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「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

感染を制御しつつ、子ども達の学び・育ちの環境づくりをして行きましょう!病児保育も鋭意実施中。子ども達に健康への気づきを。

裁判において中立的専門家「専門委員」が関与しやすくさせる電話会議システムの構築の必要性

2013-10-28 23:00:00 | 国政レベルでなすべきこと
 裁判が専門的な内容で行われることがあります。

 医療訴訟もそのひとつ。

 その場合に、専門委員を関与させることが法律上可能です。

 問題は、専門委員は、日頃、生業があるわけであり、その方々が、裁判が一般的になされる日中において、その職場から参加できる情報伝達システムの構築です。
 すなわち、職場にいながら、インターネット回線でモニターがつながり、裁判に参加できるようにすること。


・専門委員が遠隔地に居住しているなど裁判所が相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、電話会議システムを利用することができる(92の3、規34の2Ⅱ、34の7)。


 急ぎ、やるべきことがらと考えます。

 


*********************************

専門委員


(1)意義
・専門委員:法律以外の専門的知見を要する訴訟において、専門的知見に基づく説明を行う裁判所の補助機関

・専門委員は、裁判所の専門的知見を要する事実に対する理解を補助する者であり、非常勤の裁判所職員としての性質を有する(92の5Ⅲ・Ⅳ)。

・専門委員は、裁判所が、当事者の意見を聴いて、各事件につき1名以上を指定する((92の5Ⅰ・Ⅱ)。

中立的専門家としての知見の提供を求められることから、除斥・忌避・回避に関する規定が準用される(92の6、規34の9)。

・専門委員は鑑定人ではないため、発言に際して宣誓は不要であり、また、専門委員の説明がそのまま証拠となるものではない



(2)関与のあり方
①口頭弁論の準備
・裁判所は、争点もしくは証拠の整理または訴訟手続の進行に関し、必要な事項の協議をするにあたり、訴訟関係を明瞭にし、または訴訟手続の円滑な進行を図るため、必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いた上で、決定で、専門委員を関与させることができる(92の2Ⅰ前段)。

・裁判長は、専門委員に書面で、または、口頭弁論期日、弁論準備期日、もしくは進行協議期日に口頭で、説明させなければならない(92の2Ⅰ後段、規34の2Ⅰ)。

・裁判所は、当事者に対して、専門委員がした説明について意見を述べる機会を与えなければならない(規34の5)。

・期日外において専門委員の説明がなされた場合、裁判所書記官は、説明事項が訴訟関係を明瞭にするうえで重要であるときは、当事者双方に当該事項を通知しなければならず、また、提出された書面の写しを送付しなければならない(規34の3)。


②証拠調べ
・裁判所は、証拠調べをするにあたり、訴訟関係又は証拠調べの結果の趣旨を明瞭にするため、必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、決定で、専門委員を手続に関与させ、専門的知見に基づく説明をさせることができる(92の2Ⅱ前段)。

・この場合も、専門委員の説明が当事者双方に開示され、意見を述べる機会が与えられることになる(規34の3、34の5)。

・証人尋問期日において専門委員を手続に関与させる場合、証人もしくは当事者本人の尋問または鑑定人質問の期日において専門委員に説明させるときは、裁判長は、当事者の同意を得て、訴訟関係又は証拠調べの結果の趣旨を明瞭にするため、必要な事項について、専門委員に、証人等に対し直接問いを発することを許すことができる(94の2Ⅱ後段)。

・裁判所は、証人尋問期日において専門委員に説明させる場合、必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、専門委員の説明が証人に影響を及ぼさないため証人の退廷その他適当な措置を採ることができる(規34の4Ⅰ)。


③和解
・裁判所が和解の勧試を行うに際し、必要があると認めるときは、当事者の同意を得て、決定で、当事者双方が立ち会うことのできる和解期日に、専門委員を関与させることができる(92の2Ⅲ)。


④その他
・専門委員が遠隔地に居住しているなど裁判所が相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、電話会議システムを利用することができる(92の3、規34の2Ⅱ、34の7)。

・受命裁判官または受託裁判官が手続を主宰することができる(92の7本文、規34の10)。

・裁判長は、専門員に説明をさせるにあたり、必要があると認めるときは、係争物の現況の確認その他の準備を指示することができ、裁判所書記官は、その旨および当該指示の内容を当事者双方に通知するものとする(規34の6)。

(3)関与の取消し
・専門委員の手続関与につき、裁判所は、相当と認めるときは、申立てまたは職権により専門委員の手続関与を取消すことができる(92の4本文)。

・当事者双方の申立てがあるときは、取消さなければならない(92の4ただし書き)。

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日本の危機。民主主義の危機。民意でない政治がひとり歩きし、特定秘密保護法が作られようとしている!

2013-10-18 09:55:21 | 国政レベルでなすべきこと

 怖いのは、委縮効果です。

 真実が、国民に知らされなくなります。

*********引用*************
http://www.news-postseven.com/archives/20131018_222533.html
http://www.news-postseven.com/archives/20131011_218179.html
特定秘密保護法案について、日本弁護士連合会特定秘密保全法制対策本部事務局次長の齋藤裕・弁護士は次のように警鐘を鳴らす。

「一番危険なのはこの法案には独立教唆の考え方が採用されていることだ。たとえば特定秘密が何か分からない記者が、原発事故に関して担当の役人に、『何が起きているのか教えてほしい』と聞いたとする。結果的に断わられても、その案件が特定秘密に関する事項であれば、情報漏洩を教唆したとして逮捕される可能性がある」


「特定秘密保護法が成立すれば、汚染水漏洩事故の情報自体が隠される危険性がある」と指摘するのは日本弁護士連合会秘密保全法制対策本部事務局次長の齋藤裕・弁護士だ。
*********引用終わり*************



 表現の自由、知る権利は、民主主義の根幹にかかわります。

 いったん、制限が加わると、復元力がさらに弱まり、さらに、もとに戻らなくなっていきます。
 行きつく先は、民主主義が壊れること。


ジャーナリスト堤未果氏:http://blogs.yahoo.co.jp/bunbaba530/67754267.html


*********************************

http://mainichi.jp/select/news/20131018k0000m010147000c.html

秘密保護法:取材の自由なお懸念 罰則を完全排除せず

毎日新聞 2013年10月18日 00時40分


 国家機密の情報漏えいを防ぐ特定秘密保護法案の修正協議を巡り、政府・与党が最終合意したのは、公明党が求めた「知る権利」や「取材の自由」の明記を政府が受け入れ、取材の自由を担保する規定の明記でも譲歩したためだ。ただ、最終案が取材行為を罰則から完全に除外したとは言い切れず、正当な取材活動の萎縮・制限につながるとの懸念が残る。野党はこうしたあいまいさを追及する方針だ。

 「一番議論になったところだ。公明党の強い要望があった」。自民党プロジェクトチームの町村信孝座長は17日、修正協議の最難関が「取材の自由」をいかに担保するかだったことを記者団に明かした。

 米国から得た軍事機密などの情報保全の必要性について、公明党に異論はほとんどない。ただし知る権利や取材の自由に政府が「配慮」するだけでなく、取材を「正当な業務」と位置付ければ、行政の過度な情報隠蔽(いんぺい)などに対して、一定の抑止力になる。同党はこの点にこだわった。

 ただ公明党も最終的には政府に譲歩し、取材行為を「罰しない」との文言を案から消した。さらに政府の最終案が「著しく不当な」取材も処罰の対象としたことで、政府に不利な取材が恣意(しい)的に「不当」とみなされる可能性は残る。野党は「取材活動が萎縮し、知る権利が脅かされかねない」などと指摘する。
 一方、行政がいたずらに特定秘密の範囲や期間を拡大しかねないとの指摘に、自民党からも「閣僚ごとに運用が変わってはまずい。統一ルールが必要だ」(町村氏)と声が上がった。このため最終案は、秘密指定が計30年を超える場合は内閣の承認とし、より高いハードルを設定した。

 指定の基準作りに有識者が意見を述べる場を作ったのも担保の一つだ。ただ、政府に有利な人選が行われる可能性もあるほか、個々の秘密が有識者のチェックを受けないため、恣意的な基準の運用を排除できるかは不明だ。【小山由宇、青島顕】

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法定内写真撮影と肖像権事件

2013-09-17 23:00:00 | 国政レベルでなすべきこと

 ひとつの重要判例ゆえ、掲載します。


http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52388&hanreiKbn=02

事件番号  平成15(受)281
事件名  損害賠償請求事件
裁判年月日  平成17年11月10日
法廷名  最高裁判所第一小法廷
裁判種別  判決
結果  その他
判例集等巻・号・頁  民集 第59巻9号2428頁
原審裁判所名  大阪高等裁判所
原審事件番号  平成14(ネ)1010
原審裁判年月日  平成14年11月21日
判示事項  
1 人の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影する行為と不法行為の成否
2 写真週刊誌のカメラマンが刑事事件の法廷において被疑者の容ぼう,姿態を撮影した行為が不法行為法上違法とされた事例
3 人の容ぼう,姿態を描写したイラスト画を公表する行為と不法行為の成否
4 刑事事件の法廷における被告人の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為が不法行為法上違法とはいえないとされた事例
5 刑事事件の法廷において身体の拘束を受けている状態の被告人の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為が不法行為法上違法とされた事例

裁判要旨 
1 人はみだりに自己の容ぼう,姿態を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有し,ある者の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。

2 写真週刊誌のカメラマンが,刑事事件の被疑者の動静を報道する目的で,勾留理由開示手続が行われた法廷において同人の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影した行為は,手錠をされ,腰縄を付けられた状態の同人の容ぼう,姿態を,裁判所の許可を受けることなく隠し撮りしたものであることなど判示の事情の下においては,不法行為法上違法である。

3 人は自己の容ぼう,姿態を描写したイラスト画についてみだりに公表されない人格的利益を有するが,上記イラスト画を公表する行為が社会生活上受忍の限度を超えて不法行為法上違法と評価されるか否かの判断に当たっては,イラスト画はその描写に作者の主観や技術を反映するものであり,公表された場合も,これを前提とした受け取り方をされるという特質が参酌されなければならない。

4 刑事事件の被告人について,法廷において訴訟関係人から資料を見せられている状態及び手振りを交えて話しているような状態の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為は,不法行為法上違法であるとはいえない。

5 刑事事件の被告人について,法廷において手錠,腰縄により身体の拘束を受けている状態の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為は,不法行為法上違法である。

参照法条 民法709条,民法710条,憲法13条,刑訴規則215条


**************************
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120750524272.pdf 

主 文

1 原判決主文第1項(1)を破棄する。

2 前項の部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。 3 上告人株式会社A1及び同A2のその余の上告を棄却する。 4 前項に関する上告費用は上告人株式会社A1及び同A2の負担とする。

理 由

上告代理人鳥飼重和ほかの上告受理申立て理由第3の2について 1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

(1) 被上告人は,平成10年7月に和歌山市内で発生したカレーライスへの毒 物混入事件等につき,殺人罪等により逮捕,勾留され,起訴された被告人である( 以下,被上告人を被疑者,被告人とする上記事件等を「本件刑事事件」という。)。 本件刑事事件は,極めて重大な事案として,国民の多くの注目を集めていた。

上告人株式会社A1(以下「上告会社」という。)は,書籍及び雑誌の出版等を 目的とする株式会社であり,昭和56年から平成13年8月まで,「E」と題する 写真週刊誌(以下「本件写真週刊誌」という。)を発行していた。上告人A2(以 下「上告人A2」という。)は,平成10年1月から平成13年8月まで,本件写 真週刊誌の編集長及び発行人の地位にあった。上告人A3(以下「上告人A3」と いう。)は,平成11年当時,上告会社の代表取締役であった。

(2) 平成10年11月25日,和歌山地方裁判所の法廷において,被上告人の 被疑者段階における勾留理由開示手続が行われた。本件写真週刊誌のカメラマンは ,小型カメラを上記法廷に隠して持ち込み,本件刑事事件の手続における被上告人 の動静を報道する目的で,閉廷直後の時間帯に,裁判所の許可を得ることなく,か つ,被上告人に無断で,裁判所職員及び訴訟関係人に気付かれないようにして,傍 聴席から被上告人の容ぼう,姿態(以下,併せて「容ぼう等」という。)を写真撮
-1 -
影した(以下,この写真を「本件写真」という。)。本件写真は,手錠をされ,腰 縄を付けられた状態にある被上告人をとらえたものである。

(3) 上告会社は,平成11年5月19日,本件写真週刊誌の同月26日号に, 「法廷を嘲笑う『X』の毒カレー初公判-この『怪物』を裁けるのか」との表題の 下に,本件写真を主体とした記事(第1審判決添付の別紙1のとおりのもの。以下 「本件第1記事」という。)を掲載し,そのころ,これを発行した。本件第1記事 には,被上告人が手錠をされ,腰縄を付けられた状態であることを殊更指摘する記 載がある。

(4) 被上告人は,平成11年8月11日,上告会社及び上告人A2に対し,本 件写真の撮影及び本件第1記事の本件写真週刊誌への掲載により被上告人の肖像権 が侵害されたと主張して,上告人A2については民法709条に基づき,上告会社 については同法715条に基づき,慰謝料の支払等を求める訴えを提起した(以下 ,この訴訟事件を「第1事件」という。)。

(5) 上告会社は,平成11年8月18日,本件写真週刊誌の同月25日号に, 「『肖像権』で本誌を訴えた『X』殿へ-絵ならどうなる?」との表題の下に,被 上告人の本件刑事事件の法廷内における容ぼう等を描いた3点のイラスト画と文章 から成る記事(第1審判決添付の別紙2のとおりのもの。以下「本件第2記事」と いう。)を掲載し,そのころ,これを発行した。上記イラスト画(見開き2頁の本 件第2記事の上段に1点,下段に2点が描かれている。以下,併せて「本件イラス ト画」という。)のうち上段のものは,被上告人が手錠,腰縄により身体の拘束を 受けている状態が描かれたものであり,下段の2点は,被上告人が訴訟関係人から 資料を見せられている状態が描かれたもの及び被上告人が手振りを交えて話してい るような状態が描かれたものである。本件第2記事の文章には,刑事事件の被告人 である被上告人が第1事件の訴えを提起したことについて,被上告人を侮辱し,又
-2 -
はその名誉を毀損する表現がある。

(6) 上告人A3は,本件第2記事の掲載当時,上告会社の内部において,本件 写真週刊誌の取材,報道に関し違法行為の発生を防止する管理体制を整えていなか ったものであり,本件第2記事による被上告人に対する名誉毀損等の不法行為に関 し,上告人A3には,その職務の執行につき重過失があった。

(7) 被上告人は,平成11年12月6日,上告人らに対し,本件第2記事の本 件写真週刊誌への掲載は,被上告人の肖像権を侵害し,被上告人の名誉を毀損し, 被上告人を侮辱するものであるなどと主張し,上告人A2については民法709条 に基づき,上告会社については同法715条に基づき,上告人A3については商法 266条ノ3に基づき,慰謝料の支払等を求める訴えを提起した(以下,この訴訟 事件を「第2事件」という。)。本件は,第1事件と第2事件が併合されたもので ある。

2 原審は,次のとおり判断して,第1事件については,慰謝料及び弁護士費用2 20万円並びにこれに対する遅延損害金の請求を認容した第1審判決を是認し,第 2事件については,慰謝料及び弁護士費用220万円並びにこれに対する遅延損害 金の支払を求める限度において,被上告人の請求を認容した。

(1) みだりに自己の容ぼう等を撮影され,これを公表されない人格的利益は,被 撮影者が刑事事件の被疑者や被告人であっても法的に保護され,本件写真の撮影及 び本件第1記事の本件写真週刊誌への掲載は,被上告人の上記法的に保護された利 益である肖像権を侵害する。ある取材,報道行為が他者の肖像権を侵害する結果と なる場合であっても,当該取材,報道行為が公共の利害に関する事項にかかわり, 専ら公益を図る目的でされ,当該取材,報道の手段方法がその目的に照らして相当
-3 -
であるという要件を満たすときには,その行為の違法性が阻却される。これらの要 件については,個別にその有無を判断するだけでなく,その程度を勘案して総合的 に判断すべきである。本件写真の撮影及び本件第1記事の掲載は,公共の利害に関 する事項にかかわり,専ら公益を図る目的でされたと認められる。しかし,本件写 真の撮影方法は相当性を欠き,また,本件第1記事には,被上告人が手錠をされ, 腰縄を付けられた状態であることを殊更指摘する記載があるなど,本件第1記事の 説明文も相当性を欠くから,本件写真の撮影及び本件第1記事の掲載の違法性が阻 却されるものではない。よって,上告会社及び上告人A2は,被上告人に対し,本 件写真の撮影及び本件写真を含む本件第1記事の本件写真週刊誌への掲載につき損 害賠償責任を負う。

(2) 個人の容ぼう等を描写する手段が写真であるかイラスト画であるかは肖像 権侵害の有無を決定する本質的問題とはいえず,イラスト画に描かれた容ぼう等が ある特定の人物のものであると容易に判断することができるときには,当該イラス ト画は,その個人の肖像権を侵害する。本件イラスト画は,被上告人の容ぼう等を とらえたものと容易に判断することができるから,被上告人の肖像権を侵害するも のである。本件第2記事は,公共の利害に関する事項にかかわるものではあるが, これを全体として見た場合,被上告人が第1事件の訴えを提起した事実をやゆする 意図に出たものであって,本件第2記事の本件写真週刊誌への掲載が専ら公益を図 る目的でされたとは認められず,本件イラスト画による肖像権侵害の違法性が阻却 されるものではない。本件イラスト画は被上告人の肖像権を侵害するものであり, 本件第2記事の文章は,被上告人を侮辱し,又はその名誉を毀損するものであるか ら,上告人らは,被上告人に対し,本件イラスト画を含む本件第2記事の本件写真 週刊誌への掲載につき損害賠償責任を負う。 3 しかしながら,原審の上記判断(1)は結論において是認することができるが
-4 -
,同(2)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 【要旨1】人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということにつ いて法律上保護されるべき人格的利益を有する(最高裁昭和40年(あ)第118 7号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁参照)。もっ とも,人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるので あって,ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となる かどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所 ,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格 的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決 すべきである。 また,人は,自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利 益も有すると解するのが相当であり,人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合 には,その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は,被撮影者の上記人格的利 益を侵害するものとして,違法性を有するものというべきである。

これを本件についてみると,【要旨2】前記のとおり,被上告人は,本件写真の 撮影当時,社会の耳目を集めた本件刑事事件の被疑者として拘束中の者であり,本 件写真は,本件刑事事件の手続での被上告人の動静を報道する目的で撮影されたも のである。しかしながら,本件写真週刊誌のカメラマンは,刑訴規則215条所定 の裁判所の許可を受けることなく,小型カメラを法廷に持ち込み,被上告人の動静 を隠し撮りしたというのであり,その撮影の態様は相当なものとはいえない。また ,被上告人は,手錠をされ,腰縄を付けられた状態の容ぼう等を撮影されたもので あり,このような被上告人の様子をあえて撮影することの必要性も認め難い。本件 写真が撮影された法廷は傍聴人に公開された場所であったとはいえ,被上告人は, 被疑者として出頭し在廷していたのであり,写真撮影が予想される状況の下に任意
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に公衆の前に姿を現したものではない。以上の事情を総合考慮すると,本件写真の 撮影行為は,社会生活上受忍すべき限度を超えて,被上告人の人格的利益を侵害す るものであり,不法行為法上違法であるとの評価を免れない。そして,このように 違法に撮影された本件写真を,本件第1記事に組み込み,本件写真週刊誌に掲載し て公表する行為も,被上告人の人格的利益を侵害するものとして,違法性を有する ものというべきである。

(2) 【要旨3】人は,自己の容ぼう等を描写したイラスト画についても,これ をみだりに公表されない人格的利益を有すると解するのが相当である。しかしなが ら,人の容ぼう等を撮影した写真は,カメラのレンズがとらえた被撮影者の容ぼう 等を化学的方法等により再現したものであり,それが公表された場合は,被撮影者 の容ぼう等をありのままに示したものであることを前提とした受け取り方をされる ものである。これに対し,人の容ぼう等を描写したイラスト画は,その描写に作者 の主観や技術が反映するものであり,それが公表された場合も,作者の主観や技術 を反映したものであることを前提とした受け取り方をされるものである。したがっ て,人の容ぼう等を描写したイラスト画を公表する行為が社会生活上受忍の限度を 超えて不法行為法上違法と評価されるか否かの判断に当たっては,写真とは異なる イラスト画の上記特質が参酌されなければならない。

これを本件についてみると,【要旨4】前記のとおり,本件イラスト画のうち下 段のイラスト画2点は,法廷において,被上告人が訴訟関係人から資料を見せられ ている状態及び手振りを交えて話しているような状態が描かれたものである。現在 の我が国において,一般に,法廷内における被告人の動静を報道するためにその容 ぼう等をイラスト画により描写し,これを新聞,雑誌等に掲載することは社会的に 是認された行為であると解するのが相当であり,上記のような表現内容のイラスト 画を公表する行為は,社会生活上受忍すべき限度を超えて被上告人の人格的利益を
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侵害するものとはいえないというべきである。したがって,上記イラスト画2点を 本件第2記事に組み込み,本件写真週刊誌に掲載して公表した行為については,不 法行為法上違法であると評価することはできない。しかしながら,【要旨5】本件 イラスト画のうち上段のものは,前記のとおり,被上告人が手錠,腰縄により身体 の拘束を受けている状態が描かれたものであり,そのような表現内容のイラスト画 を公表する行為は,被上告人を侮辱し,被上告人の名誉感情を侵害するものという べきであり,同イラスト画を,本件第2記事に組み込み,本件写真週刊誌に掲載し て公表した行為は,社会生活上受忍すべき限度を超えて,被上告人の人格的利益を 侵害するものであり,不法行為法上違法と評価すべきである。 これと異なり,下段のイラスト画2点を公表したことをも違法であるとして,こ れを前提に上告人らの損害賠償責任を認めた原審の前記判断には,判決に影響を及 ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由が ある。

4 以上によれば,原判決主文第1項(1)は破棄を免れず,被上告人の被った損 害について更に審理を尽くさせるため,同部分につき,本件を原審に差し戻すこと とし,上告会社及び上告人A2のその余の上告は,理由がないので,これを棄却す ることとする。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 島田仁郎 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉 徳治 裁判官 才口千晴)
-7 -

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生活保護法は不法残留者を保護対象外、憲法25条,14条1項に違反しない。

2013-09-16 00:15:59 | 国政レベルでなすべきこと

 ひとつの重要判例であるため、掲載します。

事案:
上告人:本邦に在留する外国人で,在留期間の更新又は変更を受けないで在留期 間を経過して本邦に残留する者(以下「不法残留者」という。)

1
1)上告人が交通事故に遭遇して傷害を負い,

2)生活保護法による保護の開始を申請

2被上 告人により却下処分を受けたので,

3その取消しを請求する事案

請求:生活保護申請却下処分取消請求
(行政事件訴訟法 3条2項)




http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=62831&hanreiKbn=02
事件番号  平成9(行ツ)176
事件名  生活保護申請却下処分取消請求事件
裁判年月日  平成13年09月25日
法廷名  最高裁判所第三小法廷
裁判種別  判決
結果  棄却
判例集等巻・号・頁  集民 第203号1頁
原審裁判所名  東京高等裁判所
原審事件番号  平成8(行コ)66
原審裁判年月日  平成9年04月24日
判示事項  生活保護法が不法残留者を保護の対象としていないことと憲法25条,14条1項
裁判要旨 生活保護法が不法残留者を保護の対象としていないことは,憲法25条,14条1項に違反しない。
参照法条 憲法14条1項,憲法25条, 生活保護法1条,生活保護法2条




*******判決文全文*******
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319130828900524.pdf 



主 文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理 由

上告代理人村田敏,同伊藤重勝,同山田正記,同田中裕之,同近藤義徳,同芹澤 眞澄の上告理由のうち違憲及び生活保護法違反をいう部分について 本件は,本邦に在留する外国人で,在留期間の更新又は変更を受けないで在留期 間を経過して本邦に残留する者(以下「不法残留者」という。)である上告人が, 交通事故に遭遇して傷害を負い,生活保護法による保護の開始を申請したが,被上 告人により却下処分を受けたので,その取消しを請求する事案である。

論旨は,憲法25条が,不法残留者を含む在留外国人に対しても緊急医療を受け る権利を直接保障しており,生活保護法は少なくともその限度で在留外国人を保護 の対象としていると解すべきであるのに,原判決がこれを否定したのは,憲法25 条,14条1項及び生活保護法の解釈適用を誤ったものである,というにある。

しかしながら,生活保護法が不法残留者を保護の対象とするものではないことは ,その規定及び趣旨に照らし明らかというべきである。そして,憲法25条につい ては,同条1項は国が個々の国民に対して具体的,現実的に義務を有することを規 定したものではなく,同条2項によって国の責務であるとされている社会的立法及 び社会的施設の創造拡充により個々の国民の具体的,現実的な生活権が設定充実さ れていくものであって,同条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ず るかの選択決定は立法府の広い裁量にゆだねられていると解すべきところ,不法残 留者を保護の対象に含めるかどうかが立法府の裁量の範囲に属することは明らかと いうべきである。不法残留者が緊急に治療を要する場合についても,この理が当て はまるのであって,立法府は,医師法19条1項の規定があること等を考慮して生
-1 -
活保護法上の保護の対象とするかどうかの判断をすることができるものというべき である。

したがって,【要旨】同法が不法残留者を保護の対象としていないことは ,憲法25条に違反しないと解するのが相当である。また,生活保護法が不法残留 者を保護の対象としないことは何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いには当た らないから,憲法14条1項に違反しないというべきである。

以上は,当裁判所大 法廷判決(最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日判決・民集36巻 7号1235頁,最高裁昭和50年(行ツ)第120号同53年10月4日大法廷 判決・民集32巻7号1223頁,最高裁昭和37年(あ)第927号同39年1 1月18日大法廷判決・刑集18巻9号579頁,最高裁昭和37年(オ)第14 72号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁)の趣旨に徴して 明らかである。

以上によれば,所論の点に関する原審の判断は是認するに足り,論旨は採用する ことができない。

その余の上告理由について 所論の経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(昭和54年条約第6号) 並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約(同年条約第7号)の各規定並びに 国際連合第3回総会の世界人権宣言が,生活保護法に基づく保護の対象に不法残留 者が含まれると解すべき根拠とならないとした原審の判断は,是認することができ る。

また,前示したところによれば,不法残留者を保護の対象としていない生活保 護法の規定が所論の上記各国際規約の各規定に違反すると解することはできない。 論旨は,採用することができない。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥田昌道 裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田 邦夫)
-2 -

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「特定秘密の保護に関する法律案の概要」に対する意見書H25.9.12日本弁護士連合会

2013-09-15 10:38:13 | 国政レベルでなすべきこと
 日本の言論の危機です。

 「特定秘密の保護に関する法律」は、国会で、絶対に通してはなりません。


 以下、日本弁護士連合会の意見書です。


 長いので、いくつかに分けて掲載します。


 ここでは、

 〇意見募集期間の短さ

 〇立法しようとする根拠となる理由に欠いている

 点が指摘されています。

*********************************
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2013/130912.html

「特定秘密の保護に関する法律案の概要」に対する意見書

2013年(平成25年)9月12日
日本弁護士連合会

第1 意見の趣旨
1 意見募集期間を2か月に延長すべきである。
2 当連合会は,日本国憲法の基本原理を尊重する立場から,「特定秘密の保護に
関する法律案」(以下「本件法案」という)に強く反対する。


第2 意見の理由
2011年8月8日,秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議は,
「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」(以下,「有識者会議報告書」
という)を公表した。これに対し,当連合会は,2012年12月20日「秘密
保全法案の作成の中止を求める意見書」等により反対の意向を明らかにしてきた。
今般,意見募集に付された本件法案は,当連合会の見解を多少配慮しているこ
とが伺えるが,基本的には,有識者会議報告書の内容をそのまま踏襲しており,
当連合会がこれまで有識者会議報告書に対し行ってきた批判がそのまま当てはま
る。

以下,反対の理由を具体的に述べる。

1 意見募集期間が異常に短いことの問題性
2013年9月3日,内閣官房は,本件法案の内容を国民に明らかにし,意
見提出期限を2013年9月17日とする,本件法案についての意見募集を開
始した。
本件法案は,2012年5月25日,当連合会が公表した「秘密保全法制に
反対する決議」で詳細に指摘したとおり,国民主権その他憲法原理との抵触が
問題になる法案である。このような重要法案が国会に提出されることをこれま
でほとんどの国民は知らなかったのであるから,政府が真に国民の考えに耳を
傾けるつもりがあるのなら,通常の意見募集期間である1か月以上の期間を定
めて意見募集すべきである。ことの重大性を承知していながら,2週間しか意
見募集期間を設けないことは,国民が深く考える時間を与えず,国民の考えを
広く聞くことなく,立法化を進めることを宣言しているのと同じである。これ
は,国民主権原理を真っ向から否定するものである。
ことの重大性に鑑みれば,国民の多くが本件法案の概要を理解するための準
2
備期間と,理解した上で意見書を作成するための期間を合わせて,政府は,意
見募集期間を2か月間に訂正し延長すべきである。


2 立法事実がないこと
本件法案は国民主権原理や国民の憲法上の諸権利などに深刻な悪影響を及ぼ
すおそれがあるものであるから,その立法事実の存否は慎重に検討されなけれ
ばならない。
ところで,2011年1月4日,政府における秘密保全に関する検討委員会
の下に秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議(以下,「有識者会議」
という)が設置された。同会議では,秘密保全法制を制定すべきか否か,どの
ような内容とすべきかが議題とされていた。有識者会議は,同年8月8日,秘
密保全法制を制定すべきとする有識者会議報告書を公表した。本件法案の概要
は,有識者会議報告書において制定すべきとされた秘密保全法制の内容とほぼ
同様であるので,以下では,有識者会議において紹介された過去の情報漏えい
事案が本件法案を必要とする事情(立法事実)となり得るか,主要なものにつ
いて検討を行う。
(1) ボガチョンコフ事件によっても立法事実があるとはいえないこと
有識者会議報告書で秘密漏えいの事例として挙げられている事例のうち,
唯一実刑判決が言い渡されたものである。しかし,以下に述べるとおり,本
件法案の立法事実の存在を裏付けるものではない。
① 事件の経過
同事件は,防衛庁防衛研究所所属のH3等海佐(H3佐)が,在日ロシ
ア大使館駐在武官であったB海軍大佐(B大佐)に,海上自衛隊に関する
資料を漏えいしたというものである。
H3佐は,1999年1月,都内で開催された安全保障国際シンポジウ
ムの会場でB大佐と知り合った。その後,食事などの交際が続いた。その
過程で,H3佐は,難病を患っていたH3佐の長男に対する見舞金等の名
称でB大佐から現金等を受け取った。
こうして接触を続けていく中で,H3佐はB大佐から海上自衛隊に関す
る資料を求められたが,同大佐から種々の名目で現金の提供を受けたこと
への負い目等から,H3佐が過去に不正に複写し保有していた秘密文書の
写しを,翌年6月,B大佐に渡した。
② 刑事処分
同事案については,2001年3月7日,東京地裁において懲役10ケ
3
月(求刑1年)の判決が言い渡された。
③ 「主な原因」とされているもの
防衛省は,以下の4点を同事案の原因としている。
ア「秘密文書の取扱いの不徹底」として,「秘密文書を不正に複写する等
の不適切な行為が行なわれるなど,秘密文書の取扱い要領が不徹底」
イ 「外部からの働き掛けに対する対応の不十分」として,「防衛交流の
活発化により,諜報工作の対象となる機会や職員の範囲も増大している
にもかかわらず,対応が不十分。また,我が国において過去に諜報事件
の摘発実績のある国等に対する職員の警戒心が低下」
ウ 「施設等機関等における保全機能の未整備」として,「H3佐が勤務
していた防衛研究所を始めとする陸・海・空自衛隊の部隊及び機関以外
の組織(施設等機関等)について,各自衛隊が有している調査隊のよう
な組織の健全性を保全する機能が未整備」
エ 「職員の身上把握の不十分」として,「個人的弱点を抱える職員は諜
報工作の対象として狙われやすいところ,上司による職員の身上把握が
不十分」
④ 講じた処置
防衛省は,③で述べた原因に対して次の措置を講じたとしている。
「秘密漏洩防止のための管理態勢等の整備」として,「関係職員の限定,
秘密文書の的確な管理の徹底等 ※2006年4月,私有パソコン等での
業務用データ取扱い禁止,ファイル暗号化ソフトの導入等」がなされてい
る。
「秘密保全に係る罰則の強化」として,「『防衛秘密』制度の新設(自衛
隊法の改正)」がなされている。
「外部からの働き掛けへの対応要領の制度化」として,「各国駐在武官
等との接触要領の策定(各国駐在武官と接触する際の事前了解等)」がな
されている。
「情報保全に関連する部隊の充実・強化」として,「各自衛隊の情報保
全隊を新設(中央と地方の部隊の指揮系統を一元化し,施設等機関等の保
全業務の支援を任務化)※平成21年8月,陸海空情報保全隊を統合し,
自衛隊情報保全隊を新編」がなされている。
「秘密を取り扱う職員の教育・身上把握の充実」として,「保全教育の
拡充及び部隊等の長による十分な身上把握・カウンセリング等の充実(諜
報工作の態様に関する保全教育の実施,諜報工作の対象として狙われやす
4
い個人的弱点を抱える隊員の把握等 ※平成18年4月,秘密保全に係る
重い責任を自覚させるための『誓約書』の提出 ※平成19年5月,個別
面談方式による全隊員に対する指導を実施(以後,年1回以上実施)」が
なされている。
「全庁的な情報保全態勢の整備」として,「委員会を設置し,情報保全
に係る施策のフォローアップを実施(事務次官を長とする防衛庁情報保全
委員会を設置 ※平成19年4月,情報流出事案の再発防止を期すため,
防衛大臣を長とする情報流出対策会議を設置」がなされている。
⑤ 同種事件を防ぐために何らかの対策を新たに講ずる必要がないこと
有識者会議報告書は,ボガチョンコフ事件を秘密保全法制の立法事実と
している。
しかし,事案に即した対策としては,秘匿性の高い文書について複写で
きる者を制限し,複写をした者や日時を記録し,日々,不正な複写の有無
をチェックする運用を実行すればよい。
また,同事件については,④で述べたとおり,事案防止のためにさまざ
まな方策がとられており,その後同様の事件は再発していない。そうであ
れば,既に必要な対策はとられているのであり,新たに秘密保全法制を制
定する必要性はない。
防衛省は,「個人的弱点を抱える職員は諜報工作の対象として狙われや
すいところ,上司による職員の身上把握が不十分」との点が秘密漏えいの
原因だとしている。
しかし,一般的に考えるならば,個人的弱点のない人など存在せず,誰
もが何らかの「弱点」を持っている。「弱点」を探し出して,特定の者に
ついて「弱点がある」と評価しても何の意味もない。「個人的弱点」の有
無を重視する考え方は誤りである。
H3佐の「個人的弱点」とは何だったのか。ボガチョンコフ事件では,
確かに難病の子どもを抱えている親が秘密漏えいを起こしたが,H3佐に
難病の子どもがいなければ情報漏えいはなかったのであろうか。見舞金の
授受は難病の子どもがいなくてもなされうる。金を渡す口実は無数にある。
ボガチョンコフ事件では「個人的弱点」が情報漏えいの1つの原因になっ
ていたかもしれないが,難病の子どもがいるという「個人的弱点」を事前
につかんでいれば情報漏えいを回避できたという展開にはなったとは到
底考えられない。ボガチョンコフ事件を教訓としても,職員の身上把握の
不十分さが漏えいに結びついたとはいえない。
5
⑥ 小括
以上より,ボガチョンコフ事件の原因については,再発防止のための対
策がとられているのであり,それ以上に何らかの対策がとられる必要はな
い。
また,同事件をもってしても職員の身上把握の必要性が裏付けられるこ
とはない。


(2) 内閣情報調査室職員による情報漏洩事件から立法事実があるとはいえない
こと
① 事案の内容
政府資料である「内閣情報調査室職員に対するロシア大使館職員による
情報収集活動事案」によれば事案の概要は以下のとおりである。
「内閣情報調査室職員Aは,業務を通じ,在日ロシア大使館員と知り合
った」
「Aは,その後,歴代の同大使館員と接触を続ける中で,次第に金品の
提供を受けるようになった」
「やがて,Aは,部内情報を自ら取りまとめて提供するに至った」
「平成20年1月,Aは,収賄と国家公務員法違反(守秘義務違反)の
疑いで書類送検された(不起訴処分(起訴猶予),情報漏えい発覚直後に
懲戒免職)」
② 主な反省教訓事項
主な反省教訓事項として,「同種事案は,誰にでも起こり得るもの」「服
務指導や研修により,摘発への現実感を醸成して抑止力とすることも必
要」「職員に対するきめ細やかな教育や研修が不十分」「情報保全一般に対
する組織的な取組が不十分」等が挙げられている。
③ 立法事実とはならないこと
以下のことが具体的対応として行なわれている。
「情報保全に関する教育・研修の充実強化」が必要だとして,「内容の
質的向上,定期的受講の義務付け等」が行われている。
また,「情報保全に関する組織・管理体制の強化」として,「人的管理-
秘密取扱者適格性確認制度(セキュリティクリアランス制度)の的確な実
施」及び「物的管理-特別管理秘密制度の的確な実施,電磁的記録媒体の
管理強化 持ち込み規制物品の見直し」が挙げられている。
よって,当事案についても既に十分な対策が取られていると言え,更に
新たな対策を講じる必要はない。
6


(3) 尖閣沖漁船衝突事件にかかる情報漏えい事案から立法事実があるとはいえ
ないこと
尖閣沖漁船衝突事件にかかる情報漏えいが本件法案への動きのきっかけ
となったとの報道もあるが,同事件は本件法案の立法事実となるようなもの
ではない。
① 事案の概要
政府資料である「中国漁船衝突事件映像情報流出事案の概要について」
によれば事案の概要は以下のとおりである。
「平成22年9月17日,事件捜査のため,第11管区海上保安本部職
員は,行政情報システムの海上保安大学校のパブリックフォルダを用いて,
衝突事件映像を海上保安学校に伝送しようとしたが,この際,第11管区
海上保安本部職員と海上保安大学校職員の間で,衝突事件映像の削除につ
いてきちんと確認しなかったため,同年9月17日から同月22日までの
間,衝突事件映像が海上保安大学校のパブリックフォルダに掲載されたま
まとなり,不特定多数の海上保安庁職員にとって入手が容易な状態になっ
ていた」
「同年9月19日,衝突事件映像を流出させた職員の同僚職員が,たま
たま別の用件で,海上保安大学校のパブリックフォルダにアクセスしたと
ころ,衝突事件映像を発見し,巡視艇の行政情報端末機に保存した」
「同年10月31日,衝突事件映像を流出させた職員は,当該行政情報
端末機から衝突事件映像を私有USBメモリに保存し,部外に持ち出した
もの」
その上で,当該職員は,画像データを動画サイト「Youtube」にアップ
ロードし,インターネット上に流出させた。
② 実質秘の流出事案とはいえないこと
そもそも,当該映像が実質秘といえるか疑問である。
政府は,映像は「訴訟に関する書類」(刑事訴訟法第47条)に該当す
る非公開文書だとして秘密となると説明していた。
しかし,同規定に該当するか否かと実質秘に該当するかは別問題である。
海上保安庁では衝突事件画像を秘密指定していなかったどころか,9月1
7日から9月22日までの間,海上保安大学校のパブリックフォルダに掲
載したままで,不特定多数の海上保安庁職員にとって入手が容易な状態に
なっていた。他方で,9月30日には与野党の国会議員30名余が同画像
の一部を閲覧し,その内容をマスコミ記者に詳細に告知し,マスコミが映
7
像を作るなどして報道しており,これに対して海上保安庁からも政府から
も何ら異論は示されていなかった。このような事情からすれば,衝突事件
画像は到底,実質秘とはいえない。
したがって,報告書が,同事件を秘密保全法制の立法事実としているこ
とこそが問題である。
③ 立法事実があるとはいえないこと
同事件では,海上保安庁の不特定多数の職員にとって画像が入手可能な
状態になったことが,情報が庁外に出た原因となっている。
仮に,国の行政機関等が保有する実質秘に該当するデジタル画像の漏え
いを阻止する必要があるとすれば,その対策は,作成取得時に秘密指定し,
限られた特定の者しかアクセスできないようアクセス制御すればよいだけ
のことである。
よって,同事件から本件法案の必要性を導き出すことはできない。


(4) 国際テロ対策に係るデータのインターネット上の掲出事案から立法事実が
あるとはいえないこと
本件法案では,警察関連情報(「外国の利益を図る目的で行われる安全脅威
活動」,「テロ防止活動」に関する事項)を特定秘密にすることを想定してい
るので,国際テロ情報の流出事案についても検討する。
① 検討の対象となる資料
第1回「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」に「国際
テロ対策に係るデータのインターネット上への掲出事案に関する中間的
見解等について(要旨)」として資料が配布されている。
② 事案の概要
国際テロ対策にかかるデータがインターネット上に掲出されたという
ものである。「国際テロ対策に係るデータのインターネット上への掲出事
案に関する中間的見解等について(要旨)」にもそれ以上の情報は記載さ
れていない。
③ 立法事実があるとはいえないこと
これまで我が国が深刻な国際テロの被害に遭ったことはない。また,昨
今の国際テロの実情は,テロ集団とテロ対象国家は深刻な武力対立関係に
あることが多く,我が国がそのような関係にある国ないしテロ集団はない
と考えられる。したがって,我が国の安全のために国際テロ対策として特
定秘密を認める必要があるかどうかについては,より慎重な議論が必要で
ある。
8
「国際テロ対策に係るデータのインターネット上への掲出事案に関す
る中間的見解等について(要旨)」によっても,誰が,どのようにして,
どのような理由で掲出したのかさえ明らかにされていない。そうであれば,
同事件を本件法案の立法事実とすることはできない。


(5) その他の事案から立法事実があるとはいえないこと
その他,シェルコノゴフ事件,国防協会事件,イージスシステムに係る情
報漏洩事件,中国潜水艦の動向に係る情報漏洩事件が立法事実として挙げら
れているが,有識者会議にも具体的な資料は提供されていない。
ただし,これらの事件はすべて起訴猶予か執行猶予とされている。よって,
これらの事件を根拠に法定刑の引き上げ等の刑罰強化が必要とはいえない。
また,これらの事件が何らかの背景を持った者により起こされたといえる
事情も明らかではない。よって,本件法案の立法事実とすることはできない。
(6) まとめ
(4)及び(5)については不明であるが,その他の事案については,その都度
対策が取られている。それが人権保障の観点から適正なものかどうかは措く
として,少なくとも再発防止のために必要な対策は既に取られている。した
がって,罰則強化や人的管理を内容とする本件法案の立法の必要性を裏付け
る事情は存在しない。

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「特定秘密の保護に関する法律案の概要」に対する意見書H25.9.12日本弁護士連合会続き

2013-09-15 10:16:55 | 国政レベルでなすべきこと
 日本の言論の危機です。

 「特定秘密の保護に関する法律」は、国会で、絶対に通してはなりません。


 以下、日本弁護士連合会の意見書です。


 長いので、二回に分けて掲載します。(前のブログの続きです。)

*********************************
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2013/130912.html

「特定秘密の保護に関する法律案の概要」に対する意見書

2013年(平成25年)9月12日
日本弁護士連合会

第1 意見の趣旨
1 意見募集期間を2か月に延長すべきである。
2 当連合会は,日本国憲法の基本原理を尊重する立場から,「特定秘密の保護に
関する法律案」(以下「本件法案」という)に強く反対する。


第2 意見の理由
 2011年8月8日,秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議は,
「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」(以下,「有識者会議報告書」
という)を公表した。これに対し,当連合会は,2012年12月20日「秘密
保全法案の作成の中止を求める意見書」等により反対の意向を明らかにしてきた。
今般,意見募集に付された本件法案は,当連合会の見解を多少配慮しているこ
とが伺えるが,基本的には,有識者会議報告書の内容をそのまま踏襲しており,
当連合会がこれまで有識者会議報告書に対し行ってきた批判がそのまま当てはま
る。

以下,反対の理由を具体的に述べる。

1 意見募集期間が異常に短いことの問題性
(前のブログで記載)

2 立法事実がないこと
(前のブログで記載)


3 「特定秘密」の範囲が広範で定義が不明確であることについて
(1) 「特定秘密」の範囲が広範にすぎること
本件法案では,対象となる「特定秘密」について,①防衛,②外交,③外
国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止,④テロ活動防止の4分
野を別表で示している。
これは,1985年に国会に提出され,国民世論の広範な反対によって廃
案とされた「国家秘密にかかるスパイ行為等の防止に関する法律案」(以下
「国家秘密法案」という。)と比較しても,秘密の対象範囲が著しく拡大さ
れており,明らかに広範に過ぎる。
国家秘密法案では,国家秘密の定義は,「防衛及び外交に関する別表に掲
げる事項並びにこれらの事項にかかる文書,図画,又は物件で,我が国の防
衛上秘匿することを要し,かつ公になっていないものをいう。」とされてい
た。
これに対して,本件法案では,国家秘密の対象事項を,防衛,外交,安全
脅威活動の防止,テロ活動防止にまで拡大している。「その漏えいが我が国
9
の安全保障に著しく支障を与えるおそれがある」という条件を付しているも
のの,これへの該当性は,行政機関の長が判断することになっているから,
限定機能として的確に機能するか否かは甚だ疑問である。


(2) 「防衛」秘密の範囲が広範不明確であることについて
本件法案別表第1号は,自衛隊法別表第4(第96条の2関係)に相当す
るものである。自衛隊に関連する事項を網羅的に挙げている。自衛隊法では
すでに民間事業者も処罰対象として予定しているのみならず,過失犯の処罰
規定,共謀,教唆,煽動に関する処罰規定も設けている(第122条)から,
この分野に関して新たな法制は必要ないはずである。違いは,後に論じる罰
則の上限が懲役5年から懲役10年に重罰化する点である。
現在,日本の国の防衛に関する秘密情報は,実務の情報管理において外部
へ漏えいしないような運用がなされている。また,国家公務員法のほか,ア
メリカ合衆国軍隊の秘密は日米刑事特別法によって保護されるとともに,ア
メリカから日本に提供された装備品等に関する秘密は,MDA秘密保護法(日
米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法)によってそれぞれ保護されている。
政府は,これらの法律によっては十分な秘密保護ができないために秘密保
全法制が必要であるとしている。
しかし,既に見たとおり,防衛情報の漏えいとして問題とされている事案
については十分な事後対策が行われており,再発を防止できているから,十
分な秘密保護ができないというのは,現状を反映していない意見である。
政府の上記意見は,日本の防衛情報の漏えいが現に防止できているか否か
ではなく,日米関係の深化とともに,軍事・防衛面での日米の協力関係が深
まり,軍事秘密の共有化が進んでいることからの政治的要請に基づくもので
ある。日米の軍事的協力関係の深まりの中で,秘密保全法制は重要な位置付
けがなされていると見られる。2012年8月に発表された,米国戦略国際
問題研究所レポート「米日同盟」では,アジア太平洋での日米共同の軍事行
動を強化するための方策として,日本政府に対して,防衛省の秘密保護に関
する法的能力の強化を勧告している。また,同年7月に公表された国家戦略
会議「平和のフロンティア部会報告書」と自民党「国家安全保障基本法案(概
要)」では,いずれも憲法9条の政府解釈を見直して,集団的自衛権行使と
ともに,秘密保全法制の制定を提言している。
すなわち,本件法案は,集団的自衛権行使を含む日米共同の軍事的抑止力
で我が国の平和と安全を守ろうとする政策の不可分の一部となっており,憲
法第9条及び前文が規定する恒久平和主義と相反するものである。
10
このような現状の下で,防衛に関する秘密保全が今以上に拡大・強化され
ることは,軍事力の不保持を禁じた憲法第9条に違反するような政府の行為,
例えば上記のような集団的自衛権の行使や自衛隊の海外での武力行使等を,
主権者国民や国会がチェックできなくなるおそれがある。
現に,航空自衛隊のイラク派遣問題では,自衛隊の活動が憲法第9条に違
反するのではないか問題とされた(名古屋高等裁判所平成20年4月17日
判決は,航空自衛隊のイラク派遣が憲法違反であるとの判断を示している。)
が,防衛省はこの活動内容に関する文書の情報公開請求に対して,当初は国
の安全が害されるおそれがあるとして非開示とした。2009年9月によう
やく開示された文書からは,航空自衛隊が米兵を運輸していた実態,すなわ
ち自衛隊が憲法違反のおそれが極めて大きい活動をしていた実態が明らかに
なった。
本件法案が策定されれば,本来主権者が知っておく必要のある上記のよう
な事実が「特定秘密」に指定され,主権者に永久に知らされないままになる
危険がある。


(3) 「外交」情報が広範不明確であることについて
「安全保障」に関連する事項が広く対象となっている。しかし,「安全保
障」に関する事項は,問題によっては,国家間の深刻な対立や深刻な民族紛
争などに我が国が巻き込まれかねない事項を含むこともあり得るから,主権
者である国民はこれらの問題について高い関心を持つべきであるといえる。
したがって,この分野について行政機関の判断により秘密指定できる範囲を
広範に設定することは問題である。


(4) 「外国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止」に関する情報が
広範不明確であることについて
別表第3号で規定されている対象情報は,「外国の利益を図る目的で行わ
れる安全脅威活動の防止に関する事項」というものである。これはスパイ活
動の阻止を意図したものであり,「外国」と明記していることから明らかな
ように,特定の国家との間でスパイ活動が展開されて来たこと,今後される
であろうことを想定したものである。観念的には理解できることではあるが,
「外国の利益」という考え方自体,その具体的内容はだれにも共通する内容
になるわけではないから,政治的な配慮の元での解釈運用がなされるおそれ
が大きい。
例えば,現時点における我が国の政府当局が敵対視している国家であって
も,国民レベルでは経済活動,文化活動,個人的な関わりなど相互に行き来
11
している関係が存在し,そこにはいろいろな情報交流もあるのであって,中
には政府当局が一時的に国内外から非難されたり窮地に立たされるような情
報のやりとりがあったとしても,安易にスパイ活動視するようなことがあっ
てはならない。


(5) 「テロ防止活動」に関する情報が広範不明確であることについて
本件法案では,「テロ活動」を「政治上その他の主義主張に基づき,国家
若しくは他人にこれを強要し,又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で
人を殺傷し,又は重要な施設その他の物を破壊する行為を行う活動をいう。」
と定義している。
このようなテロ活動の主体は国家に限定されない。集団や個人も主体とな
り得る。テロの動機も無限定であり,その行為態様の限定もしておらず,様々
な行為が「テロ活動」に該当し得る。
そのような「テロ活動」の防止のための「措置」「計画」「研究」は無限
に広がる可能性がある。第4号ロの「その他の重要な情報」にはどのような
情報でも含まれてしまうおそれがある。


(6) 特定秘密の「表示」は限定と無関係であること
本件法案では,秘密指定された文書には特定秘密の表示をすることによっ
て,特定秘密情報とそうでない情報を明確に区別できるとしている。
しかし,上記表示の有無は,特定秘密情報を取扱う業務に従事する者にし
か見ることができないから,上記の者以外の者にとっては,上記区別は分か
らない。極めて広範に指定されていたとしても,国民には判別しようがない。
また,本件法案では,秘密指定期間の上限を5年とするものとしているが,
同時に回数制限のない期間更新を可能としているから,実際の制度運用では
無期限に秘密にし続けることが可能になっている。秘密指定の濫用を事前抑
制させることも,事後にチェックすることも極めて困難である。
さらに,我が国では,特に国の行政機関や警察を被告とする行政訴訟にお
いて裁判所が被告の主張に追従する傾向が顕著にあることから,特定秘密性
が争点となる訴訟において裁判所が有効にチェック機能を果たすかどうか甚
だ疑わしい。


(7) まとめ
このように,本件法案の規定する「特定秘密」の概念は極めて広範かつ不
明確であり,行政機関の恣意的運用を止めることができない。



4 人的管理について
12
(1) 適性評価制度についての立法事実の欠如と内容が不明であること
本件法案は適性評価制度の導入・整備を図っている。
しかし,有識者会議報告書に記載された「情報漏えい」事案をみても,本
件法案で収集が予定されている情報に係る属性をもった人物が「情報漏えい」
をしたものではない。つまり,本件法案の適性評価制度において収集すべき
とされている個人情報を収集しても,「情報漏えい」をしそうな者を判別する
ことはできない。適性評価制度にはそもそも実効性がない。
また,適性評価制度に内容が類似する制度として,政府は,2007年8
月9日に策定された「カウンターインテリジェンス機能の評価に関する基本
方針」に基づき,現在,秘密取扱者適格性確認制度を実施している。しかし,
当連合会の2012年4月27日付け「秘密取扱者適格性確認制度に関する
会長声明」のとおり,政府は,不適格と判断された者の人数,調査事項,そ
の方法及び範囲等,その具体的な運用について何ら明らかにしていない。こ
のような政府の態度は,適性評価制度の是非及びその内容の具体的な検討を
不可能とするものである。
その上,適性評価制度は,以下に述べるとおり,プライバシー権や思想・
信条の自由等の侵害,差別的取扱いの危険性のほか,適正手続との関係でも
重大な問題を孕んでいる。


(2) プライバシー権等が侵害されること
① 調査事項の広範・不明確性
ア 広範なプライバシー情報の収集
調査事項は,スパイ活動やテロ活動との関連性のほか,犯罪・懲戒の
経歴,情報の取扱いに係る非違の経歴,薬物の濫用・影響,精神疾患,
飲酒の節度,信用状態など,通常他人に知られたくない個人情報が多く
含まれている。調査事項には,家族及び同居人の氏名,生年月日,国籍
及び住所を含むとされているが,「家族」の範囲が曖昧であるし,それ
らの者の氏名,生年月日,国籍,住所だけを調査することにどれほどの
合理性があるのか,むしろ,今後,調査項目が増えることが危惧される。
これらの調査を通じて,適性評価の調査の名の下に対象者のプライバシ
ーが著しく侵害されるおそれがある。
イ 思想調査の危険
調査事項のうち「我が国及び国民の安全への脅威となる諜報その他の
活動」についてみると,「我が国」と「現政権」が異なることは明らか
であるが,現政権は現政権の利害を離れて何が我が国に対する脅威とな
13
るか常に的確に判断できるのか疑問である。現政権は現政権を維持する
ために情報をコントロールしようとするものである。現政権の利害と我
が国の利益が一致することがあるとしても,現政権が現政権の利害を離
れて我が国に対する脅威の有無を常に的確に判断するという保証はな
い。我が国にとっては何ら「脅威」がなくとも,現政権にとっての「脅
威」がある場合に「脅威」があるとされる可能性もある。
また,「我が国及び国民の安全への脅威となる諜報その他の活動」は,
その抽象性故に調査実施権者である行政機関の恣意的判断によって,個
人の政治活動や組合活動,さらには思想・信条にまで踏み込んだ調査が
なされる危険性も否定できない。
さらに,情報公開請求や住民訴訟,内部告発などによって警察や検察
庁,外務省等の裏金を追及する活動も,当該行政機関にとっては,その
活動を阻害するものとして「脅威となる・・・その他の活動」であると
評価されるおそれがある。
② 同意は調査の正当化事由にならない
本件法案は,適性評価のための調査がプライバシーに深く関わる調査と
なることから,行政機関職員等の同意を得た上で,第三者に対する照会等
により調査を行うこととしている。
本人の同意は,個人情報収集の基本である。本件法案はこれを意識した
ものである。しかし,以下に述べるとおり,本件法案の性質上,上記行政
機関職員等の同意は調査を正当化する,すなわちプライバシー権や思想・
信条の自由の制約を許容する根拠とはなり得ない。
まず,この同意が真に自由意思によるものと認められるためには,同意
の対象となるプライバシー情報の範囲が明確に特定されていることが必
要であるところ,調査事項は広範に及び,かつ,「我が国及び国民の安全
への脅威となる・・・その他の活動」といった抽象的な事項が含まれてお
り,行政機関職員等にとって自己に関する情報のどこまでが調査されるの
かが不明である。
また,行政機関職員等が上司等から同意を求められた場合に,真に自由
な意思に基づいて同意・不同意の判断を行うことは組織の性質から考えて
不可能であろう。とりわけ,組織の中で秘密情報に関与することは組織の
中枢に関わるようになることを意味し,上司等から同意を求められた職員
が自由な意思に基づいて不同意を選択することはほとんどあり得ない。
また,本件法案では,関係者への質問により調査を行うこととされてお
14
り,他の職員等からの密告を奨励する可能性すらある。
したがって,本件法案が予定している行政機関職員等の同意は,真にプ
ライバシー保護に配慮したものとは認められず,調査の正当化事由にはな
り得ない。
③ 個人情報保護の不十分性
本件法案は,対象者の個人情報保護については,国家公務員法上の懲戒
の事由等に該当する疑いがある場合を除き目的外での利用及び提供を禁
ずるとしている。
個人情報の目的外利用を原則的に禁止するものではあるが,「懲戒の事
由等」と明記していることからすれば,懲戒事由以外にも利用される場合
があることを想定しているということである。しかるに,懲戒の場合以外
のいかなる場合に目的外利用及び提供が認められるのか何ら明らかでは
なく,適性評価を実施した行政機関が収集した行政機関職員等のセンシテ
ィブ情報を含む個人情報が,本人が知らない利用のされ方をされてしまう
危険がある。
④ 調査対象者以外の者の同意がないこと
本件法案は,行政機関職員等のみからの同意しか想定していないため,
行政機関職員等の身近にある者は自己の知らないうちに調査実施権者で
ある行政機関に自己の個人情報が提供されてしまうことになる。氏名,生
年月日,国籍,住所だけであっても提供されたくないと考える者はおり,
それだけであってもプライバシー侵害に該当し得るし,さらに調査項目が
増えるようなことになれば,プライバシー侵害はより深刻である。


(3) 差別的取扱いの危険
本件法案は,適性評価の評価事項として,「外国の利益を図る目的で行われ,
かつ,我が国及び国民の安全への脅威となる諜報その他の活動並びにテロ活
動」を挙げている。
しかし,適性評価制度は,特定秘密が漏えいされる一般的リスクがあると
認められる者を予め除外する仕組みであるところ,このようにリスクが一般
的・抽象的なものとして把握されるとすれば,行政機関職員等,家族,同居
人が一定の思想・信条や信仰を有していることや,一定の国籍を有している
こと又は有していたこと,一定の民族に属していること自体をもって,秘密
漏えいのリスクがあるとして,特定秘密の取扱者から除外される可能性があ
る。
また,本件法案では,適性を有しないと評価された場合は,結果を通知す
15
ることが検討されているようであるが,理由の通知は想定されていないよう
である。そうだとすると,上記のような思想差別を事実上許容することにな
りかねない。
政府がこのような思想差別を許容するような制度を導入すれば,それはた
ちまち民間にも波及するであろう。既に民間の電力会社においては特定の政
党の党員であることを理由に差別的な扱いを受けていた例が存するのであり,
適性評価制度の導入はこのような思想・信条による差別を日本中に広げ増長
させることになるであろう。


(4) 適正手続の保障が危ぶまれること
本件法案では,適性評価の評価基準の公開については規定されないようで
ある。また,実施権者が適性評価の理由を通知することも想定されていない
ようである。
適性を有しないとの評価は,特定秘密の取扱者から除外されるという行政
機関職員等の地位に重大な不利益をもたらすものである以上,行政機関職員
等に対して適正な手続が保障されなければならず,また,司法手続でその評
価を争う機会が付与されなければならない。
しかるに,適性評価の結果に不服がある場合の行政上の不服申立や司法救
済の在り方・審理の方法について具体的に規定されないようである。仮にこ
れが規定されたとしても,評価基準が非公開で,理由が付記されていなけれ
ばそもそも主張を組み立てることが困難である。
これでは,恣意的,人権侵害的な調査を排除することはできない。


5 罰則について
(1) はじめに
① 情報漏えい事件の発生状況と立法事実の欠如
本件法案は,保護の対象たる秘密,すなわち「特定秘密」の漏えい行為
等を処罰し,もってその機密保持の徹底を図ろうとしている。
しかし,有識者会議報告書が立法事実として掲げる「情報漏えい」事案
をみても,ほとんどの事案において起訴猶予か執行猶予判決となってい
る。
ボガチョンコフ事件では実刑判決が言い渡されているが,懲役10月に
処する判決であった。また,ボガチョンコフ事件を受けて自衛隊法が改正
され,防衛秘密の漏えいが5年以下の懲役に処せられるようになったが,
その後,この規定により実刑判決を受けた事例は皆無である。かかる状況
16
において重罰化を進める必要性は全くない。
② 「特定秘密」の広範性と罪刑法定主義違反
また,先に詳述したとおり,本法制においては漏えいが禁止される「特
定秘密」の要件が過度に広範でかつ不明確である。本件法案の第2.1オ
によれば,行政機関の長は,秘密指定したときに当該文書に特定秘密の表
示するなど当該事項が特定秘密である旨を明らかにすることになってい
るが,国民には如何なる情報が「特定秘密」として漏えい禁止の対象であ
るかが認識できず,何が処罰されるかについても予測することが困難であ
る。また,指定文書には「特定秘密」の表示があったとしても,文書以外
の「特定秘密」にはその旨の表示がないし,特定秘密の内容を知っている
者がメモしたり記憶したりした情報にも「特定秘密」の表示はない。さら
に,「特定秘密」情報が他の情報と混在しているような場合にも,両者の
区別はつきにくい。したがって,一定の情報を入手しようと考える国民の
側には「特定秘密」か否かの事前予測はできないし,入手した後でさえ,
「特定秘密」であることが分からないということが起こり得る。これは,
国民の自由な言動を過剰に萎縮させることになる。内部告発者について
も,同人が自ら管理者ではために「特定秘密」の表示を認識することなく,
組織内にいることによってたまたま知ってしまった情報が「特定秘密」に
指定されていることに気づかずに,第三者に提供してしまうということは
起こり得る。さらに,「特定秘密」に指定された情報が違法秘密や擬似秘
密であった場合,これを内部告発しようとする者にとっては,秘密保護法
による重罰化は内部告発禁止法ともいうべき重圧である。
ところが,本法制は,故意の漏えい行為のみならず,過失による漏えい
行為のほか,漏えい行為の未遂や共謀,教唆及び煽動,特定秘密の取得行
為とその共謀,教唆,煽動についても処罰しようとしている。いずれも,
ただでさえ過度に広範で不明確な処罰範囲の外延を更に不明瞭にするも
のである。刑罰法規は,犯罪と刑罰を具体的,明確に規定しなければなら
ない。本件法案は,漠然不明確であって,憲法31条の罪刑法定主義の観
点からしても重大な疑問がある。
以下,各別に看過し得ない問題点を指摘することとする。


(2) 過失による漏えい行為処罰の不当性
もともと過失犯は,故意犯に比して違法性の程度が低く,行為者に対する
非難可能性も低い。それゆえ,刑法第38条第1項が「罪を犯す意思がない
行為は,罰しない。ただし法律に特別の規定がある場合は,この限りでない。」
17
と定めるとおり,我が国の刑事法制においては,故意犯処罰が原則で,過失
犯処罰は例外とされている。
国家公務員法では守秘義務違反について過失犯を処罰対象としていない。
日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法や自衛隊法では,故意犯に比べて
軽い法定刑の過失処罰規定を設けている。
本件法案は,過失による漏えい行為の処罰範囲を更に拡大しようとするも
のであるだけでなく,故意犯に比べて法定刑を軽くするかどうかが不明にな
っている。これが,情報漏えいという結果の重大性に着目し,故意過失で区
別しないという考え方に基づいているとすれば,刑法の基本原理を真っ向か
ら否定するものであり,到底容認できない。
前述のごとく,本件法案における「特定秘密」の外延は過度に広範になる
可能性が高く,かつ,不明確であるから,本件法案の想定する「特定秘密」
の全てが国益を揺るがす重大な国家秘密というべきものかも極めて疑わしい
ところであり,ここにおいて過失の漏えい行為をも処罰することの必要性や
相当性が認められるかについては重大な疑問がある。
一般に,「過失」とは注意義務に違反して犯罪を実行する心理状態と理解
されており,その注意義務は結果予見義務と結果回避義務に分析されている。
本件法案において,「特定秘密」の表示がある文書を直接目にしている者
にとっては,その限度で「特定秘密」の対象は明確であるから,その管理に
適正を期そうすることはできる。しかし,過失による漏えいは,過失の具体
的内容を明文で規定できないだけに,過剰に処罰されるおそれがある。
過失による情報漏えいは,情報セキュリティの基準と運用の適正化によっ
て防ぐべきものであって,処罰によって威嚇するという手法は適当でない。


(3) 未遂犯処罰の不当性について
刑法第44条は,「未遂を処罰する場合は,本各条で定める。」と規定し
ている。つまり,既遂犯処罰が原則であり,未遂犯の処罰は例外として位置
付けられている。
これは,我が国の刑法においては,原則として,客観的な法益侵害の結果
が発生した場合に応報的にこれを処罰するという考えを採用しているからで
ある。
かかる観点からすれば,未遂犯処罰は,重大な法益を侵害する危険性が高
く,それゆえに,未遂犯処罰を行うべき必要がある場合があるとしても,結
果発生を待たないで処罰することによって生ずる不利益,すなわち処罰範囲
の曖昧さの拡大や刑法の内心への介入といった不利益を上回る未遂犯処罰の
18
高度の必要性が認められる場合に限って認められるべきである。
国家公務員法や地方公務員法などでは「秘密」の内容を問わず未遂犯処罰
規定がない。これは現行諸法制においても上述の点について考慮しているも
のと考えられる。
この点,前述のごとく,本件法案における「特定秘密」の外延は過度に広
範でかつ不明確であるため,漏えい行為が未遂にとどまり,漏えいの結果が
発生しなかった場合にまで処罰することは行き過ぎである。処罰範囲の曖昧
さの拡大や刑法の内心への介入という不利益を上回る未遂犯処罰の高度の必
要性も認められないというべきであり,未遂犯処罰規定を設けようとしてい
ることは相当ではない。


(4) 共謀行為・教唆及び煽動の不当性について
「共謀」とは,ある犯罪行為の実施・遂行について,具体的計画を複数の
者が謀議することをいい,「教唆」とは判例によれば犯罪実行の意思を持た
ない者に犯罪実行の決意を新たに生じさせるに足りる慫慂行為をすることを
いい,「煽動」とは,同用語を法文において使用している例,例えば破壊活
動防止法上の定義によれば,「特定の行為を実行させる目的をもつて,文書
若しくは図画又は言動により,人に対し,その行為を実行する決意を生ぜし
め又は既に生じている決意を助長させるような勢のある刺激を与えること」
(第4条第2項)をいうとされている。「煽動」は,結果が生じていないど
ころか,実行行為の着手がない極めて早期の段階で処罰しようとするもので
ある。本件法案の条文が示されていないため判然としないが,特定秘密の保
護に関する法律案の概要上は,本件法案の「共謀」,「教唆」についても,
実行行為の着手がない段階で「共謀」,「教唆」を処罰する趣旨に受け取れ
る。
この点,共謀行為については,実行行為がまだ行われていない早期の段階
で処罰するものだとすると,その外延は不明確であり,国民にとっても予測
可能性を欠き,萎縮的効果をもたらすおそれがある。そもそも共謀だけで処
罰することは犯罪実行の着手前に放棄された犯罪の意図は原則として犯罪と
はみなさないという近代刑法の原則にも反する。このような観点から,当連
合会は,従来から,共謀罪を新設することに強く反対する立場をとっている
(2012年4月13日付け「共謀罪の創設に反対する意見書」)。
実行行為の着手がないのに教唆を処罰すること(独立教唆の処罰)は,被
教唆者の実行行為が不要なだけでなく,犯罪行為の決意をも不要とするもの
で,刑法の基本原則である行為責任主義に明らかに反する。そもそも,共犯
19
理論に関する学説の議論状況としては,正犯に実行の着手がなければ,教唆
や幇助といった共犯の処罰は認められないとする共犯従属性の立場が圧倒的
であるが,独立教唆はこれに反して,実行行為以前の極めて早期の段階でこ
れらを処罰しようとするものであり,その結果,内心の意思を処罰すること
になり,上述の近代刑法の原則に真っ向から反するのである。
さらに,煽動行為については,独立教唆行為以上にその成立範囲は不明確
であり,不可罰な表現行為との境界はより曖昧であるから,国民の表現活動
を萎縮させるおそれがある。破壊活動防止法においては,その制定時に,濫
用の危険があるとして,「せん動」概念の限定が議論されており,その結果,
目的要件が付加されたほか,方法についても明示がなされ,その解釈に当た
っては,その対象たる行為を目的・場所・態様において具体的に明らかにせ
ねばならず,かつ,特定の行為を実行させる目的がせん動者の自由かつ真摯
なものでなければならないほか,特定の行為が実行される危険性も必要であ
ると解釈されている。それでもなお,破壊活動防止法の「せん動」規定につ
いては,表現の自由や集会・結社の自由などとの関係で問題があると指摘さ
れていることについては今さら多言を要しないところである。
このように,歴史的に恣意的な濫用の観点から批判され,限定的にのみ導
入・運用されてきた問題の多い「せん動」罪規定を,本件法案に持ち込もう
とすること自体から立法のあり方に重大な疑問を持たざるを得ない。
共謀行為,独立教唆及び煽動を処罰対象とし,実行行為がまだ行われてい
ない早期の段階を処罰範囲に取り込もうとする本件法案の企図するところ
は,政府が秘密にしたいと欲する事項や国民の目には触れさせたくないと欲
する事項に少しでも近付こうとする行為を刑罰により厳しく禁じ,国民の知
る権利をいわば入口よりもずっと手前の段階で塞いでしまおうとする点にあ
ると考えられる。ここにおいては,国民の知る権利,言論・表現の自由,取
材・報道の自由などに対する配慮は皆無といわざるを得ない。


(5) 特定秘密の取得行為の処罰が取材行為等を委縮させることについて
本件法案は,人を欺き,人に暴行を加え,又は人を脅迫する行為,財物の
窃取,施設への侵入,不正アクセス行為その他の特定秘密の保有者の管理を
害する行為による特定秘密の取得行為を処罰するとしている。
「人を欺き」「人に暴行を加え」「人を脅迫する行為」「財物の窃取」「施設
への侵入」「不正アクセス行為」という用語については,いずれの概念もきわ
めて幅広い解釈が可能であり,処罰範囲が著しく広がる危険性が高い。
それがさらに,「その他の特定秘密の保有者の管理を害する行為」となると,
20
具体的にどのような行為を指しているのかが,全く定かではない。一例を挙
げれば,合法的に入室した者がたまたま机上に置いてあった特定秘密が記載
されている書面を見て記憶したといった場合も,これに該当するのか。その
適用範囲が著しく不明確だといわざるを得ない。
そうだとすると,特定秘密の取得行為は,処罰範囲が広範でその外延が不
明確になるおそれがあるといわなければならない。
また,有識者会議報告書が外務省機密漏えい事件の最高裁判決を当然の前
提のように引用していることからすると,本件法案においても,新聞記者を
含む報道関係者が,特定秘密の取得行為の対象となることは,当然に想定さ
れていると解される。
行き過ぎた取材行為が広く特定秘密の取得行為として検挙・処罰されると
したら,報道機関による取材活動は萎縮せざるを得ないのであり,報道関係
者による取材の自由・報道の自由に対する重大な制約になり,ひいては国民
の知る権利,国民の表現の自由・言論の自由に対する重大な制約となる。
オンブズマン活動や反戦平和運動に関わる市民は,その活動の一環として,
秘密情報に迫ろうとするが,これらの活動も特定秘密の取得行為に問われか
ねないリスクがあり,主権者としての当然の活動が特定秘密の保護に関する
法律により萎縮させられるであろう。


(6) 法定刑が重すぎること
本件法案では,法定刑の上限を懲役5年又は10年まで引き上げることと
されており,公務員の情報漏えいについて重罰化が図られようとしている。
しかしながら,重罰化することは,過度な萎縮的効果をもたらすことにな
るおそれがあるし,前述したように,過去の主要な情報漏えい事件を見ても,
懲役10月の実刑の事例と懲役2年6月,4年間執行猶予の事例があるだけ
であり,法定刑の上限を懲役10年に引き上げるべき必要性はない。
法定刑の上限が懲役10年まで引き上げられると,極めて厳しい量刑がな
されることになるが,これは本法制による刑罰の対象となる公務員,報道関
係者,市民活動家などに対する威嚇以外の何物でもないといわなければなら
ず,そのような法定刑には重大な疑問がある。
(7) 曖昧で広範囲な処罰規定の目指すところ
本件法案においては,故意の漏えい行為の処罰においてすら極めて問題が
多いにもかかわらず,過失の漏えい行為のほか,未遂行為や共謀行為,独立
教唆,煽動,特定取得行為及びその共謀,教唆,煽動まで処罰しようとして
いるが,その基礎にあるのは,秘密情報の漏えいという結果は,過失であろ
21
うと故意であろうと,その国益に与える影響という点において何ら差異はな
く,また,実際に漏えいがなされなかったとしても,漏えい行為が行われよ
うと,行為あるいはこれを誘発しようとした行為それ自体を厳しく取り締ま
らなければ,およそ秘密の徹底した保持は図りえないという考え方である。
しかしながら,いかに秘密情報の漏えいという結果の重大性を強調しようと
も,処罰されるべき行為の外延を明確に画することなく,国民に刑罰を課す
ことが許されないのは罪刑法定主義の観点からは当然である。
このような姿勢は,これまで当連合会が,国民主権・民主主義・基本的人
権擁護の理念に基づいてとってきた立場とは真っ向から対立するものであ
り,到底容認できるものではない。


6 国会及び国会議員との関係
本件法案では,第2.1(2)エで国会議員を特定秘密の提供先として想定する
一方で,第2.2(1)イで処罰対象とすることも規定している。すなわち,特定
秘密を知得した議員が特定秘密を故意または過失により漏えいをしたときに5
年以下の自由刑に処するものとしている。国会議員について,第2.2(2)(3)
が適用されないということも明記されていない。
これによると,秘密の委員会や調査会で知った秘密情報を,国会議員が同じ
会派の議員や秘書,専門家として相談に乗ってもらっている弁護士や学者など
に一切知らせることができないことになり,本来の議員活動ができなくなるお
それがある。これでは国会議員は,個人として深く検討することができないだ
けでなく,所属政党として十分な検討をすることもできない。
これは議会制民主主義の否定というもいうべき大問題である。
よって,国会議員を処罰しうるとの規定は設けるべきでない。
さらに,第2.2(1)イでは,裁判官や情報公開・個人情報保護審査会の委員
も処罰対象としているが,これらの者についてはこれまでに深刻な秘密漏えい
事件を起こしたことがあったわけではないし,国家公務員法違反による処罰が
可能であるから,秘密保護法によって改めて重く処罰する必要はない。


7 裁判を受ける権利と秘密保全法制について
裁判を受ける権利は基本的人権(憲法第32条)である。
刑事被告人は,公平な裁判所において迅速,公開の裁判を受ける権利を保障
されており(憲法第37条),その裁判は公開することが憲法上の原則である(憲
法第82条第1項)。とりわけ同条第2項ただし書で,政治犯罪,出版に関する
22
犯罪,憲法第三章で保障する国民の権利が問題となっている場合には,必ず公
開しなければならない。このように憲法は国民の裁判を受ける権利について,
詳細に規定している。
公開の法廷とは,形式的な公開だけではなく,裁判の始まりから終結まで全
ての局面において,実質的に公開されていなければならないことを意味する。
そして,特定秘密の保護に関する法律に違反して起訴された場合,その裁判
は憲法第82条第2項ただし書きに該当するものとなる。このことは,特定秘
密の保護に関する法律に対して解決困難な問題を提起する。国家秘密を漏えい
し,違法に取得し,その教唆せん動,共謀行為を行ったとして起訴された場合,
その国家秘密が公開の法廷で公開されれば,それはたちどころに秘密ではなく
なる。国家秘密が非公開なまま裁判が進行すれば,公開原則に違反し,裁判を
受ける権利を侵害する。
これに対し,かつて国家秘密法が国会に提出されたときに,それを推進した
自由民主党のパンフレット(1982年発行)は,「裁判における秘密の立証は
秘密事項そのものを法廷に提出しなくとも,問題となっている防衛秘密の種類
と性質や,その秘密とされる理由及び未だ多数の人々に知られていない蓋然性
等を立証すれば足りると解せられます」としていた。法廷で問題となった秘密
が実質的に特定秘密の要件を満たすものかどうかを裁判所が判断する際に,そ
の秘密の内容が秘匿されたまま,秘密の種類,性質,秘匿の理由等が示される
だけで実質的な審理,的確な判断ができるか甚だ疑問である。司法には,行政
当局の秘密指定とは独立して「特定秘密」に当たるか否かの判断を公正にする
ことが求められている。そのためにも憲法にいう公開の原則は守られなければ
ならない。
また,国家秘密を秘匿したままの裁判では,被告人がどのような事実で処罰
されるのか分からない状態で裁判を受けることとなり,実質的な防御権・弁護
権を奪われるおそれがある。弁護人は,弁護活動のため秘匿された国家秘密に
できるだけ接近しようとするであろうが,関係者への事情聴取等の調査活動,
資料の収集活動も教唆,共謀等に問われるのだとすれば,弁護活動も著しく制
約されることになる。これは弁護人選任権,公正な裁判の否定である。
基本的人権侵害の最後の救済が裁判を受ける権利であるが,これはあくまで
事後的救済であり,犯罪として捜査,起訴されただけでも回復不可能な重大な
人権侵害となる。その上さらに,特定秘密の保護に関する法律に違反した犯罪
では,裁判を受ける権利が否定されかねず,事後的救済すら不十分なものとな
る。
23
国家の平和と安全については,憲法第9条を巡る国民世論の鋭い対立がある
ように,思想・信条,政治的立場により,意見や行動が左右される。その結果,
国家秘密を巡る刑事裁判は,特定の政治的立場による政治裁判になるおそれが
ある。その上,上記のように公正な裁判すら期待できないことになれば,裁判
を受ける権利は名ばかりとなる。
本件法案は,公開の法廷で裁判を受ける国民の基本的権利については,何ら
言及していない。


8 特定秘密保護に関する法律が憲法の保障する人権を侵害すること
取材の自由及び報道の自由は,憲法上の権利である表現の自由に直結し,ま
た憲法で保障された国民の知る権利に資するものとして,極めて重要な憲法上
の権利である。のみならず,報道による権力監視は,民主主義と個人の自由の
ために極めて重要である。
ところが,特定秘密の要件自体が過度に広範かつ不明確である上,共犯処罰
規定が設けられていることからすれば,処罰対象が無限定に広がりかねない。
そのため,取材者は,自身の取材活動が処罰対象となるかを予測できないまま
取材をすることとなり,処罰を避けるためには,結果的に取材そのものを控え
ざるを得ない。罰則規定による取材の自由に対する萎縮効果は計り知れない。
また,特定秘密の取得行為についても,「管理を害する行為」を処罰対象と
しているが,要件があまりに不明確であり,いかなる取材活動が「管理を害す
る行為」となるか否かの判断はおよそ不可能であり,処罰を避けるためには,
やはり取材そのものを自粛する事態ともなりかねない。
本件法案では,その上,特定秘密の取得行為に対する共謀等も処罰の対象と
していることからすれば,およそ取材活動に対して無限定に処罰対象を広げる
ことになりかねず,取材の自由が著しく脅かされることは必至である。
そして,取材内容が報道された時点で,特定秘密の漏えいとされれば,上記
と同様のことが当てはまるのであって,報道の自由も著しく制限されることは
明らかである。
確かに,本件法案においては,拡張解釈の禁止,国民の基本的人権を不当に
害するようなことがあってはならない旨の規定が置かれることが想定されて
いる。しかし,どこまでが「拡張解釈」なのか,何が「不当」なのかは極めて
判断が困難であり,政府においていくらでも「拡張解釈ではない」,「不当な適
用ではない」との強弁が可能である。現に,同様の規定を有する破壊活動防止
法の運用においても,法が拡大解釈され,破壊活動に関わらない青年法律家協
24
会等の団体まで調査対象とされている実態を想起すべきである。
特定秘密の保護に関する法律は,立憲主義に悖り,国民主権の基礎を危うく
するとともに,国民の基本的人権を侵害するものである。
以下詳述する。

(1) 秘密保全法制が国民主権と矛盾すること
国民の知る権利は,民主主義の根幹である。国民主権を基本的原理の一つ
とする日本国憲法の下にあっては,国政に関する重要情報に接することがそ
の基礎である。したがって,国民主権の原理は,基本的人権の一つである
「国民の知る権利」が保障されることを当然の前提としている。情報公開制
度は,国民の知る権利を実質的に保障する制度である。
そもそも国政の重要情報は,主権者たる国民のものである。その上で,例
え一定程度の保護すべき国家秘密を認めるとしても,その概念は明確にすべ
きであり,可能な限りその範囲は限定されるべきである。なぜなら,国民主
権と国家秘密の保護とは,原理的な緊張関係にあるからである。
国民の知る権利を保障するためには,情報公開制度の充実が不可欠である
が,国民主権と原理的緊張関係にある秘密保護制度との関係では,「国民の
知る権利と情報公開が最も中枢の基本的人権である」ことが優先されなけれ
ばならない。したがって,秘密保護制度を検討する場合,国民の知る権利の
真の保障と国家秘密の保護とのバランスを,どのように調整するのかという,
最も重要な問題を慎重に検討しなければならない。
有識者会議報告書は,秘密保全法制で保護すべき特別秘密は,情報公開法
では非開示情報になるので,国民の知る権利を侵害することにはならないと
述べているが,現行の情報公開法は,国民主権と国民の知る権利を保障する
上で,極めて不十分であるから,報告書の考え方は本末転倒である。外交・
防衛・警察等に関する不開示事由の広範さの限定こそが情報公開法の改正に
おいて重要な課題になっているときに,報告書が上記のような見解を採用す
ることは極めて問題である。
本件法案においては,上記したとおり,保護される「特定秘密」の範囲は
不明確かつ広範に過ぎ,国民の知る権利より国家秘密の保障を優先させるも
のといわなくてはならない。かかる法制は国民主権原理に反し,国民の知る
権利を侵害するものとして到底許されない。


(2) 違法秘密と擬似秘密まで保護されてしまうこと
「特定秘密」は行政機関が指定権限を有するものであることから,違法秘
密や擬似秘密(時の政府当局者の自己保身のための秘密)を「特定秘密」に
25
指定してしまう危険性がある。政局を有利に展開するために利用される危険
が極めて高い。これは重要な国政の課題について国民の判断を誤らせ,国の
政治の流れを誤らせ,国際関係を悪化させる危険性が高いだけに,確実に排
除されなければならない。
しかるに,本件法案にはこの問題の解決につながるような規定はない。こ
れでは,国民主権は空洞化してしまうのであり,到底,本件法案を許容する
ことはできない。


(3) 小括
以上のとおり,本件法案は,憲法の諸原理と根本的に矛盾抵触するもので
あり,是認できない。


9 いま必要なことは情報公開の推進である
我が国ではほとんどの行政事務が国の主導で進められて来たが,情報公開制
度は違っていた。我が国の情報公開制度は,国からではなく,地方自治体から
始まった。
1982年以降,全国の市町村都道府県で情報公開条例の制定が,燎原の火
のごとく急速に広がっていった。それでも国では情報公開法制定の動きは起こ
らなかった。各省庁の反対が極めて強かったからである。
情報公開法の制定は1999年にやっと実現したものの,当初からその不十
分さが指摘されていた。情報公開法は2001年4月から施行されたが,全体
的に各省庁とも極めて消極的・恣意的な運用で,納得できない国民の不服申立
や情報公開訴訟が相次ぎ,国民の請求が認められる答申や判決が続出した。
このような閉塞状況を打開すべく,当連合会は情報公開法の改正を提案し続
け,2011年4月,当連合会の意見を部分的に採用した情報公開法改正案(①
「国民の知る権利」の明記,②不開示事由規定の限定,③手数料の廃止,④裁
判管轄の拡大など)が閣議決定され,国会に提出され,いつ審議入りになって
成立してもよい段階まで進んでいた。それが未だに審議されないままのところ
で登場したのが秘密保全法制の法制化である。なお,情報公開法改正案は,2
012年11月の衆議院解散に伴い,廃案となっている。
いま我が国に必要なのは情報公開の推進である。これこそが,重要な国政に
関する国民の議論を活性化させ,民主主義の発展に寄与するのである。また,
情報公開度の高さは国の政治の透明度の高さを世界に示すものであり,国家間
の相互信頼を築く上で重要な役割を果たす。現在なされるべきは,現状法下に
おける積極的な情報公開と情報公開法の早期改正である。
26
当連合会は,日本国憲法の諸原理を尊重する立場から,本件法案が立法化さ
れることに強く反対し,政府が本件法案を国会に提出しないことを強く求める。
以上
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非嫡出子(婚外子)相続格差は違憲!戦後9件目の法令違憲判断

2013-09-04 23:00:00 | 国政レベルでなすべきこと
 出るべきして、判決が出ました。

 子どもは、親を選べない訳であり、法の下の平等の制度下、当然の判決だと考えます。

 

 婚外子相続格差は違憲!戦後9件目の法令違憲判断
http://matome.naver.jp/odai/2137827849521342101
結婚していない男女の間に生まれた非嫡出子(婚外子)の遺産相続分を嫡出子の半分と定めた民法の規定が、法の下の平等を保障した憲法に違反するかが争われた2件の家事審判の特別抗告審で、最高裁大法廷(裁判長・竹崎博允長官)は4日、規定は「違憲」との決定を示した。

******判決文 全文********
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130904154932.pdf
主文

原決定を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。


理由
抗告人Y1の抗告理由第1及び抗告人Y2の代理人小田原昌行,同鹿田昌,同柳 生由紀子の抗告理由3(2)について

1 事案の概要等
本件は,平成13年7月▲▲日に死亡したAの遺産につき,Aの嫡出である子 (その代襲相続人を含む。)である相手方らが,Aの嫡出でない子である抗告人ら に対し,遺産の分割の審判を申し立てた事件である。
原審は,民法900条4号ただし書の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子 の相続分の2分の1とする部分(以下,この部分を「本件規定」という。)は憲法 14条1項に違反しないと判断し,本件規定を適用して算出された相手方ら及び抗 告人らの法定相続分を前提に,Aの遺産の分割をすべきものとした。
論旨は,本件規定は憲法14条1項に違反し無効であるというものである。

2 憲法14条1項適合性の判断基準について
憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定が,事柄の性質に応じ
た合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のも のであると解すべきことは,当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和37 -1-
年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁, 最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3 号265頁等)。
相続制度は,被相続人の財産を誰に,どのように承継させるかを定めるものであ るが,相続制度を定めるに当たっては,それぞれの国の伝統,社会事情,国民感情 なども考慮されなければならない。さらに,現在の相続制度は,家族というものを どのように考えるかということと密接に関係しているのであって,その国における 婚姻ないし親子関係に対する規律,国民の意識等を離れてこれを定めることはでき ない。これらを総合的に考慮した上で,相続制度をどのように定めるかは,立法府 の合理的な裁量判断に委ねられているものというべきである。この事件で問われて いるのは,このようにして定められた相続制度全体のうち,本件規定により嫡出子 と嫡出でない子との間で生ずる法定相続分に関する区別が,合理的理由のない差別 的取扱いに当たるか否かということであり,立法府に与えられた上記のような裁量 権を考慮しても,そのような区別をすることに合理的な根拠が認められない場合に は,当該区別は,憲法14条1項に違反するものと解するのが相当である。

3 本件規定の憲法14条1項適合性について
(1) 憲法24条1項は,「婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し,夫婦が同 等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持されなければならな い。」と定め,同条2項は,「配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並 びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の 本質的平等に立脚して,制定されなければならない。」と定めている。これを受け て,民法739条1項は,「婚姻は,戸籍法(中略)の定めるところにより届け出
-2-
ることによって,その効力を生ずる。」と定め,いわゆる事実婚主義を排して法律 婚主義を採用している。一方,相続制度については,昭和22年法律第222号に よる民法の一部改正(以下「昭和22年民法改正」という。)により,「家」制度 を支えてきた家督相続が廃止され,配偶者及び子が相続人となることを基本とする 現在の相続制度が導入されたが,家族の死亡によって開始する遺産相続に関し嫡出 でない子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1とする規定(昭和22年民法改正 前の民法1004条ただし書)は,本件規定として現行民法にも引き継がれた。

(2) 最高裁平成3年(ク)第143号同7年7月5日大法廷決定・民集49巻 7号1789頁(以下「平成7年大法廷決定」という。)は,本件規定を含む法定 相続分の定めが,法定相続分のとおりに相続が行われなければならないことを定め たものではなく,遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて補充的に機能 する規定であることをも考慮事情とした上,前記2と同旨の判断基準の下で,嫡出 でない子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1と定めた本件規定につき,「民法 が法律婚主義を採用している以上,法定相続分は婚姻関係にある配偶者とその子を 優遇してこれを定めるが,他方,非嫡出子にも一定の法定相続分を認めてその保護 を図ったものである」とし,その定めが立法府に与えられた合理的な裁量判断の限 界を超えたものということはできないのであって,憲法14条1項に反するものと はいえないと判断した。
しかし,法律婚主義の下においても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分をどの ように定めるかということについては,前記2で説示した事柄を総合的に考慮して 決せられるべきものであり,また,これらの事柄は時代と共に変遷するものでもあ るから,その定めの合理性については,個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に
-3-
照らして不断に検討され,吟味されなければならない。

(3) 前記2で説示した事柄のうち重要と思われる事実について,
昭和22年民法改正以降の変遷等の概要をみると,次のとおりである。

ア 昭和22年民法改正の経緯をみると,その背景には,「家」制度を支えてき
た家督相続は廃止されたものの,相続財産は嫡出の子孫に承継させたいとする気風 や,法律婚を正当な婚姻とし,これを尊重し,保護する反面,法律婚以外の男女関 係,あるいはその中で生まれた子に対する差別的な国民の意識が作用していたこと がうかがわれる。また,この改正法案の国会審議においては,本件規定の憲法14 条1項適合性の根拠として,嫡出でない子には相続分を認めないなど嫡出子と嫡出 でない子の相続分に差異を設けていた当時の諸外国の立法例の存在が繰り返し挙げ られており,現行民法に本件規定を設けるに当たり,上記諸外国の立法例が影響を 与えていたことが認められる。
しかし,昭和22年民法改正以降,我が国においては,社会,経済状況の変動に 伴い,婚姻や家族の実態が変化し,その在り方に対する国民の意識の変化も指摘さ れている。すなわち,地域や職業の種類によって差異のあるところであるが,要約 すれば,戦後の経済の急􏰀な発展の中で,職業生活を支える最小単位として,夫婦 と一定年齢までの子どもを中心とする形態の家族が増加するとともに,高齢化の進 展に伴って生存配偶者の生活の保障の必要性が高まり,子孫の生活手段としての意 義が大きかった相続財産の持つ意味にも大きな変化が生じた。昭和55年法律第5 1号による民法の一部改正により配偶者の法定相続分が引き上げられるなどしたの は,このような変化を受けたものである。さらに,昭和50年代前半頃までは減少 傾向にあった嫡出でない子の出生数は,その後現在に至るまで増加傾向が続いてい
-4-
るほか,平成期に入った後においては,いわゆる晩婚化,非婚化,少子化が進み, これに伴って中高年の未婚の子どもがその親と同居する世帯や単独世帯が増加して いるとともに,離婚件数,特に未成年の子を持つ夫婦の離婚件数及び再婚件数も増 加するなどしている。これらのことから,婚姻,家族の形態が著しく多様化してお り,これに伴い,婚姻,家族の在り方に対する国民の意識の多様化が大きく進んで いることが指摘されている。

イ 前記アのとおり本件規定の立法に影響を与えた諸外国の状況も,大きく変化 してきている。すなわち,諸外国,特に欧米諸国においては,かつては,宗教上の 理由から嫡出でない子に対する差別の意識が強く,昭和22年民法改正当時は,多 くの国が嫡出でない子の相続分を制限する傾向にあり,そのことが本件規定の立法 に影響を与えたところである。しかし,1960年代後半(昭和40年代前半)以 降,これらの国の多くで,子の権利の保護の観点から嫡出子と嫡出でない子との平 等化が進み,相続に関する差別を廃止する立法がされ,平成7年大法廷決定時点で この差別が残されていた主要国のうち,ドイツにおいては1998年(平成10 年)の「非嫡出子の相続法上の平等化に関する法律」により,フランスにおいては 2001年(平成13年) の「生存配偶者及び姦生子の権利並びに相続法の諸規 定の現代化に関する法律」により,嫡出子と嫡出でない子の相続分に関する差別が それぞれ撤廃されるに至っている。現在,我が国以外で嫡出子と嫡出でない子の相 続分に差異を設けている国は,欧米諸国にはなく,世界的にも限られた状況にあ る。

ウ 我が国は,昭和54年に「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(昭和 54年条約第7号)を,平成6年に「児童の権利に関する条約」(平成6年条約第
-5-
2号)をそれぞれ批准した。これらの条約には,児童が出生によっていかなる差別 も受けない旨の規定が設けられている。また,国際連合の関連組織として,前者の 条約に基づき自由権規約委員会が,後者の条約に基づき児童の権利委員会が設置さ れており,これらの委員会は,上記各条約の履行状況等につき,締約国に対し,意 見の表明,勧告等をすることができるものとされている。
我が国の嫡出でない子に関する上記各条約の履行状況等については,平成5年に 自由権規約委員会が,包括的に嫡出でない子に関する差別的規定の削除を勧告し, その後,上記各委員会が,具体的に本件規定を含む国籍,戸籍及び相続における差 別的規定を問題にして,懸念の表明,法改正の勧告等を繰り返してきた。最近で も,平成22年に,児童の権利委員会が,本件規定の存在を懸念する旨の見解を改 めて示している。

エ 前記イ及びウのような世界的な状況の推移の中で,我が国における嫡出子と 嫡出でない子の区別に関わる法制等も変化してきた。すなわち,住民票における世 帯主との続柄の記載をめぐり,昭和63年に訴訟が提起され,その控訴審係属中で ある平成6年に,住民基本台帳事務処理要領の一部改正(平成6年12月15日自 治振第233号)が行われ,世帯主の子は,嫡出子であるか嫡出でない子であるか を区別することなく,一律に「子」と記載することとされた。また,戸籍における 嫡出でない子の父母との続柄欄の記載をめぐっても,平成11年に訴訟が提起さ れ,その第1審判決言渡し後である平成16年に,戸籍法施行規則の一部改正(平 成16年法務省令第76号)が行われ,嫡出子と同様に「長男(長女)」等と記載 することとされ,既に戸籍に記載されている嫡出でない子の父母との続柄欄の記載 も,通達(平成16年11月1日付け法務省民一第3008号民事局長通達)によ
-6-
り,当該記載を申出により上記のとおり更正することとされた。さらに,最高裁平 成18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号136 7頁は,嫡出でない子の日本国籍の取得につき嫡出子と異なる取扱いを定めた国籍 法3条1項の規定(平成20年法律第88号による改正前のもの)が遅くとも平成 15年当時において憲法14条1項に違反していた旨を判示し,同判決を契機とす る国籍法の上記改正に際しては,同年以前に日本国籍取得の届出をした嫡出でない 子も日本国籍を取得し得ることとされた。

オ 嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等なものにすべきではないかとの問 題についても,かなり早くから意識されており,昭和54年に法務省民事局参事官 室により法制審議会民法部会身分法小委員会の審議に基づくものとして公表された 「相続に関する民法改正要綱試案」において,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分 を平等とする旨の案が示された。また,平成6年に同じく上記小委員会の審議に基 づくものとして公表された「婚姻制度等に関する民法改正要綱試案」及びこれを更 に検討した上で平成8年に法制審議会が法務大臣に答申した「民法の一部を改正す る法律案要綱」において,両者の法定相続分を平等とする旨が明記された。さら に,平成22年にも国会への提出を目指して上記要綱と同旨の法律案が政府により 準備された。もっとも,いずれも国会提出には至っていない。

カ 前記ウの各委員会から懸念の表明,法改正の勧告等がされた点について同エ のとおり改正が行われた結果,我が国でも,嫡出子と嫡出でない子の差別的取扱い はおおむね解消されてきたが,本件規定の改正は現在においても実現されていな い。その理由について考察すれば,欧米諸国の多くでは,全出生数に占める嫡出で ない子の割合が著しく高く,中には50%以上に達している国もあるのとは対照的
-7-
に,我が国においては,嫡出でない子の出生数が年々増加する傾向にあるとはい え,平成23年でも2万3000人余,上記割合としては約2.2%にすぎない し,婚姻届を提出するかどうかの判断が第1子の妊娠と深く結び付いているとみら れるなど,全体として嫡出でない子とすることを避けようとする傾向があること, 換言すれば,家族等に関する国民の意識の多様化がいわれつつも,法律婚を尊重す る意識は幅広く浸透しているとみられることが,上記理由の一つではないかと思わ れる。
しかし,嫡出でない子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1とする本件規定の 合理性は,前記2及び(2)で説示したとおり,種々の要素を総合考慮し,個人の尊 厳と法の下の平等を定める憲法に照らし,嫡出でない子の権利が不当に侵害されて いるか否かという観点から判断されるべき法的問題であり,法律婚を尊重する意識 が幅広く浸透しているということや,嫡出でない子の出生数の多寡,諸外国と比較 した出生割合の大小は,上記法的問題の結論に直ちに結び付くものとはいえない。

キ 当裁判所は,平成7年大法廷決定以来,結論としては本件規定を合憲とする 判断を示してきたものであるが,平成7年大法廷決定において既に,嫡出でない子 の立場を重視すべきであるとして5名の裁判官が反対意見を述べたほかに,婚姻, 親子ないし家族形態とこれに対する国民の意識の変化,更には国際的環境の変化を 指摘して,昭和22年民法改正当時の合理性が失われつつあるとの補足意見が述べ られ,その後の小法廷判決及び小法廷決定においても,同旨の個別意見が繰り返し 述べられてきた(最高裁平成11年(オ)第1453号同12年1月27日第一小 法廷判決・裁判集民事196号251頁,最高裁平成14年(オ)第1630号同 15年3月28日第二小法廷判決・裁判集民事209号347頁,最高裁平成14
-8-
年(オ)第1963号同15年3月31日第一小法廷判決・裁判集民事209号3 97頁,最高裁平成16年(オ)第992号同年10月14日第一小法廷判決・裁 判集民事215号253頁,最高裁平成20年(ク)第1193号同21年9月3 0日第二小法廷決定・裁判集民事231号753頁等)。特に,前掲最高裁平成1 5年3月31日第一小法廷判決以降の当審判例は,その補足意見の内容を考慮すれ ば,本件規定を合憲とする結論を辛うじて維持したものとみることができる。

ク 前記キの当審判例の補足意見の中には,本件規定の変更は,相続,婚姻,親 子関係等の関連規定との整合性や親族・相続制度全般に目配りした総合的な判断が 必要であり,また,上記変更の効力発生時期ないし適用範囲の設定も慎重に行うべ きであるとした上,これらのことは国会の立法作用により適切に行い得る事柄であ る旨を述べ,あるいは,􏰀やかな立法措置を期待する旨を述べるものもある。
これらの補足意見が付されたのは,前記オで説示したように,昭和54年以降間 けつ的に本件規定の見直しの動きがあり,平成7年大法廷決定の前後においても法 律案要綱が作成される状況にあったことなどが大きく影響したものとみることもで きるが,いずれにしても,親族・相続制度のうちどのような事項が嫡出でない子の 法定相続分の差別の見直しと関連するのかということは必ずしも明らかではなく, 嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等とする内容を含む前記オの要綱及び法律 案においても,上記法定相続分の平等化につき,配偶者相続分の変更その他の関連 する親族・相続制度の改正を行うものとはされていない。そうすると,関連規定と の整合性を検討することの必要性は,本件規定を当然に維持する理由とはならない というべきであって,上記補足意見も,裁判において本件規定を違憲と判断するこ とができないとする趣旨をいうものとは解されない。また,裁判において本件規定
-9-
を違憲と判断しても法的安定性の確保との調和を図り得ることは,後記4で説示す るとおりである。
なお,前記(2)のとおり,平成7年大法廷決定においては,本件規定を含む法定 相続分の定めが遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて補充的に機能す る規定であることをも考慮事情としている。しかし,本件規定の補充性からすれ ば,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等とすることも何ら不合理ではないと いえる上,遺言によっても侵害し得ない遺留分については本件規定は明確な法律上 の差別というべきであるとともに,本件規定の存在自体がその出生時から嫡出でな い子に対する差別意識を生じさせかねないことをも考慮すれば,本件規定が上記の ように補充的に機能する規定であることは,その合理性判断において重要性を有し ないというべきである。

(4) 本件規定の合理性に関連する以上のような種々の事柄の変遷等は,その中 のいずれか一つを捉えて,本件規定による法定相続分の区別を不合理とすべき決定 的な理由とし得るものではない。しかし,昭和22年民法改正時から現在に至るま での間の社会の動向,我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の 変化,諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置 された委員会からの指摘,嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化,更 にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば,家 族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らか であるといえる。そして,法律婚という制度自体は我が国に定着しているとして も,上記のような認識の変化に伴い,上記制度の下で父母が婚姻関係になかったと いう,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に
- 10 -
不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべきで あるという考えが確立されてきているものということができる。
以上を総合すれば,遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時において は,立法府の裁量権を考慮しても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する 合理的な根拠は失われていたというべきである。
したがって,本件規定は,遅くとも平成13年7月当時において,憲法14条1
項に違反していたものというべきである。

4 先例としての事実上の拘束性について
本決定は,本件規定が遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違 反していたと判断するものであり,平成7年大法廷決定並びに前記3(3)キの小法 廷判決及び小法廷決定が,それより前に相続が開始した事件についてその相続開始 時点での本件規定の合憲性を肯定した判断を変更するものではない。
他方,憲法に違反する法律は原則として無効であり,その法律に基づいてされた 行為の効力も否定されるべきものであることからすると,本件規定は,本決定によ り遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたと判断され る以上,本決定の先例としての事実上の拘束性により,上記当時以降は無効である こととなり,また,本件規定に基づいてされた裁判や合意の効力等も否定されるこ とになろう。しかしながら,本件規定は,国民生活や身分関係の基本法である民法 の一部を構成し,相続という日常的な現象を規律する規定であって,平成13年7 月から既に約12年もの期間が経過していることからすると,その間に,本件規定 の合憲性を前提として,多くの遺産の分割が行われ,更にそれを基に新たな権利関 係が形成される事態が広く生じてきていることが容易に推察される。取り分け,本
- 11 -
決定の違憲判断は,長期にわたる社会状況の変化に照らし,本件規定がその合理性 を失ったことを理由として,その違憲性を当裁判所として初めて明らかにするもの である。それにもかかわらず,本決定の違憲判断が,先例としての事実上の拘束性 という形で既に行われた遺産の分割等の効力にも影響し,いわば解決済みの事案に も効果が及ぶとすることは,著しく法的安定性を害することになる。法的安定性は 法に内在する普遍的な要請であり,当裁判所の違憲判断も,その先例としての事実 上の拘束性を限定し,法的安定性の確保との調和を図ることが求められているとい わなければならず,このことは,裁判において本件規定を違憲と判断することの適 否という点からも問題となり得るところといえる(前記3(3)ク参照)。
以上の観点からすると,既に関係者間において裁判,合意等により確定的なもの となったといえる法律関係までをも現時点で覆すことは相当ではないが,関係者間 の法律関係がそのような段階に至っていない事案であれば,本決定により違憲無効 とされた本件規定の適用を排除した上で法律関係を確定的なものとするのが相当で あるといえる。そして,相続の開始により法律上当然に法定相続分に応じて分割さ れる可分債権又は可分債務については,債務者から支払を受け,又は債権者に弁済 をするに当たり,法定相続分に関する規定の適用が問題となり得るものであるか ら,相続の開始により直ちに本件規定の定める相続分割合による分割がされたもの として法律関係が確定的なものとなったとみることは相当ではなく,その後の関係 者間での裁判の終局,明示又は黙示の合意の成立等により上記規定を改めて適用す る必要がない状態となったといえる場合に初めて,法律関係が確定的なものとなっ たとみるのが相当である。
したがって,本決定の違憲判断は,Aの相続の開始時から本決定までの間に開始
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された他の相続につき,本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁
判,遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響
を及ぼすものではないと解するのが相当である。

5 結論
以上によれば,平成13年7月▲▲日に開始したAの相続に関しては,本件規定 は,憲法14条1項に違反し無効でありこれを適用することはできないというべき である。これに反する原審の前記判断は,同項の解釈を誤るものであって是認する ことができない。論旨は理由があり,その余の論旨について判断するまでもなく原 決定は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻 すこととする。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官金築誠 志,同千葉勝美,同岡部喜代子の各補足意見がある。

裁判官金築誠志の補足意見は,次のとおりである。

法廷意見のうち本決定の先例としての事実上の拘束性に関する判示は,これまで の当審の判例にはなかったもので,将来にわたり一般的意義を有し,種々議論があ り得ると思われるので,私の理解するところを述べておくこととしたい。
本決定のような考え方が,いかにして可能であるのか。この問題を検討するに当 たっては,我が国の違憲審査制度において確立した原則である,いわゆる付随的違 憲審査制と違憲判断に関する個別的効力説を前提とすべきであろう。
付随的違憲審査制は,当該具体的事案の解決に必要な限りにおいて法令の憲法適 合性判断を行うものであるところ,本件の相続で問題とされているのは,同相続の 開始時に実体的な効力を生じさせている法定相続分の規定であるから,その審査
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は,同相続が開始した時を基準として行うべきである。本決定も,本件の相続が開 始した当時を基準として,本件規定の憲法適合性を判断している。
また,個別的効力説では,違憲判断は当該事件限りのものであって,最高裁判所 の違憲判断といえども,違憲とされた規定を一般的に無効とする効力がないから, 立法により当該規定が削除ないし改正されない限り,他の事件を担当する裁判所 は,当該規定の存在を前提として,改めて憲法判断をしなければならない。個別的 効力説における違憲判断は,他の事件に対しては,先例としての事実上の拘束性し か有しないのである。とはいえ,遅くとも本件の相続開始当時には本件規定は憲法 14条1項に違反するに至っていた旨の判断が最高裁判所においてされた以上,法 の平等な適用という観点からは,それ以降の相続開始に係る他の事件を担当する裁 判所は,同判断に従って本件規定を違憲と判断するのが相当であることになる。そ の意味において,本決定の違憲判断の効果は,遡及するのが原則である。
しかし,先例としての事実上の拘束性は,同種の事件に同一の解決を与えること により,法の公平・平等な適用という要求に応えるものであるから,憲法14条1 項の平等原則が合理的な理由による例外を認めるのと同様に,合理的な理由に基づ く例外が許されてよい。また,先例としての事実上の拘束性は,同種の事件に同一 の解決を与えることによって,法的安定性の実現を図るものでもあるところ,拘束 性を認めることが,かえって法的安定性を害するときは,その役割を後退させるべ きであろう。本決定の違憲判断により,既に行われた遺産分割等の効力が影響を受 けるものとすることが,著しく法的安定性を害することについては,法廷意見の説 示するとおりであるが,特に,従来の最高裁判例が合憲としてきた法令について違 憲判断を行うという本件のような場合にあっては,従来の判例に依拠して行われて
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きた行為の効力を否定することは,法的安定性を害する程度が更に大きい。 遡及効を制限できるか否かは,裁判所による法の解釈が,正しい法の発見にとど まるのか,法の創造的機能を持つのかという問題に関連するところが大きいとの見 解がある。確かに,当該事件を離れて,特定の法解釈の適用範囲を決定する行為 は,立法に類するところがあるといわなければならない。裁判所による法解釈は正 しい法の発見にとどまると考えれば,遡及効の制限についても否定的な見解に傾く ことになろう。そもそも,他の事件に対する法適用の在り方について判示すること
の当否を問題にする向きもあるかもしれない。 しかし,本決定のこの点に関する判示は,予測される混乱を回避する方途を示す
ことなく本件規定を違憲と判断することは相当でないという見地からなされたもの と解されるのであって,違憲判断と密接に関連しているものであるから,単なる傍 論と評価すべきではない。また,裁判所による法解釈は正しい法の発見にとどまる という考え方については,法解釈の実態としては,事柄により程度・態様に違いは あっても,通常,何ほどかの法創造的な側面を伴うことは避け難いと考えられるの であって,裁判所による法解釈の在り方を上記のように限定することは,相当とは 思われない。コモン・ローの伝統を受け継ぐ米国においても,判例の不遡及的変更 を認めている。
また,判例の不遡及的変更は,憲法判断の場合に限られる問題ではないが,法令 の規定に関する憲法判断の変更において,法的安定性の確保の要請が,より深刻か つ広範な問題として現出することは,既に述べたとおりである。法令の違憲審査に ついては,その影響の大きさに鑑み,法令を合憲的に限定解釈するなど,謙抑的な 手法がとられることがあるが,遡及効の制限をするのは,違憲判断の及ぶ範囲を限
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定しようというものであるから,違憲審査権の謙抑的な行使と見ることも可能であ ろう。
いずれにしても,違憲判断は個別的効力しか有しないのであるから,その判断の 遡及効に関する判示を含めて,先例としての事実上の拘束性を持つ判断として,他 の裁判所等により尊重され,従われることによって効果を持つものである。その意 味でも,立法とは異なるのであるが,実際上も,今後どのような形で関連する紛争 が生ずるかは予測しきれないところがあり,本決定は,違憲判断の効果の及ばない 場合について,網羅的に判示しているわけでもない。各裁判所は,本決定の判示を 指針としつつも,違憲判断の要否等も含めて,事案の妥当な解決のために適切な判 断を行っていく必要があるものと考える。

裁判官千葉勝美の補足意見は,次のとおりである。

私は,法廷意見における本件の違憲判断の遡及効に係る判示と違憲審査権との関 係について,若干の所見を補足しておきたい。
1 法廷意見は,本件規定につき,遅くとも本件の相続が発生した当時において 違憲であり,それ以降は無効であるとしたが,本決定の違憲判断の先例としての事 実上の拘束性の点については,法的安定性を害することのないよう,既に解決した 形となっているものには及ばないとして,その効果の及ぶ範囲を一定程度に制限す る判示(以下「本件遡及効の判示」という。)をしている。
この判示については,我が国の最高裁判所による違憲審査権の行使が,いわゆる 付随的審査制を採用し,違憲判断の効力については個別的効力説とするのが一般的 な理解である以上,本件の違憲判断についての遡及効の有無,範囲等を,それが先 例としての事実上の拘束性という形であったとしても,対象となる事件の処理とは
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離れて,他の同種事件の今後の処理の在り方に関わるものとしてあらかじめ示すこ とになる点で異例ともいえるものである。しかし,これは,法令を違憲無効とする ことは通常はそれを前提に築き上げられてきた多くの法律関係等を覆滅させる危険 を生じさせるため,そのような法的安定性を大きく阻害する事態を避けるための措 置であって,この点の配慮を要する事件において,最高裁判所が法令を違憲無効と 判断する際には,基本的には常に必要不可欠な説示というべきものである。その意 味で,本件遡及効の判示は,いわゆる傍論(obiter dictum)ではなく,判旨 (ratio decidendi)として扱うべきものである。

2 次に,違憲無効とされた法令について立法により廃止措置を行う際には,廃 止を定める改正法の施行時期や経過措置について,法的安定性を覆すことの弊害等 を考慮して,改正法の附則の規定によって必要な手当を行うことが想定されるとこ ろであるが,本件遡及効の判示は,この作用(立法による改正法の附則による手 当)と酷似しており,司法作用として可能かどうか,あるいは適当かどうかが問題 とされるおそれがないわけではない。
憲法が最高裁判所に付与した違憲審査権は,法令をも対象にするため,それが違 憲無効との判断がされると,個別的効力説を前提にしたとしても,先例としての事 実上の拘束性が広く及ぶことになるため,そのままでは法的安定性を損なう事態が 生ずることは当然に予想されるところである。そのことから考えると,このような 事態を避けるため,違憲判断の遡及効の有無,時期,範囲等を一定程度制限すると いう権能,すなわち,立法が改正法の附則でその施行時期等を定めるのに類した作 用も,違憲審査権の制度の一部として当初から予定されているはずであり,本件遡 及効の判示は,最高裁判所の違憲審査権の行使に性質上内在する,あるいはこれに
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付随する権能ないし制度を支える原理,作用の一部であって,憲法は,これを違憲 審査権行使の司法作用としてあらかじめ承認しているものと考えるべきである。

裁判官岡部喜代子の補足意見は,次のとおりである。

本件の事案に鑑み,本件規定の憲法適合性の問題と我が国における法律婚を尊重 する意識との関係について,若干補足する。
1 平成7年大法廷決定は,民法が法律婚主義を採用した結果婚姻から出生した 嫡出子と嫡出でない子の区別が生じ,親子関係の成立などにつき異なった規律がさ れてもやむを得ないと述べる。親子の成立要件について,妻が婚姻中に懐胎した子 については何らの手続なくして出生と同時にその夫が父である嫡出子と法律上推定 されるのであり(民法772条),この点で,認知により父子関係が成立する嫡出 でない子と異なるところ,その区別は婚姻関係に根拠を置くものであって合理性を 有するといえる。しかし,相続分の定めは親子関係の効果の問題であるところ,婚 姻関係から出生した嫡出子を嫡出でない子より優遇すべきであるとの結論は,上記 親子関係の成立要件における区別に根拠があるというような意味で論理的に当然で あると説明できるものではない。
婚姻の尊重とは嫡出子を含む婚姻共同体の尊重であり,その尊重は当然に相続分 における尊重を意味するとの見解も存在する。しかし,法廷意見が説示するとお り,相続制度は様々な事柄を総合考慮して定められるものであり,それらの事柄は 時代と共に変遷するものである以上,仮に民法が婚姻について上記のような見解を 採用し,本件規定もその一つの表れであるとしても,相続における婚姻共同体の尊 重を,被相続人の嫡出でない子との関係で嫡出子の相続分を優遇することによって 貫くことが憲法上許容されるか否かについては,不断に検討されなければならない
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ことである。

2 夫婦及びその間の子を含む婚姻共同体の保護という考え方の実質上の根拠と
して,婚姻期間中に婚姻当事者が得た財産は実質的には婚姻共同体の財産であって 本来その中に在る嫡出子に承継されていくべきものであるという見解が存在する。 確かに,夫婦は婚姻共同体を維持するために働き,婚姻共同体を維持するために協 力するのであり(夫婦については法的な協力扶助義務がある。),その協力は長期 にわたる不断の努力を必要とするものといえる。社会的事実としても,多くの場 合,夫婦は互いに,生計を維持するために働き,家事を負担し,親戚付き合いや近 所付き合いを行うほか様々な雑事をこなし,あるいは,長期間の肉体的,経済的負 担を伴う育児を行い,高齢となった親その他の親族の面倒を見ることになる場合も ある。嫡出子はこの夫婦の協力により扶養され養育されて成長し,そして子自身も 夫婦間の協力と性質・程度は異なるものの事実上これらに協力するのが通常であろ う。
これが,基本的に我が国の一つの家族像として考えられてきたものであり,こう した家族像を基盤として,法律婚を尊重する意識が広く共有されてきたものという ことができるであろう。平成7年大法廷決定が対象とした相続の開始時点である昭 和63年当時においては,上記のような家族像が広く浸透し,本件規定の合理性を 支えていたものと思われるが,現在においても,上記のような家族像はなお一定程 度浸透しているものと思われ,そのような状況の下において,婚姻共同体の構成員 が,そこに属さない嫡出でない子の相続分を上記構成員である嫡出子と同等とする ことに否定的な感情を抱くことも,理解できるところである。
しかし,今日種々の理由によって上記のような家族像に変化が生じていることは - 19 -
法廷意見の指摘するとおりである。同時に,嫡出でない子は,生まれながらにして 選択の余地がなく上記のような婚姻共同体の一員となることができない。もちろ ん,法律婚の形をとらないという両親の意思によって,実態は婚姻共同体とは異な らないが嫡出子となり得ないという場合もないではないが,多くの場合は,婚姻共 同体に参加したくてもできず,婚姻共同体維持のために努力したくてもできないと いう地位に生まれながらにして置かれるというのが実態であろう。そして,法廷意 見が述べる昭和22年民法改正以後の国内外の事情の変化は,子を個人として尊重 すべきであるとの考えを確立させ,婚姻共同体の保護自体には十分理由があるとし ても,そのために婚姻共同体のみを当然かつ一般的に婚姻外共同体よりも優遇する ことの合理性,ないし,婚姻共同体の保護を理由としてその構成員である嫡出子の 相続分を非構成員である嫡出でない子の相続分よりも優遇することの合理性を減少 せしめてきたものといえる。
こうした観点からすると,全体として法律婚を尊重する意識が広く浸透している からといって,嫡出子と嫡出でない子の相続分に差別を設けることはもはや相当で はないというべきである。

(裁判長裁判官 竹崎博允 裁判官 櫻井龍子 裁判官 竹内行夫 裁判官
金築誠志 裁判官 千葉勝美 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木 勇 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 大橋正春 裁判官 山浦善樹 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 木内道祥)
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汚染水問題、衆院経済産業委員会閉会中審査が先送り???今こそ、国会で審議すべき!

2013-08-31 18:23:51 | 国政レベルでなすべきこと
 今こそ、汚染水問題を国会で審議すべきです。

 日本は、放射性物質を太平洋にばらまき、汚染を拡散する世界的、地球規模の大問題を犯そうとしています。

 日本人として恥ずかしいことです。
 世界に顔向けできません。
 
 汚染対策が機能するかをチェックできるのは、国会しかありません。
 
 なぜ、形にこだわるのか。
 朝日新聞記事では、「五輪開催地の決定直前に開けば、審議を通じて事故の深刻さや政府の対応の遅れがさらに強調されて世界に伝わり、東京招致に悪影響を及ぼしかねない――。こんな懸念が政権内に広がった。」と書かれている。
 このような小細工は、世界は見抜いてます。

 一刻も早く、実効性のある汚染対策をすること、予算措置をとること、実際に福島周辺の汚染状況をモニターすること、その情報を開示することが求められています。
 

*********朝日新聞(2013/08/30)*********
http://www.asahi.com/politics/update/0830/TKY201308300492.html
汚染水漏れ、国会チェック機能果たさず 審議先送り


 東京電力福島第一原発の放射能汚染水漏れをめぐり、国会の機能不全が露呈した。2020年東京五輪招致への影響に気兼ねし、衆院経済産業委員会の閉会中審査が先送りに。五輪のために汚染水問題にふたをしたとの批判を招きかねない対応に被災地では怒りの声が上がる。五輪招致関係者からは「逆に招致に悪影響を与える」との懸念も出ている。

汚染水漏れ審議、国会先送り

 30日、国会内で開いた衆院経済産業委員会の理事懇談会。自民党の塩谷立筆頭理事が「安倍晋三首相も政府を挙げて取り組むと言っている。もう少し時間をとったうえで検討したい」と表明した。民主党の近藤洋介筆頭理事は現地視察を提案。政府側が五輪招致を決める9月7日の国際オリンピック委員会(IOC)総会前に打ち出す汚染水対策を見極めることで、事実上先送りを容認した。

 もともと閉会中審査は、野党の要求に応じる形で自民党が開催を検討した。だが、五輪開催地の決定直前に開けば、審議を通じて事故の深刻さや政府の対応の遅れがさらに強調されて世界に伝わり、東京招致に悪影響を及ぼしかねない――。こんな懸念が政権内に広がった。
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手続き保障の最重要規定憲法31条 自民党案も憲法を変える必要がないことに同意。

2013-08-31 00:00:02 | 国政レベルでなすべきこと

 8月1日からはじめた、一日一条ずつの自民党改憲草案の問題点の考察。

 8月31日は、憲法31条。

 ひとつの目標31条まで来ました。
 お付き合いくださいました皆様にこころから感謝申し上げます。

 もともと自民党案の改憲案の問題点は書こう書こうと思っていましたが、昨月末の麻生副総理の「ナチスに学べ」発言に触発され、8月1日から、書き進めてまいりました。
 危機感をもって、書いてきたというのが本音です。
 麻生発言と、この自民党改憲案の姑息な重要文言の削除とが重なり、本当にワイマール憲法からナチスが台頭していった歴史を日本も繰り返すのではないかと、まじめに私は危惧いたしております。

 法科大学院で憲法学を学び、この憲法の重要性を認識するに至りました。
 まだまだ、学んでいかねばならない過程の書生ではあるものの、学んだことをもとにお伝えしていければと思い書き進めてきました。

 少しでも、この危機感を共有できましたら幸いです。

 31条は、日本国憲法では、13条と共に、最も大事な条文のひとつです。

 32条以下40条までの刑事手続き上の権利の保障について、総則的な位置づけではありますが、刑事手続きだけでなく、行政手続きも含めた規定です。

 限定つきで31条の行政手続きへの適用ないし準用を真正面から認めた成田新法事件(最高裁大法廷判決平成4・7・1)では、
 
 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121528347899.pdf

「憲法三一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、
行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然
に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。
 しかしながら、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政
手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応
じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与
えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、
行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定
されるべきもの
であって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするもの
ではないと解するのが相当である。」

 現在、行政手続法(平成5年法88号)の成立によって、行政手続きによっても告知・聴聞を受ける機会が保障されることになっています。

**********************
日本国憲法
第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

自民党案
(適正手続の保障)
第三十一条 何人も、法律の定める適正な手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。

**********************


 自民党案は、日本国憲法にほぼ同じであり、この条項は、趣旨からは、変える必要がないことに自民党も同意しています。
 
 また、日本国憲法の格調の高い文体から、わざわざ自民党案に変える必要性は当然ありません。

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憲法31条 適正手続とは? 告知と聴聞を受ける権利、その三段階

2013-08-31 00:00:01 | 国政レベルでなすべきこと

 31条の理解のための知識の整理です。

 かつて書いたブログより再掲します。

http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/7209f720be088508036836ca3492bf81

****************************
憲法31条

ものすごく大事な条文です。

憲法第三十一条  何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。


 条文で述べられていることは、

1)適正な手続きの保障

2)実体法を法定すること

3)実体法の適正保障


あと、当然ながら、0)手続きは法定されなければならない


これら、法律そして法体系のあるべき姿、行政のあるべき姿を規定しています。


 手続(法)が適正であるためには、「告知」(1)事前にルールを示す。2)不利益の告知)と「聴聞」(弁解と防御の機会を与える。)を要します。

 実体法が適正であるためには、「明確性」「合理性」「比例原則」「差別の禁止」を要します。


***************************************
 告知と聴聞には3つの段階がある。

1)行動の予測可能性を担保するために、事前にルールを告知する。そのルールは、明確でなければならない(明確性の原則)。事前のルールの告知

2)不利益を受ける者に対して、当人には、ルールに反する行為が存在し、具体的な不利益(処罰等)とその法的根拠を告知する。不利益の告知

3)不利益を受ける者に対して、弁解と防御の機会(主張と立証の機会)を与える。聴聞

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憲法30条 自民党案も憲法を変える必要がないことに同意。

2013-08-30 00:00:01 | 国政レベルでなすべきこと

 一日一条ずつの自民党改憲草案の問題点の考察。

 8月30日は、30条です。

 30条は、「教育を受けさせる義務(26条)(親が子どもに教育を「受けさせる」であって、教育を「受ける」ではありません。)」「勤労の義務(27条)(とはいえ、法律により勤労を国民に強制することができる意味ではありません。)」とともに、国民の三大義務のひとつ「納税の義務」を規定しています。

 権利や自由への国家による侵害を排除するという人権保障の趣旨には合致しませんが、立憲主義のもとで国政が国民の納める税金によって運営されることに鑑み、納税の義務を憲法にうたわれています。




************************
日本国憲法
第三十条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。

自民党案
(納税の義務)
第三十条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。
************************


 自民党案は、日本国憲法にほぼ同じであり、この条項は、趣旨からは、変える必要がないことに自民党も同意しています。
 
 また、日本国憲法の格調の高い文体から、わざわざ自民党案に変える必要性は当然ありません。

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憲法29条自民党案問題点 侵してはならない私有財産制度をさえ否定?国家主義体制への移行?

2013-08-29 09:47:26 | 国政レベルでなすべきこと

 一日一条ずつの自民党改憲案の考察。

 8月29日は、29条。私有財産制度を規定した重要な条文です。
 前のブログに、二つほど、知識の整理をしておりますので、ご参考にしてください。
<ご参考>
財産権は、地方公共団体の議会が制定する条例による制限が許されるか。(憲法29条、94条)
憲法29条 財産権保障「特別犠牲説」、「正当な補償」としての「完全補償説」と「相当補償説」



*************************
日本国憲法
第二十九条 財産権は、これを侵してはならない
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。


自民党案
(財産権)
第二十九条 財産権は、保障する
2 財産権の内容は、公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。この場合において、知的財産権については、国民の知的創造力の向上に資するように配慮しなければならない。
3 私有財産は、正当な補償の下に、公共のために用いることができる。
**************************

 ご覧のように、自民案は、日本国憲法29条1項で、財産権は「侵してはならない」とトッププライオリティーをおいて守るべきものであるところ、その文言を削除したうえ、ランクを下げた「保障する」に文言を置き換えています。

 私有財産制度は、政教分離、大学の自治、地方自治制度とともに、日本国憲法下、規定された絶対に守られるべき制度のひとつです。
 侵害されてはならない私有財産であるけれども、現行憲法下でも29条2項、3項の根拠規定から、選挙・国会での慎重な審議・多数決という3要素からなるプロセスを経ることによって、過度の規制・合理的な理由のない規制を抑制しながらも、財産権を規制することを可としています。
 その場合、自分の財産について「特別の犠牲」を払った人には、原則「完全補償」されることが約束されています。

 現行憲法下、私有財産制度の運用ができているわけであり、なんら文言の変更は必要のないところです。


 それとも、「侵してはならない」私有財産制度の文言を削除・置き換える自民党は、私有財産制度をさえ否定していくことをお考えなのでしょうか?国家主義体制確立のために?

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財産権は、地方公共団体の議会が制定する条例による制限が許されるか。(憲法29条、94条)

2013-08-29 00:00:02 | 国政レベルでなすべきこと

 憲法29条理解のための知識の整理をします。

 かつて書いたブログの再掲

http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/806c8b8c44e2bdaa193942d0c2acd6e0
****************************
 皆様のお住まいの地域にある地方議会、市区町村議会は、皆様の財産権のありようを制限する力を有しています。
 
 国会とともに、地方議会も注目していくこと必要があるひとつの理由がここにあると思います。

 地方自治もとても大切です。

**********************************

憲法第二十九条  財産権は、これを侵してはならない。(財産権の不可侵)
○2  財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。 (→財産権の内容の法定、財産権の内容は法律で規定されている)
○3  私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。(正当な補償があれば、公共のために用いることができる)

憲法94条
第九十四条  地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。


***********************************


Q君
 近代憲法と現代憲法における財産権の本質を説明してください。


A先生
 近代憲法の財産権では、財産権は神聖不可侵なものとされています。(憲法29条1項に親和的)

 現代憲法の財産権では、「A財産権は社会のルールによって規制される。B財産権は、必要に応じて社会の利益のために用いられる。」
 (ABは、それぞれ29条2項・3項に親和的)

Q君 
 二つの考え方は、人権の保障の趣旨とどのような関係にあるのですか。

A先生
 人権保障の趣旨は、二つあります。

  個人の側面として、人権は、個人の自己実現・幸福追求のために保障されています。

  社会的側面として、人権は、社会の発展のために保障されています。

  そして、この二つの側面が相俟って人権が発展していくのです。

 財産権の近代的側面は、個人の側面に関連しています。
 同じく現代的側面は、社会的側面に関連します。

 個人の財産権の行使があって、営業の自由が発展していくことから、個人的側面は社会の発展に寄与することがわかります。
 一方、財産権の行使も、空港・高速道路等の社会的インフラが整備されて初めて、高度な発展がなされるのであるから、社会の発展のために、個人が財産権を一定程度制約されることになります。


Q君
 財産権における消極的規制と積極的規制は、財産権の本質論にどのように関連するのですか。


A先生
 財産権の個人的側面を強調すると、内在的制約(消極規制)のみを受けることになります。

 財産権の社会的側面を強調すると、積極的規制を受けることになります。


Q君
 財産権は条例で制限することは可能でなのですか。


A先生
 現在では、各地の公害規制条例等にみられるように、条例における財産権の規制は「法律の範囲内で」という制約(憲法94条)の下で、実際に頻繁に行われています。
 
 その形式的理由としては、 
 憲法94条は「法律の範囲内で条例を制定できる。」と規定しています。
 憲法29条2項と94条2項をあわせると、法律の範囲内で条例は財産権を制限できることになります。

 実質的理由としては、
 29条2項は、「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように法律でこれを定める。」と規定しています。
 この規定の背後にある意味は、財産権は重要な権利であるが、一方で社会のために規制する必要も高いので、民主政の過程(「投票箱と民主政の過程」)を経ることによって、その規制を手続的に統制する、というものであります。
 つまり、憲法は、財産権を規制するにあたっては、選挙・国会での慎重な審議・多数決という3要素からなるプロセスを経ることによって、過度の規制・合理的な理由のない規制を抑制しようとしているのであります。
 そうすると、条例も、選挙・地方議会における慎重な審議・多数決が行われることから、財産権の過度の規制・合理的な理由のない規制が抑制されることが期待されるので、条例で制限することができると解されます。
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憲法29条 財産権保障「特別犠牲説」、「正当な補償」としての「完全補償説」と「相当補償説」

2013-08-29 00:00:01 | 国政レベルでなすべきこと
 憲法29条を理解のための知識の整理をします。

 かつて書いたブログの再掲。


***************************
http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/dd2e581964299364943ce1a923bc3595
Q君 財産権の保障における特別犠牲説を説明してください。

A先生
 補償に関しては、「特別犠牲説」が従来からの通説があります。

 これは、相隣関係上の制約や、財産権に内在する社会的制約の場合には補償は不要であるが、それ以外に特定の個人に「特別の犠牲」を加えた場合には補償が必要だという説です。

 「特別の犠牲」の判断については、

 (1)侵害行為の対象が広く一般的か、特定の個人や集団かという点〔形式的要件〕と

 (2)侵害行為が財産権に内在する社会的制約として受忍すべき限度内か、それを超えるものか〔実質的要件〕、

 によって判断します。


Q君 財産権の規制に対して与えられる「正当な補償」とは、どのような補償ですか。


A先生

 憲法29条第3項にいう「正当な補償」については、「完全補償説」と「相当補償説」があります。

 「完全補償説」は、「当該財産の客観的な市場価格を全額補償すべきである」とするものであり、一方、「相当補償説」は、「正当な補償は必ずしも完全な補償を意味するのではなく、公共目的の性質にかんがみ当該財産について合理的に算出された補償であればよい」とします。

 「相当補償説」の立場では、補償額が財産の市場価格を下回るものであってもよいことになります。
 農地改革訴訟判決は、戦後の自作農創設の為の農地改革というきわめて特殊な状況下に行われた農地の収用についてのものであり、「相当補償説」にもとづき、きわめて低廉な農地買収価格を「正当な補償」であるとしました。
 「農地改革事件は、占領中の占領政策に基づくものであったというきわめて特殊な事情があることを考慮に入れて検討しなければならない。」とされています。(芦部 憲法 第5版 232ページ)

 判例も土地収用法に基づく土地収用に関しては、「完全補償説」の立場に立って判示している(昭和48年10月18日土地収用補償金請求民集第27巻9号1210頁)。
 したがって、原則は完全保障説で、戦後の農地改革のような特殊な事情の場合にのみ、「相当保障説」が妥当すると考えるべきです。

***********判例*******
土地収用補償金請求事件(財産権と正当な補償)
昭和48年10月18日 第一小法廷・判決
「おもうに、土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によつて当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復をはかることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもつて補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要するものというべく、土地収用法七二条(昭和四二年法律第七四号による改正前のもの。以下同じ。)は右のような趣旨を明らかにした規定と解すべきである。」

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憲法28条 自民党改憲案問題点 公務員の皆様、自民案28条2項でよいですか?

2013-08-28 23:41:14 | 国政レベルでなすべきこと
 一日一条ずつの自民党改憲案の問題点の考察。

 28日は、28条。

 28条は、労働基本権(団結権、団体交渉権、団体行動権・争議権の労働三権)を保障しています。

 団結権:労働者の団体を組織する権利(労働組合結成権)であり、労働者を団結させて使用者の地位と対等に立たせるための権利。

 団体交渉権:労働者の団体が使用者と労働条件について交渉する権利。交渉の結果、締結されるのが労働協約(労働組合法14条)

 団体行動権:労働者の団体が労働条件の実現を図るため団体行動(争議行為)を行う権利。


 公務員の労働基本権は、現行法上、以下の制限がなされている。

1)警察職員、消防職員、自衛隊員、海上保安庁または刑事施設に勤務する職員

 団結権×、団体交渉権×、団体行動権×

2)非現業の一般の公務員

 団結権○、団体交渉権×、団体行動権×

3)現業の公務員

 団結権○、団体交渉権○、団体行動権×



*****************
日本国憲法
第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。


自民党案
(勤労者の団結権等)
第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、保障する。
2 公務員については、全体の奉仕者であることに鑑み、法律の定めるところにより、前項に規定する権利の全部又は一部を制限することができる。この場合においては、公務員の勤労条件を改善するため、必要な措置が講じられなければならない。〔新設〕

******************

 自民党案は、公務員の労働基本権の制限を規定する条項を2項として、新設しています。

 「公務員の勤労条件を改善するため、必要な措置」として人事院勧告があり、人事院勧告については、全農林警職法事件の最高裁判決で、岸・天野追加補足意見が、勧告が機能しない場合には、その回復を求める争議は合憲であることをのべていることが有名です。

*****全農林警職法事件(昭和48・4・25) 抜粋************
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319115747561765.pdf

わが国で、公務員の争議行為の禁止
について論議されるとき、代償措置の存在がとかく軽視されがちであると思われる のであるが、この代償措置こそは、争議行為を禁止されている公務員の利益を国家 的に保障しようとする現実的な制度であり、公務員の争議行為の禁止が違憲とされ ないための強力な支柱なのであるから、それが十分にその保障機能を発揮しうるも のでなければならず、また、そのような運用がはかられなければならないのである。 したがつて、当局側においては、この制度が存在するからといつて、安易に公務員 の争議行為の禁止という制約に安住すべきでないことは、いうまでもなく、もし仮 りにその代償措置が迅速公平にその本来の機能をはたさず実際上画餅にひとしいと みられる事態が生じた場合には、公務員がこの制度の正常な運用を要求して相当と 認められる範囲を逸脱しない手段態様で争議行為にでたとしても、それは、憲法上 保障された争議行為であるというべきであるから、そのような争議行為をしたこと だけの理由からは、いかなる制裁、不利益をうける筋合いのものではなく、また、 そのような争議行為をあおる等の行為をしたからといつて、その行為者に国公法一 一〇条一項一七号を適用してこれを処罰することは、憲法二八条に違反するものと いわなければならない。

****************************************

 自民党案第二項は、このような条文を新設しなくとも現状公務員の争議行為の制限はなしえているため、真に必要な条文であるかどうかは、議論が必要です。

 公務員の皆様、いかがお考えでしょうか。
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