書名:てれこむノ夜明ケ―黎明期の本邦電気通信史―
編著者:若井登・高橋雄造
発行所:電気通信振興会
発行日:1994年6月1日第1版
目次:1.電気通信が生まれるまで
1.1情報の輸送
1.2聴覚、視覚による通信 ほか
2.電信機の発明
2.1電池の発明
2.2静電気式、電気化学式電信機 ほか
3.電信機渡来と電信網
3.1維新前の電信
3.2電信の創業 ほか
4.電話の登場
4.1電話機の輸入と官用電話の開設
4.2電信開業式 ほか
5.無線の芽生え
5.1無線通信の胎動
5.2電波の登場 ほか
6.電話ボックスの出現
6.1電話ボックスの出現
6.2海軍と無線電信 ほか
7.無線電話の登場
7.1TYK式無線電話機の発明
7.2大北電信会社との独占権回収交渉 ほか
現在、わが国のインターネットの普及率は、世界の先端を走り、通信コストも世界でも最も安い国となっている。所謂、通信先進国の仲間入りを果たすまでになっている。さらにWiFiなど無線インターネットの環境が充実されようとしており、一層高度の通信環境の実現を目指し、現在急速に通信インフラの整備が進められている。そのような通信インフラをベースとして、電子商取引などのネット販売の実績が急速に盛り上がってきており、従来の社会生活を一変させるような、様々なサービスが提供されつつある。要するにインターネット通信を軸とした通信革命とも呼べる、全く新しい社会が出現しつつあると言ってもいい状況になっている。
このような通信革命時代を夢見ながら、わが国の通信技術者は、これまでどのような取り組みを行い、今日のインターネット時代に至ったのであろうか。改めてそうと問われると、意外に返答に窮してしまうのではなかろうか。そんな日本の通信技術のスタートから発展期にかけての黎明期の歴史を詳細に記述してあるのが若井登・高橋雄造編著「てれこむノ夜明ケ―黎明期の本邦電気通信史―」(電気通信振興会)である。通信技術の歴史と言っても、決して難しい技術用語の羅列ではなく、物語調に書かれているので、通信技術者ではなくても読みこなせるように配慮されており、読み終われば、わが国の通信史の概略が理解できるよう、よく整理されて記述されているのが同書の特徴だ。
同書のはしがきに、次のような発刊のいきさつが紹介されている。「無線通信の主役、電波がヘルツによって発見された頃、日本では志田林三郎という偉才が活躍していた。わが国で初めての工学博士志田の業績を顕彰する集いが、平成4年10月、佐賀県多久市で開かれた。これがきっかけとなって、郵政省の中に、わが国の電気通信の歴史、特にその黎明期に光を当て、隠れた史実を発掘し、それらを後世に残すため、研究会がつくられた。その研究会は、1年余の作業の後、報告書を作成して解散したが、本書はいわばその副産物である」。ようするに、同書は、わが国の通信事業に携わってきた、郵政省、日本電信電話公社、国際電信電話、さらに通信メーカー各社などから専門家を結集し刊行したものだけに、わが国の各時代における通信事業が詳細な調査に基づき執筆されており、いわば、わが国の電気通信の歴史書の決定版といえるもの。
わが国で最初に電波による無線通信装置が完成したのは、1897年(明治30年)7月のことであった。当時の逓信省電務局の研究機関として設立された電気試験所が担当し、浅野応輔所長が、電信係技師の松代松之助に調査を命じ、完成させた。松代は当時の乏しい資料の中から「ヘルツ波」という書籍により、独力で開発したという。マルコーニが2マイルの無線通信の実験に成功したのは1896年(明治29年)12月のことだから、半年少々の遅れであった。そして、ついに日本の無線通信技術が世界をリードする大発明が、電気試験所の鳥潟右一、横山英太郎、北村政二郎の3人の技術者により完成する。3人の頭文字を取って名付けられた「TYK式無線電話機」がそれである。このように、日本の通信の歴史は、欧米の進んだ技術をいち早く吸収し、これを基に世界最先端の装置を開発するという流れが以後続いて行くのである。(STR:勝 未来)