万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ロシア国債デフォルトは朗報なのか?

2022年06月02日 15時06分27秒 | 国際政治
本日、6月2日の報道によりますと、全世界の大手金融機関で構成されているクレジット・デリバティブ決定委員会(CDDC)は、1日、ロシア国債のデフォルトを認定したそうです。速報として報じられており、ウクライナ危機の最中にあって同国国債への関心の高さが伺えます。日本国内のメディアやネットの論調は、対ロシア経済制裁の成果という評価なのですが、このニュース、果たして朗報なのでしょうか。

 ロシア国債がデフォルトの認定を受けますと、以後、ロシアは、国際市場から資金を調達することができなくなります。このことは、ロシアが、近々、ウクライナにおける軍事行動を継続するための戦費が不足する可能性を意味しており、自由主義国による’兵糧攻め’の効果が表れてきた兆しとして評価されています。

 このようにロシア敗北の兆候としてロシア国債のデフォルトをプラスに評価する見方がある一方で、手放しで喜べない側面もあります。その理由は、ロシア国債のデフォルトで損失を被るのは、発行国であるロシアのみではないからです。今後の国債発行、即ち、戦費調達の道が閉ざされたとしても、現下にあっては、ロシアは、むしろ国際の元本の償還や利払い義務から解放されます(借金を踏み倒している…)。結局、発行済みのロシア国債のデフォルトに起因する損失は、その保有者が負うこととなるのです。

正確なところはわからないのですが、欧米の金融機関によるこれまでの対ロ投資は相当額に上るとされています。リーマンショック時のサブプライムローンほどではないにせよ、ロシア国債が’紙屑’となることで、自由主義国の金融機関のバランスシートが傷む事態も予測されます。また、ウクライナ危機を機にロシア国債の金利は上昇傾向にありましたので、ハイリスク・ハイリターン商品として購入した新興国の金融機関も少なくなかったかもしれません。

 さらに、ロシア国債のデフォルトは、危機以前から’デフォルト危惧国’であったウクライナの財政リスクをも再燃させるかもしれません。ウクライナもまた、戦費調達のために高利率の国債を発行しています。ウクライナには、アメリカをはじめとして自由主義国が財政支援を行っていますが、各国とも厳しい財政事情がありますので、無制限というわけにはいきません。ウクライナは、戦後にあってロシアに対して巨額の賠償請求を行い、これを以って支払いに充てようと考えているのかもしれませんが、ロシアが素直に支払いに応じるとは思えませんし、天文学的な賠償金額がロシアを核使用に追いつめるリスクもありましょう。言い換えますと、今後は、ウクライナ国債のデフォルトリスクも考慮する必要があり、両国間の戦闘が長引くほど、国際金融、並びに、各国財政も不安定化し、ロシアの核使用のリスクも高まることが予測されるのです。

 そして、もう一つ、考慮すべき点があるとすれば、それは、近代以降の戦争の裏側には、両陣営を陰から操ってきた特定の金融財閥を中心とした超国家権力体が潜んでいる可能性です。ナポレオン戦争では、イギリスの戦時国債を大量に購入していたロスチャイルド家が情報操作により巨額の利益を上げたことで知られていますが、戦争は、金融財閥にとりましては絶好の収益拡大のチャンスとなります。仮に、今般のウクライナ危機にあってもこうした勢力が潜んでいるとしますと、最後に笑うのは誰であるのかは分からないのです。

 ロシアは、自国産のエネルギー資源の輸入国に対しては、通貨であるルーブル建ての決済を求めており、米ドル決済網に頼らない体制の構築を急いでいます。また、対ロ制裁についても抜け道があり、石油等のロシア産資源が高値で闇取引されているとする指摘もあります。石油産出国であるロシアは、少なくとも戦略物資には困らない立場にあるのですから、ロシア国債のデフォルトについては、より慎重な分析と評価を要するのではないかと思うのです。

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