中国、あるいは、ロシアによる北朝鮮に対する“核の傘”の提供が、今般の北朝鮮問題に対して有効な解決策となるか否かの判断は、まずは、北朝鮮による核の独自開発が真に“独自”であったのか、それとも、両国、あるいは、何れか一方の国による支援や黙認の下で行われたのか、そのどちらであるのかを見極める必要があります。何故ならば、後者であれば、北朝鮮の核開発は核保有国のコントロール下にあることとなり、解決の有効な手段となり得ますが、前者であるならば、この方法による北朝鮮の核放棄は極めて困難となるからです。
少なくとも公式には、両国とも、前者、即ち、北朝鮮が勝手に独自開発を進めたとする立場にあります。1994年の米朝枠組み合意では、中ロは傍観者を決め込んでおりました。中ロが参加した2003年8月に始まる六か国協議にあっても、水面下での北朝鮮との折衝は藪の中はありますが、交渉の席にあって、両国が解決案として“核の傘提供”を提案することもありませんでした。中国に至っては、北朝鮮の核保有には強固に反対する姿勢をとりながら、“核放棄の見返り”としての北朝鮮に対する支援策を、むしろ積極的な経済支援の口実している節さえ見えたのです。
また、1995年のソ朝友好協力相互援助条約の破棄が、北朝鮮からの“核の傘”の消滅を意味したとしますと、残るもう一方の中朝友好協力相互援助条約は2001年に更新され、以後20年間、即ち2021年までは有効なはずです。ソ(ロ)朝同盟から類推すれば、中国は、事実上、北朝鮮に“核の傘”を提供しているとも解されます。しかしながら、軍事同盟条約の文脈において、中国が国際社会に向かって、北朝鮮が自国の“核の傘”の下にあると明言したことはないのです。
両国は、NPTにおいて認められた核保有国であり、核拡散を防止する義務を負っています。日米同盟にも見られるように、核保有国による非核保有国に対する“核の傘”の提供は、核開発に関して強力な抑止力を発揮してきました。北朝鮮の擁護者の立場から、中ロは、しばしば“アメリカは北朝鮮の安全を保障すべし”と主張しますが、抑止力の観点からすれば、中ロが“核の傘”を北朝鮮に提供すればそれで済むはずでした(1995年以前の状態への復帰…)。それにも拘らず、何故、中ロとも北朝鮮の独自開発を黙認した、あるいは、放置したのか、これが最大の謎なのです。
こうした中ロの態度の背景として推測されるのは、(1)軍事同盟を介して朝鮮半島問題に巻き込まれることで、自国をアメリカからの核攻撃のリスクに晒したくない(北朝鮮を見捨てる…)、(2)表向きは無関係を装いながら、対米戦略の一環として秘密裏に北朝鮮に核をもたせ、“鉄砲玉”として利用する思惑があった、(3)北朝鮮の核開発を協力、あるいは、支援しているのは中ロ以外の別の国や国際勢力であるため、中ロとも、現実には、北朝鮮の軍事戦略に介入することができない立場にある…などです。
(1)と(2)の場合には、北朝鮮の核開発問題は、中ロの何れかの決断次第で解決可能であり、両国の何れかが北朝鮮に対して“核の傘”の提供を公式に確約すれば、北朝鮮も、核の廃棄に応じる可能性は皆無ではありません。ただし、北朝鮮に対する“核の傘”の提供という解決策は、過去における自らのNPT違反行為を認めるに等しい、あるいは、北朝鮮に核を保有させるという秘密戦略を放棄せざるを得ない状況に追い込まれることを意味します。このため、たとえ実現したとしても、厳しい国際的批判にも晒されますし、完全、かつ、確実なる核放棄のための措置や査察等の国際的な仕組みを要することでしょう。
その一方で、(3)である場合には、中ロによる“核の傘”の提供という手段に解決を期待することはできません。たとえ北朝鮮が中ロから申し出を受けたとしても、アメリカのみならず中ロに対する牽制手段として利用価値を計算し、北朝鮮は、あくまでも核を保持しようとすることでしょう。
以上に中ロによる“核の傘”提供という解決手段について考えてみましたが、この解決策の行方については、アメリカが中ロに対してこのような提案を行うのか、まずはこの点が注目されるところです。もっとも、今日に至るまで、この案が米中ロの何れの諸国からも提案されてこなかった事実こそが、その実現可能性が必ずしも高くないことを暗示しているようにも思えるのです。
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少なくとも公式には、両国とも、前者、即ち、北朝鮮が勝手に独自開発を進めたとする立場にあります。1994年の米朝枠組み合意では、中ロは傍観者を決め込んでおりました。中ロが参加した2003年8月に始まる六か国協議にあっても、水面下での北朝鮮との折衝は藪の中はありますが、交渉の席にあって、両国が解決案として“核の傘提供”を提案することもありませんでした。中国に至っては、北朝鮮の核保有には強固に反対する姿勢をとりながら、“核放棄の見返り”としての北朝鮮に対する支援策を、むしろ積極的な経済支援の口実している節さえ見えたのです。
また、1995年のソ朝友好協力相互援助条約の破棄が、北朝鮮からの“核の傘”の消滅を意味したとしますと、残るもう一方の中朝友好協力相互援助条約は2001年に更新され、以後20年間、即ち2021年までは有効なはずです。ソ(ロ)朝同盟から類推すれば、中国は、事実上、北朝鮮に“核の傘”を提供しているとも解されます。しかしながら、軍事同盟条約の文脈において、中国が国際社会に向かって、北朝鮮が自国の“核の傘”の下にあると明言したことはないのです。
両国は、NPTにおいて認められた核保有国であり、核拡散を防止する義務を負っています。日米同盟にも見られるように、核保有国による非核保有国に対する“核の傘”の提供は、核開発に関して強力な抑止力を発揮してきました。北朝鮮の擁護者の立場から、中ロは、しばしば“アメリカは北朝鮮の安全を保障すべし”と主張しますが、抑止力の観点からすれば、中ロが“核の傘”を北朝鮮に提供すればそれで済むはずでした(1995年以前の状態への復帰…)。それにも拘らず、何故、中ロとも北朝鮮の独自開発を黙認した、あるいは、放置したのか、これが最大の謎なのです。
こうした中ロの態度の背景として推測されるのは、(1)軍事同盟を介して朝鮮半島問題に巻き込まれることで、自国をアメリカからの核攻撃のリスクに晒したくない(北朝鮮を見捨てる…)、(2)表向きは無関係を装いながら、対米戦略の一環として秘密裏に北朝鮮に核をもたせ、“鉄砲玉”として利用する思惑があった、(3)北朝鮮の核開発を協力、あるいは、支援しているのは中ロ以外の別の国や国際勢力であるため、中ロとも、現実には、北朝鮮の軍事戦略に介入することができない立場にある…などです。
(1)と(2)の場合には、北朝鮮の核開発問題は、中ロの何れかの決断次第で解決可能であり、両国の何れかが北朝鮮に対して“核の傘”の提供を公式に確約すれば、北朝鮮も、核の廃棄に応じる可能性は皆無ではありません。ただし、北朝鮮に対する“核の傘”の提供という解決策は、過去における自らのNPT違反行為を認めるに等しい、あるいは、北朝鮮に核を保有させるという秘密戦略を放棄せざるを得ない状況に追い込まれることを意味します。このため、たとえ実現したとしても、厳しい国際的批判にも晒されますし、完全、かつ、確実なる核放棄のための措置や査察等の国際的な仕組みを要することでしょう。
その一方で、(3)である場合には、中ロによる“核の傘”の提供という手段に解決を期待することはできません。たとえ北朝鮮が中ロから申し出を受けたとしても、アメリカのみならず中ロに対する牽制手段として利用価値を計算し、北朝鮮は、あくまでも核を保持しようとすることでしょう。
以上に中ロによる“核の傘”提供という解決手段について考えてみましたが、この解決策の行方については、アメリカが中ロに対してこのような提案を行うのか、まずはこの点が注目されるところです。もっとも、今日に至るまで、この案が米中ロの何れの諸国からも提案されてこなかった事実こそが、その実現可能性が必ずしも高くないことを暗示しているようにも思えるのです。
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