り行為ですが、保守主義者には、多民族国家としての大日本帝国の再来を夢見る人々が混じっていることを理解すれば合点が行きます。

 一般の日本国民の大多数は、大日本帝国の再来を望んではいませんので、今後、保守政党の内部では、両者の立場の違いによる対立が激しくなることも予測されます。あるいは、保守政党の多数派が既に‘大日本帝国回帰派’で占められているならば、保守政党と一般国民との間の意識の違いは政府に対する不満として表出されることでしょう。政界における保守=日本という構図の崩壊は(今では、皇室にも言えるかもしれない…)、日本国の独立性にも深くかかわるのですから、一般の日本国民は、その背景をも含めて‘保守’の実像を知るべきなのではないかと思うのです。

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8 コメント

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良い示唆をいただきました。 (onecat01)
2018-09-10 23:44:05
kuranishi先生。

 お久しぶりでございます。

 混迷する保守につき、貴重な示唆を頂きました。今に始まったことでなく、日本の保守も、幕末以来、拡張主義が混在し、進取の機運がみなぎっておりました。

 敗戦後の保守も、一つでなく、矛盾を抱えたまま、再生しております。自分は保守のどこにいて、何を目指しているか。

 もう一度、確認したいと思いました。教えていただき、感謝いたします。
わかりやすいご説明 (ベッラ)
2018-09-11 07:24:09
読後、スッキリした気持ちになりました。
本当にその通りです。
世襲ともなると先代、そのまた先の政治思想を本人も取り巻きもなんとなく引き継いでいるようなことを感じます。

このエントリも私のブログに文の中で「待ち望んだエントリ」としてご紹介させていただきました。
今の「保守」について、いかがわしいのもあり、タブーなく見ていきたいと思います。
onecat01さま (kuranishi masako)
2018-09-11 08:17:37
 こちらこそ、ご無沙汰しております。また、コメントをお寄せくださいまして、ありがとうございました。

 今日、籠池学園問題や山根元理事長の事件等、一見、関係ないように見えて、実のところ、’保守とは何か’を問う事件が頻発しております。本記事が、今一度、混迷する現状を踏まえ、保守の問題について深く考えてみる機会となりましたならば、幸いでございます。
ベッラさま (kuranishi masako)
2018-09-11 08:22:44
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。また、、貴ブログにて本記事をご紹介くださいましたこと、厚く御礼申し上げます。

 ’保守’とは申しましても、歴史的な経緯により、様々な思想的な系譜が流れ込んでおりますので、一括りにしてしまいますと危うい場合もあるのではないかと思います。最近、この危険性が高まっているように感じております。
お願い (onecat01)
2018-09-11 22:51:39
kuranishi先生。

 先生のブログを、私のブログで引用させていただきたく、お願い申し上げます。

 今まで一本調子で、反日・左翼憎しで参りましたが、自分の立ち位置につき、考え直してみたくなりました。

 勝手ながら、先生のブログの一部を引用させて頂くことを、お許しいただければ幸いです。私にも読者の方がおられますので、心境の変化の理由として、先生のブログがありましたことを、正直に書いてみたいと考えております。

 突然ですが、不躾をお許しください。
onecat01さま (kuranishi masako)
2018-09-12 08:04:28
 コメント、拝読いたしました。どうぞ、ご遠慮なく本ブログ記事を引用なさってくださいませ。
感想 (櫻井結奈(さくらい・ユ-ナ))
2018-09-12 19:03:46
初めて、先生のブログを拝見させていただきました。
(ほかの方のブログのご紹介で、先生の御芳文を拝見いたしました。)
私は、若輩者ですので、政治のことは、よくわかりませんが、私なりにかんがえることはあります。
保守党といっても、いろんな方がおられ、いちがいに是非を論じる事の難しさを、つくづく感じました。
 それから、『大日本帝国』が多民族国家だったこと、よく考えてみれば当然だとおもいますが、案外『盲点』になっていますね。 
保守党?の政治家にはアジア諸国と、いろいろ人脈が有るらしいですが、それは私たち一般日本国民の認識と乖離している
と思います。
 先生の御意見に啓発されました。
櫻井結奈さま (kuranishi masako)
2018-09-12 19:30:54
 本ブログをご訪問くださり、また、コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 少なくない方々が、今日の保守政党につきまして、どこか違和感を抱いているのではないかと思います。その根源はどこにあるのかをきちんと見極めませんと、行く道を誤る、あるいは、日本の安全を危うくするのではないかと懸念しております。

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