万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

政府が構築すべきは就職・求人プラットフォームでは?

2023年09月29日 11時37分45秒 | 統治制度論
 インターネットの普及は、様々な分野で地殻変動的な変化をもたらしています。新たなテクノロジーの登場は、しばしば時代や社会を変えてきたのですが、現代に出現したインターネットの特徴の一つは、従来とは異なるマッチング・システムを可能としたことなのかもしれません。それでは、インターネットが可能としたマッチング・システムとは、どのようなものなのでしょうか。

 マッチング・システムにおける最大の変化は、インターネットの開放性によって齎されました。例えば、旧来型の求人・就職のシステムでは、人材を求める側も応募する側も、程度の差こそあれ、自らが有するコネクション、人脈、あるいは、情報網等に頼る必要がありました。インターネットの登場以前の時代にも、新聞等で公募すると言った方法も確かにあることはありましたが、敢えて新聞公示の方法を選ぶのは、極一部の事業者に限られていましたし、募集情報が掲示された新聞の購読者でなければ、同公募の存在さえ知ることができなかったのです。旧来のシステムは、募集者と応募者双方における対象範囲の閉鎖性並びにパーソナル依存性を特徴としていたと言えましょう。

 ところが、インターネットは、同時並行的に発展した検索技術に支えられる形で、旧来型の限界を易々と突破できるようになりました。ネットを利用すれば、人材を探す側は自らの欲する人材を、条件や対価などの詳細を添えて公示し、広く募集することができるからです。その一方で、職を探す側も、自らの希望に添った職種や職場をネット上の情報から探し、相手方が提示している条件に合致していれば応募することができます。また逆に、職を探す側が自らの情報をネット上にアップしておけば、人材を探す側も、条件設定により絞り込みを行ない、直接に適任と見なした人材に対してオファーをかけることもできるのです。

 このように、インターネットが可能としたシステムでは、人材を求める側と職を求める側との間に双方向性及び対等性が成り立っております。雇用する側の人材選択の自由、並びに、個人の職業選択の自由の保障という意味においては、インターネットは、人類を理想に近づけたとも言えましょう。選ぶ範囲が広ければ広ほど、双方とも自らの要望や条件に叶った相手を見つけるチャンスが大幅に広がり、合意形成も容易となるからです。このシステムですと、自由意志の一致という個々人の選択の自由に伴う必要条件をも満たしており、主体間の関係性においても公平であると言えましょう。

 インターネットを用いたマッチング・システムの最大の利点が上述した相互的な対等性に基づく合意の形成にあることを踏まえて現状を見てみますと、ネット時代と称されながらも、この利点が十分に活かされているとは思えません。何故ならば、今日、就職側と求人側との間に介在することでむしろ人材を囲い込み、双方の自由を制約する中間的なシステム、即ち、人材派遣業者が出現しているからです。人材派遣業といった民間仲介事業者の存在は、インターネットの利点を帳消しにしてしまうのです。

 このように考えますと、政府のすべきことは、人材派遣業といった民間の仲介者を政策や公的システムに組み込むことではなく、個人であれ、企業であれ、誰もが安心して利用できる就職・求人システム、すなわち、公的なマッチングのプラットフォームを構築すべきなのではないでしょうか。如何なる介在者、ましてや政治的利権も存在しない、より直接的であり、かつ、個々の自由が尊重されるオープンなシステムとして(政治介入や私的介入を遮断し、独立性が保障された’運営者’もいない中立公平なシステム)。今日、政府が打ち出す政策を見ておりますと、方向性が逆なように思えるのです。

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