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万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

株価暴落はチャンス?

2025年04月08日 11時29分21秒 | 国際経済
 アメリカのトランプ大統領が発動した相互関税は、日本国を含む世界各地で株価の下落をもたらしているようです。1929年の世界大恐慌が第二次世界大戦の遠因として指摘されているように、証券市場での株価暴落は、全世界に大惨事をもたらしかねないリスクがあります。第一次世界大戦後に訪れた未曾有の好景気を背景に発生した証券バブルの崩壊が原因とされ、あたかも、この歴史の流れを当然のことのように捉えがちですが、果たして、ニューヨーク株式市場での株価暴落は、‘歴史の必然’であったのでしょうか。

 マルクス主義の祖であるカール・マルクスは、‘資本家’側の視点から『資本論』を執筆しています。このため、同書には、株価暴落に関する興味深い記述があります。それは、「あらしが過ぎ去れば、これらの証券は、失敗した企業または山師企業を代表するものではない限り、再びその以前の高さに上昇する。恐慌におけるそれらの減価は、貨幣財産の集中のための強力な手段として作用する。」というものです。同記述については、フリードリヒ・エンゲルスが脚注を付しており、この実例として、1848年にフランスで発生した二月革命直後の株価暴落に際しての‘金融資本家’の行動を紹介しています。かのロスチャイルド(おそらくパリ家のジェームス・ド・ロスチャイルドでは・・・)が、スイス商人R.ツヴィルヘンバルトに持ちかけられて、可能な限りの現金を集めて下落した証券を買い漁った様子を伝えているのです(『資本論』第三巻第5篇第29章)。フランスの二月革命と言えば、‘プロレタリア革命’的な色合いが極めて濃いのですが、現実には、‘資本家’にとりましては利益をもたらす千載一遇のチャンスであったことが分かります。

 二月革命から100年を経ずして世界経済を破産させた上記の世界恐慌につきましても、多くの人々を失業者とし、奈落の底に突き落としつつ、最も利益を得たのは‘資本家’であったとされています。否、金融市場における独占を狙って、金融・経済財閥が暴落を仕掛けたとする説もまことしやかに囁かれており、上述したロスチャイルドの行動からしますと、この説も強ち否定はできなくなります。株価暴落によって、‘投機家’や借入金で株の売買をしている一般の人々、そして、資金力に乏しい中小の‘資本家’は、破産を余儀なくされるほどの大きな損失を被りますが、潤沢な資金力を持つ‘大資本家’は、これらの人々が先を競って手放した株を買い占めることができるからです。

近年では、バブル崩壊によって破綻した金融機関の救済を理由として、大手が中小を合併する大規模な金融再編が行なわれていますので、放出株式の買い取りのみならず、救済措置としての金融機関の寡占化も進んでいます。そして、今日、全世界の人々がマネー・パワーを‘独占’するグローバリストの支配欲に晒される事態に陥ったのも、株価暴落という‘バーゲンセール’にあって、同勢力が、すかさず買い占めをおこなうことができる‘特別な立場’にあったからなのでしょう。

 こうした株価暴落人為説につきましては、もちろん、厳正なる検証を要するのですが、証券市場にあって暴落が発生したり、しばしば不正な価格操作が行なわれるのは、その価格決定の仕組みにも問題があるからなように思えます。市場での株式の価格は、証券会社を介しつつも、最低価格を提示した売手側と、最高価格を提示した買手側との間で成立した値となります。言い換えますと、極めて少量の取引であったとしても、同取引が株式の価格を決定してしますのです。こうした価格決定の仕組みですと、意図的に売り注文や買い注文を出すことによって、価格を容易に操作することができます。そしてそれは、他の市場参加者に対して投機的な売買を誘導するバンド・ワゴン的な効果を持ちますので、証券市場では、バブルやその崩壊が発生しやすいのです。しかも、バブル崩壊は、株式取引に無縁な一般の人々をも巻き添えにするのですから、罪深いお話なのです。

 証券システムについては、株主の権利が強すぎ、かつ、企業買収の手段(‘人身売買’にも似た法人格を持つ主体の売買・・・)や‘植民地化’のリスクという大問題もあり、抜本的な見直しを要するシステムでもあります。何れにしましても、株価が実体経済に影響を与えるべきではなく、ここは、冷静なる対応が望ましいように思えます。そして、関税の復活が投資家心理のみならず、実際に企業の業績にマイナス影響を与えているならば、むしろ、危機をチャンスとする発想は、一般の国民や企業にこそ持つべきなのかも知れません。今後の展開を予測すれば、貿易依存度を下げ、国内経済を強化する政策こそ、グローバリズムが終焉を迎えつつある今日、日本国に必要とされる政策なのではないかと思うのです。

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