万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

東京五輪中止・延期は検討すべきでは?

2020年02月14日 12時34分05秒 | 国際政治

 昨日、夏季に予定されている東京五輪に関して、国際オリンピック委員会と大会組織委員会との間で事前会合の場が都内で設けられたことから、両者による記者会見が行われました。この席で、組織委員会側の森喜朗会長は、新型コロナウイルス肺炎による東京五輪の中止・延期は検討されていないと説明しています。しかしながら、本当に大丈夫なのでしょうか。

 森会長は、ネットやSNSなどで東京五輪の中止説が蔓延していることに憤慨しているらしく、‘デマ’という言葉を頻繁に使いながら、同説の打ち消しに躍起になっておりました。おそらく、開催が不安視されている中、国民の動揺を抑え、不安感を取り除きたいと考えたのでしょうが、むしろ、逆効果のようにも思えます。

 不安が増す理由は、端的に申しますと、五輪の開催による感染拡大のリスクが極めて高いからです。本日、同ウイルスによる国内初の死亡例も報じられており、日本国内での感染者数は増加傾向にあります。最初の感染報告は、武漢からの中国人団体観光客を乗せた観光バスの運転手並びにバスガイドの方々でしたし、今なお感染者数が増え続けているダイアモンド・プリンセス号は豪華客船です。80代の女性とされる最初の死亡例も、親族の一人が感染の陽性反応を示しているタクシー運転手であったそうです。何れも’観光’や’交通’が関連しています。

これらの事例からしますと、新型コロナウイルスは、不特定多数の人々が比較的密封性の高い空間を長時間共有する場合、非常に強い感染性を示しているようです。空気感染は確認されていないとされますが、感染例からは、その可能性は否定できず、また、当然にオリンピックの会場は、感染の適性条件を満たしていると言わざるを得ません。全世界から多数の人々が人口密度の高い都市部に集まり、交通機関及び宿泊施設を利用し、試合会場に詰めかけて数時間の間、共に観戦するのですから、新型コロナウイルスの拡散には最適の環境です(応援に熱が入れば、飛沫感染も拡大)。団体競技であれ、個人競技であれ、選手たちもまた大半がチームで纏まって行動しますので、観客以上に感染リスクは高いかもしれません。

このように、オリンピックでは、開催期間中には中国を含めた全世界の諸国から選手や観戦者が集い、また試合後、あるいは、閉幕後には全世界に向けて散ってゆくわけですから、パンデミックを引き起こしかねないのです。実際に、新型コロナウイルスの感染リスクを回避するために、様々な国際イベントが既に中止されています。こうした諸点を考慮すれば、IOC並びに組織委員会の危機意識や危機管理の低さにこそ、不安を感じるのです。況してやオリンピック開催中、そして、開催後に‘如何なる事態が生じようとも、東京五輪の開催は決行する’という強い決意での発言であれば、一層背筋が寒くなります。

本来であれば、五輪の精神に鑑みれば、IOCは、人類のために現実を直視し、最悪の場合にどのように対応するのか、予め協議しておくべきだったように思えます。最低限、選手、並びに、観客の両面において中国の参加については見送りの方向で検討されるべきでしたし、開催が中止、あるいは、延期となる場合の条件についても説明すべきでした。例えば、新型コロナウイルスの毒性や感染力等について新たな事実が判明した場合とか、日本国内での感染者数や死亡者数、あるいは、世界規模での感染の広がりのレベルなど、予め判断基準が公表されていれば、大会関係者のみならず、日本国民も中止や延期に向けた準備に迅速に取り掛かることができます。むしろ、早急に中止・延期準備委員会を設立し、判断に必要となる情報収集に努めるとともに、実際に中止・延期になった場合の段取りを決めるなど、万が一に備えた方が主催者側としての責任を全うすることができましょう。‘東京五輪の中止・延期は検討されていない’と大見えを切るよりも、これらの可能性を率直に認め、中止や延期となる要件等について詳細に説明した方が、余程、日本国民のみならず、五輪に関心を寄せている全世界の人々を安心させるのではないかと思うのです。

 

コメント (2)
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