日本裁判官ネットワークブログ

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走ることについて語るときに・・・

2007年12月24日 | 蕪勢
 村上春樹ファンにはまたまた心躍る本が出た。「走ることについて語るときに僕の語ること」という長いタイトル(文芸春秋社)。帯には「村上春樹がはじめて自分自身について真正面から語った」とある。確かに,マラソンランナーでもある小説家の日々を語ってその息づかいが伝わってくる。マラソンに向けてのたゆまぬトレーニングと克己心もやはり並のものではない。いまやノーベル文学賞の有力候補者に挙げられている。彼の小説の主人公についてもそうだが,このエッセイにも一貫して流れる小説家のひたむきな頑固さ,それでいて前向きで潔い生き方は,私にとって,人生の応援歌のように聞こえてくる。今夜はクリスマスイブ。私にはどんなサンタが来るのだろう。
 心に沁みる素敵な一節に出会った。全部引用したいところだが,そうもいかない。
 「いろんな人がいてそれで世界が成り立っている。他の人には他の人の価値観があり、それに添った生き方がある。僕には僕の価値観があり、それに添った生き方がある」。只,そのような相違が人と人との大きな誤解に発展して「心が深く傷つくこともある。これはつらい体験だ」。しかし,年齢を重ねることで分かったことは,「僕が僕であって,別の人間でないことは、僕にとってのひとつの重要な資産なのだ。心の受ける生傷は,そのような人間の自立性が世界に向かって支払わなくてはならない当然の代価」ということだ(34~35頁)。
(蕪勢)