万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

カトリックもチベット仏教の轍を踏む?

2016年11月01日 14時08分45秒 | 国際政治
司教任命権問題で合意か=バチカンと中国―米紙
 報道に拠りますと、司教の任免権問題で対立してきたバチカンと中国が歩み寄りを見せているようです。しかしながら、この妥協、カトリックがチベット仏教の轍を踏むことになるのではないでしょうか。

 ヨーロッパ中世史を彩る叙任権闘争は、政経二元論に基づく聖俗間の主導権争いでした。双方が自らの領域を踏み越え、相手方の領域に踏み込もうとする時、両者は、激しい火花を散らしたのです。一方、共産主義では、宗教は”麻薬”に譬えられるぐらいですから、完全に宗教の存在が否定されています。本来は妥協の余地はないはずなのですが、中国がバチカンに接近しているとしますと、それは、宗教の政治利用を目的としていると考えざるを得ません。中国側の思惑としては、共産主義に対する国民の信頼感が著しく低下し、政府批判も燻る中、近年、その数を増やしているカトリック教徒を”手懐ける”ことにあるのでしょう。中国では、後漢末には黄巾の乱、清朝末期には太平天国の乱などが発生した歴史がありますので、反政府的なカトリック集団の出現は、共産党一党独裁体制の維持には脅威となります。カトリック教徒を政府側に引きつけておけば、政権も安泰であると読んでいるのでしょう。

 中国の対バチカン宥和政策の目的が政治利用にあるとしますと、この妥協は、打算に過ぎません。そして、合意案として紹介されている叙任制度を見る限り、その懸念は深まるばかりなのです。何故ならば、中国側が事前に作成した候補者リストの中から法王が選ぶというのですから。法王が拒否した場合、新たなリストが作成されるそうですが、仮に、中国側が、共産党系の人物のみをリストアップした場合、誰を選んでも、何回リストを作成しても、結果は同じとなります。司教は、全て、共産主義者となるのです。同妥協案では、既に中国側が任命している8人の司教達の事後承認も条件としているそうですので、なおさらのことです。

 この手法、チベット仏教と酷似しています。チベット仏教でも、輪廻転生の判定によって選ばれるはずのパンチェン・ラマは、今や、中国共産党が選んでいます(偽パンチェン・ラマ問題)。バチカンと中国の打算に満ちた妥協は、結局は、双方のトップの権限強化に繋がりこそすれ、両者ともども、自らの信頼性を損なう結果を招くのではないかと思うのです。

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