1 司法改革によって,法曹人口が大幅に増加している。司法試験の合格者は以前は約500人であったが,現在は約2000人となっている。司法改革により平成18年から新司法試験が行われるようになり,法曹人口を増やして社会の隅々まで法の光が届くような「法化社会」の実現を目指す意欲的な改革であった。
2 ところで現在大変困ったことが起きており,深刻な問題となっている。司法試験に合格し,司法修習を終えて弁護士を志望する多くの人が,就職先が見つからないというのである。全国の弁護士事務所が,この数年の間にある程度の新人を採用した結果,これ以上採用する余力がなくなったというのである。
3 平成3年(1991年)から平成23年(2011年)までの20年間の法曹人口の推移は,弁護士が1万4080人から3万0518人に,裁判官が2022人から2850人に,検察官が1172人から1791人に増加している(日弁連資料,簡裁判事,副検事を除く。)。これによると弁護士の増加が顕著であるという結果になっている。
4 法曹人口を大幅に増員することは大いに結構なことではあるが,新人弁護士の就職難という事態は,誰が考えても早晩発生することは明らかであったと思われるが,司法改革の議論の中で,その点に関しては一体どのような議論がなされたのであろうか。
5 ある新聞(中日新聞)によると,平成23年7月末時点で,弁護士志望者の就職未定者は43パーセントだという。同時期の就職未定者は,平成19年で8パーセント,平成20年で17パーセント,平成21年で24パーセント,平成22年で35パーセントということで,年々就職難は深刻化している。
6 このような現状に対する新卒者の不満と不安は甚だ強く,悲鳴にも似た声が聞こえてくる。司法改革による新制度ができて間がないというのに,どうしてこのような事態になっているのだろうか。というよりも,このような事態が生じることは明々白々だったということではあるまいか。このような事態を一体どのように解決できるというのであろうか。今の段階で既にこのような深刻な状態なのであるから,これから後,到底この制度が立ち行くとは思えない。既に制度としては破綻していると言わざるを得ないと思われる。
7 多数の法科大学院が存在することからも,試験の合格者を減らすことは甚だ困難であろう。そうすると就職できない新卒弁護士を含めて,日弁連が中心になって,効果的な新人教育を行なう必要がありそうである。弁護士業に関するノウハウを含めたかなり本格的な教育を行なって,就職できない新人弁護士が複数で共同事務所を構えることができるような方策を追求するしかないのではあるまいか。
8 今の制度のもとでは,弁護士になるには余りにも多くの困難が待ち構えている。法科大学院の入学試験を突破し,法科大学院を無事卒業したうえで,難関の司法試験に合格し,司法修習最後の二回試験(終了試験)に合格しなければならない。そして各種の難関を無事突破した挙げ句に,就職難という事態が待ち受けているのである。その間奨学金などで多額の負債を負うのみならず,来年度からは修習中給与が支給されるという従来の制度が廃止されて,貸与制に変更になる。新卒弁護士は多額の借金を抱えて,弁護士人生を踏み出すことになるので,これでは文字どおり踏んだり蹴ったりである。
9 わが国の将来を担う若者たちに,余りにも過酷な試練を科すのではなく,もっと後輩達を大切にする暖かな政治が強く望まれるところである。(ムサシ)