万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

チェチェン紛争―”強制による連邦”の問題

2009年04月17日 12時55分44秒 | 国際政治
チェチェン 露、独立派掃討「終了」 対テロ作戦地域から除外(産経新聞) - goo ニュース
 大航海時代を迎えた西欧諸国が先を争うように大海原に乗り出していった頃、ロシア帝国は、ひたすらに陸地の版図を南へ東へと拡大し、領土をシベリア全域に広げてゆきます。19世紀末には、南はトルコと境界を接し、東は日本海にまで到達するのです。

 武力を用いた他民族支配は、かつては最も容易に領土拡張の方法でした。しかしながら、19世紀中頃から民族独立運動が盛んになり、やがて民族自決が国際社会の原則として確立するようになると、帝国に支配されてきた民族の多くは独立を果たしてゆきます。こうして、20世紀にはトルコ帝国やハプスブルク帝国は歴史の舞台から消え、民族を枠組みとした数多くの国家が誕生するのです。その一方で、ロシアでは、ソ連邦が成立したこともあって、民族独立問題は表面的には封印されてきました。共産主義というイデオロギーは、民族や宗教の自己主張を糊塗する役割をも果たしたのです。

 ソ連邦の崩壊は、一世紀を経て民族問題の封印を解いたとも言えるかもしれません。その一方で、独立運動の発生を予期してか、現代のロシア憲法では、連邦を構成する各共和国の脱退権は認められていないのです。憲法上においては共和国の自治権が広汎に認められていながらも、チェチェン共和国のように武力闘争をも厭わない独立運動が起きる背景には、武力による領土拡大の過去を引き継ぎ、ロシアが”自発的な連邦”ではなく、”強制による連邦”であるという問題がありそうです。ロシアで起きている民族紛争は、独立権の承認や中央と地方との管轄権の引き直しなど、抜本的な仕切り直しが行われなければ、根本的には解決されないように思うのです。 

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コメント (4)
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