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万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アメリカを動かすイスラエル

2025年07月02日 11時38分18秒 | 国際政治
 アメリカの直接的な軍事行動を引き起こしたイスラエルの対イラン攻撃の目的は、イランの核開発を物理的に阻止することにありました。しかしながら、イスラエルには、核拡散の防止を目的として他国を攻撃する法的根拠が欠けていることは明白です。NPTの加盟国ですらないのですから。それにも拘わらず、イスラエルは、自らの対イラン攻撃を平然と正当化し、アメリカのサポートまで引き出しております。同国が、自らを‘特権的な国家’であると自認していることだけは確かなようです。そして、イスラエルをめぐっては、アメリカを筆頭に自由主義国のダブル・スタンダードが甚だしいのです。

 それは、核保有に対する対応を見れば一目瞭然です。イスラエルは、正式には核保有を認めていないものの、イスラエルが既に核を保有していることは公然の秘密であり、凡そ確定事項です。ところが、アメリカの態度は、北朝鮮やイランに対する態度と真逆なのです。もちろん、イスラエルがNPTに未加盟の状態である事実をもって、核保有を容認する見解もあり得ましょう。これは、印パ戦争を背景に共に同条約の枠外にあるインドとパキスタンと同様のケースとなります。しかしながら、核開発の阻止を目的とした今般の対イラン攻撃は、自らを印パと同列とするこの立場を捨てたに等しくなりましょう。

 インドとパキスタンの両国の核保有については、一先ずは、核の相互抑止力が働くことを期待して国際社会が容認している側面があります。誰もが、両国の間で核戦争が起きるとは考えていないのです。むしろ、紛争当時国である両国が共に核を保有することで、戦争の激化が回避されていると見なす人の方が多いのではないでしょうか。同事例は、核兵器に対しては、攻撃力よりも抑止力への期待の方が優っていることを示しているとも言えましょう。仮に相互抑止力を全く考慮しないならば、国際社会の反応も違っていたはずです。

 その一方で、イスラエルは、核保有国が非核保有国を攻撃するという挙に出ています。このケースでは、イランとの間の相互抑止力の成立、あるいは、中東全域における核のバランスの成立を阻止するために行動したことになります。イスラエルとイランとの間の非対称のパターンは、インド・パキスタンのケースとは著しく異なっているのです(インドやパキスタンが同様の理由でイランを攻撃したケースを想定してみると分かりやすい・・・)。この結果、これまで軽く見られていた、あるいは、関心の枠外に置かれてきたイスラエルの核保有問題が、俄に国際社会全体の脅威として持ちがあることになります。NPT非加盟国の立場で自らは核を保有しながら、NPT加盟国の核保有の可能性を実力で排除しようとするイスラエルの身勝手極まる行動を、非難こそすれ、誰もが納得しないことでしょう。

 ところがアメリカは、イスラエルの対イラン攻撃を支持し、自らも手を貸すこととなりました。NPT違反ではないにせよ、他国に対する一方的な武力行使は国連憲章上の違反行為でもあります。いわば、国際法秩序に対する公然たる挑戦ともなるのですが、アメリカは、イスラエルの行動を全面的にバックアップしたのです。軍事においても経済においても、イランがそれ程にアメリカの脅威となるわけではありませんし、アメリカ国民や同国の国益を危機に晒す死活的な問題でもありません。

 この常識では理解しがたい不可解な現象は、イスラエル、否、ユダヤ系がアメリカ政界において保持する隠然たるパワーなくして説明できないことでしょう。国際法秩序を無視し、道理を曲げてもイスラエルの要求を叶えようとするのですから、そのパワーは計り知れません。大統領であれ、上下両院の議員であれ、地方政治家であれ、全人口の2%に過ぎないユダヤ系の支持や支援がなければポストに就くことは最早困難な状況にまで至っているとも推測されます。アメリカの政治とは、表看板としてきた民主主義とはかけ離れ、今や背後に蠢くマネー・パワーによって支配されているとも言えましょう。アメリカ政治の現実を理解しようとすれば、否が応でもその表と裏によって構成される二重構造に行き着いてしまうのです。

 もっとも、この二重構造にあっては、裏の構造が必ずしも一枚岩とも限りません。米民主党、EU、イギリス、中国並びに日本国政府等のグループは、少なくとも表面上は、トランプ政権、ネタニヤフ首相、プーチン大統領を結ぶラインと対立しているように見えるからです(ただし、この対立も、上部が仕組んだ巧妙な‘茶番’であるのかもしれない・・・)。イランへの攻撃も、イスラム革命の経緯からすれば、イランが前者の拠点の一つである可能性もないわけではありません。

 何れにしましても、国民主権や民主主義を形骸化してしまう表裏の二重構造はアメリカのみの問題ではなく、日本国を含めた全世界の諸国が直面する問題でもあります。将来に向けて法の支配を原則とし、公平且つ公正な国際社会を構築するためにも、‘陰謀論’という名の陰謀に惑わされることなく(イスラエルは世界有数の諜報・工作機関であるモサドも有する・・・)、人類は現実を直視すべきではないかと思うのです。

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