万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

株式会社は人類の理想の企業モデルか?

2019年04月28日 13時21分00秒 | 国際経済
 株式会社は自分自身が生まれる前から存在しておりますので、誰もが至極当たり前の企業の組織形態であると見なしがちです。しかしながら、人類史を振り返りますと、株式会社の誕生はヨーロッパ各国において東インド会社が設立された17世紀初頭に過ぎず、その歴史は400年ほどでしかありません。

 しばしば、‘常識を疑え’と言われますが、何かしらの解決し難い問題を抱えたり、改善を探るに際して、原点に帰ってその根本を疑ってみることは重要です。そこで、ここでは、今日、経済における主要プレーヤーである企業の最も一般的な形態である株式会社について疑ってみたいと思います。株式会社とは、今日の経済にとりまして最適の形態なのでしょうか。

 世界最初の株式会社はオランダ東インド会社とされ、それは1602年3月の出来事です。もっとも、最初から一つの‘株式会社’として設立されたわけではなく、当時、航海会社(貿易会社)の乱立から生じた東方貿易品の仕入れ価格の高騰と値崩れに対する危機感から、政府が独占権を与える形で複数の会社を統合したものでした。つまり、同社の資本も民間商人等を含む‘寄せ集め’とならざるを得なかったのです。また、そもそも、海洋貿易は、貿易船の調達や水夫の雇用等のための元手がかかる上に嵐による遭難や沈没といったリスクも高く、それ故に、一人の商人が個人的に手掛けるには荷が重すぎる事業でした(一夜にして破産する可能性も…)。このため、複数の商人や金融家が資金を出し合う形態の方が適しており、資本を証券化するという分散的な手法はリスク管理の面からは理に適っていたとも言えます。

 加えて、東インド会社が設立された時代とは、欧州各国がアジアやアフリカの植民地支配を強める時期でもありました。このことは、政府から独占の特許状を付与された東インド会社にあっては、純粋なる貿易会社ではなく、植民地経営をも担う組織体としての政治的な側面を与えることとなります。株式会社の形態において、株主に対して総会での議決権といった経営に介入する権限を付与している理由は、案外、その出発点における政治性に求めることができるかもしれません。東インド会社にあっては、経営者、株主、並びに政府が混然一体化しているのです。

 株式会社誕生の経緯にはそれ独自の時代背景を見てとることができるのですが、同形態は、起業に際して多額の資本の調達を要する事業にとりましては好都合であったため、貿易会社以外の事業にも用いられるようになり、今日、最も一般的な企業形態として定着します。しかしながら、その出発点を検討してみますと、当時の時代背景を引き摺っている故に、必ずしも、現代という時代の経済に適合しているわけではありません。例えば、強すぎる株主権、あるいは、経営と株主との未分離は、幾つかの問題を提起しています。

通常、債務者が債権者に対して債務を返済すれば、両者の関係は完全に切れます。ところが、株式会社の発行済みの株券には、証券取引所の登場もあって、社債や直接融資とは異なる永続性という特徴があるのです。このため、企業は、常に株主から経営介入を受ける立場にあり続けます。つまり、株式会社の形態は、株主側に有利な条件を与えているのです。

また、株券の保有が経営権と結びついているため、過半数以上の株式の購入、あるいは、主要株主の地位を手にすることが、同企業の取得と同義に解されています。今日、敵対的買収であれ、友好的買収であれ、M&Aが極めて活発なのもこの仕組みによるものです。今般、日産と仏ルノーとの統合問題で注目を集めているように、複数の企業の上部に持ち株会社を設ける方式は、企業結合の一つのスタイルともなっています。いずれにせよ、株式取得による企業買収は、企業側からしますと、自社の主体性、あるいは、独立性を失うことを意味します。人身売買とまでは言わないまでも、たとえ相手企業が抵抗しても、‘お金で買い取る’ことは可能なのです。この側面は、競争法の観点からすれば、独占・寡占のみならず、個々の企業の自由な経済活動を阻害する集中の問題をも提起しています。

加えて、証券市場を舞台とした投機行為がバブルとその崩壊を、幾度となく引き起こしてきました(金融家による仕掛けや八百長もあり得るかもしれない…)。経営に問題がなくとも、金融危機の発生によって経営が傾いたり、株式の暴落で企業が潰れるケースもあるのですから、経済や人々の生活の安定という側面からしますと、罪深い面でもあります。

グローバル化の中で経済大国に成長した中国の巨大企業は‘現代版東インド会社’とも言え、政治と経済が混然一体化しています。株式会社の制度が株主に有利である点を考慮しますと、この形態は、中国、あるいは、同国の債権者の世界支配戦略にも有利に働くことでしょう。共産主義はもっての他としても(究極の独占であり、改悪にしかならない…)、政治と経済の両面において様々な問題が噴出する中、その原因探求と解決への道を探るにあって、株式会社の形態を、そのプラス面とマイナス面の両面を含めて一から見直してみる作業も決して無駄ではないように思えるのです。

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