万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

広島サミットは成功したのか

2023年05月23日 13時09分48秒 | 統治制度論
 今般の広島で開催されたG7サミットは、紛争当事国であるウクライナのゼレンスキー大統領が出席したことで、内外のメディアの注目を集めることとなりました。今月5月にも予定されていたウクライナ側の反転攻勢作戦を目前とした、同国への支援、陣営の結束強化、並びに、復興支援などが狙いともされていますが、同大統領をはじめ、メディアの多くは、同大統領が平和を訴えるためにはるばる広島まで足を運んだかのような報道をしております。

 確かに、ゼレンスキー大統領は、仲介役を買って出ているインドのモディ首相に自らの和平案への協力を求めたり、被爆地で戦争の悲惨さを訴えることで、平和の実現に向けた力強いメッセージを発信しています。しかしながら、同大統領の和平案の骨子は、ロシア軍の撤退並びにクリミア半島を含めた紛争以前の国境の回復ですので、あまりにもハードルが高すぎてロシアが応じるはずもない内容です。しかも、アメリカのバイデン政権がF16戦闘機の供与をNATO加盟諸国に認めたことからしましても、サミット後に待ち受けているのは、戦争の激化であることは疑いようもありません。

 戦争のエスカレートを前にしては、対ロ並びに対中結束の強化という成果も、それが、日本国が第三次世界大戦に巻き込まれるリスクの上昇を意味する以上、岸田政権の外交成果として手放しで評価できないはずです。ロシアが日本国を明確に敵国認定するのみならず、中国は既にG7広島サミットに対して不快感を示しており、台湾有事を誘発する可能性も否定はできなくなります。後世にあって2023年5月の広島サミットが重大な転換点であったとする認識が成立するとすれば、同サミットこそ、和平への道ではなく、世界大戦への道が選択された歴史的な分かれ道に位置していたかもしれないのですから。

ネット上の世論調査によりますと、広島サミットに対して肯定的な評価が多数を占めているようですが、何故、国民の多くが自国の参戦リスクの向上に目を向けていないのか、不思議でなりません。しかも、東日本震災からの復興も終わっていない中、ウクライナの復興に多額の予算を割かれる一方で、国内では増税並びに電気料金の値上げラッシュに見舞われる状況下にあります。ところが、ゼレンスキー大統領登場のサプライズ効果やメディアによるプロパガンダ的な礼賛報道によって、国民は、自らが置かれている現状を忘却させられているようなのです。冷静になって考えますと、日本国民にとりましても、人類にとりましても、戦争のエスカレーションとそれに伴う重税化は望ましい方向性ではないはずです。

日本国の歴史を振り返りますと、天下統一により戦国時代に幕を閉じた徳川家康を、平和をもたらした偉人として評価される向きもあります。今日の人類が、なおも武力による決着をもって平和とみなす考え方を‘良し’とするならば、戦国時代と何ら変わりはなく、そこには、人類の精神的な成長は見られないこととなりましょう(この論理に立脚すれば、中国等の暴力主義国家による世界征服も、「平和」の名のもとで正当化されてしまう・・・)。真に平和を目指すならば、広島サミットは、紛争当事国の一方に対する支援や陣営結束の強化の場とするよりも、ウクライナ紛争が第三次世界大戦に発展するリスクを如何に低減させ、かつ、停戦を含め平和裏にウクライナ紛争を解決する手段について議論すべきでした。あるいは、ロシアのプーチン大統領、あるいは、ICCが発付した逮捕状による逮捕の可能性が考慮されるならば同国の代表を招き、同国の立場や見解を聴取する、あるいは、ゼレンスキー大統領との会談の場をセッティングした方が、余程、岸田政権の外交成果として内外から高く評価されたことでしょう。

こうした平和的解決に関する努力が微塵も見られないことこそ、ゼレンスキー大統領の平和の訴えがメディア向けのパフォーマンスに見え、G7諸国首脳による「核なき世界」のアピールも偽善にしか聞こえないのかもしれません。そして、実際に、世界経済フォーラムをフロントとする世界権力の実在性が露わとなった今日、全ては演出された茶番であるかもしれないのです。岸田首相は、広島サミットの勢いで解散総選挙に打って出るとの憶測もありますが、同サミットの開催には、日本国の岸田政権長期化、即ち、日本国の全面的なコントールの目的もあったのではないかと疑うのです。

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