万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

国連へのWHO調査要請は名案―外堀を埋められる中国

2020年04月25日 13時51分02秒 | 国際政治

 新型コロナウイルスのパンデミック化の事態を受け、国際社会においてWHOと中国との癒着が問題視される中、アメリカの共和党上院議員が国連のグテレス事務総長に対してWHOの調査を要請する書簡を送ったそうです。この方法、名案なのではないかと思うのです。

 武漢にあってSARSに類する深刻な感染病が発生している事実を知りながら、中国は、同情報を隠蔽し、必要となる措置を採らずに全世界に感染を拡大させました。しかも、新型コロナウイルスの出所については武漢のウイルス研究所である疑いが濃厚であり、誰もが中国を怪しんでおります。アメリカでも中国の責任を問う声が日増しに高まっているのですが、当の中国は、自国に対する責任追及に‘逆切れ’こそすれ、武漢のウイルス研究所に対する現地調査をも拒絶しており、誠実に対応つもりは毛頭ないようです。巨額の賠償問題も生じますので、同国は、真相を闇に葬りたいのでしょう。

 かくして中国は目には見えない‘紅いカーテン’を固く閉ざして外の世界から自らを遮断し、自国を隠れ処にしようとしているのですが、このままでは、同国は、国際的な責任から逃げおおせてしまうかもしれません。そして、アメリカも打つ手を失い、捜査の行き詰まりも予測されていた矢先に登場してきたのが、上述した国連に対する調査要請です。

 同案が名案である理由とは、調査の要求先が国連であり、かつ、調査の対象も中国ではなく、WHOである点にあります。仮に、直接に中国政府に対して自国を調査せよと要求しても、即、拒絶されるのは目に見えています。あくまでも白を切ろうとするかもしれず、先述したように、返答を催促してもなしの礫となりましょう。しかしながら、国連が調査の実施機関となり、その対象がWHOともなりますと、事情は違ってきます。何故ならば、両機関とも条約に基づいて設置されている国際機関ですので、共に国際社会に対して責任を負っているからです。国際社会において問題が発生した場合、国連は、中立・公平な立場から国際法に基づいてそれらを迅速に解決する義務を負いますし、WHOも国連の枠組み1948年に設立された専門の国際連合機関の一つですので、中国のように、主権を盾に国連による調査を拒絶することはできないからです。

 中国には‘将を射んと欲すれば先ず馬を射よ’という故事がありますが、まさにこの言葉の通り、国連による厳正な調査の結果、WHOと中国との腐敗した関係が明らかとなれば、当然に、中国の罪も白日の下に晒されることとなりましょう(既に、テドロス事務局長への賄賂や便宜供与などが囁かれている…)。本丸である中国を落とすには、遠回りに見えながらも‘チャイナ・マネー’に染まったWHOの腐敗体質を暴く方がむしろ近道なのです。国連によるWHOの調査によって、中国は、いわば外堀を埋められてしまうことになるのです。

 もっとも、難があるとすれば、上院議員団からの要請であり、アメリカ政府から、すなわち、加盟国政府の立場からの要請ではないため、グテレス事務総長が同要請に応じない可能性はないわけではありません。しかしながら、WHO、並びに、中国に対する疑惑が深まる中、同事務総長が調査を躊躇するとなりますと、国連もまたWHOと同類と見なされ、国際社会からの信頼を失うことになりましょう。また、国家レベルに置き換えますと、法律上の罪は公務員の贈収賄罪、即ち、WHOの事務局長の汚職ということになるのですが(WHOが収賄側で中国が贈賄側…)、こうした国際公務員による行政組織内部における犯罪に対しては、国連は十分に対応し得る仕組みを備えていない現状も難点となります(国際警察組織は存在せず、また、ICJは国家間の法律的紛争にしか対応していない…)。国連、並びに、国連の専門機関には、内部統制や外部チェックの仕組みが欠けているのであり、それ故に、これらの組織は腐敗の温床となり、中国にいとも簡単に乗っ取られてしまったとも言えましょう。しかも、今般の新型コロナウイルス禍にあってWHOが医療物資を中国企業に大量発注した事例が示すように、国際組織は巨大な利権をも有してもいるのです(新型コロナウイルス問題は、こうした国際機関の持つ欠点をも白日の下に晒す機会となったのでは)。

 同案をより確実に実現するためには、トランプ大統領にも働きかけるなど、アメリカ政府、あるいは、他の加盟国諸国と共同で正式に事務総長に調査を依頼する、あるいは、安保理に提起するといった方法もありましょう(国連憲章第6章上の問題とすれば、中国は拒否権を使うことはできない…)。もしくは、国連総会において事務総長に同件に関する調査を委任すれば、事務総長には同任務を遂行する義務が生じます(国連憲章第98条)。また、強制捜査権を付与された中立・公平な調査団を結成する必要もありましょう。

今後については難しい局面も予測されますが、潔白を主張する限り、中国にはこれらの調査を拒む理由はないはずです。中立・公平な立場による調査の実施は、中国にとりましても反論のチャンスとなるのですから。何れにいたしましても、今般のアメリカの議員団による国連に対する調査要求は、中国の外堀を埋めることになったのではないかと思うのです。a

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