最近新聞等で「都市鉱山」という語が目につき、日本の都会にとてつもない大きな資源
が眠っているように報じられています。
そもそも今の日本に「鉱山」があるのか? という疑問を持つ方もいると思います。
鉱山と言えば、石見銀山(島根県)、生野銀山(兵庫県)、別子銅山(愛媛県)、
神岡鉱山(富山県)、佐渡金山(新潟県)、足尾銅山(栃木県)、日立銅山(茨城県)
等、史跡となっている有名な鉱山を思い浮かべると思いますが、銅や金・銀などを産出
する金属鉱山はほとんど閉山しており、規模の大きなのは、菱刈金山(鹿児島)が残っ
ているだけです。
「都市鉱山」とは、天然の地下資源に対する言葉で、1987年に東北大学の南條道雄
教授らが、大量にあふれ出る家電製品などの廃棄物を、積極的にリサイクルして取り
出せる潜在的な金属資源としてとらえて提唱したものです。当時はそれほどインパクト
を持って受けられなかったようですが、ITの急速な普及によるレアメタル(希少金属)
の需要の急速な拡大と世界的な価格の高騰、資源の偏りによる供給不足への懸念
に端を発し、さらに、平成20年1月に発表された、(独法)物質・材料研究機構の
レポート「わが国の都市鉱山は世界有数の資源国に匹敵」の衝撃的な内容により、
一躍「都市鉱山」という言葉が脚光を浴びるようになりました。
私は、資源・エネルギー関連の会社に身をおいており、都市鉱山という言葉に非常に
親しみを感じていますし、都市鉱山関連技術が今後の日本の進路に極めて重要な役割
を果たすものと期待しています。
(独法)物質・材料研究機構のレポートの内容は大凡次のようなものです。
「計算によると、金は、約6,800トンと世界の現有埋蔵量42,000トンの約16%、
銀は60,000トン、と22%に及び、他にも、インジウム61%、スズ11%、タンタル10%、
と世界埋蔵量の一割を超える金属が多数あることがわかった。また、他の金属でも、
国別埋蔵量保有量と比較すると白金などベスト5に入る金属も多数ある。」
金属のリサイクルでまず思い浮かぶのは、アルミ缶です。 平成20年度のアルミ缶
需要は184億缶で299千トン、リサイクルして回収されたのは261千トンで、回収率は
87%でした(平成19年度92%)。 原料のボーキサイトからアルミ地金を作る時に比
べて、回収アルミ缶からを地金を作れば、エネルギーは3%で済みます。即ち97%の
エネルギーが節約できます。これは、日本の全世帯(約4950万世帯)の11日間の使用
電力量に相当するそうです。
携帯電話やパソコンなどのIT/電子機器などには、様々なレアメタル(希少金属)
が使われています。そもそもレアメタルとは、埋蔵量が少ない上に、一製品当たり
使用される量が少なく、抽出するには高度な技術が必要とされるなど経済的に利用
できる資源が限られていますが、様々な特性を有しており、IT/電子機器にはなく
てはならない原料となっています。 日本ではレアメタルとして47種類が指定され
ています。
<携帯電話に使われている多くのレアメタル他の金属>
・ネオジム :スピーカー
・インジウム :液晶
・ニッケル :カメラ、
・タンタル :チップタンタルコンデンサ
・ガリウム :IC、LED,
・アンチモン :プラスチック
・リチウム :ボタン電池
・金 :IC,LED,イヤフォン、カメラ
・銀 :IC、チップセラミックコンデンサ
・銅 :IC,液晶、カメラ
・鉛 :ハンダ、チップセラミックコンデンサ
・バリウム :チップセラミックコンデンサ
・ジルコニウム:チップセラミックコンデンサ
・チタン :チップセラミックコンデンサ
・スズ :液晶、ハンダ
・クロム :ボタン接点
・鉄 :ボタン接点
・マンガン :チップタンタルコンデンサ
・ヒ素 :LED,IC
・ケイ素 :IC,液晶
世界的にレアメタルを使用したIT/電子機器の需要が急速に拡大するに伴い、需要
と供給がアンバランスになり、価格の高騰を招き、さらに、生産国が中国など一部の国
に限られていることと、これら生産国での資源保護の動きも出てくるなど、将来の
安定的な供給に懸念が生じてきています。(たとえば、2009年6月 アメリカとEU
が中国が輸出規制を行っているとして、世界貿易機関・WTOに提訴)
次は生産量上位国の一例ですが、中国など一部の国に偏っていることが一目瞭然です。
中国は発展途上国への経済援助を武器に資源確保に積極的に動いていますし、各国の
鉱山会社にも資本参加して、世界中の資源囲い込みに動いています。 このままでは、
将来レアメタルばかりではなく、ベースメタルといわれる銅・鉛・亜鉛を始め、鉄、
金などの金属資源など、ほとんどの資源に関して中国の政策次第で供給量が左右され
ることになり、日本ばかりでなく、世界経済にとっても由々しき事態を招く恐れが
あります。 中国が北朝鮮を影響下におきたい理由は‘政治的’側面は明瞭ですが、
北朝鮮に豊富に埋蔵されていると観測されている、タングステン、クロムなど
レアメタルの権益確保も大きいといわれています。
<生産国上位国(政府資料による)>
コバルト :コンゴ36%、カナダ13%、オ-ストラリア12%
タングステン :中国86%
マンガン :南アフリカ20%、オーストラリア19%、中国14%
ビスマス :中国37%、メキシコ23%、ペルー15%
インジウム :中国49%、韓国17%
クロム :南アフリカ40%、インド23%、カザフスタン20%
モリブデン :アメリカ32%、中国25%、チリ22%
バナジウム :南アフリカ39%、中国32%、ロシア27%
プラチナ :南アフリカ80%、ロシア12%
ニッケル :ロシア19%、カナダ16%、オーストラリア11%
希土類 :中国97%
このような状況の中で、先ほどの(独法)物質・材料研究機構のレポートが発表され
ました。 従来より製品のスクラップから金属を取り出すことは、個々の企業が金や
銀など貴金属や銅などを中心に商業ベースで行ってきていましたが、使用済み電子機器
製品からレアメタルをリサイクルで取り出すには、原料となる使用済み製品の継続的・
安定的な供給体制が出来上がっていること、分離・抽出する技術が確立していること
が必要ですが、いずれも未だの状態でしたので、使用済み電子機器製品は廃棄物とし
て処理されてきました。
しかし、リサイクルして資源を有効利用すべきとの声が強くなり、リサイクル関係の
法律が整備されてきました。家電リサイクル法では、エアコン、テレビ
(薄型・ブラウン管型)、冷蔵倉、洗濯機、乾燥機を対象としており、またパソコン
は資源有効利用促進法により回収されています。 携帯電話については、法律による
回収が決められておらず、業界団体が自主的に回収を行っていますし、小型家電製品
(デジカメ、ゲーム機器、CDプレーヤーなど)については、回収に関する法律が
ありませんので、廃棄物として処分されているものと思われますが、政府により
「回収モデル事業」が実施されており、近いうちに法的な整備がなされるものと期待
しています。
携帯電話1t当たり金400g、携帯音楽プレーヤーでは500g、デジカメでは180gが
使われています。南アフリカの鉱山では、金は鉱石1tから金4~10g程度しかとれ
ませんので、都市鉱山は可成り高品位の鉱石が眠っているといえますが、課題は前述
したように、回収ルートの整備と抽出技術の確立です。
日本ではレアメタルの国家備蓄を1983年度から行っています。また、民間各社でも
備蓄を実施しています。備蓄の対象になっているのは、ニッケル、クロム、
タングステン、コバルト、モリブデン、マンガン、バナジウム、インジウム、
ガリウムの9種で、国内消費の60日分(国家42日、民間18日)を目標にしています。
使用済み電子機器製品は、日本だけでなく、全世界で莫大な量が発生していますが、
中国や発展途上国では、個人ベースなどごく小さな規模でリサイクルして高価な
貴金属類を回収していますが、廃水などの処理はできずに、そのまま川や湖沼に
垂れ流しし、深刻な環境汚染を引き起こしている模様が時々報道されます。
日本は、環境関連の技術では世界のトップクラスの水準にありますが、さらに、
使用済み電子機器のリサイクルによりレアメタルを回収する技術を確立し、中国
はじめ発展途上国に技術支援して、世界各国に環境面で大きく寄与していくことを
期待してやみません。
(平成22年5月7日 記 ☆ きらきら星 ☆)