本日の報道に依りますと、世界各地からイスラエルによる非人道的行為に対する批判の声が上がり、国連総会でも休戦を求める決議が成立しながら、ネタニヤフ首相は、地上侵攻の計画をあくまでも諦めるつもりはないようです。アメリカのバイデン大統領の進言を受け入れて、計画実行の時期は遅らせてはいるものの、既に戦闘は‘第二段階’に入ったと述べ、本格的な地上戦に向けての準備を整えています。
ハマスからの攻撃が奇襲であったにも拘わらず、イスラエルが地上侵攻の段取りを付つけているとしますと、おそらく、奇襲を受ける前から、イスラエル政府あるいは軍部にあって、水面下にてガザ地区等に対する‘地上侵攻計画’が策定されていたのでしょう。奇襲が真に青天の霹靂であれば、即時的対応として地上侵攻を首尾よく実行できるはずもありません。地上侵攻作戦をスムースに展開しようとすれば、計画の立案から軍事訓練に至るまで、一定の時間を要するからです。この点に鑑みますと、ハマスによる奇襲は切掛に過ぎず、むしろイスラエルは、虎視眈々と開戦のチャンスを狙っていたのかもしれません。
イスラエルの言動から垣間見える計画性はハマス偽旗説を補強するのですが、イスラエル国民にして世界的なベストセラーとなった『セピエンス全史』の著者であるユヴァル・ノア・ハラリ氏も、イスラエル・ハマス戦争について意味深長な文を公表しています。イスラエル紙「ハアレツ」への寄稿文なのですが、同文は、地上戦を前にしたイスラエル政府に宛てた要望とも受け止められています。
同寄稿文において、ハラリ氏は、第二次世界大戦にあって英米両首脳の合意事項として1941年8月14日に公表された大西洋憲章を持ち出しています。同憲章には、世界大戦を前にした連合国側の基本原則が述べられており、ハラリ氏も指摘しているように、不拡大方針、国家体制の選択に関する国民の決定権、当事国双方の国民の自由な希望表明に基づく領土の変更、武力の使用の放棄(ただし、国際的な安全保障制度が確立されるまでは、暴力主義国家の武装解除のための武力行使は許す?)などが列挙されています。また、軍事や政治の分野のみならず、戦後の国際経済・通商体制に関する条文も含まれています。第二次世界大戦後の世界大での自由貿易体制の構築は、既に1941年の時点で構想されていたこととなります。
大西洋憲章の公表が、日本軍による真珠湾攻撃に先立つこと凡そ4ヶ月、即ち、アメリカの参戦に先立っていたことは、同世界大戦の計画性が強く疑われる一因でもあります。アメリカの参戦は織り込み済みであって、機会が到来さえすれば計画をすんなりと前に進めることができたのです。真珠湾攻撃の一報を受け取ったチャーチル首相は、これで戦争に勝利したとばかりに小躍りしたとも伝わります(その一方で、山本五十六スパイ説やフリーメイソン説も根強く囁かれることに・・・)。今般のハマスによる奇襲も、大局的に見ますと、世界大戦への拡大を意図した計画的な行動にも思えてくるのです。
奇襲の真相については今後の検証を要するとしても、ハラリ氏は、イスラエル・ハマス戦争に際しても、第二次世界大戦に際しての連合国側の大義を掲げた大西洋憲章に匹敵するようなイスラエル憲章を作成すべきと提言しています。大西洋憲章が、戦争の目的を‘ナチスの暴政の最終的破壊’にとどまらず、勝利後における自由で民主的な国際体制の再構築に定めたように、イスラエル・ハマス戦争にあっても、多大なる犠牲を払う以上、イスラエル国民は、ハマスの壊滅という目的を超えた‘もっと奥行きがあり、もっと建設的な何か’を必要としていると訴えているのです。
戦後の国民の生活を慮っているとも解釈されますが、そもそもハラリ氏がイスラエル・ハマス戦争に際してもイスラエル憲章を、第二次世界大戦時の大西洋憲章に擬えた時点で、そこには、世界大戦のイメージが浮かんでいたはずです。一般的な国家間戦争、あるいは、‘テロとの戦い’とは異なる、国際秩序の再構築に繋がるような戦争への発展を想定しているからこそ、大西洋憲章が歴史的な前例として頭に浮かんだのではないかとも推測されるのです。
ハラリ氏は、AI等のテクノロジーが高度に発達した近未来において不死の神の域にアップ・グレードした人間、即ち、「ホモ・デウス」の出現をも予言していますので、‘イスラエル憲章’の内容は、大西洋憲章のものとは全く違ったものとなるのでしょう。ハマスによる奇襲は‘始まり’に過ぎず、その先には、イスラエル憲章と表現するよりは、ユダヤ憲章、あるいは、世界憲章といった名称が相応しい‘新世界秩序’が予定されているのかもしれません。
因みに、戦後のイスラエルの建国は、パレスチナ人の‘自由に表明した希望’に基づくものでもなく、大西洋憲章の方針にも反しています。人類の未来を見通すとされるハラリ氏の言動から、第三次世界大戦のみならず同戦争後の‘新しい世界’の出現のシナリオを読み取るのは、世界大にネットワークを張り巡らしているユダヤ・パワーに対する警戒心ゆえの、考え過ぎというものなのでしょうか。