万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

「資産運用特区」は現代の租界地?-止まらない岸田首相の日本植民地化

2023年09月22日 09時34分12秒 | 国際経済
 報道に依りますと、日本国の岸田文雄首相は、アメリカを訪問中の9月21日に「ニューヨーク経済クラブ」にて講演し、「資産運用特区」の創設案を公表したそうです。同特区を設置する目的は、国民の資産形成の促進と説明されているのですが、この説明、本当なのでしょうか。

 「資産運用特区」が特区と表現される理由は、他の特区と同様に日本国の国内法の適用が緩和されたり、優遇措置等が設けられることに依ります。いわば、特権を与えられた特別地区となるのですが、今般の「資産運用特区」についても、海外の優秀なファンドマネージャーを招くために「英語のみで行政対応が完結できるよう規制改革し、ビジネス環境や生活環境の整備を重点的に進める」としています。英語対応の対象がビジネスや生活環境にまで広く及びますので、日本国内に英語が事実上の公用語扱いとなる外国人の居住空間が出現することとなりましょう。「資産運用特区」は、いわば現代の租界地と言っても過言ではないのです。日本国内にあっては、金融機関の本店は首都に集中していますので、「資産運用特区」候補の最有力地は東京となりましょう。

 岸田首相は、2022年に策定した「資産所得倍増プラン」で掲げた貯蓄から投資への流れにあって、「資産運用特区」は、日本国民の資産形成に資するとしています。しかしながら、同特区を公表した場所が、日本国内ではなく、グローバル金融の中心地とも言えるニューヨークであり、しかも、「ニューヨーク経済クラブ」の会長はNY連銀のジョン・ウィリアムズ総裁というのですから、首相の説明は怪しいものです。消費税率上げの前例もあるように、日本国の重要な政策が海外にあって、あたかも‘国際公約’の如くに公表されることが少なくありません。‘国民の資産形成促進’も日本向けの説明であって、真の目的は、同クラブに参集した世界屈指の金融ファンドや投資家達を前にして、ビジネスチャンスを提供しようとしたのかもしれません。国民のための政策であれば、国会や首相会見の形で公表するでしょうから、その実像は、日本国民の資産を投資資金としてグローバル金融に捧げるための、抜本的な環境整備であったかもしれないのです。

 同特区新設の目的がグローバル金融への奉仕であるとしますと、事実上の‘租界地化’の意図も見えてきます。岸田首相の説明では、海外の優秀なファンドマネージャーの活動を支えるためとしていますが、極めて少数、おそらく一桁か二桁ぐらいの数となる外国人ファンドマネージャーのために英語を事実上の公用語とする特区を設けることは、費用対効果からしますとあり得ないことです。家族の帯同をも考慮しますと、警察署や交番並びに消防署等を含む行政機関のみならず、交通機関、病院、学校、図書館、美術館等の公共施設でも英語対応が迫られ、その費用は膨大となりましょう。しかも、その全費用は、日本国民が納税という形で負担するのです。

 となりますと、特区における英語の準公用語化は、外国人ファンドマネージャー向けなのではなく、より広い範囲の海外ファンドの呼び込み政策であるとも解されます。‘外国人ファンドマネージャー’と説明すれば、雇用者として日本国の金融機関が想定され、国内金融市場の開放策という色合いが薄まります。競合関係となる国内金融機関やファンドをはじめとする警戒論も抑えることができますので、敢えて‘外国人ファンドマネージャー対策’を表向きの口実としたのでしょう。「資産運用特区」では、有利な条件の下で海外ファンドや投資家がビジネスを展開できますので、‘海外から投資を呼び込む’という名目で日本の資産を売却されると同時に、国内からの資金流出は加速されることでしょう。実際に、首相は、報道での華々しい特区案の陰で、金融市場における新規参入を促すとも述べています。

 日本国内では早期の首相退陣を望む国民の声が高まっていますが、岸田首相の支持率低下の最大の原因は、露骨なまでの海外重視・国内軽視の姿勢にあるように思えます。特区の新設に留まらず、「ニューヨーク経済クラブ」では様々な施策を公表しており、その中には、「投資家の意見を政策に反映させるため、日米を主体とした「資産運用フォーラム」を立ち上げる」というものもあります。そして、首相による海外優遇政策が世界権力への奉仕に対する見返りとしての首相の座の維持であるならば、国を売り渡した政治家として、日本国の歴史に悪名を残すのではないかと思うのです。

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