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抵当権の効力の及ぶ範囲の理解(旧司法試験民法 昭和53年第1問)

2013-06-26 01:14:02 | シチズンシップ教育
昭和53年・第1問
 Aは、その所有の事務所用建物について、債権者甲のために抵当権を設定し、その登記をした後、抵当権の設定当時からその建物に備え付けられていた冷房用の機械を新式のものと取り替え、新しい機械を他の債権者乙のために譲渡担保に供した。
 
 乙が、Aが弁済期に債務を履行しないので、Aの承認の下にその機械を取り外して持ちだし、丙に売却した。
 
 この場合における甲・乙間および甲・丙間の法律関係を説明せよ。


回答例:

第1 甲・乙間の法律関係
1甲の抵当権は新式の機械に及ぶか。
(1) 民法370条にいう「付加一体物」の概念
抵当権は、目的不動産を設定者の占有の下においたまま、当該不動産を担保とする制度である(民法369条1項)。
ア、 抵当権の場合、目的物は長期間設定者の支配下に置かれるため、設定者が目的物に改良行為を加えることが予想される。
イ、 他方で、抵当権者は、目的物の占有を奪わない代わりに、設定者が目的物に加えた改良行為の結果をも、抵当権の効力に服せしめることを期待する。
ウ、 また、抵当権設定者も、目的物の使用・収益が許されている以上、設定者が目的物に加えた改良行為の結果について、抵当権の効力が及ぶことをやむを得ないと考えている。
エ、 抵当権の担保として機能を十分に発揮させるためにも、「設定者による改良行為の結果であって、目的不動産と経済的一体性をなすもの」について抵当権の効力を及ぼさせる必要がある。
オ、 このため、付加一体物についても抵当権の効力が及ぶとされた(民法370条)。
カ、 その結果、抵当権設定時及び抵当権設定後に目的不動産に付合したもの(民法242条本文)や、抵当権設定時及び抵当権設定後の従物(民法87条1項、2項)も、付加一体物として、抵当権の効力が及ぶと解される。
(2) 本件の場合、新機械は、抵当権設定後に取り付けられたもの(「従物」に該当する)であるものの、抵当権の目的となった事務所用建物に対する改良行為の結果であって、当該建物と経済的一体性を有するものであるため、抵当権の効力が及ぶ。
(3) なお、新機械に対する甲の抵当権が及んでいることは、A所有建物について、甲の抵当権が登記されていることにより、公示されている。

2 新機械に対する乙の譲渡担保権の設定
(1) 新機械につき、甲の抵当権が及んでいる以上、新機械に対する乙の譲渡担保権(占有改定により公示されていると考えられる)は、甲の抵当権に劣後する第2順位のものに過ぎない。

3 甲の抵当権と乙の譲渡担保権の優劣
(1) 新機械に甲の抵当権、乙の譲渡担保権は、新機械が動産であるが故に、不動産における登記簿のような正確な公示手段がない。
(2) このため、乙は、新機械について、甲の抵当権が存在することを知らずに、新機械について譲渡担保権を取得することもありうる。この場合の甲乙間の優劣が問題となる。
(3) 即時取得制度は、相手方の占有に対する信頼の効果であるから、占有改定によっても即時取得は成立すると考えざるを得ない。ただし、占有改定は、外形的に目的物の占有状況に変化をもたらさないから、占有改定だけでは確定的に所有権取得の効果を認めるには不十分である。従って、占有改定によって、一応即時取得の効果は生ずるものの、確定的に所有権取得の効果が生ずるのは、現実に引渡しを受けた時期である(折衷説)。
(4) 占有改定の主張
ア、 新機械に対する譲渡担保権設定時に、乙が甲の抵当権の存在について、善意・無過失である場合
 一応乙は新機械について第1順位の譲渡担保権を取得する。ただし、乙が確定的に新機械について第1順位の譲渡担保権を取得するのは、乙が新機械の引渡しを受けたときである。
 よって、甲は乙による新機械搬出行為を阻止できない。
イ、 新機械に対する譲渡担保設定時に、乙が甲の抵当権の存在について、悪意または有過失である場合
 乙は、新機械について、第2順位の譲渡担保権を取得するにすぎない。
 よって、抵当権に基づき、乙による新機械搬出行為を阻止できる。

第2 甲・丙間の法律関係
1丙への売却
(1) 新機械に対する譲渡担保権設定時に、乙が甲の抵当権の存在について善意・無過失であった場合
 乙が新機械について、現実の引渡を受けた時点で、乙は新機械について完全な所有権を取得する。
 丙は、乙より、新機械について完全な所有権を承継取得する。

(2) 新機械に対する譲渡担保設定時に、乙が甲の抵当権の存在について悪意または有過失であった場合
 たとえ、乙が新機械について、現実の引渡しを受けたとしても、乙について即時取得が成立することはあり得ず、乙は無権利者に過ぎない。
ア、 丙が甲の抵当権の存在について、悪意・無過失であった場合
 丙は、新機械を即時取得する。
 その際、甲は、乙丙間の新機械売買代金について物上代位が可能である(民法372条、304条)。
 また、甲は乙に対し、抵当権侵害を理由に損害賠償請求をすることも可能である(民法709条)。
イ、 丙が甲の抵当権の存在について、悪意または有過失であった場合
 甲は丙に対し、抵当権に基づき、新機械を元の状態に戻すことを請求することができる。
 ただし、甲は丙に対し、新機械を自己に引き渡すことを請求することはできない。なぜならば、抵当権は非占有担保であるからである。

                               以上


 
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