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産経連載「君たちのためにーその1」

2007年12月06日 | 君たちのために
産経連載「君たちのために」第1回(07年4月4日大阪版夕刊)

                 弁護士 井垣康弘

初等少年院での変化

 わが国の安全神話が崩れ、少年犯罪も凶悪化・低年齢化し、恐ろしい世の中になったと皆が思うようになった。

 「子どもを生み育てることも怖い」という感覚が一般に広がれば、少子化を後押しし、やがては民族の滅亡に至るかもしれないとさえ思う。

 仕事柄、中学三年生を何十人も少年院に送った。何度捕まっても懲りない札付きの子どもたちだ。コンビニを自分個人の冷蔵庫だと思っていて、働かなくても一生食い物には困らない結構な身分だとうそぶく。街路は、ひったくり・かつあげ・おやじ狩りの獲物をあさる草原だと思い込んでいる。茶髪・ピアス・まゆ毛のそりこみで、おとなしそうな生徒から小銭をせびるのは簡単だと言う。ひったくったかばんの中から、一万円札が何枚も現れたときのうれさは言葉で表せないと得々と語る。おばあさんからひったくったかばんの中に250万円を見つけたときは、携帯電話を掛けまくり、地域のワルを全員集め、朝までドンチャン騒ぎをしたそうな。
 
 どのような中学生かと言うと、大体学力が小学校3年生レベルだで止まっている。漢字はほとんど分からず、新聞も本も読めない。九九も全部は言えず、分数は皆目分からない。

 従って授業はひたすら苦痛である。高校にも行けそうになく焦る。しかし、何かトラぶると教師から「来なくてもよい」とのメッセージが発せられる。家庭でも、親からうるさく言われる。心が安らぐのは、地域の似たような仲間(先輩や同級生)と一緒にいるときだけ。その唯一の居場所で、ワルの学習をしっかりするのである。
 
 このような中学生を捕まえて、初等少年院で教育する。品川裕香著「心からのごめんなさいへ」(中央法規)は、宇治少年院を描いている。

 「少年の日記の変化に驚いた。」と書かれている。入院当日のある14歳の少年の日記はこんなふうだったと言う。

 「僕は、さいやくな人げん、だとおもいました。にどと、こんなことお、やらないように、どりょくします。口でゆうのわ、かんたんだけど、それお…」

 それが、一カ月半後にはこのように変わるのだ。

 「2週間ぶりに訓練体育に出ました。とても体が鈍っていました。…(略)…入院した時より僕は漢字が書けるようになりました。もっといろんなことを覚えたいし、勉強もしたいです。そして早く新聞を読めるようになりたいです」

 しかし、少年院で教えられることが、なぜ義務教育の過程でできないのかと、同書は鋭く問い掛ける。





最高裁が判例統一をしない場合

2007年12月06日 | チェックメイト
平成10年に施行された新民事訴訟法で、最高裁への上訴は、以前はフリーパスに近かった高裁判決に対する上告の範囲は狭められ、逆にほとんど閉ざされていた高裁決定に対する抗告の範囲は広げられました。
その結果、最高裁が判例統一は時期尚早ではないかと考える場合、318条の上告不受理決定(法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められない)という形で先送りするケースが出て来たようです。
他方で、337条の許可抗告(法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる場合)は、高裁の判断で許可してしまうものですから、最高裁が時期尚早と思われる判断を迫られるケースもあるようです。
一種の逆転現象が生じかねないかも知れません。
それにしても、下記は同一事案で同日決定、かつ同一小法廷だそうですから、かなり珍しいケースではないでしょうか。
当ネットワークにもお付き合い戴いている馬場先生が提起された裁判です。(チェックメイト)

(神戸新聞から抜粋)
「体罰教員の情報公開訴訟 最高裁、判断を二分」
兵庫県教委が体罰の報告書の大部分を非開示とした決定に対し、神戸大大学院教授が取り消しを求めた訴訟で、最高裁が十一月、県教委の上告を退け体罰を加えた教職員名などの開示を命じた判決が確定したが、同じ日、同様の事案を争った別の訴訟で、最高裁が教授の上告を棄却し、教職員名などは個人情報に当たるとの判決が確定していたことが四日、分かった。体罰教職員の名前は開示か非開示か-。司法判断が分かれ、県教委の幹部らは頭を痛めている。
 神戸大大学院の馬場健一教授(45)=法社会学=が二〇〇一年一月、一九九五-九七年度の報告書で大部分を非開示とした県教委の処分取り消しを求め提訴(訴訟A)。さらに〇四年一月には、〇一年度の報告書を対象に提訴(同訴訟B)した。
 加害教職員名や校名の開示の是非が争われたが、訴訟Aの高裁判決は「(体罰で教職員が)懲戒処分を受けたことなどが分かると、公務員の立場を離れた個人の評価も低下する」との理由で「個人情報に該当する」と判断、非開示が妥当と結論づけた。
 一方、訴訟Bの高裁判決では「県の諸活動を県民に説明する責務は、違法・不当と評価されるような公務員の情報についても向けられている」と指摘。「懲戒処分を受ける立場に置かれた情報だから非開示というのは県の条例の趣旨に明らかに反する」とした。
 訴訟Aは馬場教授が、Bは県教委が最高裁に上告したが、いずれも十一月二十二日、「上告理由に当たらない」などとして棄却され、両高裁判決が確定した。