万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

グローバリズムの移民増加メカニズムー人の移動自由化の結末

2016年11月14日 15時16分25秒 | 国際政治
安倍首相「日本がTPP主導」=発効厳しいと認識―参院特別委
 現在のグローバル市場とは、競争条件が平準化された単一市場ではなく、その実態は、グローバル企業が国家の政策や経済水準における格差を利用して利益を最大化することができる移動自由化空間です。確かに、グローバル市場の移動性を利用し得る企業にとりましてはメリットが高いのですが、そのデメリットは、先進国の勤労者層に集中します。そして、グローバリズムは、企業行動のみならず、個人レベルの行動においても、移民増加メカニズムを内包しています。

 企業レベルでは、労働コスト削減は外国人労働者の雇用において大量の移民を発生させますが、グローバリズムが目指す人の移動の自由化は、個人レベルでも移民を引き起こす強力な誘因となります。何故ならば、現在のグローバリズムの本質が移動の自由性にある限り、企業のみならず、個人の自由移動もまた、格差によって生じるからです。人とは、より良い生活を求めるものですので、移動によってより良い生活、つまり、所得を増やすことができるならば、移住を選択する人が出現しても不思議ではありません。むしろ、個々人が、自己利益の最大化を基準として考えた場合、移民が合理的な判断となるのです(移動するだけで”同一労働同一賃金”ならぬ”同一労働賃金倍増”…)。

 こうして、生活水準の低い国から生活水準の高い国への移民の流れが形成され、仮に国境における入国規制がないとすれば、格差が存在する限り、この流れを止めることはできません。イギリスは、英語がグローバル言語であったが故に、この現象が最も早く、かつ、極端に現れた国であり、EU域内における人の自由移動の原則は、イギリスへと向かう絶え間ない移民の流れを造り出しました。移民受け入れ政策を採用している他の諸国も、遅かれ、早かれ同様の問題に直面することでしょう。

 グローバリズムが内包する個人レベルでの選択が引き起こす移民増加メカニズムは、企業レベルの行動による中間層破壊メカニズムと相まって、先進国の一般国民に危機感を与えています。今や、シリコンバレーでさえ、移民の技術者が多数を占めているのですから。米大統領選挙においては、トランプ氏の支持者を感情的で反知性的な人々と見なす論評もありましたが、トランプ氏に一票を投じた米国民は、それが直感であったとしても、グローバリズムの負のメカニズムを認識している点において決して非論理的でも、反知性的でもなく、先を見通した結果であったのではないかと思うのです。

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