万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

「香港安全維持法」が問う中国共産党の正当性

2020年06月21日 12時33分17秒 | 国際政治

 国際社会からの強い批判をものともせず、中国の北京政府は、香港に国家安全法を導入する方針を貫く構えを見せています。今般、全人代常務委員会によって「国家安全維持法」の骨子が公表され、その全容が明らかになりましたが、同法が実施されますと、香港に設置される国家安全維持公署の下で、中国当局が直接に香港市民を取り締まることができるようになります。同法は香港の法律に優位しますので、香港の民主化運動は、弾圧の危機に直面しているのは言うまでもありません。

 それでは、「国家安全維持法」は、どのような行為を取り締まりの対象としているのでしょうか。同法では、取り締まりの対象として(1)国家の分裂(2)中央政府の転覆(3)テロ活動(4)外国勢力などと結託して国家の安全を脅かす、という4つの項目を挙げているそうです。これらの4つの行為、実のところ、中国共産党が過去において行い、また、現在なおも行っている行為に他なりません。

 (1)の国家の分裂については、中国共産党は、中華民国時代の国共合作にあって、国民党に敢えて闘いを挑み、国土を引き裂く内戦を引き起こしています。国共内戦の当事者なのですから、同法に照らしますと、国家分裂罪に当たるということになりましょう。そして、実際に、共産革命と内乱での武力行使と暴力を以って中華民国政府を転覆させております。中国共産党は、(2)の中央政府の転覆の罪も犯しているのです。そして、共産暴力革命には(3)テロ行為は付き物です。中国共産党は、中華人民共和国の建国に至る過程にあっても、また、建国後にあっても、恐怖による支配という意味においても、テロ活動を行ってきているのであり、犠牲者となった無辜の国民の人数は計り知れません。そして、何よりも、中国共産党には、外国勢力と結託して中国を乗っ取ってしまった前歴があります。そもそも共産主義思想はカール・マルクスを祖とする外来思想ですし、中国共産党の設立そのものも、コミンテルンといった国際共産主義運動の一環に他なりません。コミンテルンの本拠地とされたのはソ連邦でしたので、今日の一党独裁体制とは、外国との結託によって誕生しているのです。

 過去における自らの行動を振り返りますと、中国共産党は、自らの罪の深さに顔色を失うことでしょう。さしもの中国も、同法案において自由や民主主義といった諸価値を正面から否定はできなかったのでしょうが、同法案において自らが‘罪’と定めた行為によって現行の国家体制を成立させた中国当局は、‘何故、これらの行為が罪となるのですか’と問われた場合、その回答に窮するのではないでしょうか。たとえ新たな体制への移行が物理的な力によるものであったとしても、その新体制が、国民に対して体制選択の自由を認め、平和裏での制度改革の手続きを定める民主的な体制であれば、過去の物理的な力の行使も、旧体制の非民主的な要素を以って一先ずは正当化し得るかもしれません(他に手段がなければ…)。しかしながら、中国のように、暴力革命によって成立した国家体制が、国民に体制選択の権利を与えない場合には、上記の‘罪’を正当化し、現政権の正当性を主張し得るような合理的な説明を見つけ出すことは不可能と言わざるを得ません。

 結局、現在の中華人民共和国とは、中国共産党という外来のイデオロギー、並びに、国際勢力に支えられた一派が暴力と徹底した国民監視体制によって国家権力を独占している国家であり、今般の香港安全維持法の制定も、古今東西を問わず各国で散見される、権力者による自己保身、あるいは、権力独占のための措置に過ぎないということになります(統治の正当性の欠如…)。暴力による権力の奪取や独占に終止符を打つことができるのは、民主的体制への移行をおいて他にはないのですから、中国国民こそ、共産主義イデオロギーとそれが支える暴力主義的な体制と決別し、その弾圧的な支配から解放されるべきではないかと思うのです。因みに、香港安全維持法は6章66節から成るとされています(‘666’という数字は、聖書にあって獣の刻印を意味する…)。

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2 コメント

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何を言ってんだか (Unknown)
2020-06-22 05:14:53
 国家の分裂等々をどこの国でも禁じるでしょうが?アメリカは構わないのかな?
 内戦は蒋介石が仕掛けたものでしょうが?蒋介石旗下の軍も毛沢東を親分に選んだから内戦は共産党の勝利となった。ソ連を含めてすべての国の予想に反して。
 香港はイギリスが戦争で奪った植民地だったのだから中国がイギリスと戦争して奪回しても正当。だが香港は国際資本の拠点だったので、それとの力関係、さらに金融を学ぶ必要などから一国二制度を受け入れたに過ぎない。
 イギリスが元植民地人の香港市民にイギリス市民権を与えれば済むこと。不満なものはイギリスへ移住すればよい。北京政府も出て行ってくれてもかまわないと言っている。埋め合わすチャイニーズなどいくらでもいる。とにかく香港は中華人民共和国の一部なのだ。国旗も国家も共産党も嫌いならイギリスでもカナダでもオーストラリアでも移住すればよいだけのことだ。日本が嫌いなら出て行けよと言っているネトウヨなら当然、こういうべきだろう。
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Unknownさま (kuranishi masako)
2020-06-22 12:30:48
 今般のコメントにつきましては、本日の記事にて回答いたします。なお、Unknownさまが、’庶民の味方’を自称しながら、その実、民主主義を否定し、人々から基本的な権利や自由を奪おうとする、あるいは、政治的な無関心に誘導しようとする’庶民の敵’であることがよくわかりました。また、香港の人々は代々同地に住んできた人々ですので、北京政府が同地から追い出すような行為は、ジェノサイドの一種とも言えるのではないでしょうか。
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