【事案】
X貸主は、Y1借主およびY2連帯保証人に対し、貸金返還を求めて、訴訟提起。甲1から3号証提出。
Y2は、請求原因をすべて認めるが、直ちに弁済することはできない旨主張。
Y1は、Xの主張を争う旨の答弁書を提出したが口頭弁論期日には欠席。
第1審は、X勝訴。
Y1は、控訴したが、口頭弁論期日に欠席し、第2審は、甲1から3号証を用いて事実認定をし、控訴を棄却。
Y1は、上告して、相手方欠席の場合に、事実認定の資料にXの準備書面に記載がなく、写しが送達されていない証拠を用いることは違法である旨主張した。
(最高裁判例 昭和27年6月17日 主要判例集374事件)
【考え方】
(1)本問における法的問題点。
相手方欠席の場合に、準備書面に記載がなく、写しが送達されていない証拠を用いて控訴審で事実認定をし、判決をすることは民事訴訟法161条3項の規定に反し違法であるかどうか。
(2)(1)における問題点の指摘の根拠となる事実をとは。
被上告人Xからの甲第1号証から甲第3号証の提出が、第一審、控訴審いずれにおいても準備書面に記載して予告されておらず、また、その写しもY1・Y2に送達されていなかった。
しかし、控訴審では、それら証拠を利用して事実認定を行い、判決が下された事実をいう。
(3)民事訴訟法の第何条、または、いかなる理論の適用が問題であるか。
民事訴訟法161条3項。
*****民事訴訟法******
(準備書面)
第百六十一条 口頭弁論は、書面で準備しなければならない。
2 準備書面には、次に掲げる事項を記載する。
一 攻撃又は防御の方法
二 相手方の請求及び攻撃又は防御の方法に対する陳述
3 相手方が在廷していない口頭弁論においては、準備書面(相手方に送達されたもの又は相手方からその準備書面を受領した旨を記載した書面が提出されたものに限る。)に記載した事実でなければ、主張することができない。
(4)(3)で挙げた条文のどの文言の解釈、あるいは、理論の要件が問題となっているか。
民事訴訟法161条3項、「相手方が在廷していない口頭弁論においては、準備書面に記載した事実でなければ、主張できない」との規定において、「準備書面に記載した事実の主張」に「証拠の申出」を含むかが問題である。
(5)この問題について、自分と反対の結論となり得る考え方。
証拠については、本条を適用せず、相手方不在廷のときにも、証拠の申出を許すとする考え方がある。(全面肯定説)
(6)(5)で示した自分と反対の結論となり得る考え方の問題点。
相手方不在廷のときにも、証拠の申出を許すことになると、不意打ちを招く可能性が高く、相手方の手続保障がなされていない点で問題である。
(7)この問題についての自分の結論と根拠。
当該証拠に関連する要証事実がすでに口頭弁論において主張され、または準備書面に記載されているときには、証拠申出が準備書面に記載されていなくても、相手方としては、証拠提出を合理的に予測することができる。したがって、証拠申出を認め、裁判所は、それについて証拠調べを行うことができるとする(制限肯定説)。
本事案において、上告人Y1及びその代理人は、第1、2審とも正規の呼び出しを受けながら、1回も口頭弁論に出頭せず、被上告人Xは第1審において甲第1号証から甲第3号証の書証を提出し、第1審裁判所はこれによってX主張の事実を認定してX勝訴の判決を為し、その判決は適法に上告人に送達されていた。Y1は、第2審において、第1審裁判所の認定した事実が主張され、またその事実の立証資料たる甲第1号証から甲第3号証の書証が提出されるであろうことは十分予想しうべきことであったものといわなければならない。このような状況では、Y1においてそれら書証の写しの送達がなく、同証の提出されるべきことが準備書面に記載されなかったとしても、控訴審でその書証を用いて事実を認定し判決をしたことは違法でないと解する。
【最高裁判決】上告棄却。