自分が好きな条文。
「好きな」であって、その条文の社会に与える意義や重要性で判断しているわけではないので、ご了承ください。
憲法では、23条。
憲法第二十三条 学問の自由は、これを保障する。
では、民法はの好きな条文を全条文1044条の中から一つ選ぶとすれば。
法律学を法科大学院で1年間学んだ現段階で、今思う最も好きな民法の条文は、95条。
****民法****
(錯誤)
第九十五条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
**********
1、この条文は、「意思あるところに義務も生じる。意思ないところに義務は生じない。」を具現化したものと私は、思っています。
すなわち、「自由」を規定したものであると思っています。
他人からああしろ、こうしろと言われても、そのことでなんら義務は生じない。
自分が縛られるのは、自分が言ったことのみ。
自分が言ったことが、錯誤で誤っていたら、そのことにも縛られない。
真に自分が言ったことにのみ縛られる。
昔は、他人の意思に縛られた時代があったのでしょう。
自分が言っていないにもかかわらず、支配者の意思が示されたそのことが、自分の義務になっていた、その反省から、勝ち取った条文ではないかと推察します。
2、実際のところ、1で記載したような広い解釈が95条ではなされていません。制約がかけられた条文解釈がなされています。
1で記載の精神だけは、それでもなお生きていると信じて、好きな条文としています。
日本の民法学における民法95条「錯誤」の議論では、現状で制約がかけられた95条の解釈に至る過程は、以下のように説明されていると、私は理解しています。
1)フランス革命を受けてフランス民法典(ナポレオン法典)ができ、そこでは、「意思のあるところに義務が生じる。意思のない錯誤は無効とする」規定であった。
日本は、そのフランス民法典を参考に、当初、ボワソナードを中心に条文をつくろうとしていた。
2)しかし、それでは、あまりにも取引の安全が害されるため、制約をかける必要があった。
そこで、ドイツ民法を取り入れた。
すなわち、
⇒民法制定当初の立法者の考えでは、95条は「表示上の錯誤」と「表示上の意味の錯誤」のみ適用される。「動機に錯誤」がある場合は該当せず、意思表示は無効とならない(動機の錯誤排除論)。
「表示上の錯誤」例えば、1000円で買うつもりが、口がすべって1000万円で買うと言ってしまった。
「表示上の意味の錯誤」例えば、1円=1ドルとレートを勘違いしていて、1000ドル表示の品物を、1000円で買えると思って、この品物を1000ドルで買うと言ってしまった。
1)2)記載の根拠として、日本の民法制定の歴史
『民法総論』四宮和夫・能美善久著
3) それでは、あまりにも錯誤が適用できる場面が限られることとなった。
よって、特定の場面では、動機の錯誤を認める理論が、判例理論として構成されるに至った。
すなわち、
⇒「動機の錯誤」があったとしても、それが表示されていれば、民法95条の適用または類推適用の対象となりうる。(二元説、裁判所)
学説では、「思い違いの対象が重要なものであること」+「相手方が表示者が思い違いをしていることを知りまたは知りうべき状況にあったこと(予見可能性)」の場合に適用するという考え方もある。(一元説、船橋ら)
4)来るべき民法債権法改正議論では、錯誤無効ではなく、錯誤も「取り消しうるべき意思表示」とする考え方が出されている。
個人的には、フランス革命以来の歴史的過程で「意思表示」が大切なもの考えられてきたことを尊重し、錯誤は、やっぱり「無効」であってほしいと思います。
****法務省ホームページより*****
http://www.moj.go.jp/content/000108853.pdf
2 錯誤(民法第95条関係)
民法第95条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 意思表示に錯誤があった場合において,表意者がその真意と異なることを
知っていたとすれば表意者はその意思表示をせず,かつ,通常人であっても
その意思表示をしなかったであろうと認められるときは,表意者は,その意
思表示を取り消すことができるものとする。
(2) 目的物の性質,状態その他の意思表示の前提となる事項に錯誤があり,か
つ,次のいずれかに該当する場合において,当該錯誤がなければ表意者はそ
の意思表示をせず,かつ,通常人であってもその意思表示をしなかったであ
ろうと認められるときは,表意者は,その意思表示を取り消すことができる
ものとする。
ア 意思表示の前提となる当該事項に関する表意者の認識が法律行為の内容
になっているとき。
イ 表意者の錯誤が,相手方が事実と異なることを表示したために生じたも
のであるとき。
(3) 上記(1)又は(2)の意思表示をしたことについて表意者に重大な過失があっ
た場合には,次のいずれかに該当するときを除き,上記(1)又は(2)による意
思表示の取消しをすることができないものとする。
ア 相手方が,表意者が上記(1)又は(2)の意思表示をしたことを知り,又は
知らなかったことについて重大な過失があるとき。
イ 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
(4) 上記(1)又は(2)による意思表示の取消しは,善意でかつ過失がない第三者
に対抗することができないものとする。
(注) 上記(2)イ(不実表示)については,規定を設けないという考え方がある。
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