万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

‘悪党’のみが核を保有する世界

2023年02月06日 11時11分58秒 | 国際政治
核兵器につきましては、その破壊力の凄まじさ、並びに、都市攻撃を前提とした民間人殺戮の非人道性から、この世からなくなるべき存在として広く認識されています。このため、国際社会では核技術の拡散を防ぐために核拡散防止条約が成立し、1970年代からNPT体制が構築されると共に、昨今では、核兵器の全面廃絶を目指す核兵器禁止条約まで出現しています。核拡散防止条約であれ、核兵器禁止条約であれ、少数かゼロかの違いがあっても、何れの条約も、核兵器=絶対悪の構図からのアプローチです。しかしながら、両条約とも、一つの重大な側面を見落としているように思えます。それは、既に核を保有する核兵器国が‘善’である保障はどこにもない、という点です。

NPT体制の成立に際して、アメリカをはじめ核保有国が他の諸国に核保有の道を断念させるために使ったロジックとは、核兵器は非人道的な兵器である⇒悪党国家が保有したならば大変なことになる⇒核兵器は拡散させてはならい⇒治安維持の責任を負う軍事大国には核が必要(もっとも、将来的には放棄する‘つもり’・・・)、ということになりましょう。NPTは、いわば、国際社会の‘銃刀法’のようなものであり、警察官のみが銃を保有する状態が、犯罪者を取り締まり、治安を維持することができるという論理です。

しかしながら現実を見ますと、この論理の前提条件は、最初から存在していませんでした。NPTでは、1966年までに核兵器を爆発させた国に核兵器国としての合法的な立場が認められているのであって、核兵器国=善=警察役という条件付けはなされていないのです(国連常任理事国が条件でもない・・・)。実際に、共産主義国家であったソ連邦という暴力主義国家が既に核兵器を保有していましたし、中国も、条約上の核兵器国の条件を満たしてしまっていたのです(NPTの採択は1963年でありながら、中国は1964年に核実験を実施している・・・)。これでは、暴力団に警官用の拳銃の所持を許したに等しくなります。

また、近代以降の歴史を振り返れば、イギリスやフランスのみならず、アメリカもまたフィリピン等を植民地として領有してきた所謂‘悪’の過去があります。国連安保理にあっては常任理事国の地位の地位にありながら、法律上の立場と現実とは必ずしも一致しておらず、法の支配を掲げる自由主義国とはいえ、‘世界の警察官’としての信頼性は必ずしも高いわけではないのです。アジア・アフリカ諸国にあって、しばしばこれらの諸国に対する反発が起きるのも、表看板として掲げる理想とは裏腹の言行の不一致という偽善性を見抜いているからなのでしょう。しかも、オバマ元大統領は、あっさりと‘世界の警察官’の役割の放棄を宣言してしまいました。

そして、極めつけと言えるのが、イスラエルや北朝鮮による核保有かもしれません。イスラエルといえば、モサドとういCIA並に全世界的に活動を展開している情報機関を有しており、世界権力とも繋がるグローバルなユダヤ系ネットワークとの関連が指摘されています。中東戦争を背景とした自衛のための措置であったとしても、ユダヤ人の利益追求にのみ利用されることでしょう(仮にイスラエルの保有を認めるならば、アラブ諸国にも認めるべき・・・)。また、北朝鮮に至っては、世界屈指の暴力主義国家にして無法国家であり、凄まじい国民虐待に留まらず、国際法の規範からも著しくかけ離れた行動で知られています。NPTの締約国でありながら、朝鮮半島非核化宣言も米朝合意も反故とし、六カ国協議で時間稼ぎをしながら国際社会を騙して核を保有したのですから。NPT体制への参加を諸国に促すに際しては、上述したように‘悪党国家が保有したならば大変なことになる’と力説されたのですが、まさにNPT体制下において、この恐れていた事態が現実となってしまっているのです。

インドとパキスタンにつきましては、印パ戦争を背景とした相互抑止のための保有ですので印パの両国については別に論じるとしても、今日の国際社会は、悪党のみが核を保有する世界といっても過言ではありません。すなわち、NPT体制は、その発足当初から、大手暴力団に警官の制服と拳銃が与えられる共に、他の警察官にも前科があるために全幅の信頼を置くことができない体制であると言えます。そして、遂には、最も危険な狂信的暴力団の手にも拳銃が渡り、世界権力の‘鉄砲玉’ともなりかねない状況にあるのです。

悪党のみが核を保有する現状は、善良な非核兵器国にとりましては、悪の支配を意味します(オセロの四隅を悪党達に独占されている・・・)。徒に‘核なき世界’の理想を追い求めるよりも(悪党は悪党であるが故に、自らの支配力の源泉を手放すはずがない・・・)、悪党による核の独占という、人類が現実に直面している問題の解決に努める方が、余程建設的ですし、平和に資することとなりましょう。NPT体制の見直しの必要性は、悪しき現状からの脱出という意味において、決して否定できないのでは亡いかと思うのです。

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