万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

生物兵器説否定論への素朴な疑問

2020-02-12 15:40:47 | 国際政治

 本日の東洋経済のオンライン版に、中国の独立系メディアの‘財新’の記事として「新型コロナウイルス「生物兵器論」は本当なのか 専門家見解「人工で製造することは不可能」とする記事を紹介しておりました。同ウイルスには、生物兵器用に遺伝子操作を加えたウイルスとする根強い生物兵器説があり、本ブログでも、その可能性について再三にわたり指摘しております。このため‘不可能’という文字に思わず反応してしまったのですが、本記事を読みましても、生物兵器説は否定しきれないように思えるのです。

 同記事は、財新の記者である 楊睿、馮禹丁、趙今朝の三名の中国人によるものであり、独立系メディアとはいえ、中国政府寄りのスタンスで執筆された記事であることは容易に推測されます。論旨は、アメリカのオハイオ大学の獣医予防学の王秋紅教授による「現在、遺伝子配列がすでに公表されています。この配列の分析から、ウイルスが人工的に製造されたことを示す箇所は見つかりません。実験施設から流出したものである可能性はないのです。完全に自然界のウイルスです」という主張に凝縮されています。つまり、新型コロナウイルスの遺伝子配列からは、人工的な遺伝子操作の痕跡はなく、疑惑の目が向けられてきた武漢の中国科学院武漢ウイルス研究所から漏洩したものではないと述べているのです。しかしながら、本記事を読みますと、新たな問題点も浮かび上がってきます。

 人工ウイルス説に関する科学的な証拠に基づく真偽については、まずは、新型コロナウイルス(2019-nCov)の遺伝子配列において遺伝子操作の痕跡の有無が重要となることは言うまでもありません。この点については、アメリカのペンシルバニア大学医学部の副研究員である李懿澤のインタビューとして、遺伝子挿入に際して配列のつなぎ合わせに際して使用される人工酵素であるエンドヌクレアーゼが見つかっていない点を証拠として挙げています。確かに、現段階のリバースジェネティクスにあってエンドヌクレアーゼを必ず使用し、かつ、同ウイルスの遺伝子情報を完全に解析した結果、同酵素が全く発見されなければ、新型コロナウイルスの人工ウイルス説は科学的に否定されます。

 しかしながらその一方で、同記事では、上記武漢の研究機関では、遺伝子の改造により機能獲得性研究が為されている実態を伝えています。実験室にあってSARSウイルスと中国馬蹄コウモリのウイルス(SHCO14-CoV)との間のキメラ・ウイルスが既に生成・同定されており、既に人工ウイルスが作成されているのです。1月22日には、北京大学、広西漢方薬大学、寧波大学、および、武漢生物エンジニアリング学院の研究者が、新型コロナウイルスは、コウモリのコロナウイルスと起源の未知なコロナウイルスによって作られた人工ウイルスであると発表しています。仮に、エンドヌクレアーゼの検出によって簡単に遺伝子操作の有無が分かるならば、かくも多くの専門家が人工ウイルス説を唱えたのも不自然です。また、インドの科学者は、4つの挿入配列の発見から新型ウイルスはSARSとエイズの両ウイルスのキメラとする説を唱えましたが(現在では一時的にウエブから消えている…)、この説の根拠となったのも、エンドヌクレアーゼの発見であったものと推測されます。

 もっとも、同挿入配列にてついては、アメリカのワシントン大学 医学部・ゲノム科学部のトレバー・ベッドフォード副教授のツイッターを紹介して反論しており、挿入配列、特にHIVと一致したとする配列は他の生物種ともマッチするので、HIVに由来するとは限らないとしています。新型コロナウイルスがエイズの特性を有さないとしますと、それ自体は免疫系の破壊作用が備わっておらず、潜伏期(無症候期)における感染を心配する必要もないこととなり、人類にとりましては朗報なのですが、同氏が‘挿入配列’という遺伝子操作に用いられる用語を使っているところが気になります。

また、同氏は、新型コロナウイルスと96%のDNA配列が一致する雲南キクカシラコウモリのウイルス(RaTG13)が自然に変異した結果、人の呼吸器細胞に感染するようになったと推測しているようです(同説の第一報では、船山コウモリウイルスであった…)。ところが、同説に従えば、共通の祖先から枝分かれしてからわずか25年から65年の間に残りの4%に当たる1100個のヌクレオチドが変化したことになります。こうした大規模な変異は人工ではありえない、と‘中国科学院の生物情報学分野の研究者の1人’も天然説を支持していますが、むしろ、凡そ半世紀足らずでかくも大量の遺伝子変異が自然に起きるものなのか、素朴な疑問も浮かびます。むしろ、上述したキメラ・ウイルスの作成のように、人から人へと感染する機能を獲得するように、感染に関わる遺伝子部分をごっそりと切り取って人工的に他のウイルスに組み込んだと考えた方が腑に落ちるように思えるのです(雲南キクガシラコウモリのウイルスと中国馬蹄コウモリのウイルスのキメラ?あるいは、センザンコウに寄生するウイルスとのキメラ?)。

人工説については、日本国の研究機関を含め、他の客観的な立場にある専門機関による新型コロナウイルスの遺伝子配列におけるエンドヌクレアーゼに関する調査の結果等を待つこととなりますが、現段階では、‘不可能’と言い切るのは語弊があるように思えます(エンドヌクレアーゼが本当に発見されなかったのか、否かをめぐっては、第三者による検証が必要なのでは。また、エンドヌクレアーゼ以外にも、遺伝子操作を可能とする人工酵素などの媒体が開発されている可能性もあるにでは)。

また、人工説が否定されましても、生物兵器説が否定されるわけではありません。自然界の新種のウイルスをそのまま使用する場合もあるからです。私は専門家ではありませんのでウイルスに関する理解は間違っているかもしれず、本記事に誤りがありましたならば申し訳なくお詫び申し上げます。その一方で、未だ同ウイルスの正体につきましては謎が残る状態にあり、この不明な部分こそ感染拡大、防止、予防にも大きな影響があると推測されます。まずは、政治的なバイアスを避けるためにも、中国以外の諸国における科学的な解明を急ぐべきではないかと思うのです。

 

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