万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

カリコ氏ノーベル賞受賞が抱える‘オッペンハイマー問題’

2023年10月03日 12時07分51秒 | 国際政治
 今年の生理学・医学賞の受賞者は、ペンシルバニア大学のカタリン・カリコ特任教授とドリュー・ワイスマン教授に決定されたそうです。受賞の理由は、mRNAを構成する4つの塩基のうちの一つであるウリジンを、人工的なシュードウリジンに置き換えることで、炎症反応を押さえる方法を発見したことによります。メディアの報道では、同技術がコロナワクチンの開発に貢献したことが強調されていますが、遺伝子の配列異常に起因する癌や遺伝子病の治療法としても期待されています。

 コロナワクチンが新型コロナウイルス感染病から多くの人々の命を救ったとする構図から、人類の救世主として高い評価を得ているのですが、人類に対する遺伝子技術の実用化である以上、全く問題がないわけではないように思えます。素人による素朴な疑問なのですが、同技術については、健康な人々に対する予防目的のワクチンと遺伝子の先天的な異常や後天的な変異に起因する病気の治療方法との間には、幾つかの矛盾が横たわっているように思えるのです。

 感染症に対するワクチンとしての評価は、体内に投入されたmRNAが免疫反応によって破壊されない点が強調されています。確かに、ワクチンの場合には、体内にあって効率よく抗原となるスパイクタンパク質を産生するには欠かせない技術です。しかしながら、この現象は、一種の免疫寛容ですので、実際に新型コロナウイルに感染した場合、免疫反応を抑えてしまう可能性はゼロなのでしょうか(生成された人工スパイクタンパク質に対しても免疫反応は低下する?)。内部的な免疫寛容がプラスに働く癌や遺伝子治療とは違い、感染症を引き起こすウイルスや細菌は外部から侵入してきます。

 この懸念については、新型コロナウイルスの‘本物のmRNA’でもシュードウリジンによって修飾された人工のmRNAでも生成されたスパイクタンパク質には変わりはなく、感染すれば、通常通りの免疫反応を起こすとする説明もありましょう。その一方で、仮に人工スパイクタンパク質にも免疫寛容性があり、かつ、新型コロナウイルス感染症による主たる死亡、重症化の原因がサイトカインストームと呼ばれる免疫暴走であるならば、コロナワクチンによって無反応、あるいは、弱反応化した方が、死亡率や重症化率を下げることとなり、‘ワクチンには感染防止の効果は低いけれども、死亡重症化は下げられる’とする政府の説明と一致してしまいます。この場合、ワクチンによる抗原の生成が抗体を大量に造り、病原体に対する免疫を強める、とする一般的な機序の説明が崩壊します(もっとも、実際には、免疫低下やスパイクタンパク質等によるワクチン被害が多い・・・)。

 また、人工mRANは体内に容易に取り込まれやすいように改変されていますので、逆転写が起きる可能性も否定はできなくなります。成長過程にある小児期にあっては、逆転写酵素であるテロメラーゼといった酵素の発現が高いそうですし、成人であっても、同酵素はがん細胞、幹細胞、生殖細胞などの特別な細胞において存在します。短期間で消滅するから安心、と説明されてはいるものの、逆転写が起きればスパイクタンパク質が生涯に亘って体内で造られ続けることとなりましょう。

 その一方で、癌治療や遺伝子病の治療では、まさに、遺伝子改変で正常化した細胞による組織の永続性こそが治療成功の鍵となります(なお、癌治療については、免疫を高める効果を期待したワクチン型もある・・・)。遺伝子の塩基配列に起因する疾病の治療法では、決して免疫反応が起きてはならないのです。この点からしますと、人工mRNAは、短期に消滅する性質なのか、それとも、長期的に残存する性質のどちらなのか、判然としなくなります。仮に後者ですと、ワクチン投与でも起こりえることですし、それは、上述した懸念の現実化を意味してしまいます。因みに、最近に至り、コロナワクチンには多数のDNAの断片が含まれているとの指摘もあり、逆転写のリスクは無視できなくなりつつあります。

 もっとも、ワクチン用と治療用の人工mRNAとでは、その構造に違いがあり、前者は短期で消滅し、後者は長期にわたって分解されずに残留するように開発されているとも考えられます。あるいは、治療の場合にも、mRNAの分解時期を見計らって人工mRNAを繰り返し再投与する必要があるのかもしれません。何れにしましても、この問題、人工mRNAに関するワクチンと治療法との違いについての十分な説明がかけているため、安心するように言われても、安心できないのです。

 今日、数万人ともされる超過死亡者数の急激な増加は、コロナワクチンを原因とする説が有力です。国民の多くもコロナワクチンの安全性を疑っているのですが、仮に、同技術が多くの人々の命を奪ったとしますと、同技術にも‘オッペンハイマー問題’に直面するかもしれません。科学技術とは、開発者自身の思いを離れて思わぬ目的に利用され、開発者としての栄誉と良心との間の葛藤に苦しむこともあるのですから。人体の仕組みにはまだまだ人知の及ばない領域が残されていますので、ましてや人工mRNA技術の開発と実用化に際しましては、核技術よりもより一層慎重な姿勢と安全チェックが必要なのではないかと思うのです。

*記事の内容に誤りや混乱があったため、2023年10月4日修正しました。申し訳なく、お詫び申し上げます。

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