万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

台湾問題は判断ミスの積み重ね?

2022年12月23日 10時39分08秒 | 国際政治
1972年9月29日における日本政府による一方的な日華平和条約の終了宣言の背景には、同日に表明された日中共同宣言の成立があったことは疑い得ません。何故ならば、同宣言の三には、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、「ポツダム宣言」第八項に基づく立場を堅持する。」とあるからです。

ここで再び、「ポツダム宣言」という戦時中の共同宣言の問題に突き当たるのですが、その前提となった「カイロ宣言」と共に、戦時中の宣言は講和条約の成立によって効力を失います。しかも、「カイロ宣言」の場合には、連合国とは申しましても、中華民国、アメリカ、イギリス三国を軍事的に指揮していた蒋介石総統、ルーズベルト大統領、並びに、チャーチル首相の三者合意に過ぎません。両宣言とも、その当事者は中華民国の蒋介石総統であったわけですから、これらの宣言は、「サンフランシスコ講和条約」並びに「日華平和条約」の締結をもって失効しています。

また、「カイロ宣言」に述べられている‘中華民国による台湾回復’も、歴史的・法的根拠を欠いており、不当な要求となります。仮に、これを文字通りに実行すれば、「カイロ宣言」でも謳われている連合国諸国の基本合意である不拡大方針にも反することとなりましょう。戦後に至り、台湾の住民や歴史的変遷等を厳密に調査すれば、講和条約締結に向けた戦後処理の過程で、同要求は、アメリカが見直す、あるいは、他の連合国諸国から異議が唱えられたかもしれませんし、領域の‘回復’や‘返還’という形ではなく、台湾において本土への帰属、日本国からの正式な独立、主権国家の地位獲得などを問う住民投票を実施し、その結果をもって法的立場を正式に決定したかもしれません。

これらの観点からすれば、日本国には、両宣言に拘束される、あるいは、それを履行する法的義務もなかったはずなのです。それにも拘わらず、当事の大平外務大臣は、既に消滅したはずの「ポツダム宣言」を中華人民共和国の立場を重んじて敢えて持ち出し、台湾の法的地位に関する問題を蒸し返してしまっています。あたかも、「カイロ宣言」や「ポツダム宣言」の当事国が‘中華人民共和国’であったかのように・・・。

1895年から1945年までの50年間、台湾を領有していた日本国は、1972年9月の日中共同声明に際し、「日華平和条約」に見られる不明瞭性に輪をかけて、台湾をさらに曖昧な状態に陥れることとなりました。しかも、同声明では、中華人民共和国の立場を理解し、尊重するとも述べているのですから、一つ間違えますと、中華人民共和国による台湾の武力併合を半ば認めたとも受け取られかねない危険な文言であったことになります。仮に中国による領土要求を歴史的にも法的にも正当なものとするならば、台湾政府が中国の領域を不法に占領していることとなり、中華人民共和国による武力行使は自国の領土を保全するための正当なる‘自衛権’の発動となりましょう。

それでは、台湾は、中国が主張するような、法的には国家ではなく、中国の領土の一部を占領し、ISのように一定の地域に対して不当な支配を及ぼしている‘反政府勢力’の一種なのでしょうか。この点、1971年10月25日に国連総会にあって成立した「アルバニア決議」を見ましても、少なくとも台湾の国家としての地位を否定している訳ではないことは確かです。同決議への抗議の意味を込めて蒋介石総統が国連を脱退したため、台湾が国家としての地位を失ったかのようなイメージを受けますが、この時、台湾が失っているのは‘中国の代表’、即ち、安全保障理事会の常任理事国という地位です。国連を脱退したことで、台湾は、むしろ自らの国家としての法的地位を不安定化しているのです。

なお、日中共同声明の二項にあって、日本国政府は、中華人民共和国政府を中国の唯一の合法的政府として承認していますが、‘国家承認’と‘政府承認’とは違いますので、この一文をもって台湾の事実上の国家としての地位が否定されたわけではありません。また、中国という国家を中国本土に限定して解釈すれば、同声明は、中国に台湾併合の根拠を与えるものでもなくなります。そして、国民党一党独裁体制が終焉した1988年1月をもって、台湾は、中華人民共和国とは全く別の国として再出発したとも解されましょう。

以上に台湾問題についてその要因を探求してきましたが、今日にあって中国による武力併合の危機が生じているのは、共産党一党独裁体制を敷く中国の覇権主義並びに暴力主義的行動様式に加え、過去における国民党、台湾政府、アメリカ、日本国、国連など、様々なアクター達が、判断ミス、並びに、解釈が曖昧な軽率な文言を含む共同文書の作成を積み重ねた結果であったと言えます。あるいは、これらの為政者や政府は、第三次世界大戦に向けて裏から巧みに誘導されていたのかもしれません。何れにしましても、戦争を回避し、台湾問題を平和的に解決するためには、複雑に絡まった糸を解きほぐし、今日の誰もが納得し得る価値観や原則に照らして筋を通すことが重要となりましょう。そして、国際司法機関における確認訴訟こそ、同問題の最も適した解決方法ではないかと思うのです。(つづく)。

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