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■科学技術ニュース■東北大学など、磁気モーメントの波を利用した低エネルギー磁化スイッチングに成功

2013-04-18 10:33:21 |    電気・電子工学

 東北大学金属材料研究所の高梨弘毅教授および関剛斎助教のグループは、慶應義塾大学理工学部の能崎幸雄准教授および産業技術総合研究所ナノスピントロニクス研究センターの今村裕志研究チーム長との共同研究により、2つの異なる性質をもつ磁石をナノメートルの厚さ(ナノは10億分の1)で積層化することで、磁石の中に磁気モーメントの波(スピン波)を生成し、そのスピン波を利用して従来の10分の1という小さな磁場で磁化をスイッチングさせることに成功した。

 これにより、今後ハード超高密度磁気記憶デバイスの書き込み技術への展開などが期待できる。

 ディスクドライブ(HDD)や磁気ランダムアクセスメモリーに代表される磁気記憶デバイスは、磁石の向きで“1”と“0”の情報を記憶している。情報の書き込みには磁石の方向をスイッチングさせる必要があり、通常、外部から磁場を加える手法が用いられている。

 しかし、磁気記憶デバイスの高記録密度化が進むにつれ、スイッチングのための磁場(スイッチング磁場)が急激に増大し、動作電力低減の観点から深刻な問題となっていた。

 研究グループは、鉄白金(FePt)合金とパーマロイ(NiFe)合金というスイッチング磁場の異なる2つの磁石をナノメートルの領域で積層化させた薄膜を作製した。FePt合金はスイッチング磁場の大きな磁石(ハード磁性材料)であり、パーマロイ合金はスイッチング磁場の小さな磁石(ソフト磁性材料)。

 これら磁石の中における磁気モーメント(小さな磁石に相当)の運動を調べたところ、磁気モーメントの回転(歳差)運動が波のように伝搬するスピン波が存在していることが明らかとなった。さらに、パーマロイ合金内のスピン波を外部から強制的に生成した場合、スピン波がFePt合金まで伝搬し、FePt合金のスイッチング磁場が10分の1に低減することを発見した。

 今回の成果は、HDDの超高記録密度化と低消費電力化を同時に実現するための飛躍的な技術革新である。さらに、最近注目を集めているスピントロニクス素子の低消費電力化への応用も可能であり、幅広い応用展開が期待される。


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