1月4日付の読売新聞に、大要、以下の記事が載っていた。
「暴力団の有力傘下団体が、全国の裁判所の競売で少なくとも32か所のビルなどを入手し、組事務所にしていたことが、日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会(民暴委)などへの取材で分かった。」「北海道、千葉、神奈川、岐阜、京都、大阪、広島、長崎の8道府県で1985年以降、計32か所の組事務所が競売で取得されていた。このうち北海道、岐阜、大阪、広島、長崎の5道府県・11か所では、稲川会、山口組、共政会系の組長の名前で堂々と落札していた。」「競売の入札参加規定に暴力団排除条項がないためで、組長本人が落札したケースも11か所判明。民暴委は競売に同条項を設けるため、民事執行法の改正を求める方針だ。」
何故このようなことが起きるかというと、一つは「コンプライアンス」の強化により、各業界が「暴力団排除条項」を契約書等に盛り込むようになり、特に金融機関や不動産業界等は、厳格な対応をとっているからだ。暴力団排除条例で不動産取引が規制されている都道府県も多くなった。したがって、不動産業者を通じるような正規のルートでは、暴力団関係者がローンを組んで不動産を取得したり、賃貸したりすることが不可能に近くなっている。
そんな中で暴力団が目をつけたのが、裁判所の競売だ。民事執行法で一定の制限(例えば、借金をしている本人等による落札はダメ。そんな金があるなら本来の借金を払うべきだから)がなされている以外は、実在することを証明する最低限の書類さえ提出すれば落札できるからだ。実際にある地方では、せっかく事務所周辺の住民が勇気をふるって立ち上がり、裁判所で暴力団事務所使用禁止の仮処分というものをとって、組事務所に退去してもらったのに、あっさり別のビルを競売で落札されてしまったという例がある。それなら、法律を改正すれば良いと思われるかも知れないが、ことはそれほど簡単ではない。仮に「暴力団構成員」は落札できない(売却許可を取り消す)と規定するにしても、裁判所には暴力団関係者のデータベースなどは存在しない(警察のデータベースをそのまま使うのは、それはそれで問題であろう)。かといって、落札者全員に「暴力団員でないことの証明」を求めるというのも無理があろう。お金が支払われた後で暴力団と分かったからアウトとなると、せっかく競売に掛けて借金を回収した金融機関などの債権者に迷惑がかかる。また、敵もさるもので、暴力団員とは認定されていない知人やいわゆるフロント企業の名前で落札することは当然対策として考えてくるだろう。
現在の日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会の委員長は、私もよく存じ上げている方で、この問題に相当な熱意を持っておられることは理解しているが、かつて裁判所で不動産競売を担当するセクションにいたことがある私としては、目下「悩ましい問題だなあ」とため息をついているしかない状況である。
この問題に、色んな叡智によるアドバイスをいただければと思う。(くまちん)